第144話
錬金術。
それは、数多のファンタジー作品で扱われてきたワクワク要素だ。
もちろん、前世の世界ではファンタジーの域を出なかったけれど、それでも大人気だったのは確か。
金属では無い物を金属に変換するというオーソドックスな物から、寿命を延ばしたり不死になる技術の開発まで、錬金術には幅広い種類がある。
ただの魔法って言われるよりも、化学的な側面が強めな所が魅力なのかも。
なんか、頭がよくなったような感じがするし。
もうなんかファンタジーと化学が混ぜ合わさったものは、全部錬金術って事にしちゃおうぜ!
と言わんばかりのバラエティーの豊富さが人気の秘訣かもしれない。
この化学的な方面が案外重要で、硫酸なんかも錬金術を研究する過程で見つかったものらしい。
そう考えると、現代化学の超重要な部分を担っているのは錬金術と言えるのかもしれない。
でも、水銀飲んでも永遠の命なんて手に入らない事は、昔の偉い人が証明してくれているから真似するなよ?
確かに辰砂は、赤くて奇麗で賢者の石っぽい感じはするし、そこから更に常温で液状の金属が精製されちゃう辺りも、少年マインドにビンビンに来ちゃうけれど、人体には有害だからな?
肝心要の非金属の金属化に関しては、結局上手くいかなかったけれど、まあ元素の行きつく先は鉄だって言われているし、発想自体は間違いでは無いのかもしれない。
金やプラチナを作ろうと思ったら、天文学的なエネルギーの圧力とか爆発が必要っぽいけどな!
それが一瞬で、人間の手で出来たらそりゃ便利だ。
やってみてぇなぁ……。
しかし!錬金術がファンタジーだったのは、前世においての話!
この世界では!錬金術ってのは!ちゃんと実在する技術らしい!
なんだ!?人体でも錬成できたりするのか!?
対価に片腕必要かな!?
うひょおおおお!
「……えーと、どうかしたのかな?表情がぶっ壊れてるよ?」
「は!?……いえ、お気になさらないで下さい。ただちょっと、本物の錬金術師に初めてお会いしたので、頭の中がハッピーになっていただけです。今ならさっきのマッスルポーションだって喜んで飲みます」
「あー……ごめん。あれ本当は、ただのホエーにとろみ付けただけの飲料なんだ……私の好物で……」
「それでも飲みます!」
「えぇ……?」
生ぬるい粘液を飲む。
仙崎コーチは、何故か顔を赤くしている。
なんだ?顔面硫化したか?賢者の石か?
「その……アレだな?自分の人肌になった物を飲まれるのは恥ずかしいんだな……」
「自分で提案しておいてソレ!?」
「いや……本当に飲んだのは君が初めてだよ!?」
でもこれ美味しいよ?
カル〇スみたい。
仙崎さんがゴホンッと咳払いをして、赤らんだ顔を振ると、少女のような表情から、飄々とした雰囲気へと戻った。
「それで、君に頼みたい事なんだけれどね……っと、その前に、犀果君はこの部についてどこまで知っているのかな?」
「部長が朝から学園内を黒ビキニで歩き回るヤバイ部って事くらいですかね?」
「うん、とっても不本意な認識だね?それはたった今私も辞めさせた方が良いと切に思った」
そう言って、轟打先輩をチラッと見る仙崎さん。
轟打先輩、ポーズをとるのを辞めろ。
反省の意を示せ。
「……まあいい。この部は、元々魔法があまり得意ではない者たちの救済と、国家への貢献のために設立されたものなんだ。筋力を高め、それを更に身体強化で引き上げ戦う。単純だが、それ故に強く、応用も利く。対魔獣戦力としての力こそが貴族たる者たちの存在意義であることを考えれば、国家としても重要な部だったんだよ」
そう言って、部屋の隅に大量に飾られた何かの賞状やトロフィーを手で示す。
きっと、国に何かを認められた事を表しているんだろう。
周りの筋肉たちのせいで、どう見てもボディービルの大会で優勝トロフィーにしか見えないけども。
「その辺りは多少担任から聞きました。でも、だとしても俺には何もできないですよ?俺、魔術使えませんし」
「うん、その辺りは噂で聞いている。派手にやっているみたいだね?流石は、留美先輩の息子さんだ」
「留美先輩……え?うちの母を知っているんですか?」
「知っているとも!私が人生でもっとも敬愛する人物さ!というかね、正直君の顔が先輩にちょっと似てて、それだけで多少興奮しちゃっている部分もある……ちょっとだけ舐めさせてもらってもいいかい?」
「嫌ですけど……」
なんかちょっとハァハァ言ってる……。
母さんの後輩ってこんなんか……。
「おっとすまない。少々取り乱した。お願いっていうのはそれではなくてね……。いつ頃からか、この部はその存在意義を忘れるようになった。筋肉を鍛え続けた結果、鍛え抜かれた筋肉の美しさに目覚めてしまったんだよ。もちろん、私もそれは理解できる。すごいよね筋肉?あんな繊維が伸び縮みして関節を曲げるんだよ?しかも再生して強くまでなる。電気を流すことで強制的にその反応を引き出すこともできるけど、やっぱり自分で指示を出すのが一番効率的かな?あーでも、脳からの指示を肉体を介さず伝えられたらもっと反応速度があげられるかも?これは今度やってみようかな。でもなぁ……あんまりこの手の実験やると国がうるさいんだよなぁ……。マッドがどうこう言ってくるけど、あんまりじゃないかな?彼らだって、私の作り出したプロテインが支配する世界にいるんだよ?この国で流通するプロテインのうちどれだけが私の会社から発売されていると思う?7割だよ?冒険者としての仕事なんて大してこなしていないのに、会社の売り上げがすごすぎて、それが評価されちゃって冒険者ランキングも上がったけど、別に冒険者ランキングなんて何の意味も無いからね?名誉職みたいなもんかな?血気盛んな若い人たちは、そう言うランキングを上げて依頼人たちの心証を上げようとしてるみたいだけど、私からしたらどうでもいいからね?そりゃあさ、出身は木っ端貴族の3女っていうすっごく微妙な感じだったけどさ、今となっては大企業をいくつも経営する社長だよ?すごいでしょ?……嬉しい、凄いって言ってもらえた……。正直私が今個人的に求めている物なんて、将来的な安息の地と、朝起きたら毎日隣で『おはよう』って言ってくれる人と、子供くらいで……」
そこから10分ほど話が続き、満足したのか「フゥっ」と息を吐く仙崎さん。
そりゃこんだけ話せば満足するだろ。
俺は帰りたくなったが。
「それで筋肉の話に戻るんだけど」
「これ筋肉の話だったんですか?」
「あ、ごめん違ったね?いやぁ、先輩っぽい顔みるとついつい楽しくなってしまって、昔みたいに話してしまった」
俺、そんなに母親に似てるかな?
俺の顔は、ゲーム内キャラたちの中で多少浮く程度に前世の俺とほぼ一緒。
多少キリっとしているかなってくらいかな?
それに比べてこの世界の母さんは、息子の俺から見てもすごい美人だ。
母さんは、息子の俺から見てもすごい美人だ。
この世界に生まれ落ちて最初は、てっきりゲームのキャラだから全員こんな感じの若々しくて美人なのかなって思っていたけれど、成長するにしたがって「あれ?うちの母さんおかしくね?いつまでたっても老けなくね?」と感じるようになり、王都に来ていろんな人たちを見てたら、やっぱりあの人おかしいわと実感した。
それに比べ、父さんは渋い感じではあるけど、普通のオッサンだ。
農家か漁師か酒屋やってそうな感じ。
そのオッサン似だと言われて育ってきたんだけど、俺にあの母さんの美形の面影が……?
……うん、自分で鏡見てもまったくそうは思えんが?
まあいいか……。
「部の歴史が長い事もあってね、創設以来の目的がブレる事は仕方がないとは思うんだ。私だって、彼らの筋肉を素晴らしくしたいという思いに応えて、コーチなんてしているわけだしね?筋肉はやっぱり素晴らしいからね!……あぶない、また脱線する所だった。君のその先輩に似たジトっとした目線で思いとどまったよ。それでだが、どいつもこいつもいつの間にか筋肉を魅せることしか考えなくなってしまったんだ。それこそ、ボディービル部状態でね……。本来の魔物との戦力になろうという意志は欠如している。ボディービルディングに傾倒するのは構わない。だが、実戦に耐えられる状態ではないのは頂けない。彼らには、『蟹の裏』という言葉の意味は理解できても、蟹の魔物と戦おうという気概は無い。犀果君は、巨乳と聞いて何をイメージする?」
「母ですかね?」
「あー先輩はすごいよね……。私も自信があるんだが、先輩は世界が……いやまあそれはいい。女性の大きな乳房だろう?彼らマッスル部の連中が連想するのは、発達した大胸筋なんだ。男のね」
その巨乳は嬉しくねぇ……。
揺れなさそう……。
「そういうわけで、君にお願いしたいのは、彼らの野生を取り戻す手助けをしてほしいって事なんだ」
「野生をですか?」
「そう!君のその頭蛮族さを彼らに叩きこんでほしいんだ!レッツワイルドマッスル!」
不名誉じゃない?
disりなの?
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