第194話

 何度か爆発しながら、このスーツのテストを行っている俺達。

 特に限界を見極めるには、この試技エリアは最適なようだ。

 だからって、何度も爆発するまで走らされるのは大変だけども!


『よーし!今の爆発で大体欲しいデータは取れたから、実験室から出てきていいよ!』


 ガラス窓の向こうから、まる義兄さんが呼びかけてくる。

 流石に疲れて来ていたから、さっさとスーツを脱ぎ捨て部屋の外に出た。

 今更だけど、この部屋って実験室なんて名前だったんだな?

 試験って言うか実験したんだな?

 まあいいが。


「おつかれ大試君、使い心地はどうだったかな?」

「爆発しなければいいんじゃないですかね?」

「はははは、こればっかりは仕方ない。キミの魔力は、そのまま爆発に転用したら大変なことになるくらい大量だからね。それを受けてこれだけ安定的に運用できるってだけでも頑張ってるんだよ?逆に言うと、キミが持ってるその剣たちを作った職人は、本当に神業を持っていると言わざるを得ない。欲しいねー神業!」


 まあそりゃそうだろう。

 だって作ったの神様だもん。

 お酒ですぐ酔いつぶれるけど。

 今日帰ってから時間があったらまたお参りしてくるか?


「それでだけどね、強制徴収型魔道スーツ試作型3号なんだけど、大体平均で30分くらいでオーバーヒートからの爆発が起きてるんだ。だから、起動してから30分以上連続運用するのはやめておいた方が良いだろうね。仮に爆発しても、スーツが破損した直後であれば身体強化が働いている筈だから、装着者である大試君は無事だと思うけどね」

「周りの人たちにはいい迷惑ですね」

「大試君がそのスーツを爆発させる程の運動をしないといけない状況になっている時点で、周りの人間なんて気にしていたら自分の身が危ないって状況だろうし、無視して動いた方がいいと僕は思うけどねー」


 流石魔道具開発者、考え方がシビアだ。

 このスーツもそうだけど、きっと俺が知らないだけで軍用の魔道具なんかも担当しているんだろう。

 でもそれをお出ししてこなかったって事は、俺には使えないって事なんだろうなぁ……。


「ただ、この実験室の中で規則的な動きをして30分ということは、実戦で無茶な機動を続けるともっと短時間で限界が来るかもしれない。爆発する前に機能を停止させて放熱すればまた再使用できるけどー……。あ、そう考えると水中で泳ぐのには便利かも?冷却できるし炎じゃなくて熱水になるけど推進力にもなるし!」

「水蒸気爆発とか起きないですかね?」

「……多分?」


 よし!やめておこう!


「そういえば、武器の銃はどうするんだい?そっちも何か作ろうか?」

「いえ、どういう理屈かはわからないんですけど、剣で不正を働いているって理屈で使用禁止にされたんで、下手に魔道具っぽい武器持ち込みたくないんですよね。流石に身体強化できないと厳しいからこのスーツは持ち込むつもりですけど、武器に関しては魔道具じゃない普通の市販のもので済ませようかと」

「ふーん、じゃあうちで出してる銃試してみる?」

「え?魔道具じゃない銃も作ってるんですか?」

「当然!だって僕らって、魔道具が作りたいんじゃなくて、作りたいものを作ったらたまたま魔道具だったってタイプの人間が多いからさ。魔道具じゃないものも作りたがる奴も多いんだ。僕自身もそうだしねー」


 そう言って、まる義兄さんが歩き出す。

 大人しくしていたリンゼに背中を押されて追っていくと。少し離れた所にある別の実験室へと入って行った。


「リンゼから武器が銃に指定されたって聞いて、大試君が実験している間にこの部屋には我が社の銃を集めておいたよ。とりあえず使ってみて、気に入ったのがあったら持っていくと良いよ。貴族だったら、登録手続きさえしておけば、特に許可なく銃持てるから問題ないしさ。魔術をぶっぱなされるのに比べたら銃の方が安全だしねー。しかも、登録手続きはここでもできる!」

「あー……まあそうですね」


 前世のイメージで銃なんて持って行っていいんだろうかと思ったけど、よく考えたらこの世界の日本だと、街中に剣を持ったおっさんがウロウロしている世界だった。

 貴族ともなれば、杖1本で人が殺せるんだし、銃程度大したことないのか……。

 そして、それを作って売ってる人たちなら手続きもできちゃうか。


 俺は、ズラッと並べられた銃を見ていく。

 前世のゲームに出てきた銃とほぼ同じような形状のものが多いけど、中にはどう使うのかわからないヘンテコな形の銃まである。

 銃を集めたって言うから多分銃なんだろうと思ってるだけで、他の場所で見たら多分銃とは思えない位いの奇怪なフォルムの物がパッと見ただけで5個はあるな。


「うーん……よし!とりあえずこれを試してみます!」

「それは……狙撃用のライフルだけど、本当にそれでいいのー?確かに離れて隠れながらなら撃ちやすいかもしれないけど、相手は動いてる上に今回は護衛までしなくちゃいけないんでしょ?しかも、マップは見通しのきかない森林地帯。重い狙撃銃より、アサルトライフルとかサブマシンガンの方がいいんじゃない?」

「いえいえ、スナイパーライフルが最強なので」

「よくわからないけど、拘りがあるんだね……。でも、そう言うの僕は好きだ!」

「大試もまるお兄様も真面目にやって下さい!」

「「大真面目だよ!」」

「えぇ!?」


 リンゼには理解されないようだけど、至って真面目に考えた結果この銃を選んだんだ。

 確かにロマンで選んだ面も無いとは言わないけれど、身体能力が上がった俺にとっては、このスナイパーライフルは、『遠くから狙える銃』じゃなくて『どの距離からでも狙える銃』なんだ。

 まあ流石にゼロ距離で銃の内側に入られた時のために拳銃も持っていきたいけどな。

 ナイフがあれば最高なんだけどなぁ……。

 あとは手りゅう弾……。


 ただ、俺はFPSやTPSを前世で死ぬほどやった経験があるけれど、この世界ではそんな物が存在しない文化圏で育ったし、何より実銃を使うのは初めてだ。

 ズブの素人と言ってもいい。

 作戦に関しては、ゲームの物がそのまま使えたとしても、流石に銃の技術までは難しいだろう。

 FPSは『どれだけ長く練習したか』で勝敗が分かれると俺は思っている。

 だから、これから実技試験までの間に俺がやる事は、周りへの根回しでも黒幕への裏からの攻撃でもない!


「まる義兄さん、これから試験まで毎日ここにきて練習してもいいですか?」

「練習?いいけれど……え、毎日?大丈夫なのかい?軍人でも毎日は訓練しないよ?」

「いえ、時間が無いので毎日やります。必要なら、テスト勉強しながら銃撃ちます」

「えー……いいよ!」

「いや、勉強は勉強で別にやりなさいよ!銃の練習はそれだけに集中しなさい!」

「「はい……」」

「え?今度は素直なのね……」


 銃を扱う時に他の事をしながらなんて御法度。

 そんな当然のことを、俺とまる義兄さんは改めて教えられた。

 こればっかりは、テンションで誤魔化してはいけない。


「じゃあ毎日来る前にご飯買ってきてくれるかな?」

「希望あります?どこの店で買ってこいとか」

「そうだなぁ……。明日は牛丼が食べたいな!ミノ牛のチーズめんたいマヨ牛丼特々盛りで!」

「結構食べるんですね?しかも絶妙にジャンクっぽさマシマシなチョイス……」

「多分途中で飽きるから、後からキンキンに冷めた奴をもそもそ食べるんだよ」

「まるお兄様……もう少し野菜も食べてください……」


 この義兄さん、物作りにおいては天才なんだろうけど、少なくとも食レポの才能は無いな。




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