第220話

 俺は、スマホに登録された数少ない連絡先から一つ選び、電話をかける。

 突然だから、留守電にでも吹き込んでおけばいいかと思ってたんだけど、相手は1コールで出てくれた。

 ありがたいけど、暇なのかな?

 相手は、ドラゴンの血を引くけどドラゴンの姿になれない系女子、みるく先輩だ。


『ももももももしもし!?』

「あ、みるく先輩?ちょっと聞きたいことがあったんですけど、今大丈夫ですか?」

『いいいいいいいまか!?お風呂中なんだ!召喚は待ってくれ!心の準備が!』

「聞きたいことがあるだけなんで大丈夫です。入浴中にすみませんね」

『本当だぞ!どうしてこのタイミングでかけてきたんだ!?まさか、こちらの光景がみえて……!?』

「見えてないです。安心してください」

『そ……そうか?ならいいが……』


 前回召喚したとき、確かに全裸で呼び出してしまったけれど、別に俺はみるく先輩にエッチなことをしたいわけでは……無いよ?


『では、何が聞きたいんだ?エッチなことは答えないぞ?』

「……エッチなこと?それって具体的にはどんなことですか?」

『な!?貴様!やはり私にそういうことを言わせようと!?』


 話が進まなかったので、10分ほどスキップする。

 楽しかったけど。


『つまり、ドラゴンを懐柔する方法が知りたいのだな?』

「そういうことです。何か無いですかね?」

『ふむ……あるぞ』

「あるんですか!?」

『酒だ』

「あ、やっぱりですか?」

『討伐なら聖剣や魔術武器なんだろうが、懐柔なら酒だろうな。ドラゴンの血が薄い私ですら、チョコレートボンボンが好物なくらいだぞ』


 日本の法律だと、年齢で規制されているアルコールが『飲料』って規定されてるから、お菓子のチョコレートボンボンだったら未成年でも大丈夫なんだっけ?

 俺は美味しいと思えなかったから興味ないけどなぁ。

 サクサク音がなるタイプのパフとかウエハースが入ったチョコのほうが好き。


「どんな酒がいいと思います?甘いやつとか辛いやつとか」

『デロデロに甘い奴がいいんじゃないか?私は最近デロデロに甘い物が好きだ』

「じゃあ今度プリンでも持っていきますよ。酒粕入りの」

『本当か!?頼む!』


 委員長に頼めばなんとかなるだろ。

 代わりに委員長にも何か持って帰るかな?

 カレーでいいかな?王風の。



 さて、結局酒で攻めるのが一番なようだ。

 使わずに済むならそれでいいけれど、やっぱり切り札として用意しておくべきだろう。

 どんなのがいいかな?

 デロデロに甘い酒……デロデロ……。


 確か、シェリー酒とかいうのがクソ甘い酒だった気がする。

 別に甘い酒を調べたかったわけじゃないんだけど、シェリーって響きから検索でヒットしたんだった気がする。

 干したぶどうで作ったワインだっけ?

 飲んだことがないから基準がわからないけど、甘いと敢えて言われる酒ということは相当甘いんだろう。

 でも、それだけじゃダメだ!

 アルコール度数も高くしておかないと、ドラゴンを酔い潰す武器とはならない!

 流石にスピリタスとかいう消毒用アルコールより度数の高い酒程は無理でも、日本酒や焼酎、ウイスキーは超えていきたいな。

 最初から度数の高い酒を作るか、蒸留するか、悩みどころだな……。


「聖羅、どうするのがいいと思う?」

「蒸留でいいと思う。悪酔いしやすくできるし」

「聖女のセリフとしてそれはどうなんだろう?」

「今の私は、発酵使いのセイラだから」


 今、魔族の領域は、聖羅が作り出す発酵製品に支配されつつある。

 野菜も家畜も、その生産の土台にあるのは発酵だ。

 作物も牧草も、聖女パワーによって作られるところから始まっているわけだし、それらによって作られた成果物も、更に発酵食品へと進化する場合もある。

 それを、聖羅の力無しで量産する方法を生み出している最中なんだけど、どこまでいったとしても魔族的には、聖羅が作り出した何かという印象が強いらしく、今や大抵の魔族が聖羅の名前を知っている程だ。

 着実に魔王へと上り詰めていっているようにも見えるけど、まあ大丈夫だろう。

 成功するにしてもしないにしても、ヤバそうなら帰らせてもらえばいいし……。


 なんて考えながら、酒のアイディアを考えていると、ワーウルフの長のマイルスさんが話しかけてきた。


「大試くん、今魔王様から指示があってね。大試くんたちだけドラゴンの集落までいかせるわけにもいかないということで、家の娘も護衛につかせることになったよ。あの子はあれでも戦闘力ならワーウルフ1強いから、足手まといにはならないと思う。連れて行ってやってくれ」

「……攻撃全部受けようとか考えてそうで怖いんですが……?」

「うちの娘は確かに絶望的なまでのドMだけど、相手は選ぶらしいんだ。自分の認めた相手によるダメージじゃないと気持ちよくないらしい。だから、旅のお供としてなら悪くないと思うよ」

「すごい娘さんですね」

「ははは……本当にね……」


 マイルスさんの目が死んでいる。

 苦労しているんだろうな。


 ドラゴンの集落と目される場所へ出発するまで3日ほどだろうか?

 その間に、唸るほどの酒を作っておかないとなぁ……。


「聖羅、頼んだ」

「頼まれた」


 はい!聖羅様に丸投げでっす!

 いつの間にかすでに大量に聖羅が用意していたブドウとモモでも作って、学校のプールくらいの量の酒を作って、とうとう出発の日を迎えたのだった。

 目指す場所は、前世の世界にもあった観光名所、エアーズ・ロックだ!



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