第77話

 あくる日、俺たちのチームは、チョロみるく先輩を加えて山小屋から出発した。


 今日の目標はただ一つ、ボスボス鹿を倒すこと。


 ぶっちゃけ、もうこのまま放置しといても俺達の優勝はゆるぎないんじゃないかって気もするけれど、流石にこのまま鹿だらけになってもらっても困るし、ゲンさんに孫バフによるフルパワーで山を吹き飛ばされるのも困る。


 というわけで、そこまでやりたくはないけれど、今日も今日とて鹿狩りだ。


 聖羅たちにも食わせないといけないし……。




「というわけで、私は王子に自分の優秀さを見せつけて将来的に側近にしてもらいたかったんだ。そうすればいい給料がもらえて、家族に良い暮らしをさせてやれる。それをお前に……」


「俺だって必死だったんですよ。あーでもしないと勝ち目なんて無かったし」


「……いや、今のは私の八つ当たりだ。私だって本当は分かっている。あの時私は負けた。完膚なきまでにな。それを認められずにお前に……やはり、私にお前に勝つ資格など最初からなかったのだろう……」


「そんな重く考えなくても……。なんなら、将来的に俺の村で就職しません?給料はそこまで高くないかもですけど、生活費は全部こっちもちですよ?問題は、今の所お金使う場所が皆無って所ですけど……」


「そういえば、お前は貴族になりたてだったらしいな?ふふ……気が向いたら行ってやろう。だが、私の食費は高いぞ?」


「そんな言葉初めて言われました……」




 ドラゴンは、その強力な体を維持するために良く食べるらしい。


 エルフと同じように人造人間らしいからな。


 寝ている間は、冬眠する爬虫類並みの消費エネルギーになるらしいけれど、普通に活動していると食いしん坊キャラになるらしい。


 みるく先輩も、普段会おうと思ったら教室か弓道場か食堂に行けばほぼ会えると自分で言っていた。


 ストイック過ぎない?




「それで、本当にこっちにボスボス鹿がいるんですか?俺には何にも感じませんけど」


「ああ居る。こればかりは、隠れ潜むのが得意な我ら龍の血を引くものでなければ説明のしようがない。だから、いる気がするとしかいえない。すまんな」


「みるくがまさかこんな事出来たなんてね。だったら、隠れている大試君のことも簡単に見つけられたんじゃないの?」


「いや……コイツの隠れ方は、隠ぺいの魔術によるものではなかったから、逆に私には見つけにくかったんだ……」




 もしずっとステルス使ってたら見つかってたんだろうか?


 危なかったな……。


 ゴミだらけになった甲斐があったってもんだぜ。




「あのぉ……本当にこのまま向かうのでしょうか……?なんなら今からでも私は山小屋で源龍斎さんを見張る仕事に戻っても良いのですが……?」


「アレクシア、この狩りに参加しようともしない奴にボスボス鹿の取り分があると思うなよ?」


「ぐぬぅ……!」


「……援護射撃ならできます!」


「私も頑張るからね大試君!」




 ぐずるアレクシアに対して、やる気満々のマイカに理衣。


 まあ、アレクシアが今使える攻撃方法って近接ばっかりだから、近寄るのは怖いかもなそりゃ。


 ボスボス鹿……どんな攻撃を繰り出してくるのか……。




「やっぱりそのボス鹿のボスって鹿たちを産んでたのかしらね?」


「いや、いくら魔鹿といってもそんなに単体で子を産めるわけがない。恐らく、既に存在していた魔鹿を眷属にし、強化しただけだろうな」




 2年生組は、今回の騒動の原因について考察しているらしい。


 やっぱり、先輩っていうのはそれだけで説得力を感じてしまうなぁ。


 何なんだろうかこの感覚は。


 1年しか生まれてからの年月は変わらない筈なんだけどな……。




「うぅ……戦いたくない……」




 この中で最年長のエルフは、こんな感じで丸まってるけれど……。










 しばらく歩くと、みるく先輩に制止された。




「ふむ……どうやら前方100m付近にいるらしいな。水城たちはこの後どうするつもりなんだ?」


「野生動物狩りに関しては、基本大試君たちの意見を採用してるのよ。だから、ここは我らがJK巫女のリーダーたる大試君にお任せね」


「JK巫女だと……?」


「どうも、JK巫女のリーダーです」


「そうか……ところで、JK巫女とはなんだ?」


「先輩もなってみれば凄く似合うと思いますよ?」


「本当か!?よくわからないが!」




 なんなんだろうなJK巫女って。


 俺も教えてほしい。


 多分、俺が該当する要素なんだよな?


 そうだと言ってみろ。




「前情報が無いから、とりあえず俺とアレクシアでボス鹿と同じように狩ってみるか。それで無理そうなら、無理せず一回撤退も視野に入れておこう。ゲン爺さんの言う事が本当なら魔術戦が得意な可能性もあるし、初手からこっちの強力な遠距離攻撃を見せたくない」




 不意打ちならともかくな。


 だってあの鹿、こっちの事もう気がついてるだろ?


 殺気……といえばいいのか、相手がこっちに注目してる雰囲気がする。


 よく実家の近くで感じた感覚だ。


 うん、珍しく無さ過ぎて懐かしいわ。


 前世の野良猫より見たもん魔熊。




「今回も俺が正面から行くから、アレクシアは気配を消し迂回して近寄れ。ただ、もし相手が自分の気配を正確に把握していると感じたら、俺の指示を待たなくていいから離れろ」


「わかりました!じゃあもう最初から行かなくてもいいですか!?」


「ダメだ」


「わがりまじだぁ!」




 龍と同じように、通常の魔術では不可能な索敵能力持っていたら、気配を消して急所狙いが基本戦術っぽいアサシンとの相性は最悪だしなぁ。


 そして、それを確かめるには近寄らないといけないわけで。


 ほんと、見つかる前に遠くから攻撃したかった。


 相手はレーダーでも持ってんのかね?




「さて、いくぞ!」


「はい~!!!!!」




 雷切を水でコーティングし走り出す。


 どうせ見つかってるんだし、今更音を隠す必要もないかもだけれど、まあ一応だ。




 低木が多くて見通しが悪く、目標まで50m程まで近づいているはずなのにまだ相手が見えない。


 だけれど、ここまでくると俺にもボスボス鹿がどこにいるのが感覚で分かる。


 もしかしたら、これが魔力という物なのかもしれないけれど、とにかくドロッとした何かの塊がある。


 これも、この世界に来てから敵を相手にすると感じる感覚だ。


 って言っても、こうも具体的に表現できるようになったのは王都に来てからだけども。


 実家にいる時は、「あー……やべーのがいるぅ……」くらいにしか感じてなかった。


 こっちに来てから、面倒な経験を積みすぎて色々鋭敏になってきたのかもしれない。




 その感覚に従って藪を突っ切ると、そいつはいた。




 ボス鹿よりも更に大きい体に、葉の無い木が生えているかのように枝分かれした巨大な頭角。


 あそこまで大きいと、邪魔でしかない気がするんだが……?


 鹿にとっては、デカくて枝分かれが多い角が偉さの基準だって聞いたことあるけれど、このボスボス鹿はその基準だとアイドルみたいな存在だろうか?




 ただ、この形状だと角をぶつけあって戦う事はできないだろう。


 となれば、戦闘方法はそれ以外と言う事だろうけれど……。




 その時、ボスボス鹿の角が鈍く光り出した。


 放電しているようなエフェクトも見える。


 これは……ヤバイ気がする!




「アレクシア!離れろ!」


「え!?はい!」




 俺は、雷切の水カバーを解除して鞘から抜く。


 勘だけれど、これが必要な行動な気がする。




 俺が剣を構えるのとほぼ同時に角の光が強くる。


 そして、光の線が放たれた。




「ビーム!?使う奴多いな!」




 魔力を使って効率よく遠距離攻撃をしようとすると、ビームに行きつくのかもしれない。


 でも、ファンタジー感は足りない!


 ロボットと戦ってる気分!




 俺は、雷切で光を切り裂く。


 撃つ前に見た現象からするに、属性的には雷に近かったのかもしれない。


 雷切でよく切れる。


 へぇ……ビームってこんな風に切れるんだぁ……。


 ファンタジーっぽさはないけれど、正直超気持ちいい……。


 失敗すれば死ぬかもだけどな!




 やがて、ボスボス鹿の光が治まる。


 互いにダメージは無いけれど、互いの力の一端は感じられただろう。


 さて、ここからどうしたもんか……。




『ほう、人間が我が攻撃を防ぐか』




 突然頭に声が響く。


 すんごい渋いイケボ。


 イケオジキャラの声だ。


 美少女声より替えが効かないタイプ。




「なんだ?お前が喋ってるのか?鹿の親分様」


『ああ、人間に話しかけるのは久しぶりだがな。だが興が乗った。お前を戦士と認めてやろう。我が戦士と認めたのなど、過去に2体しか存在しないのだぞ?』




 案外いたな戦士。




「そいつは光栄だけどさ、お前はここで狩らせてもらうぞ。そうしないとこの山が禿山になっちゃうらしいんだよな」


『……それについては謝罪する。元々、ここまで奴が帰ってこないとは思っていなかったのだ。留守の間に戦力を整えようとしただけだったのだがな。どこで何をしているのやら……』


「誰の事を言っているんだ?戦士とやらの話か?」


『然り。我が生涯の宿敵、猪の長だ』




 また猪か!


 鹿と猪と熊ばっかり出過ぎなんだよこの世界!


 ほぼ全部肉になったけど!




『もう1体の戦士も人であったぞ?確か名は……てふ子とか言ったか?我ら3体でよくやり合ったものよ』


「何歳なんだよお前……」


『知らぬ。数え切れぬ程角は生え換わったがな』




 500歳くらいは超えてるのか?


 魔物の寿命ってどうなってんだろうな。




『思い出話はここまでにしておこう。さぁ続きだ!久方ぶりに血が沸く……おい、貴様ちょっとまて』




 突然、ボスボス鹿の様子が変わる。


 動物だからそこまで表情は変わらない筈なのに、それでもわかるほど動揺しているように見える。




『貴様、その臭い……』


「……ん?臭い……?」


『あぁ……。貴様の体から僅かに漂うその臭い……。まさか貴様……奴を……猪の長を……食ったのか!?』




 ……ん?猪の長を?




「ごめん、何の話かよくわからない」


『巨大な猪だ!それを倒し、そして食ったのだろう!?ここ数日ではない……もっと前だ!』


「……あー、そういや、デカい猪を倒して食ったな」




 オクタマヌシ様の話だろうか?


 え?アレがこの辺りの猪の長だったの?




『……ふふふ、はははははは!奴め!くたばったか!いい!いいぞ!ならばこの時より、我は貴様を宿敵としよう!そして……』




 また輝きだすボスボス鹿ホーン。


 あのビームをまた撃つつもりだろうか?




『今日ここでそれを終わらせ、奴への手向けとしてやる!』




 食い物の恨みは怖い。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る