第31話
「勝手にいなくなるんじゃないわよバカああああ!!」
「すみません……」
「ごめんなさい……」
俺と聖羅は2人とも、今現在リンゼに抱き着かれながら泣かれているため動けない。
怒られるとは思ってたけど、泣かれるとは思ってなかった。
因みに、前側にはリンゼがいるけど、背中側には有栖がくっついている。
こっちはさっきから何も言わずにただくっついているため、どういう状態なのかわからない。
ただ、たまにしゃっくりみたいな動きをしているから、多分こっちも泣いてる。
「えっとね、大試がファムに飛ばされちゃってから、ウチたちもすぐダンジョンから出たんだ」
エリザによると、ネコお姉さんが死んだことで、あの特殊な結界は消失したらしい。
俺達が強制転移してしまったため、すぐにその場を後にして転送陣から脱出したという。
俺達がボス部屋に入った時点で、ファムがボスを倒してしまっていたから、転送陣は既に起動していたんだろう。
エリザは一応ファムの遺体を確認しようとしたらしいけど、光になるように消えてしまったという。
ダンジョンの魔物が死んだときに消失するようなものかと思ったけど、エリザ曰く魔族は死んでもそんなふうに消えたりしないらしい。
急いでダンジョンから脱出した4人は、とにかく状況確認を始めた。
知り合いらしいエリザにファムのあの技について聞いたら、どこかにランダムで転移させて、その場で殺す術だと聞いたものだから、有栖とリンゼが焦りに焦って王様に捜索隊を編成するよう直訴。
俺だけならまだしも、聖女まで行方不明という事で、国が動く事態に。
更には、教会も各地の教会と連携して目撃情報が無いか確認しまくりだったんだとか。
マイカなんて、魔眼を使いすぎて限界を迎えたせいで寝込んでいるらしい。
そりゃそうだ、流石の魔眼でも東京から北海道までは見えんだろ。
スマホの位置情報システムで検索しても出てこないから、GPSが機能しない場所であるのは間違いないだろうという事で、その捜索も諦めムードが漂っていた所に、いきなり俺が電話に出てビックリ仰天したんだとか。
この世界、GPSあるのね……。
「ってことがあったんだよね。まあ、使役されてるウチがここにまだいたから死んではいないんだろうなーとは思ってたんだけどね?」
「いやぁ、お騒がせしました……」
「ふざけんじゃないわよおおおお!」
「……っ」
そしてまた着信だ。
はい王様さんですね。
『おう!生きてたようだな!』
「ご迷惑をおかけしました」
『構わん構わん!むしろ、魔族相手によく無事でいた!流石剣聖と賢者の息子だ!』
「いやぁ……それはどうかわかんないですけどね……」
とりあえず捜索隊は解散したらしい。
指揮をとっていたというおっちゃんから後日、2~3質問したいとだけ伝えられた。
まさか、俺と聖羅があんなことをしている間にこんなことになっているなんてなぁ。
……あんなこと……か……。
「アンタ、何顔赤くしてるのよ……?」
「……いや、冷静に考えると、俺の周りって凄い美少女いっぱいいたんだなって……」
「…………はぁ!?ちょ……はぁ!?」
「んん!?」
改めて、俺もこの世界の住人なんだと自覚してしまうと、流石に美少女に囲まれているこの状況で照れがでないわけもなく……。
リンゼは涙で顔ぐっちゃぐちゃのまま奇声をあげてるし、後ろの有栖は見えないけどとりあえず腕の力が強い。
締まる……。
「しまった……。ここまで劇的に大試の認識が変わるとは思ってなかった……。迂闊……。」
「え?聖羅コイツになにかしたの!?頭でも殴ったとか!?」
「……違う。でも、多分リンゼたちにとっても良い事」
「何言ってるかわからないわよ……」
意識していなかったから友達として接していたのに、女の子だって意識したら途端にどう対応したらいいのかわからなくなる童貞力。
自分でも情けなく思うわ……。
気まずくなったので、話題を変えることにする。
これはこれで気になっていた問題だ。
「誰かこの教会がどういうものかわかる人いる?随分放置されてたみたいなんだけど」
「……ここは、魔法学園の旧教会です。随分前に別の場所に新しく教会を建てたので、こちらはそのまま放置されているそうです……」
久しぶりに有栖の声を聞いた気がする。
にしても、やっぱり放置されてたのか。
うーん…。
ここ、俺たちで借りられないかな……?
周りには俺たち以外誰もいない。
気を利かせて帰ってくれたらしい。
これはチャンスだな……。
「皆、ここでこうしてるのもなんだし、一回この教会の中に入らないか?」
「でも埃だらけなんでしょ?なんでわざわざそんなとこ行くのよ……?」
「いいからいいから。見せたいものがあるんだ」
「私は構いませんが……」
「ウチもいいよ?」
リンゼも有栖も変に秘密洩らす事は無いだろうし、使役しているエリザも問題ないだろう。
俺は、地下の転送ゲートの事を打ち明けることにした。
「何ですかここは!?こんな……秘密基地みたいな……すごい……!」
「うわぁ、なんかめっちゃ落ち着く部屋なんだけど……寝てもいい?疲れちゃったし……」
「……ここって、まさか……アンタどうやって……?」
有栖とエリザは宿泊施設に驚いている。
そんな中、リンゼだけはこの施設に何か心当たりがあるようだ。
「3人とも、ここはオマケみたいな場所だから。重要なのは更に奥」
「ここよりも凄いものがあるんですか!?」
「ウチ、もう寝るから勝手にやっちゃってぇ……」
「ダメだ来い!一応俺に使役されてるんだろ!せめて説明1回で済むようにしてくれ!」
「えぇ……?」
ハラハラドキドキの2人と、何かを考えている1人と、この先に何があるのか知っていて自慢したい2人で奥を目指す。
薄暗い部屋の中に大きな転送陣の鈍い光を見て、有栖とエリザが驚愕する。
「「ええー!?」」
うん!いい反応!俺と聖羅もニッコリ!
「アンタ……ちょっとこっち来て!」
リンゼはといえば、何故か俺の手を引っ張って部屋の隅に連れて行く。
「なんだよ?多分これってゲームに出てくる要素なんだろ?」
「そうなんだけど!そうじゃなくて……本当はこれ、学園の大体3年生で解放されるものなの!」
「なに!?」
リンゼによると、このテレポートゲートというのは、ある程度育成を進めたプレイヤーに解放される機能らしい。
それがなんでこの段階で解放されたのかというと……。
「バグね……」
「バグ?」
「えぇ……テレポートバグ。ヒロインと一緒にいる時に敵からランダムジャンプを食らうと、最初の1回だけテレポートゲートに飛ばされて、早い段階からテレポートゲートが使えるようになっちゃうってバグ。本来は、ランダムジャンプ使ってくる敵なんて最後の最後にしかいないんだけど、たまに超低確率でランダムエンカウントするファントムキャットって敵がそれを使ってくるのよ」
「でもそれバグなんだろ?なんでこの世界にその仕組みがあるんだ?」
「それは……」
リンゼが、明らかに何か言い難そうに眼を逸らす。
なんだ?楽しそうだからやっちゃったとか?
「楽しそうだったから無理やりそういう機能を……」
「ていっ!」
「痛った!?」
とりあえずデコピンしておいた。
「他にもそういうバグあるのか?」
「わかんないわよ……。女神の能力なくなっちゃってるから、全部は思い出せないわ……。このバグは割と印象深かったから覚えていただけで、後は車で空を飛ぶと確実に墜落するとか……」
「なんでそんなバグを……」
「その時は面白そうだって思ったのよ!」
このポンコツにこれ以上この件について尋問しても意味がなさそうだ。
まあでも、昨日までの俺だったら本筋とのズレに怯えていたかもしれないけれど、今の俺からすると、ちょっと考えも変わる。
「それで、そのテレポートバグが発生した場合のデメリットってあるか?」
「デメリット?そんなの、ゲームの難易度が下がるくらいで……」
「そうか!じゃあ、これ問題ないんじゃね?別にこの世界は本物のゲームってわけでもないんだしさ」
「……確かにそうね!アタシのおかげで日本全国行き放題よ!どうよ!?」
「致命的なバグだった可能性もあるんだから変な事すんなよって冷静に叱っとくわ」
「ごめんなさい……!」
反省しているみたいだし、これに関してはここまででいいや。
それより、もう一つ言っておかないとな……。
「それと、俺が前世の記憶あって、リンゼが女神だってことも聖羅にバレた」
「え!?その……よかったの?」
「まあよかったんじゃないか?……ついでに告白された」
「……………………………………はぁ?」
色々驚きすぎたのか、魂がぬけているようになっているリンゼ。
俺としてもそろそろ帰って寝たいけど、そうもいかなくてな……。
「……アンタ、聖羅と婚約したの?」
「まだ答えてない。今度、俺から告白しなおせって言われてるけど……そもそもその辺りの作法なんて俺は知らないしなぁ……。前世から合わせても俺の経験に対女性の物は限りなく少ない」
「……そう……」
それっきり黙ってしまうリンゼ。
何か話が出るかと思ったけれど、しばらく待っても動かなくなったため、先ほどから忙しなく施設を見て回っている有栖とエリザの方へ向かう事にした。
「これは、テレポートゲートというらしい。日本中にあるゲートにテレポートすることが出来る施設だ。俺と聖羅は、ランダムテレポートで北海道のテレポートゲートに飛ばされて、そこからゲートを使って帰って来たってわけだ」
「テレポート……そんなとんでもない施設がこんな所に眠っていたんですね……」
「ファムは、ダンジョンの転送陣にでも飛べたから、このゲートよりも凄かったのかな?」
「あー、それであの猫はボス部屋にいたのか」
「そうだと思うよ?ウチの事よっぽど連れ帰りたかったんだろうねー」
やっぱりあのニャー子さんはやばい敵だったのかもしれない。
俺と相性が良かっただけで。
もう戦いたくねぇなぁ……。
「それでさ有栖、ここを活用したいから、この教会って俺達が借り受ける事ってできないかな?どうせ使われてないみたいだし、聖女や王女が使うからって名目なら専用の施設に出来そうじゃない?」
「たしかに……それは可能だと思います!あとで早速父にお願いしてみますね!」
よし、これでここの問題は完了っと。
後は、何か問題があったとしても明日以降に回してもいいんじゃないかな……?
疲れたよ……。
皆もそうだろ……?
「とりあえず、今日はここまでにして解散にしないか?皆無事だったとはいえ、もう疲れもピークだろ?」
「そうですね!私もやることできましたし!」
「……そうね。今日は帰ることにするわ」
「やったー!ウチも部屋にもどるねー!」
「大試、また明日」
そう言って銘々に自室へと戻ることになった俺達。
10時間ご休憩してきた俺と聖羅はともかく、他のメンバーは俺たちを探してくれていたからもう限界だろう。
俺は俺で、色々あって疲れちゃったわ……。
命がけのドキドキと、恋愛的なドキドキでなぁ……。
なんか……俺今めっちゃ生きてるって感じがする……。
爆殺された日よりも、更に激動の日だったなぁと思いながら自室で眠りにつく俺。
この時は、まさかリンゼが有栖を誘ってある壮大な計画を立てていたなんて思いもしなかった。
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