第172話
「でっかい門……それにここはちゃんと塀があるんだな」
「そりゃ天皇様が住んでる所だもん。結界も張られてるけどね。さ!チャイム鳴らすよ!お父さんも兄さんもいい?」
侯爵とお兄さんが殺気を抑えて頷く。
それを見た委員長が、門についているスイッチを押した。
ピンポーン……。
って鳴ったけど、え?天皇様んち呼び出し音俺の前世の家と一緒なんだけど……。
『はい?』
少し待っていると、スピーカーから声が聞こえた。
女性だろうか?
声の感じから察するに、俺と同年代くらいに感じる。
今更だけど、門番がいるわけでもないんだな……。
「こんにちは!佐原侯爵家の者です!今月の分の納品に参りました!」
『あーはいはい。今行きますね』
ガチャっと音を立てて声が途切れ、それから3分程待つと、門が開き始めた。
電動か?人力では無さそうだけど、これも魔道具なんだろうか?
開いた門の向こうには、銀髪の少女が立っていた。
やっぱり俺と同い年くらいに見える。
使用人さんか?
「お待たせしました。遠い所毎度毎度ご苦労さんです」
「いえいえ!それで、いつも通り蔵に運べばいいですか?」
「はい、お願いします」
毎度おなじみの対応って感じで、スルスルと事が進んでいく。
状況に流されるままの俺は、今の所何が何だかわからないまま広い敷地内を歩いている。
今は、蔵に向かっている所なんだろうか?
本物の蔵ってあんまり見たこと無いんだよなぁ。
こっちの世界に来て、上流階級の人たちの家にお邪魔して初めて見たんだ。
前世では、テレビとか教科書だけだな。
「今、鍵開けますね」
「お願いします!」
辿り着いた先には、確かに蔵があった。
うん、蔵……。
いや、これってアレだろ?正倉院じゃん?
中に迷い込んでミイラになったヤモリすら宝に指定されるすごい蔵じゃん?
これって奈良にあるんじゃないの?
なんか民家みたいなノリで中に入ったから忘れてたけど、そういえばここ天皇陛下の住んでる所なんだよな……。
陛下じゃないのか?あーもう、この世界の天皇様の扱い方がわかんねぇ!
え?てかそんな所に酒なんて入れていいの?
「犀果君、こっちだよ!」
「あ、ウッス」
予想外の蔵に唖然としているうちに、いつの間にか他の人達は蔵の中に入っていたようだ。
慌てて付いていくと、薄暗い蔵の中が見えてくる。
てっきり、古今東西の宝物が所狭しと置かれてるのかなって思ってたのに、どうやら見える部分にはそういうものは無さそうだ。
樽とかでかい壺、あと何に使うのかわからないけれど、スコップなんかも置かれている。
物置みたいな感じだな……。
うーん、これはなんとなく蘭奢待が置かれている雰囲気ではないな。
あったとしても、もっと奥まった場所だろう。
少なくともこのエリアは、前世の俺の家の車庫と物置の中くらいのラインナップだな。
どうにも、俺の予想とか常識が全く通用しない世界だ。
「では、この辺りにお願いします」
「はいはい。うん、この樽まで空になってるから……犀果君!これを全部収納カバンに入れてもらえる?」
「ウス」
色々頭が追いついていないけれど、とりあえず仕事は仕事だ。
どうせ俺には、この常識の通じない空間で頭脳労働なんて無理なんだし、肉体労働で活躍するしかない。
渡されたカバンに空の樽をポンポン詰め込んでいく。
20本はあったかな?
さっき委員長は、今月の分の納品だって言ってたから、毎月このくらいの量を持ってきてるんだろうか?
だとしたら、毎月20樽の酒を消費しているってことになるのか?
それはそれで凄いな。
「じゃあ空いたスペースに中身がある樽を移動して、それから持って来た分を置いて行ってね」
「ウス」
言われた通りに樽を並べ終えた俺。
多分この樽1つで相当な重さなんだろうけど、身体能力がアップしている俺にとっては大したことはない。
なんなら、この樽でキャッチボールできるくらいのパワーがあるからなぁ。
単純作業な上、力的にも余裕があると、委員長と仲良く作業しているのを睨む2つの視線にも動揺せずに済む。
ってかさ、侯爵とお兄様、何後方彼氏面みたいな顔して腕組みしながら見守ってんの?
仕事しなよ。
下っ端に任せるって事なのかもしれんけど……。
「父さん、彼……」
「うん……」
なんかブツブツ会話してるし……。
こえーよ何相談してるんだよ?
「……ところで、貴方は新人さんですか?」
奇麗に並べた樽に満足していると、さっきの銀髪さんが声をかけてきた。
銀色の中に、色々な色が混ざっているというか、角度によって色が変わって見える。
構造色ってやつだろうか?いやぁ……凄い髪の色だなぁ。
王都にも色々な髪色の人がいるけど、流石はゲームの世界って感じがする。
俺の髪?真っ黒!特別艶があるってわけでもない!
「はい、臨時の護衛……アルバイトなのかな?とにかく、初めまして。犀果大試と言います」
「犀果……?それじゃあ貴方が……」
俺が名乗ると、何か思案顔になる銀髪さん。
今更だけど、この人は何者なんだろう?
使用人さん?メイドって訳じゃないんだよね?
女中って表現になるんだろうか……?
そんな俺の疑問を感じ取ったのか、はっとしたような顔になる銀髪さん。
そしてすぐに自己紹介を始めてくれた。
「申し遅れました。私は、稀仁様の養女、リリアと申します」
「これはどうもご丁寧に」
相手も随分丁寧に話してくれるから、こっちも必要以上に畏まらない方がいいのかと、そこそこの敬語で話しておく。
でも稀仁様って誰だろう?
「犀果君!犀果君!」
そんな俺の様子を見て、慌てたように俺の裾を引っ張り、耳元で話しかけてくる委員長。
「どうかした?」
「わかってないみたいだけど、稀仁様は天皇様!つまりこの方は、リリア殿下て呼ばないといけない人なの!ご本人の意向で、こんな感じで私たちも接してるけど……」
おっと……。俺の首が飛ぶかな?
「いえいえ!私なんてそんな……。それに、殿下なんて呼ばれたとしても、この京都自治区内でしか意味のないものですから……」
なんとお姫様だったらしい。
……ん?京都自治区?
また知らない言葉が出てきたぞ?
これ以上何か言っても墓穴掘るだけな気がするし、頭だけ下げておこう!
ここは、見に回る!
「つかぬことをお伺いしますが……」
だが、彼女はそれを許してくれない。
何やら俺の目をじっと見て質問を投げかけてくるらしい。
なんだ?俺には常識は通じないぞ?鎌倉幕府が出来た年すらわからない。
1192年だっけ?それとも1185年?
「もしや犀果さんは、女神様のご加護を受けていらっしゃいませんか?」
「……ほへ?」
女神の加護?
予想外の質問に思考が止まってしまった。
だけど、言われてみれば、リスティ様からそう言うのも貰ってたような気がする。
ってか、使途だか眷属だかでもあったような?
「あー……多分、そんな感じの物を貰ってたような気がします」
「やはり!義父から、近日中に上級神様からの使いが参られると聞かされていたのですが、貴方様なのですね!」
「え?いやそんな大層なもんじゃないと思うんですけど……?」
加護ってそんなすごいもんなの?
サラッともらったよ?
「犀果君!?神様からの加護もらってるの!?」
「多分?」
「多分って……ギフトカード見てみなよ!」
ギフトカード?
加護って表示されるのか?
委員長に言われて、ギフトカードを確認してみる。
すると……。
「えーと……女神の加護、女神の使徒、女神の眷属、武神の遊び相手、女神のずっ友、女神のマブダチ、女神シッター……」
なにこの称号?ずっ友?マブダチ?俺が?
違うんじゃないかなぁ……。
友達って言う程神様と交流してないよ?
でも、俺が受ける印象と、周りの人の受ける印象には違いがあるらしい。
リリアさんが、ガシっと俺の手を握ってきた。
握る力が意外と強い……。
「女神様にご友人と認められるなんて何と言う事でしょう!?素晴らしいです!是非ともこのまま義父にお会いになって下さい!」
「えぇ!?」
いきなり、天皇様に会う事になったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます