第110話
いつ焼かれたのかわからない冷凍焼けしまくりの塩ジャケ。
パリッとした感覚が皆無の茹でたウィンナー。
どうやったらここまでボッソボソになるんだってくらいのおにぎり。
硬くなっているのを「トースターで焼けます!」っと言ってごまかしているパン。
これだけは、なんかお金かかってるなと思える牛乳とオレンジジュース飲み放題。
ペットボトルから注いだんですか?って感じのコーヒー。
そんなビジホの朝食みたいなのを何となく予想してしまっていたけれど、よく考えたらここはVIP専用の旅館。
朝食だって、贅の限りを尽くしている。
俺みたいな前世からして一般ピーポーな男子高校生にわかるのは、とにかく刺身とかがすごく奇麗で山盛りに盛ってあって、朝からステーキなんかも鉄板で焼かれてて、目玉焼きがあってちょっと庶民っぽいなって安心したのに、食べてみたら油から違うのか滅茶苦茶おいしくてビビるという状態。
甘い物なんかも結構いっぱいあった(過去形)。
「アイス……無くなってしもうた……」
「今おかわりをお持ちしますね!」
「……おねがい……します……!」
「フルーツポンチもお願いします!」
エルフは、とりあえず放っておこう。
奴等の食べ方に俺は追いつけない。
「温泉卵っていうのおいしー!」
「やっぱり旅館といえば鮭の塩焼きだにゃー。まあ、多分これトラウトサーモンだけどニャ」
「こちら、餌に伊予柑の皮を混ぜて与えているサーモンでして、松山で養殖しているんですよ」
「最近よくあるヤツだニャ」
「魔族の領域にも旅館ってあるのか?」
「あるよ?ご飯は全然美味しくないけど」
「ニャーも仕事で仕方なく行くんじゃない限り魔族のホテルや旅館は使いたくないニャ。一泊3500円のビジホの方がマシにゃ」
「元魔族軍幹部がサラリーマンみたいな事言ってる……」
意外と旅館の朝食に順応しているのが魔族ペア。
ちゃんとお箸も使えていることに今更疑問を持ったけど、魔族の領域でも箸はわりと一般的な食器らしい。
ただ、魔族グルメはやっぱり魔族的にもアレな存在のようだ。
「犀果様、納豆の食べるタイミングがわかりません」
「さっきから混ぜまくってると思ってたけど、そんなこと考えてたのか……。もう食べていいと思うぞ」
「ですが、練っても練っても色が変わらないのです」
「それ違う奴だから」
アイよ、俺なら納豆には砂糖と醤油を入れてごはん無しでそのまま行くぞ。
神也にはドン引きされたけど。
アイは、知識は色々もっているのに、今まで食事という物を自分で行ってこなかったものだから、人の体を得ても、食べ物の知識には未だに変な偏りがある。
あと、メイド服なのに今の所配膳とかはするつもりはないらしい。
別にメイドになれって思ってるわけじゃないからいいけども。
ネコミミ先輩メイドなんてメイドらしい事してるのほとんど見たこと無いし。
今だって、味付けのりでご飯を包みながら醤油につけて食べてる程度にメイド感0。
「さて、今日は何をしたものか。観光をしているフリをしながら街中を歩いて情報収集でもするか?」
「いいですね観光しているフリ。美味しい昼食を食べてるフリをする場所も先に決めておきたいくらいです」
「ボクも観光してるフリしたい!」
「ワシはそろそろ肉をガッツリ食える場所がいいのう。海の幸も良いが、海の近くだから海の幸というのばかりではワシ的にナンセンスじゃ」
「それなら、俺がたまにいくラーメン屋がある。昼食はそこにするか」
「話聞いとったか?肉が食いたいんじゃ」
「ラーメン屋だが、一番の人気メニューは若鳥のから揚げで、2番目がチャーシューだ。3番目が餃子だったか……?そういえば、俺自身あの店でラーメンを頼んだ覚えが無いな……」
「ほう……?」
昼食の場所が決まったらしい。
本日のソフィアさんは、どうやら肉食系大精霊のようだ。
話は変わるけど、野生動物の世界だと、肉食動物より草食動物の方が大抵の場合性欲旺盛だぞ。
「昼食をそこにするなら、その前に俺がよく行く観光名所があってな。ガラス美術館と言う所なんだが、ガラス製品や美術品を展示していてな。その中に、明小の母親をモデルにしたステンドグラスがあってな。それをよく見に行っている」
「お母さんのガラス?」
「俺の中でタヌキとステンドグラスって存在が全く結びつかないんですけど……」
「案外最近は人間にも人気があるらしいぞ。もう100年以上前に作られたというのに、今でもわかる愛らしさがあるとな」
そこまで言われると見てみたくなるな……。
ネットの画像を探したりせず、折角なら初めて見るのもリアルでお願いしたいものだ。
「じゃあそのガラス美術館行ってみますか。このメンバーたちが、展示品をかち割ったりしないかがちょっと怖いですけど……」
「ボクはオジサンと手を繋いでいくから大丈夫!」
「そうかそうか!なら明小の事は俺に任せろ!他のメンバーは、大試に任せるとしよう」
「俺だけキャパオーバーじゃねぇかなぁ……」
エルフ3人と、魔族2人と、人造人間1人。
果たして、俺だけで手綱を握っていられるのだろうか。
大型犬を複数連れて散歩していた飼い主が、気がつけば引き摺られているような状態になったりしないだろうか。
考えても仕方ない事かもしれないけれど……。
「ガラスのう……大試、お前の嫁たちにプレゼントでも買って行ってやるのはどうじゃ?」
「あーいいですね。観光しているフリとしても満点な回答だと思います」
「ワシにももちろん何か買ってくれるんじゃろ?」
「何欲しいんですか?」
「そうじゃなぁ……2つセットの夫婦コップとか欲しいのう」
「じゃあガラスのタケノコか何か買ってあげますよ」
「この世界にそんなもん欲しがる女がいるとは思えないんじゃが?」
「聖羅は、先端が鋭ければ喜ぶと思うんですけどね……」
「あの娘、ちょっと怖くなってきたわ」
ガラスの展示物には、うちの面々を触れさせないようにしよう。
例えお土産コーナーに置いてある物だとしてもだ。
これは絶対だ。
特に、アレクシア辺りは不器用な所あるから、持った途端落としたりしそうで怖い。
意外とファムはその辺り丁寧だから、必要なら俺とファムで持ってそれぞれのメンバーに見せてやればいいさ。
「木彫りの熊のガラスってありますかね?」
「……絶対にあると思います……」
「寧ろ木彫りの熊がないお土産屋ってあるんじゃろうか?」
「なんで木彫りの熊?」
「エリザお嬢様、アレは北海道エルフ独特の文化にゃ」
「犀果様、王都にはガラス製品を床に叩きつけて割ってストレス発散できるバーというのがあると聞きました」
「絶対行かないぞそんな場所」
「そうですか……」
不安だなぁこのメンバー……。
俺は俺で、一緒に盛り上がってやらかす事あるしな……。
「お土産コーナーでおすすめなのは、タヌキの置物だぞ?俺がゴリ押しして置かせたが、まだ2つ程しか売れていない。あれほど忠実に再現した絶世の美狸なのにな……」
「リアルなタヌキじゃなくて、キン〇マでっかいよくあるタヌキの置物っぽい奴だったらもう少し売れたんじゃないですかね」
「雌にキ〇タマがあるわけないだろう?」
代表取締役タヌキにとって、その置物は雌のタヌキであることが重要らしい。
この人はこの人で、連れて行くの不安かもしれない……。
「早くみたいなー、お母さん……」
もう1人の化け狸は、唐突にシリアスぶっこんでくるから怖いし。
って、普通に観光する事しか考えてなかったわ。
早速やらかした。
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