第221話
果ての無い荒野を、巨大な魔獣の背に乗り駆け抜ける。
カンガルという名の騎乗に適した魔獣で、貸してくれた魔族たち曰く、気性はおとなしいらしいけど、絶対嘘だろ!って見た目をしている。
頭はカンガルー、脚もカンガルー、体もカンガルー、尻尾もカンガルーな見た目をしているから、説明だけだとカンガルーだろ?って思うよね。
でも実際には、体の見た目の構造的にはムカデに近い。
カンガルーの頭から伸びたポケットのいっぱいある体の両サイドに、カンガルーの脚が無数に生えているんだ。
誰だこのキメェ生き物考えたデザイナーは?
心が病んでいるとしか思えない。
大体、前世のカンガルーですら割とヤバい戦闘力持ってたのに、このカンガルが安全だとは思えんのだが?
「このもこもこの袋、どうして昼間は涼しくて、夜はあったかいの?」
「もともとは子どもを育てる場所だから、温度調整は重要だったらしいニャ」
「子ども何匹育てる気だよ……ざっと見た感じ100箇所くらい育児嚢あるぞ……」
「この袋の中が快適なのは、母の愛なのですね!」
「魔族の領域だと珍しく食べ物っぽい味の生き物だから、100匹子ども産んでも大人になれるのは1匹いるかいないかなんだってー」
「ワシだけじゃろうか?1匹残らず消し飛ばしてしまいたいと思いながらガクガクブルブルしとるのは……」
1匹でも居たら100匹はいそうな見た目しやがってるくせに、割と繊細なんだな……。
「食べられるのは嫌ですね〜。すぐに死んじゃうのはちょっと……。あ、でも〜、胃液でゆっくり聖羅様に溶かされるなら〜」
このカンガルの手綱を握っているのは、ワーウルフの長の娘であるミリスだ。
頭はいいらしく、テストではいい点を取るのに、魔族の学校の夏期補習に参加させられている理由は、出席日数が足りないかららしい。
でも、趣味趣向に関しては、全く理解が出来ない。
だって、俺痛いの嫌だもん。
他の人が痛いのもできれば嫌だもん。
少なくとも、聖羅にボディーブローされて、あんな光悦の表情はできん。
「ところで、エアーズロックまであとどのくらいだ?流石に荒野が続いて飽きてきたぞ」
昨日出発して、途中夜中にキャンプを挟みながら走り続けて、すでに24時間以上経過している。
そろそろ動きがほしいなぁ……。
「目的地が見えてるのに一向に近づいてる気がしないと辛いですよね〜」
ミリスが、遠くを見つめながらそんな事を言う。
え?もうエアーズロック見えてるの?
「どれだ!?エアーズロック見たいぞ!」
「ん〜?見えてるじゃないですか〜。アレですよあれ〜」
エアーズロックとは、現地の言葉でウルルという名で呼ばれている巨大な一枚岩だ。
学校でもらう教科書や資料集などにも載っている超有名な観光スポットで、大抵の人は頭の中に思い浮かべることができるだろう。
俺だってできる。
だって割と好きだもん。
伝説とか色々絡めて言い伝えられているところが更にグッド。
欠点は、世界最大の一枚岩ってよく言われるのに、実は世界で2番目に大きな一枚岩らしいってことかな。
1番は、同じオーストラリアにあるマウント・オーガスタスとかいうイマイチ知名度が足りないやつ。
それを知ったときの衝撃はすごかった。
冥王星が惑星じゃないってわかったときくらいの衝撃だった。
でも、今俺は、その衝撃を上回る光景を目にしている。
遠くの方に霞むように見える柱のようなもの。
言われてみて初めてわかったけれど、あれは雲が風の影響でそんな形になっているとかではなく、実際にあの場所にあの形のものが存在しているらしい。
要するに、巨大な木だ。
葉っぱはないけれど、確かに木の形をしている。
そして、その上にあるとてつもなく太い枝の上には何か大きな物が乗っかっているのが見える。
これが、公園の木だとしたら、鳥の巣かな?って思うところだけれど、少なくともあの霞み方だと、まだここから数十キロはあるんじゃないかな?
それなのに見えるあの木の大きさと、それの上に見えるデカい何か。
ファンタジーっぽい雰囲気はすごいな。
「すごいなアレ!なんだ!?世界樹とかそんな感じの存在か!?」
「世界樹ですね〜。大昔に枯れちゃって、今はもう化石みたいなものみたいですけど〜」
「枯れてるのか?」
「はい〜。もう魔力も対して残っていませんので〜、世界樹らしさを伝えるのは、もう形と大きさくらいですけどね〜」
化石って……。
樹木の化石といえば、アメリカのペトリファイドフォレストだけど、ちゃんと埋まらないと成分が溶け込まないから石にはそうそうなれないと思うんだけど、世界樹はまた別なのか?
「あれ?じゃああの上に乗っかってるのはなんだ?」
「ですから〜、あの天高く持ち上げられた一枚岩が〜、エアーズロックですよ〜」
「はぁ?」
エアーズロックに何してくれてんだ?
天空の岩になってんじゃねぇか。
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