第253話

「おう大試!……殺されかけたってのは本当なのか?」

「本当ですよ。ほら、このロン毛に。まあ、コイツが多少不意を突いた所で俺は死なないでしょうけど」

「……ロン毛?頭皮から血を流しているスキンヘッドではなくか?」

「数時間前までは、ウザったいロン毛だったので、錆びたバリカンで野球少年にしてやりました」

「昨今は野球部も坊主頭にするところは少ないと聞いたが……まあいいか!」


 ヴェルネスト聖国に突撃する前に、とりあえず筋を通すべきところには通しておこうと思って、先ほど日本の教会の教皇には話を通したので、今度は王様に教えておこうと思ってやってきたわけだ。

 最近凄い頻度でこの人と話している気がする。

 今年度になってからは、両親より話してるわ俺。

 改めて考えると、両親も何かしらの通信端末を持っていて、リンゼとも連絡を取り合っているらしいから、俺も同じように電話をかけることもできるはずなんだけど、何もせず今に至っている。

 両親への連絡って何となく……さ?


「それで、どうやってあの国まで行くつもりだ?暗殺者まで送り込んでくるのなら、まともなルートでは侵入できないだろう?こちらからも抗議の連絡は送ったが、そんなものを気にする国ではないからなあそこは!外交問題でも平気で無視する奴らだ!」

「一応当てはあります。なので、今日は本当に事前に話しておこうと思っただけです。最低でも、あの国の教皇だけは確実に潰しますし、場合によってはそれを守りに来た奴らも潰すことになるかもしれません」

「そうか!」


 よし、面倒な物言いは入らなかった!

 入ったとしてもやったけど、話が早くて有難いな!


 今回の作戦は、電撃戦を想定している。

 サクッと行って、サクッとあの国の教皇を取っ捕まえるか、最悪殺すことになるかもしれない。

 別に積極的に殺したいと思っている訳ではないけれど、逃がすくらいなら殺すべきだと思っている。

 奴は、俺を殺そうとし、聖羅を奪おうとした。

 その時点で、俺の中の評価で言えば、最低ランクに位置づけされている。

 具体的に言えば、「見つけ次第対処が必要なカス」といった所だ。

 狙いが俺だけだったなら、「見つけ次第グーパンする必要のあるカス」程度の評価だっただろうけれど、聖羅に手を出そうというなら容赦できん。


「国際問題になったらすみませんね」

「構わないぞ!あの国は、もうずっと昔からやりたい放題だったからな!世界中の大半の国が、ヴェルネスト聖国に対して良い印象を持っていない!問題は、大勢の信者たちの感情だったが、それも新たな聖女の方に傾いているからな!好きに暴れて来い!」


 いや、うん。

 咄嗟に世界最大級の組織のトップを潰すって判断をした俺が言うのもなんだけど、それにGOサインを出す国王っていうのもどうなんだろうか?

 本当に話が早くて助かるけれど……。


「大試さん!わた」

「もちろん有栖は留守番な?」

「はい……」


 王女様を連れて行けるわけがないだろうよ。

 報復攻撃だけれど、見ようによってはテロ行為だぞ。

 それに、有栖がエクスカリバーをふりまくると、そこから放たれるビームで、多分10分もあればヴェルネスト聖国が消え去る。

 俺が殺されかけ、聖羅が攫われそうになっていると知った激怒中の有栖を連れて行くと、想定以上に大きな事態になりそうで怖い。

 俺が出した神剣の中でも最上級の殲滅力を持ってるからなぁあの剣……。

 俺としては、別に虐殺がしたいわけじゃないんだ。

 それでも、腐敗した宗教団体が俺を標的にしたというなら、腐った所は排除しておけるならしておきたいってだけ。

 後の尻拭いは、仮にも教皇を名乗っているさっき会ってきたあのおっさんに任せるさ。

 その位の責任は取ってもらう。

 トップに立つってことは、旨い汁を吸うだけではいられないって事を実感してもらわなければ。

 こっちは、すごく奇麗な婚約者たちを得たのと引き換えに、主人公の熟すべきイベントを一手に押し付けられているんだから!

 休みをくれ!

 最近休んだら仕事が増えるぞ!

 おかしい!


「犀果、有栖の事は任せて存分に奮戦してくるがいい」

「……俺が言っても多分何にもならないんでしょうけれど、そろそろ妹離れしないと後々面倒な事になると思いますよ」

「構わない、面倒事など日常茶飯事だ」


 第2王子様は、とてもいい笑顔で送り出してくれた。

 あの人、将来的に奥さん迎えたら、妹にご執心過ぎて嫉妬から包丁で刺されたりしないよな?

 それはそれでこっちに王位継承権がらみで何か来そうだから勘弁願いたいんだが……。

 皆で幸せになろうよ?


「ですが、本当に聖羅さんには、今回の事を伝えないで行ってしまうのですか?」

「うん、全部終わってから聖羅には伝えるよ」


 有栖が心配してそんな事を聞いてくる。

 でもな、俺だからこの程度の行動でなんとか食い止めているけれど、もし聖羅が今回の出来事を知ったら、確実にヴェルネスト聖国を更地にすると言い出すから、俺が始末をつけたって事にしてから話さないとまずい。

 開拓村的な発想だとそうなる。

 俺は、聖羅にそんな事をさせたくないから。


「んで、リンゼには聖羅の護衛を頼んでるし、クレーンさんにも今度繊維工場の見学に連れて行くって条件で会長とか理衣を陰ながら守ってもらってる。他のメンバーや家の方は、アイが守ってくれるから問題ない」


 頼もしい仲間たちのおかげで、何の心配もなく出かけることができる。

 だって、100レベルだらけだもん!

 護衛とか必要ないと思うけれど、そこは念のためにね。


「私も留守番したいんですけど!」

「ニャーもにゃ!」

「お前らは行くんだよ!アサシンとテレポーターなんてこんな時に真っ先に活躍する役割じゃねーか!」

「いやですよー!」

「めんどくせーにゃああああ!」

「いい加減諦めて観光気分で行けばいいじゃろ?カチコミ先でバカンスはエルフの嗜みじゃぞ」


 今回連れて行くのは、アレクシアとファムとソフィアさん。

 そして、最後のメンバーが


『ピッピガー!』


 ロボ。


「頼むぞ!お前の力が必要だ!」

『ガガピピッガ!』


 カタカタとボディを揺らしながらやる気をアピールするイチゴ。

 そして彼女は、縮小化された無限収納から、以前見せてくれた飛行機を取り出した。



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