第78話

 一撃必殺を目的として一点突破の遠距離攻撃を防がれた場合、俺がボスボス鹿の立場だったらどうするか。


 はい、波状攻撃か飽和攻撃ですね!




 今の所出ている手札から考えるなら、広範囲に対しての放電とかかな?


 俺が雷切を持ってなかったら、さっきので終わってたかもしれんけど、相性悪かったなぁボスボス!


 いやほんと……危なかったよなぁ……。




 俺にもわからないけれど、アレクシアには離れるように言っておいたし、鹿の攻撃に巻き込まれる事は無いだろう。


 つまり、俺も広範囲に影響が出る攻撃をしても大丈夫って事だ。


 山火事とか魔物を引き寄せたりとか、リスクはいっぱいだけどもな!




 さてどうしよう。


 水は……伝導率がわからんなぁ。


 村雨丸から出てるのが純水だとしたら、電気抵抗も高いし電気分解もされにくいだろうけれど、もしそうじゃないなら逆に危ないかもなぁ……。




 となれば、カラドボルグかな!


 リミッターを解除しない限り神剣の中では案外地味だけれど、だからこそ使い勝手がいいこれ!


 防御用に左手で雷切を持ち、攻撃には右手のカラドボルグだ。




 カラドボルグの間合いは10m、踏み込みとか腕の長さを考えればもう数m長いか?


 さて、遠距離攻撃を放ってくる相手に間合いが広いとはいえ近距離攻撃で挑まないといけない苦行……あ、魔術師相手だったらいつもか?


 いや、普段だったら俺も遠距離攻撃を全く使えないわけでもないか……。


 ほんと、ここは戦いにくい場所だな!




 とにかく、相手が高速の遠距離攻撃を放ってくるのであれば、下手に横に動いて避けるより、まっすぐ突っ込んだ方が攻撃の射線が読みやすい。


 範囲攻撃や飽和攻撃だとしたら、それこそ近寄ってたら一緒だ。


 最短距離を駆け抜ける!




『ほう!いい度胸だ!では喰らえ!』




 さっきよりも激しく頭角が光り輝く。


 これは、さっきのビームとは別の攻撃かな?


 だったら、やっぱり範囲攻撃だな!




 俺は、雷切を構え相手の攻撃に合わせる準備をする。


 そして……。




「やっぱ範囲攻撃か……。意外性無いなぁ……」


『なにぃ!?』




 雷切の数振りで、広範囲にわたる電撃が霧散する。


 やっぱり神剣の性能はおかしいと思う……。




 そのままの勢いで、カラドボルグの間合いに入った。




「まずは、その邪魔な角からだ!」




 樹木のように大量に枝分かれしたあの角を少し振るだけで盾のようになり、そして視線を遮られてしまう。


 それを防ぐために、御自慢の角は落とさせてもらう!


 奈良の鹿公園でだって、ヤンチャが過ぎた雄鹿は角落としの刑に処されるんだ!


 力づくでな!




 カラドボルグの一振りで、角の根元を2本まとめて断ち切る。


 巻き込まれてかなり細かく角の破片が出てしまったけれど、神剣を具現化することで上がった身体能力の前には、この程度の破片なんて無意味だ。




「さぁ!年貢の納め時だぞボスボス鹿!」


『小癪な……!しかし、我の体当たりが直撃すれば貴様とて!』




 ……あ、そうか。


 よく考えたらコイツ体デカいからぶつかるだけで攻撃になるのか。


 しかも、ボスボス猪のライバルなんだっけ?


 だったらそういう攻撃もあるよなぁ……。




 しかたない!狩った所で体がすぐ止まるわけでもないから!ここは一度脚を攻撃して、動きを抑える!


 カラドボルグを振ってボスボス鹿の左前脚を切り裂く。


 それだけで十分動きは鈍ったみたいだけれど、おまけで雷力を脚に続けざまに触れさせ、軽く感電させる。


 アレクシアと2人でやっていた狩り方を1人でやってみようってわけだ。


 さぁ、動きが鈍った所をカラドボルグで……。




「美味しいお肉は、血抜きからですからあああああああああ!!!!!」




 斬ろうと思ったら、ボスボス鹿の延髄から頸動脈にかけてスパッと斬られた。


 うっわ……。


 えっぐ……。




『ば……ばかな……いったいどこから……』


「よくわかりませんが、丁度良く弱らせて頂けたので止めを刺しました!これで今夜の鹿フルコースを食べる権利がいただけるんですよね!?」




 いやぁ……、俺一人でやる気でかなり気合入れて戦ってたからちょっとだけ恥ずかしくて残念だけど、これは認めるしかない。


 アサシンの面目躍如といった所だろう。


 食欲を前面に出さなければ滅茶苦茶カッコいいから、女の子にだってモテるだろうになぁ……。




「よくやった!今夜は肉をたっぷり食え!」


「ありがとうございまーす!」


『……』




 もう頭の中に響いていたボスボス鹿の声は聞こえない。


 しっかり死んだようだ。


 これは流石に今年の優勝者は俺達だろう。


 他の誰が、ビームを撃つ鹿を倒せるというのか。




 逆に、よくあのオクタマヌシ様はこんなんとバチバチやり合えてたな……?


 ちょっと尊敬するわ……。


 もう俺の血肉になっちまってるけれど。




 ……あれ?そういえば、この会話してた鹿を俺は食うのか?


 ちょっとそれは……どうなんだろう?




「アレクシア、喋る鹿を食べる事に何か忌諱感があったりしない?」


「喋る鹿ですか?そんなのがいたんですか!?どんな味なのでしょう!?高魔力を持っていそうですし、きっとおいしいですよ!?」


「あー、うん。ならよかった」




 そっか、脳に直接送り付ける言葉は、範囲全体に飛ばしてたわけじゃないのか。


 じゃあ、俺さえ黙っていればこれはただの肉……。




 ならいっか!


 前世の俺だったら絶対嫌だったけれど、この世界に転生してから俺も図太くなった!


 その俺の食欲が言っている!


 俺なら大丈夫と!


 ちゃんとボスボス鹿を食べて血肉に変えることが出来ると!




「さて、解体するか。会長から借りてる収納カバンにまず邪魔な角を入れて……」




 デカいとはいえ、かなり慣れた鹿の解体を10分ほどで終わらせる。


 いやぁ、鹿なのに肉が霜降りの部分まであったぞ。


 どんな食生活していたんだか……。


 和牛を個人で育ててる人は、ビール飲ませて大事に太らせると聞いたけれど、猿や猪食うだけでこんな霜降りってできるんだろうか?


 ……できるんだろうなぁ……。


 もしかして、魔物食い続けてきた俺や聖羅も霜降り肉になっているかもしれない。


 100gで1000GMくらいになったら嬉しい。




 解体を終えた辺りで、他のメンバーもやってくる。


 戦いが終わったのを感じたのだろう。


 あとで、解体する前にスマートフォンで撮影した鹿の写真を見せてやろうじゃないか。


 この木みたいな角とか、博物館に展示されるんじゃないか?




「お疲れ様!やってくれたわね大試君!」


「すごかったね!なんだかビリビリしてたけど大丈夫だった?」


「切り裂いたから平気だった。しかも、止めはアレクシアだし」


「やってやりました!」


「……ちょっと見直しました」


「見直さないといけない評価だったんですか!?」




 皆、大き目な戦いを終えたのを目の当たりにし、興奮しているようだ。


 俺も興奮している。


 さぁみよ!俺のスマホに保存されたしゃし




「おい犀果大試、まだ私が見つけた気配は消えていないぞ?戦闘は終わったようだから来てみたが、どういうことだ?」




 その時、未だに警戒を解いていなかったみるく先輩信じられないことを言う。


 ちょっとまって?


 ボスボス鹿は倒したよ?




「ちゃんとボスのボス鹿は倒しましたよ?」


「いや、それはそうなんだろうが……ほら、まだその辺りに他のがいる気配が……」




 そう言われ、先輩の指さす方を見てみると、人が立っていた。


 いや、人……なんだろうか?


 こいつも頭に角が生えている。


 ゲンさんに生えていた角より、更に鹿っぽい雰囲気の角だ。


 目の前に立っているのに、イマイチ姿がよく認識できない。


 男なのか女なのか、それすらわからない。


 美形だって事は確かなんだけれど……。


 何これ?




「ほうほう!?我を見つけるとは、流石は多少とは言え龍の混ざりものよな?」


「なんだと!?私は、誇り高き龍だ!混ざり物なんて無礼な呼び方は許さんぞ!」


「いやいや、すまんすまん。悪気があったわけではない。ただただ驚いての?」




 普通に話しているけれど、姿を捉えた瞬間から感じるこの存在感は尋常じゃない。


 みるく先輩の言葉を信じるなら、こいつは最初からここにいたという事になるけれど、だとしたらこれを隠して潜んでいた事になる。


 なんていうか……うん、恐怖だ。




「別に我の使いのために力を使ってやる必要も無いんだけれどのぅ、見つかっちゃったら、このまま放置しとくのもアレじゃしなぁ。あんな獣どもでも、崇拝の力というのはバカにならんのじゃよ」




 いやだぁ……。


 これ以上話聞いても厄介な事になる気しかしない……。


 このまま何事も無かったかのようにいなくなってくれたら……。




「あのぉ、無かったことにしてこのままお別れにしませんか?」


「できんのぅ。まあ命まではとらん。多少の言い訳が立つ程度に遊んでやるとするかの」




 そういうと、その人?は歩いて近づいてくる。


 遊びたくないなぁ!


 悪いな!この遊び場は6人用なんだ!




「我は……そうよなぁ、気軽にタケミーとでも呼ぶが良い。そんな感じの呼び方が流行っとるんじゃろ?あーそれと、この角も流行りのこすぷれいうもんじゃ。1本やろうかの?」




 ごめんなさい。


 流行りとか知らんのです。






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