第30話

『魔力チャージが完了しました。テレポートゲートまでお越しください』




 部屋にアナウンスが流れる。


 どうやら10時間経ったらしい。


 上手く行けば、このまま学園に戻ることが出来るはず。


 ……まあ、どれだけクタクタで、何時間も抱き着かれていて体中が痛くても、事情説明くらいはしてからじゃないと仲間たちには寝かせてもらえないだろうけど。




 なにせ、敵に無理やりテレポートさせられて10時間以上音沙汰もなかったわけだし……。


 しかも、テレポートで行方不明になった内の1人は聖女様だ……。


 国からも教会からも何か言われそう……。




「聖羅!起きろ!そろそろ帰るぞ!」


「起きてる。帰りたくないだけ」


「我儘言うなよ……多分お前が居なくなって王都中大騒ぎだぞ?」


「う゛ー……………………」




 ぐずる子供をあやす様に、ベッドから降ろして立たせる。


 聖なる女と書いて聖女なわけだけど、見た目に関して言うなら美少女であるということ以外聖女らしさは無い。


 強いて言うなら、白い修道服みたいなローブを着ているので、何となくそれ系関係なんだろうなとわかる程度。


 今日思ったけど、内面に関しては小悪魔という成分まで持っている気がする。




 聖羅を少しぼーっと眺めている間に、手を掴まれた。


 そして、ニマァと悪戯を考えている子供のような笑顔になる。




「転送紋までの間でいいから、手を繋いでほしい」


「……そんなの、小さい時から何度もやってきてるんだし、今更……」


「でも、照れてくれてるのは初めて」


「……」




 これだ!


 俺は、さっきからただただ攻撃を受けている!


 防戦一方だ!


 反撃をしなければただやられるのみ!




 というわけで、肩を抱いて体を寄せながら歩いてみた。




「……」


「……」


「流石にこれは、ちょっと早いと思う……」


「……いきなり冷静になるのやめてもらえるか?」




 両者赤くなっただけだった。






『お待ちしておりました。すぐにテレポートなさいますか?』


「あー……。一応確認なんだけど、テレポートって危険は無いのか?」


『安全性は保障されております。当施設が建造された時代には、既に確立された技術でした。ただ、1回テレポートするだけでも莫大な魔力を補給する必要があり、商業的には実用性があまり無かったため、犀果様が当施設をご存じないのであれば、恐らく現在では失われてしまった技術なのでしょう』


「ふーん……」




 いや、そんな簡単に失われる技術か?


 俺がお偉いさんなら、どんだけ金出しても欲しいけどな……。


 逆に、絶対に秘密にしないといけない技術として封印された可能性の方が高そう。


 ……あれ?これ、内緒にしとかないと俺たち危ない……?




「聖羅、このテレポートゲートってやつは秘密にしておこう。教えるとしても、リンゼと有栖くらいにしておいた方が良い。便利なのは間違いないから、活用はしたいけどな……」


「わかった」




 そして、一応のカバーストーリーを考えておくことにした。


 ネコテレポートは、場所だけでなく時間までデタラメに干渉されるようで、気がついたら学園にいて、ダンジョンから飛ばされてから10時間が経っていた。


 詳しい事は何もわからないってことでいいか!




 だって実際なんでこんな所に飛んだのかわかんねーし。


 聖羅が干渉したって言っても、地表部分に出るようにしただけって事は、そこらの森の中とかの可能性の方がよっぽど高かったのに、何故こんな便利で放置されていた建物に出たのか。


 それが作為的な物なのか何なのか、気になる所だ。


 例えば、このテレポートゲートを使ったら、聖羅が死ぬとか……。




「まあ、死ぬかどうか試すにも、学園に帰るにも、ここでテレポートしないって選択肢は無いか……」


「大試と一緒なら死んでもいいかも」


「俺は嫌だね。折角ならずっと一緒に生きたい」


「……うん!」




 ……今、結構凄い事言った気がする。






「よし、じゃあテレポート頼む!」


『了解しました。テレポート開始』




 その音声と共に、転送紋が輝きだす。


 まるで、これから大爆発しますよって演出みたいに光り輝くものだから、かなりビビってしまったけれど、しばらくしたら段々と弱まり、やがて収まった。




「……終わったのか?」


「わからない……」


『転送完了いたしました。現在地、魔法学園テレポートゲートです』




 機械音声のアナウンスを聞き、恐る恐る転送紋から出る。


 この部屋の中に関していえば、北海道の帯広とやらにあったゲートと大差がない。


 というより、まったく差が感じられない。




 とりあえず、帯広ゲートに転送させられた時と同じように、ドアの生体認証装置に触ってみる。


 今回は、特にアナウンスなども無く普通に開いた。


 管理者登録が完了しているからだろうか?




 扉の外も、先ほどまでの施設と大差はないけれど、ベッドだけは俺たちが座ったり寝たりした跡が無くなっているので、この短時間で誰かが直してくれたわけでないのであれば別の施設という事だろう。


 今更だけど、この後の予定を考えると、1時間でいいから寝ておきたかったかもしれない……。




「アイ、ここからどうやって出たらいいんだ?」


『先ほど出てきたドアの反対側にあるドアから外部へ出られます。もし人目に付きたくないのであれば、外部環境をスキャンいたしますか?』


「優秀過ぎて怖い……。頼む」


『了解しました。……外部に生体反応、並びにカメラなどの動作反応も確認できません。今なら扉から出ても安全かと』


「わかった」




 もうアイの事を全面的に信じることにして、ドアを開けた。




 ドアの外は、人が来なくなってから相当時間が経っているというのが埃の量で分かるような状態だった。


 ここは、どこかの地下室だろうか?


 埃は溜まっているけれど、それ以外は特に汚いということも無い。


 虫とかネズミが死んでいるだとか、壁が崩れているなんてことも無く、ただ埃っぽいだけ。




「どこだろうなーここ……。学園内だっていうなら、学校の地下とか?」


「……ここ、もしかして……」




 俺にはここがどこなのかまったくわからないけど、聖羅は何となく心当たりがあるようだ。


 聖羅が歩き始めたので、俺も後を追う。


 聖羅は、何かの小さな模様がある壁の前で立ち止まった。




「……、やっぱりそうみたい。ここ、多分どこかの教会の地下」


「教会?」


「うん。このマークの所に手を触れて魔力を流すと……こんな風に隠し通路が出てくる。高位の教会関係者にしか教えられてないけど」


「なにこれカッコいい……」




 壁がボコっと横にずれたと思ったら、その後ろ側には階段があった。


 階段を上り始めた聖羅に続く。


 そして、階段を上り切った先にあったのは、これまた埃を被った聖堂だった。


 建物はしっかりしているように見えるのに、この場所もやっぱり人が入った形跡がない。




「本当に教会だったな……」


「学園内にある廃教会なのかな?」


「わからん。とりあえず……」




 俺は、スマートフォンを取り出す。


 実は、階段を上り切ってから着信がすごい。


 履歴を見ると、リンゼ・リンゼ・リンゼ・有栖・リンゼ・王様・リンゼって感じ。


 やっべぇ……。




「とりあえず電話でるか……」


「説明お願い」


「はぁ……気が重い……」




 スマホで電話に出る操作って、何故か毎回緊張するんだよなぁ……。


 間違って切っちゃいそうで……。


 なんて、現実逃避をしながら操作する。




「リンゼ、げんきだt」


『遅い!!アンタ大丈夫なの!?生きてるの!?けがは!?今どこ!?』




 割と過ごしやすい場所で10時間ゆっくりしてましたって言ったらキレるだろうか?


 キレるだろうなぁ……。


 事前に人気ありそうなカフェでも調べておこうかな……。




 ポケットの中に、いつの間にかガチャチケットが何枚か入ってることに気がついたけど、今この瞬間にもっと面倒になるかもしれない要素はスルーすることにした。

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