第166話
「こっちが拝殿だよー!」
「案内が必要なほどデカい神社なんだなぁ……」
明小が手をブンブン振りながら俺を案内してくれている。
これから俺は、新しく買った家の隣に、これまた新しく建てられた神社でお参りして、女神リスティ様に会いに行かなくてはならない。
折角神社があるんだから、ここでお参りすりゃいいだろうと思ったんだけど、改めて見てもバカでかい。
コレ、1000年後の未来で観光名所になる類のサイズだろ……。
「明小、なんでこんなに大きくしたかったんだ?」
「ボクは別に大きくなくても良かったよ?でもアイちゃんが、『どうせなら大きくしましょう。宮大工というのをやってみたかったので』って言って、5人くらいですごいスピードで建てちゃったの」
「アイ……」
「犀果様、確かにこの神社は巨大です。しかし、建設作業はすべて私が行いましたので、かかった費用は材料費と私のごはん代くらいのものです。ご安心ください」
「いや、まあいいけどさ」
実際、明小の神性を高めるのであれば、きっと神社は大きいほうが有効だろう。
折角神様がいるんだから、神社くらいパーッとデカいの作るのは悪くない作戦だ。
「でもなアイ、1週間おやつ抜きな」
「そんな!?この酒粕アップルパイを最後に1週間もおやつを食べられないのですか!?(モグモグ」
「本当ならそれも取り上げるところだけど、あまりにも美味しそうに食べてるから……。今度から、でかい建物は許可とってから作りなさい」
「むう……畏まりました。では、とりあえず今日はおかわりしてもいいですか?」
「では、ってなんだ?ではって」
反省してないなコイツ。
「大試よ。このアップルパイは酒にも合いそうじゃぞ!」
「ソフィアさん、酔っ払って天井で寝る人は、しばらくお酒禁止にしたほうが良いと思うんですよね」
「……すまん、反省しとる……飲みやすくてついついペース配分を見失ったんじゃ……」
未だにちょっと酔っているこのエルフ、実はそこまで酒に強いわけでもないのかもしれない。
しかし、大好きではあるようだ。
たちの悪いタイプの酒飲みだ。
電子のワルガキとたまに酷くポンコツになるエルフを引き連れたどり着いた場所は、大きな拝殿の中の賽銭箱の前。
俺は、酒とアップルパイをお供えしてから、参拝フルコンボを決める。
すると、今回もまた、一瞬で神の世界へとやってきていた。
「……はぁ、オレ行ったよな?コマメに会いに来いってよ」
「ごめんなさい、忙しくてつい」
「まあいいけどよ……」
怒っているのかもしれないけれど、それよりもいじけている部分が大きそうだ。
壁に向かって体育座りしている。
もしかして寂しかったのか?
神様なのに?
よし!ここはお供えというお土産が効果を発揮するタイミングと見た!
「前回リスティ様から頂いていたリクエストに従って、お酒と甘いものを持ってきました!」
「……ふーん」
少しだけこっちを見たリスティ様。
やはり気にはなるようだ。
神の世界に俺が持ってきたものは持ち込めるんだろうかと不安だったけど、お供えするという意識があれば持ってこれるようだ。
詳しく検証してみないとハッキリとは言えないけれど、少なくとも今この場所に、俺が買ってきた日本酒の瓶と、缶ビール1箱。
更に、酒粕アップルパイの袋が置かれている。
それらお供え物を、リスティ様の手が届く範囲に運ぶ。
こういう場合、無理やり渡した所で素直に受け取るとは限らない。
あくまで、自発的に手に取らせたほうが良いんだ。
「これは日本酒で、純米大吟醸ウカノミタマと言うそうです。甘く、まろやかな飲み心地で、香りは桃のように芳醇なんだとか。まあ、俺はまだ酒が飲めないので、店員さんに神様に供えるのに一番いいお酒をオーダーしてみたらコレが出てきたんですよ。それとは別に、こっちの箱に入っているのは、比較的大衆向けのビールってお酒で、シチフクジンという銘柄です。これも人気があって、何十年も前から細かくモデルチェンジを重ねて美味しくなってきたお酒なんだとか」
「…………ふーん……」
そっけない返事だけど、目がチラチラこちらと酒を見る頻度が上がってきている気がする。
もう一息だな。
「それとこっちは、酒粕アップルパイですね。酒屋で新しく出そうとしている甘味で、まだ正式販売前なので、食べられるのは限られた者のみの貴重なものです。これを売ってくれた店員は、是非お供えする神様から味の感想を頂きたいとの願いも受けています」
「ふーん……!」
口元がニヤニヤしているのがここからでもわかるようになってきた。
…………堕ちたな!
「しょーがねーなー!でも、本当に今度からはちゃんとこまめにこいよ?大事な連絡があるかもしれねーんだしよ。まあ今回はねーけどな」
「肝に銘じておきます。ささ!どうぞ一献!」
「お?悪いな!……この盃、人間が作ったにしては、なかなかいい出来じゃねーか!」
「そうですか?ありがとうございます!俺の手作りなんですよ」
「お前が作ったのか?流石は、オレの加護をもってるだけあるぜ!」
大分機嫌が直ってきたらしく、俺が盃に日本酒を注ぐと口をつけてくれた。
あくまでイメージだけど、日本酒だろうとグビグビ行くようなヤンキーみたいなことするのかと思っていたけど、かなりじっくり味わいながら飲むタイプらしい。
とにかくいっぱい飲めば満足という幼稚さなんて既に捨て去り、一口一口を大事にする熟練さを感じる飲み方だ。
「……ふぅ……。このウカノミタマ、いいじゃねーか!神の名をつけるなんて大それたことをしやがるって思ったけどよ、この上品な味と香りを体験したら、文句も言えねーな!」
どうやらお気に召したらしい。
とりあえず、ガチギレしたまま機嫌も治らないという最悪の事態は防げたな……。
「それにしても以外でした。神の世界なら、もっとすごい酒飲み放題なのかと思ってましたよ」
「オレに酒造りの権能があればそれもできたかもしれねーけどよ、オレがいるこの場所は、他の神との交流もあまりできねー特殊な場所だからな。こうして口に飲食物入れたのも、相当久しぶりだぜ?食わなくても死なねーから、別に構わねーんだけどな」
「へぇ……」
神様にも色々あるんだなぁ……。
「こちらのアップルパイもどうぞ!俺はお茶にあいそうだと思いましたけど、酒が飲めるエルフによると、酒にも合う味だそうですよ」
「アップルパイかぁ……美味そうだ……はむっ」
アップルパイを1ピース手に直接持ち、そのままかぶりつくリスティ様。
お酒と違って、こっちは割とワイルドな食べ方をするらしい。
「……なるほどな。酒粕を組み合わせると、こんな奥深い旨味のある甘さが引き出されるのか。美味いな……」
そう誰にとなくつぶやいた後、パクパクと食べてしまう。
2つ目に取り掛かるのにそう時間はかからなかった。
よし、こんだけ機嫌良くなったなら問題ないだろう。
念の為そこからしばらくリスティ様に御酌しながら様子を伺う。
そろそろ質問してみてもいいだろう。
「リスティ様、今日は、少々伺いたい事があってまいりました」
「あ〜?なんだ〜?聞くだけ聞いてみ〜?答えられるかはわかんねーけどな〜」
……えっと、ちょっと酔わせすぎたか?
つっても大して飲ませたわけでもないんだけど……酒に弱いんだろうか?
日本の神話でも、神様とかバケモノは結構酒に弱かったりするからなぁ……。
リスティって名前から考えるに、日本の神様では無いのかもしれないけど……。
「実は先日、母からハイヒューマンという種族がいると聞きました。それを聞いてすぐに俺もハイヒューマンになったんですけど、このハイヒューマンっていう要素をリンゼがまったく把握してなかったんですよ。だからどういうことなのかと思って」
「あー!ハイヒューマンなー!あれな?あのバカ女神が問題起こしてこの世界に転生させられた後に、モデルになったおんらいんげーむに実装された内容らしいぜー?オレも詳しい事しらねーけど、お前が死んでから15年経った今でも、フェアリーファンラジーの新作とか追加要素は出続けてるんだってよー」
「あー、そういうことなんですねー」
えー……。
つまり、敵も味方もめんどくさいやつも、順次追加されていく可能性が高いってこと……?
そして、その新要素を俺達が事前に把握する手段は限られていると……。
リスティ様に聞けば、教えてくれるのかもしれないけど、そのためには細かくここへ訪れる必要がある。
意外と俺って、忙しくて時間の余裕ないんだけどなぁ……。
現時点で、1年生の1学期目っていうゲームならまだ始まったばかりのハズのタイミングで、トラブルが起きまくって俺が駆り出されまくっているんだから、コレ以上増えていくのは大変だなぁ……。
「じゃあ、質問も終わりましたし、お土産も渡したので、俺は帰りますね?」
「だーめだ!」
帰ろうとしたら、リスティ様に手を掴まれた。
力強すぎて全然抜けねぇ……。
「なー……オレさびしかったんだぞー?」
「他の神様は来ないんですか?友達の」
「だからー、ここには他の神もなかなかこれねーんだよー。これたとしても、友達もいねーから関係ねーけどなー!」
「悲しいこと言わないでくださいよ……」
神様なのにボッチなのか。
「どうせ現世だとまだ1秒もたってねーんだし、もう少しいっしょにはなしてよーぜ?」
「はぁ……わかりました」
こうなった酔っぱらいの相手をする場合に、重要な事が2つある。
諦めと、忍耐だ。
期待をするな!そしてキレるな!
たとえどんな無茶振りをされても、あらあらウフフと受け流せないといけない。
それができないと、鬱になったりしちゃうからな。
というわけで、俺も女神様シッターにならなければいけないらしい。
「それで、何から話します?」
「ん……すぴぃ……」
寝やがった。
俺の手を握ったまま。
なんとか放させようとしたけど、そんなことで抜けるほど神のパワーは甘くないらしい。
この現実世界と比べてほぼ静止しているような世界で、俺は後何時間こうして手を握られていなければ行けないんだろうかと暇つぶしに考える。
まあ、リスティ様は流石女神だけあってすごい美人だから、手を握りながら寝るのは構わないよ?
だけど……だけどね……?
手の骨が軋んでるんだ……。
助けて神様……。
そこから現実世界に踊れたのは、俺の体感で10時間程経った頃だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます