第171話
侯爵一家に案内されて進んだ先には、京都の市街地と魔物の領域を区切るかのように大きな門があった。
俺の中のイメージだと、羅生門とかそんな感じの見た目。
ただ、門は確かに物凄く頑丈そうなどでかい迫力のある物なんだけど、その両側は、塀になっているというわけではなく、門をスルーして市街地に入って行けるような状態に見える。
この門は、もしかしたらただの見た目だけの物なのかもしれない。
「ここが、京都の玄関口である南大門だよ。京都の市街地に入れるのは、基本的に3つの門からだけだから気を付けてね」
委員長が観光ガイドの如く説明してくれる。
こんな美人のガイドさんが担当してくれたら嬉しいだろうな。
他の2人からの殺気さえなければ……。
「あれ?門からしか入れないの?別に塀とか無いよね?」
「塀は無いけど、結界で覆われていて入れないの。よっぽど強力な攻撃でも受けない限り破壊されない頑丈な結界で、小さな妖怪なんて全く寄せ付けないくらいなんだ。ただ、流石にさっきの牛鬼クラスの大物だと危ないから、そういうのは強力な式神が倒してるって事。小さい妖怪も、小型の式神が倒してくれてるはずだけど、大きいのと違ってあまり目立たないからわかりにくいかも?」
ほへぇ……。
俺の目には見えないけど、あの市街地と外側が結界で隔てられてるのか……。
結界って便利だねぇ……。
そういうの全くできない俺には、どのくらい凄い事なのかもわからないけれど、きっと凄い事なんだろう。いいな凄くて。
結界貼る剣でも出てこないかなー。
つっても、ガチャチケも大分溜まってるんだよなー。
自分で引いて木刀の在庫を増やそうか、それとも他の神剣が出るのに賭けようか迷ってるうちに、今20枚は溜まっている。
SSRの神剣が、大火力ブッパ系か特殊能力で確殺系の物が多くて、もうこれ以上新しいのいらないんじゃねって感じなのが悪い
なんなら、全部木刀にしてソフィアさんに魔術ブッパ連射してもらうだけでも粗方片付くんじゃないかって気もするし……。
どでかい門をくぐって中に入ると、門の外とは一気に空気が変わった気がする。
門の外だと、草木の青臭い匂いがしていて、田舎育ちの俺にとってはすごく親しみやすい香りだったんだけど、門の中に入った途端、土の香りが強くなった。
建物が増えた上に、道が土むき出しの未舗装だからだろうか?
立ち並ぶ建物にも庭があって、そこに草木も植えてあるんだけど、それでもやっぱり森や林があるのと比べると、雰囲気は変わる物らしい。
(大試……大試よ……!)
何も無いはずの耳元から囁き声が聞こえる。
今日も今日とて姿を消してついてきているソフィアさんだろう。
耳元でささやかれると、ゾワゾワするからやめてほしい。
癖になったらどうするんだ。
(どうかしました?)
(あの門を越えてからなんじゃが、めっちゃゾワゾワしとるんじゃが……大試は感じとらんのか?)
(ゾワゾワ……?ソフィアさんの囁き声が気持ちいいなってくらいしか……)
(冗談言っとる場合じゃないわ!……まあ悪い気はせんが……)
そう言われたって、俺にそういう繊細なセンサーは搭載されてないから仕方ないじゃないか。
前世ではまず感じたことが無かったから、漫画の世界の存在だと思っていたけれど、この世界に転生してからはたまに感じる殺気ならともかく、多分ソフィアさんが言っているゾワゾワは、魔力とか魔術的な何かによる物だろう。
それらに関する俺の関知力は、この世界だと多分幼稚園児以下だからなぁ俺。
(ワシ、まだしばらく姿消したまま大人しくしとくから、気を付けるんじゃぞ!)
(はいはい。食事はどうします?姿消したままこっそり食べます?)
(うーむ……そうじゃな……まあ、なんぞ旨そうなもんでもあったら頭上に掲げてくれればありがたく頂くぞ。牛鬼とかいうのはキモイからいらんが!)
そう言うと思って、さっきの牛鬼肉は与えなかったんだ。
ソフィアさん苦手そうだもんなぁ虫系。
まあ、ソフィアさんの場合は、その気になれば指パッチン一つでどこからか食べ物を召喚できるみたいだから、ほっといても大丈夫だとは思うんだけどさ。
いや召喚なのか?魔力を固めて食物にしてるのか?
わからん……。
そもそも指パッチンでそんな事できる理屈が分からん……。
「犀果君、さっきからどうかしたの?」
コソコソと虚空と会話している俺の態度が気になったのか、委員長に質問されてしまう。
まあ、別にソフィアさんがいるって教えてもいいんだけど、どこで誰が監視しているかもわからないし、教えずに済むなら秘密にしておいた方が無難だろう。
「いや、初めての京都だからワクワクしちゃってさ!」
「そう?私はもう慣れちゃったけど、やっぱり初めてだと面白いんだね!でも、雨降る度にドロドロになる土の道は何とかしてほしいかな……」
今は、別に雨が降っている訳ではないけれど、昨日あたりにでも雨が降ったのか水たまりが点在している京都の道。
アスファルトで固められている訳ではないから、地面が吸いつくすか、蒸発しきるまでは水たまりが残るんだろう。
ヒートアイランド現象対策には、こっちの土の道の方が良いのかもしれないけれど、利便性で言えばやっぱりアスファルトとかコンクリートの道の方が上だよなぁ……。
「やっぱり舗装されてないからボコボコしてるな。この道を魔道車とか馬車で走ったら、尻がとんでもないことになりそうだ」
「京都の中だと、魔道車って走ってないらしいんだよね。移動手段は、普通は徒歩で、偉い人だと馬に乗ってるし、馬に乗れない偉い人になると牛車だったかな?私たちみたいに外から来て、京都の最北端にある領域を目指す人なんて早々いないから、街中をちょっと行き来する程度だったら、魔道車なんていらないって判断だと思う。京都まで持ってくるの大変だしね」
俺の実家の開拓村も、そういえば魔道車持ってこれる雰囲気じゃなかったせいで、俺がファンタジー世界であるとしっかり学ぶのが遅れたんだよな。
もうかなり前になったように感じる時間を振り返りながら、一番太い道を進んでいく。
その先には、天皇様が住んでいる御所があるのだった。
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