第222話
枯れた世界樹の根本までやってきた。
これ、直径何kmあるんだ?
それすらわからないほどにデカい。
そして高い。
上の方には、大きく広がった枝がうっすら見えるけれど、そこまでですらどのくらいの距離があるのかもわからない。
大きすぎて、距離感が完全にバグってしまっている。
遠くに見える山脈とか、そのくらいの感覚の存在だ。
それに拍車をかけているのが、この世界樹の質感だな。
どういう理屈なのか、本当に石みたいになっている。
化石と表現されていたのも頷けるけど、どこからその石になる成分がやってきたら、この巨大な樹木が石になるんだ?
それ以前に、なんでこんなデカい木が成立するんだ?
栄養は?構成に必要な物質はどこから持ってきたんだ?
「見れば見るほどワケのわからん植物だな」
「石になってなくても、薪にもできないしね」
「そういや、薪にしようとしたことを神様に怒られたわ」
「世界樹を燃やそうとして神様に怒られたのなんて、世界で大試1人だと思う。やっぱり大試はすごい」
レア度が高い生物ではあるかもしれないけど、褒められたことではない気がするぞ。
「魔族の領域であるこの大陸って砂漠だらけですけれど〜、そのほぼ中央にこの世界樹は立っているんですよ〜。なので〜、世界樹が枯れたからこんな環境になっているんじゃないかって言われてますね〜」
狼耳をピクピクさせながらミリスが言う。
魔族の領域ではあまり耳にしない考古学的な事を説明してくれるその理知的な姿からは、まさかミゾオチを殴られて喜ぶ変態だとは思えない。
「世界樹は〜、大量の魔力を内包していると言い伝えられていますから〜、それ自体が環境を安定させ得る機能を持った神聖な存在として崇めている方々もいますけど……」
「魔族でも、やっぱりこんだけデカい木があると信仰しちゃうのか」
「そうですね〜。魔族は、強くて大きな物が好きですから〜」
単純明快だな……。
「逆に、世界樹のせいでこんな砂漠になってるんだったりしてな?」
「と言いますと?」
「いや、こんなデカい木に成長して、そのまま生物として生存していたら、大量の栄養や水分が必要になるだろ?それを絞り尽くしたから、残ったのはこの砂漠だけだったって考え方も出来ないか?」
「あ〜……。世界樹のせいで環境が悪化するという考えはありませんでしたね……。可能性は無くは無いかと〜」
折角世界樹の根本まで来たのに、なぜその上にあるエアーズロックへとさっさと進まないかというと、登っている間に夜になってしまうからだ。
前世のエアーズロックも、上に登るツアーは、気温や頭頂に必要な時間のせいで、早目の時間から始めないと行けないって決まりもあったって旅番組を自称するバラエティ番組で見たけど、この世界樹もそんな感じらしい。
といっても、中に入ってしまえば数時間で頂上まで登れるらしいので、登ろうと思えば登れるらしいけど、登ってからの環境がどうなっているか暗闇だとわかりにくいからなぁ。
暗い中登ってみたら、目の前にドラゴンがいるのに気が付きませんでした!ってのは避けたい。
そういうわけで、今日のところはここでキャンプをして、明日の朝早くに登頂を始めることにした。
「それにしても、この高い木を数時間で登りきるなんて、このカンガルって奴はすごい能力持ってるんだな?」
「あ、カンガルは下で待機ですね〜。高いところ苦手なんですよこの子達」
「そうなのか?じゃあどうやって登るんだ?徒歩?」
「いえ、船で登ります」
「船?どういうこと?」
「世界樹の中には〜、上へと流れる川があるんですよ〜」
なにそれ怖い。
ファンタジーだけど、理屈がわからない。
そりゃ木は中で水を毛細管現象だの何だので吸い上げてるんだろうけど、それは川じゃなくて管によって行われてるんだ。
断じて船で登るような形にはなってない。
どうなってんの?
「私も話で聞いただけなので〜、明日のお楽しみですね〜」
ミリスが楽しみにしている。
これは、相当な苦難を覚悟しなければならないな……。
「大試ー!テントってこれでいいのー!?」
「ニャーたちに仕事させて自分はくっちゃべってるとか良いご身分だにゃー!」
「ファムは昨日逆にサボってただろうが!エリザを見習え!」
「もっと褒めてー!」
「お腹がすいてたから仕方がなかったニャ!力が出なかったのにゃ!」
うちの魔族はこんな感じか。
有能だけど仕事を全然やらないのを嘆くべきか、変な趣味趣向をしていないとの嬉しく思うべきか……。
「キャンプメシ楽しみじゃなー!今夜は何じゃろ?」
「玉ねぎなら剥けますよ!お任せください!」
有能だけど仕事をしない大精霊エルフもいるからイーブンかな?
王女様は、やっと玉ねぎの構造について理解が出来た様子。
玉ねぎをアルミ箔で包んで焚き火で焼いてみようかな?
喜びそう。
「…………ダメ、やっぱりこの世界樹、もう完全に死んじゃってる。命を感じない」
「さっきからなんで世界樹を触ってるのかと思ったら、そんな事調べてたのか」
「うん。この鎧着てると、ちょっとわかりにくいから時間かかった」
スーツなかったらすぐわかるのか。
やっぱりわが開拓村屈指の植物マスター聖羅は違うな……。
聖羅も納得がいったようなので、ブーブー文句を垂れる若干名も無理やり手伝わせて夕食の準備を始める。
まだ暗くはないとはいえ、こんな場所で夜になってしまうと真っ暗だろうから、作業効率も落ちてしまう。
明るいうちに片付けまで終えてしまった方が良いだろうなという判断で、早めに作業しているわけだ。
「それにしても、本当に雨が全く降らないな。まず雲がない」
「世界樹の影じゃなかったら辛い」
「逆に世界樹の影だと、かなり涼しいですね!」
湿度が低いからか、今俺達がいる世界樹の大きな陰の中は、かなり過ごしやすい環境になっている。
太陽の力ってやっぱすげーなー……。
そんな事を空を見上げると、空に鳥が1羽飛んでいるのが見えた。
こんななにもないところを飛んでいるということは、渡り鳥なんだろうか?
呑気にそんな事を考えていると、その鳥がだんだんと大きくなってきた。
っていうか、鳥じゃなかった!
「全員警戒!」
仲間に声をかけ、降りてくる相手を睨みつける。
高いところにいる時は、翼を動かす仕草から鳥に見えていたけれど、今目の前の地面に降り立ったのは、人の体にドラゴンっぽい翼を生やした女の子だった。
顔は、すでに相当不機嫌であることがうかがえる表情。
とりあえず、ヤバそう。
「どうして、ここに人間がいる?」
不機嫌な様子を隠す素振りすらなく、その女の子はそう言った。
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