第167話

「……は!?」


 直前までいた神の世界……って表現していいのかよくわからないけど、リスティ様の所から、現実世界へと戻ってきた俺。

 まあ、体はずっとここにあったし、意識だけがあっちに行っていただけなんだろうけど。

 時間だって、体感では何時間もあっちにいたけれど、多分こっちの世界では数秒しか経っていないと思う。


 ただ、あっちにいた時間の大半を手を握られて逃げられなくされた状態で、尚且つリスティ様は寝落ちしていたので、有意義に使えたかというと微妙。

 やべぇ……そろそろ手が潰れそう……って考え始めた辺りで、ガバっとリスティ様が起き上がり、「んむぅ……?」と言いながら俺の手をぐちゃぐちゃにしかけている自分の片手を見て、「あ、わりぃ」と軽ーく謝ったと思ったらもう現実世界だった。


 そんなこんなで、戻ってきたことに気がついたときには、かなり変な声を出してしまった。


「大試!?どうかした!?」


 隣で明小がびっくりしている。

 あっちからしたら、手を叩いてお祈りを始めたと思ったら、いきなり大きめの声を出すという奇行に見えているんだろう。

 世が世なら、魔女裁判でドキドキしないといけないかもしれない。

 憑りつかれてんじゃねって。


 とんでもねぇ!

 あたしゃ神様と会ってきたんだよ!

 なんて言おうものなら、猶更白い目で見られるだろうか?


 それにしても、できればリスティ様に、他にはどんなリンゼが知らない新要素を実装しちゃったんですかって聞いておきたかったのに、まさか酔っぱらってすぐ寝て、やっと起きたと思ったら即座にこっちに戻されるってのは予想してなかった。

 流石に、今帰って来たばっかりなのにそうポンポン行くのもどうなんだろうか?

 うーん……まあ、神社が家の近くに出来たわけだし、それほど焦る必要もないか。

 どうせ俺は、リンゼが把握している内容も把握していない内容も、等しくよく知らんのだし。

 まだ六法全書の方が内容を把握しているかもしれない。


 ごめんウソです。

 サラッと刑法第何条にこう書かれていますって言えたらカッコいいかと思って、厨二秒を患っていた時に読もうとしたけど、3ページくらいで限界を迎えた過去があります。

 因みに聖書は1ページ。

 まる子第何章とか言ってみたかったなぁ


「何でもないよ明小。ちょっと咽ただけ。お祈り終わったから帰るわ」

「わかった!ボクは、もう今夜からこっちで寝るから、ここでお別れだね!」

「そうなのか?じゃあ何かあったら連絡してくれ。そこまで距離があるわけでもないし、直接家まで来てくれてもいいから」

「うん!」


 手をブンブン振っている明小に手を振り返し、新築の神社を後にする。

 次は、いつ行こうかな?

 あまり時間を空けずにリスティ様に会いに行った方がいいんだろうけど、そう言う風に考えていると、いつの間にか数か月経ってたりするんだよな……。


 何はともあれ、とりあえず最低限の目標は達成できてよかった。

 酔っぱらい相手だと、それすらできずに、予定が水泡に帰すことも珍しくなかったからなぁ。

 思い出される開拓村での人生……。

 王都に来てから、酔っぱらいに悩まされることも大分少なくなったけど、まさか神様相手にそんなことになるとは思ってなかったなぁ。

 やっぱり、神様とか精霊とか化け物なんていう奴らが酒に弱いのは事実なのかもしれない。

 酒関係の神話もバカにできんもんだな。

 ここにも、酒でやらかした奴がいるし。


「それでどうだったんじゃ?酒は渡せたのかのう?」

「渡せましたよ。少し飲んだだけで酔って寝ちゃったので、もしかしたら重要な情報を教えて貰えていない可能性もありますけど、とりあえずは帰る時点で悪感情みたいなものは無かったと思う」

「何やっとるんじゃ神様……酒は飲んでも飲まれるなとアレだけ日本中で言われているというのに……」


 呆れ顔の大精霊リスティ様には色々言いたい事があるけれど、その前にこれだけは言っておく。

 ついさっき、試飲しただけで酔って寝だしたアンタには、何も言う権利ないぞ!



 森の中の道を歩き家まで帰ってきた。

 玄関を開けると、中は何故か賑やかだった。


 アイが俺に気がついて近寄ってくる。


「お帰りなさいませ犀果様」

「ただいま。なんか騒がしいみたいだけど何かあったの?」

「犀果様に買って来て頂いたこのアップルパイなのですが、余った分はジャンケンで勝った者に贈呈することになりました。それで、希望者で集まって、ジャンケンバトルをしていた所だったんですよ」


 そう言われ、改めて騒ぎの方を向くと、確かにジャンケンをしていたのが分かる。

 ってか、残っていたらしいジャンケン大会参加者は、殆どが量産タイプのアイみたいなんだけど、どういう人格でそのバトルは行われているんだ?


「程々にしておけよ?酒はトラブルの元になりやすいんだし」

「もちろんです。例え同型の私が相手でも、奇麗さっぱり排除できるように練習していますので、御心配には及びません」

「あれあれ?もっと不安になったぞ?」


 自室まで引き上げてから、リンゼへと連絡を取る。

 そこまで隠さなくてもいいかもしれないけど、周りに行ったところで信じてもらえないかもしれないから、とりあえずリンゼにだけ話しておくさ。


「もしもし」

『大試?どうしたのよ?』

「さっきリスティ様に話を聞いてきたんだけどな、どうやらリンゼが転生させられてからのフェアリーファンタジーシリーズの内容も入っちゃってるらしい」

『……そう……つまり、アタシの知識によるアドヴァンテージは、新しい内容については期待できない訳ね』

「そうなる。まあでも、俺からしたら今までもゲーム知識なんて殆ど無かったわけだし、大して影響はないのかもだけど」

『そうね……そういえば、ハイヒューマンについて、他の人達には教えてあげたの?』

「あ、そう言えばまだあんまりしっかり話してなかったな。明日学校で会った時にサラッと説明しておくよ」

『そうしなさい。はぁ……このハイヒューマンって種族が実装されたって事は、オンラインゲームの方だとかなりのインフレが起きたんでしょうね……』

「しっかりレベル上げ持ちておかないといけないな。いつアホみたいに強力な敵が出てくるか全く予想がつかなくなったし。報告はそれだけだ!今日はもう疲れたから寝るよ。お休み」

『はいはい、お休み!』


 リンゼとの通話を切る。


 女神様は、思ったよりお酒に弱くて面倒な感じだったけれど、今日やろうとしていたことはできたため、俺はとても上機嫌だった。

 毎日こうやって目標を完遂できればいいんだけどな。

 努力はしているのに、後から後から新しくやる事押し付けられて、結果クリアできなくなるんだよなぁ……。


 今日みたいな日が続けばいいなと思いながら、俺はさっさと寝ることにしたのだった。



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