第145話
そうかそうか。
俺は、頭が蛮族なのか。
そうか!?
自分では、結構理性的な対応を心がけているんだが!?
未だに人は殺してないし、殺すのも覚悟したとしても最後の最後の手段にしているんだけど!?
手足をボロボロにしているのを最低限の自衛手段位に思っているのが蛮族っぽいというなら、それはそうだねとしか言えないけどさ。
でもね?本当の蛮族は俺の両親世代だからな?
敵には、deathかdieという未来しか与えない決意みたいなものまであった。
生き残らせて、こっちに恨みでも向けられたら困るからな。
どんなに遠くまで逃げたとしても殺して来てたよ。
前世の平和な環境で育った記憶とか、王都に来てからの環境を知っているからそれがすごい事だってわかるけれど、少なくともあの開拓村で生活していくなら、父さんたちのあの確殺至上主義は正しい選択だと思う。
仮にそれがこの王都で、相手が人間である貴族たちだとしても、こちらの命を狙ったのであれば確実に殺しておくべきだ。
それを怠った結果がこの間の四国だったと言えなくもない。
だから、魔物相手に戦えないって時点で、マッスル部員たちはアウトかなぁ。
別に俺は、貴族としての特権を放棄するって言うなら、戦わないって道を選ぶのもアリだと思ってる。
だけど、貴族として生きていくというなら、魔物と戦うのは義務だ。
戦うならその肉体を駆使して相手を屠らないといけないし、その時になって殺し合いを躊躇うようであれば、自分や周りの人間の命が幾つあっても足りはしない。
もし、相手の命まで助けたいというのなら、圧倒的な戦闘力が必要だ。
そんな戦闘力を得るには、やっぱりそれ相応の覚悟を持って訓練をしないといけない。
どっちにしろ、今のこのマッスル部の雰囲気では駄目だろう。
平民になって、ジムで筋トレしている方が幸せかもしれない。
で?
俺にどうしろってよ?
意識を変えろって事だろうけどもさ、既に戦う意志を捨ててしまっている奴らを戦士にしろと?
それとも、本当に蛮族レベルまで堕とせばいいの?
それは、本人たちにとって幸せなんだろうか……?
「具体的には、どんなふうにすることを求められているんですか?」
「そうだね……4人1組で魔物を狩れるか、もしくは魔物を倒すことに抵抗を感じない程度にしてくれると有難いかな」
「うーん……まあできないことも無いですけど……部員たち自身は、どう考えているんですか?」
実際の所、それが一番の問題だと思う。
彼らの将来は、彼らが決めるべきだ。
仮に魔物と戦えるようになりたいとしても、俺が教えるとしたら、自然の中で暮らしながら、自然と戦うという追い詰められた人たちみたいな意識を持たせることになるだろうけれど、別に王都の貴族たちがそんなハングリーな精神を持つ必要も無い気がしないでもない。
まあ、貴族たちの意識なんて大して知らないけどさ。
少なくとも、森の中に掘っ立て小屋みたいなのを作って生活しないといけないような生き方はしていないんだろ?
そこんとこどうなの?
「実はね、これは彼ら自身の希望でもあり、彼らの親や、国からの要請でもあるんだ」
「どういうことです?」
「マッスル部……いや、もともとの肉体強化研究部が歴史ある部活だというのは知っているとは思うんだけどね、それだけに至る所にOBがいるんだよ。それも、『肉体強化研究部によって自分は生まれ変わることが出来た!』とまで思っているような人たちがね。そんな彼らからすると、マッスル部の現状に歯痒い想いがあるんだろう。それで、わざわざマッスル部員の意識改革のために予算までついたんだよ。見るかい?相当な額だよ?」
そう言って渡された資料には、確かに相当な額の予算がついてた。
……でもこれ、どういう理屈で着けられた予算……?
本当に使って大丈夫な奴……?
「ここまでされたらさ、部員たち自身も思うわけだ。『俺たちの筋肉は見せ筋じゃない!ちゃんと人々の役に立つんだ!』ってさ。まあ、こんな状態になるまで魔物相手にまともに戦ってなかった自分たちのせいなんだけどね?前々からアドバイザーとして筋トレやプロテインについての相談には乗っていたけれど、まさか魔物相手の戦闘を殆ど行っていなかったとはねぇ……。学園の実習も、昔に比べて随分温くなっているようだし、その辺りも含めてのテストケースなんじゃないかな?貴族たちも、我が子可愛さに魔物との戦いを経験させる機会を減らすことが逆効果になるかもしれないと考えを改めた者も出てきているようだしね。これが上手く行ったら、その方法を学園全体の意識改革にフィードバックするのかも。少なくとも、この予算を引っ張ってきた人たちはそう言う理屈で押し通したようだよ」
その辺りの難しい事はわからないけれど、わからない方が良さそう。
頭の良い人達でなんとかしてくれ。
俺は、もっと俺自身に関する事で考えないといけないことがある。
「で、それを受けることで俺に何のメリットがあるんですか?」
「私を好きにしていいよ?でもできれば子供は早めに産みたいかな?先輩のお子さんがこうしてここにいるのを見て、流石にそろそろ不安になってきた」
「…………で、それを受けることで俺に何のメリットがあるんですか?」
「あれ!?スルーかい!?」
ガガーン!って擬音が付きそうな表情をしながらも気を取り直して話を再開する仙崎さん。
冗談だったんだよな?本気じゃないよな?
「ギャラに関しては、この予算の中で、残った分は全て君への報酬って事になるかな?私は、正直な話人の意識という物に疎くてね。意識改革という部分について、あまり触れない方が良いと思うんだ。もちろん、肉体に関する薬学的な部分を始めとした錬金術の分野であれば、いくらでも助力はするけれどね。というわけで、最近噂のヤバイ子を講師にしちゃおうかなって訳だよ。しかもその子は、私が敬愛する先輩にして賢者の息子さんだというじゃないか!それを知った時に、これは運命なんだと思ったね!それまで運命なんて信じていなかったけど!先輩に似て、最低限の手加減以外は情け容赦のない破壊を相手に齎す辺りも素晴らしい!君のお父さんとお母さんが学生時代に行った試合を見たことはあるかい!?実際には死なないからって極大魔法をぶっぱなして黒焦げにした後、まだ息があるからってロッドを頭にフルスイングして止めを刺したんだ!アレには痺れたね!それを見たバカたちが彼女を恐れて、そのままバカ王子を先導した結果が僻地への左遷だったわけだけど、そもそも先輩は王都なんて好きじゃなかったらしくて渡りに船ってな具合に全く帰ってこなくなっちゃってさぁ……。もっともっと先輩で色々実験させてもらいたかったのに……あんなに私の作るものを悉く無効化する人なんて他にいないし……」
そこからまた少し話が続いた。
どうやら、母さんとよく何かしらでコミュニケーションは取っていたようだけど、仲が良かったのかは微妙かな……?
「……っと、こんな感じで私は周りの人々の気持ちに気がつかずに好きなようにしゃべってしまう癖があってねぇ……。これでも外見には自信があるし、パーティーでは昔から声をかけられていたんだけど、これをするとすぐ皆離れて行っちゃうんだよ……。それでもなんだかんだで世話を焼いてくれたのが先輩だったわけさ。あー……会いたいなぁ……。」
「俺は別に好きな事を話している人を見るのは嫌いじゃないですけど、それより今はマッスル部の事を話した方が良いと思うんで……」
「そうだね!じゃあ筋肉やポーションについては今度話そうか!」
実の所、マッスル部のやつらの意識改革なんて、本人たちで何とかしろとしか思えないけれど、お金がもらえるというなら別さ!
まあ、興味という意味ではポーションについてのほうが断然聞きたいけどな!
錬金術について教えてくれ!何時間でも付き合うから!
ただその前に、お金について話し合わないといけない。
「俺への報酬についてですが、責任者が指定するべきです。余ったのが全部担当者の取り分ってなったら、変に金を渋って必要な費用が使われなくなり、問題が起きる可能性もありますから。もちろん俺自身がそうするつもりって訳じゃないですけど」
「そうかな?お金は貰えるだけもらえた方が良くない?」
「そりゃそうですよ?でも、これは人間の心理的な話ですから。特に、どうとでもなりそうな今回みたいな仕事の場合、キッチリしておいた方が良いです」
「うーん……なら大試君の言うとおりにしよう!お金に関しては考えるのが面倒で人任せだからね私は!お金に関して人の言う事は素直に従っておくことにしているんだ!」
大丈夫かなこの人?
お金だまし取られてたりしない?
ちょっと不安になってきたけど……。
まあいい。
それより、仕事だというならさっさとプランを決めようじゃないか!
頭蛮族にするやり方なんて、一つしかない!
というわけで、そこそこのお値段を提示してもらって、俺もそれに手書きだけど書類を作ってもらって決めてしまう。
詳しくは後でやってもらおう。
ごねられることも無いだろうし、早く帰りたいし。
いい加減、後ろで反省の色も見せず……いや、彼らなりに現状への反省の姿勢がこれなのか?
わからないけど、マッスルポーズをとり続けられるのも面倒になって来たからな!
男も女も、筋肉を俺に見せようとしてくるな!
てか、そんなポーズ取る余裕なんて無くしてやるからな?
「仙崎さん、早速予算を使ってやりたい事があります」
「なんだい?私には想像もできない環境で生まれ育った君の発想に興味があるんだ!」
「いやいや、大して難しい話じゃないですよ?」
寧ろ、単純明快な部類だろうさ。
「じゃあ、次の金曜日の夜から、日曜日の夜までの間、魔物の領域で全員合宿とします。各自、遺書を提出しておくように」
マッスル部たちのポーズが固まった。
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