第128話
「うーむ!思う存分ぶっ放して気分爽快じゃなぁ!大精霊になってからここまで派手に魔術を使えたの初めてじゃよ!」
喉につっかえていた小骨が取れたような勢いで、爽快さを露わにするソフィアさん。
そりゃあ、あれだけやりたい放題してたら気持ちいいよね。
一回指をパチンとしただけで、空一面が爆発したり、レーザーで薙ぎ払ったり、見えない何かで切り裂いたりしまくれるんだから。
ソフィア無双って感じだった。
王子の言葉から察するに、あの悪霊とかいうのはそこそこ厄介な相手だったと思うんだけど、ソフィアさんからしたらストレス発散の道具くらいにしかならなかったらしい。
悪霊ってくらいだから、何か怨念とかそういう面倒な攻撃をしかけてくるんだったんだろうなぁ。
一回も攻撃されずに終わったからわからんが。
俺達を護ると言ってくれていた隠神さんとその仲間たちですら、殆ど微動だにしていなかったもん。
俺、項垂れた日本刀や薙刀なんて初めて見たよ。
あ、そうだ。
証拠になるかはわからないけど、カラッカラになって砂になりかけてる王子の粉みたいなのを確保しておくか。
適当な容器が無かったから、近くの飲み物の自販機横に置いてあったゴミ箱から空きペットボトルを拝借し、その中に入れる。
流石にこれは、あのバカ王子相手と言えどどうかとも思うけれど、他に丁度いい物が見つからないんだからしょうがない。
こんな所で自業自得で死んだ王子が悪いという事で納得してもらう事にしよう。
少なくとも、俺は何も悪くないと思う。
「アイ、下のイカ脚はどうなってる?」
『現在、残っていた2割の体組織のうち、95%がエリザ様に吸収されております』
「残りの5%は?」
『この海域からの離脱を試みたようですが、エリザ様の操るクラー剣に拘束されて引き戻され、その後は踊り食いされています』
「神聖存在をか……」
ソフィアさんもすごかったけれど、エリザも流石は将来の魔王候補って事だろう。
しかも、今回で多分相当強くなっているはずだ。
急造品とは言え、神様食べたんだもん。
人間だったら不老不死になるか、もしくは死ぬかのどっちかってくらいの事なんじゃないか?
「結局あのイカ脚は、正確にはなんだったんだ?」
『クトゥルフではないかと。ダゴンはそちらにいるようですし』
「そうか……そうだな……」
そうなんだよなぁ……。
王子が死んで、あのラスボスっぽいイカ脚も死にかけになった今、これらの騒ぎによって復活した花子さんも消えるんじゃないかと思ったけれど、今の所特にそう言った反応は起きていないように見える。
今も化けタヌキ2匹に求婚されながら、明小と嬉しそうに話している。
正直、今この状況だとこいつらの存在はかなり面倒なんだけれど、自覚はあるのかなぁ?
どう着地させたもんか……。
報告を求められて正直に「ダゴンです!」って言っても「何言ってんだお前?」って返されそう。
ダゴンっていうキャラクターを既に把握していたリンゼですら理解できないって感じだったしなぁ。
なんなら、俺自身何が何だかわかってないし。
せめて、あの異形のタコ足かイカ脚かわからんものさえ頭から生えていなければまだ言い訳もたつけれど、流石にアレはファムのネコミミみたいにアクセサリーで通すのも難しい。
だって……ヌメヌメしてるもん……。
料理する前に、塩でしっかり揉み洗いしないと取れないタイプのヌルヌルさ。
四国のトップが隠神さんのままだっていうなら隠蔽してもらう事もできたかもしれないけれど、流石にここまでの事態を起こしたしまった以上、この爺さんがそのままここを管理していく事は許されないだろう。
となると、太三郎さんにでも任せるのがいいか?
「太三郎さん、暫く花子さん匿ってもらう事って可能ですか?」
「ん?構わないぞ?俺のマンションの屋上には、俺専用のプールもあるから、イカ脚が生えた花子でも満足できるだろう!……あ、いやまて。だが今は、あのプールに謎の龍が舞い降りていて、恐ろしくて放置していたんだった……」
「そういや、いましたね……」
マイカの遠視で小さな竜が気持ちよさそうに泳いでいたのは確認している。
この前、龍も人造人間の1種だと聞いたけれど、だとしたら意思疎通は可能なんだろうか?
可能だとしても、こっちに攻撃してこないとも限らないんだけど……。
「まあ、必要なら部屋に新たにプールを作ってもいい。花子は俺が面倒を見よう!というわけで花子!俺の家にこい!」
「……私って、プールに入ってないと死ぬタイプの生き物なのかしら……?もう少しぬめりが無い状態で復活したかったわ……」
そう言って少しメソメソしながらも、太三郎さんの家に行くことを渋々了承する花子さん。
頭を明小に撫でられている。
よし!これでこのもう一体の神聖存在っぽいのについては俺の管理下から外れた!
何か追及されたとしても、知らぬ存ぜぬで通そう!
実際知らんもん!本当にダゴンなのかすらわからん!
「くっ!こんな状況でも無ければ我輩がその役を担うというのに!」
「いや、隠神さんは花子さんよりまず四国を落ち着かせることに集中してくださいよ」
「はぁ……そうじゃなぁ……それが我輩最後の仕事になるやもしれんな……」
それはわからないけれど、流石に何のお咎めも無しとはならんだろうしな。
あと、曲がりなりにも四国の大貴族なんだろうから、何とかしてくれと思う。
なんで化けタヌキが貴族やっているのかはしらんが……。
『犀果様、神聖存在消滅を確認しました』
「あ、エリザが食べ切った?」
『はい。弱点はイカと同じだったようで、イカを〆る要領で倒されておりました』
「あの王子、イカっぽいラスボスってイメージは出来ても、イカのイメージから離れられなかったんだな……」
仮にあのクトゥルフっぽいのが完全に人間のイメージによって生み出されたものだとしたら、それを生み出したと思われる王子のイメージ力が足りなかったって事だろう。
もう少し捻りがあった方が緊張感はあったはず。
もっとも、まさかこちらサイドに魔王候補がいるなんて思っていなかっただろうし、そいつにあのデカいイカを食べつくされることも予想できなかっただろうから、そこは可哀想に思う。
「ファム、エリザをテレポートで迎えにいってやってくれ」
「わかったニャ!」
そう言って一瞬でファムが消える。
数十秒後、ファムに連れられて肌と表情がツヤッツヤになったエリザが戻ってきた。
よっぽどあのイカが美味しかったのか、さっきまでの我慢しきれないというような表情ではなく、単純にとても満足したらしい顔だ。
「ただいまー!大試ー、任せてくれてありがとうね!」
「堪能できたか?」
「うん!今ならパパも倒せそう!」
「そ……そうか……」
俺は、とんでもない化け物を生み出してしまったのかもしれない。
まあいいけどな。
俺が使役しているんだし。
それに、そこまで長い付き合いでもないけれど、エリザはそこまで悪逆非道な事をするような奴には思えない。
仮に魔王になったとしても、俺が頼めば人間側と話し合いの場くらいは用意してくれるだろう。
むしろ、ここからどうやってゲームのラスボスになったのかの方が不思議だ。
「エリザ、これからもよろしくな!」
「うん!」
まあ、将来に不安も多少あるけれど、可愛いから良いか。
「ファムも助かった。いつも頼りにしているぞ」
「ギャラ分の仕事はするにゃ!ギャラ以上の仕事はしないニャ!」
テレポートできるってだけで金に換えられない程の価値がある気もするけれど、ちょっと豪華なご飯食べさせてお小遣いあげてれば満足してくれているから、敢えて指摘するのはやめておこう!
「マイカとアレクシアも今回はかなり働いてもらったけど、体の調子は大丈夫そう?」
「……なんとか……もう吐ける物がないので……」
「落ち着いたら……スポーツドリンクとか欲しいです……!」
うん!相変わらず役に立つ2人だけれど、体力はもう少しつけた方が良いかもしれないな!
後で栄養ゼリーと湿布を買ってやろう。
「ソフィアさん、今回も助かりました」
「良い良い!ワシも楽しめたしのう!こうして大試に喜んでもらえるだけでもワシとしては満足じゃ!」
他のエルフ2人と違い、肌がツヤッツヤだ。
本当に堪能したらしい。
実は、ソフィアさんもあのイカ食べてたりしない?って思う程度には元気。
頼りになるお姉さんだぜ。
怒らせたらどうなるか分かったもんじゃないが……。
「よし、アイ!四国を元の位置にゆっくり降ろしてくれ!急がなくていいから、被害を最小限にするようにな!」
『畏まりました。四国を規定位置へと戻します』
アイからの通信の後、ゆっくりと空が流れ出す。
俺の視点からはわからないけれど、四国が元々あった場所へと戻っているんだろう。
フォーリンするのとは違って、結界を併用しながらゆっくり降ろすなら、貴族たちに必死に結界を張ってもらわなくても、四国自身の結界機能で何とか静かに戻せるだろうし。
そうじゃないと、自立した浮遊要塞とは呼べないと思う。
そこから時間にして約1時間ほど。
案外早いのか、それとも降りるだけでそこまでかかるなんて遅いのかは人によって評価が変わるだろうけれど、四国は海へと戻った。
少なくとも、四国の上にいる分には、激しい振動も何も無かった気がする。
ファンタジー技術すげぇなぁ……。
『犀果様、四国の規定位置への帰還完了しました』
「お疲れ。後は放置でいいから、アイもこっちへ戻って来て。後始末は俺達じゃなくてもできるだろうし、帰れそうならさっさと帰ろう」
『了解しました』
今回、俺の仲間たちはそれぞれ活躍していたけれど、アイがいなかったら四国はとんでもない事になっていただろう。
何かご褒美でもやらないとな。
何貰ったら喜ぶだろうか?
うーん……ケーキバイキングか?
女の子といえば甘い物って発想しか出てこない時点で、俺はまだまだ異性との付き合い方が分かっていないんだろうなと実感してしまうな。
まだ熊相手の方が気軽かも……。
まあ、いいさ。
とりあえず、俺たちがやるべきことは全部終わった。
あとは、安心して帰るだけだし、ゆっくりいこう。
なんてタイミングで俺が油断するのを待ってたんだろう?
お前はさ。
『……犀果様!』
「やっぱり来たか……視線誘導頼む!」
『畏まりました!』
俺は、王都に来た初日に買ったサングラスをかける。
因みにこれ、デザインに関しては女性陣全員からダサいと言われているけれど、俺は気に入っているから気にしていない。
アイによって改造を施されたこのサングラスは、グラス部分がモニターを兼ねていて、アイの支援を受けるのに便利なアイテムになっている。
これにより、ある1方向にを向くように指示が出ている。
そちらを見て、木刀を構える。
キィィィン!
木刀に硬いものが当たり、そして弾き飛ばされた。
しっかり見たわけじゃないけれど、十中八九猟銃から放たれたライフル弾だろう。
撃った奴?
1人しかいねぇだろ。
「みいいいいつけたぞ風雅ああああああ!覚悟はできてんなああああああああ!?」
前世のFPSやTPSで俺が一番嫌いだったもの。
それは、前線に全く出てこないスナイパーなんだよなぁ。
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