第223話
「人間、我らドラゴン族の住まう地に何の用だ?返答次第では、ここで消えてもらう」
空から舞い降りてきた有翼の少女が、侮蔑と怒りと憎しみの篭った、非常に敵対的な視線を向けてくる。
髪は燃えるように赤く肩で切り揃えられ、瞳はコバルトブルーで、瞳孔は爬虫類のように縦長。
肌は白く、纏う服は、軍服とパーティードレスを足して2で割ったようなデザイン。
背中のドラゴンっぽい翼を除けば、どちらかというと人間っぽい見た目をしている娘だ。
そもそも、なんでこの娘は、俺達が人間だとわかったんだろう?
ファムや魔王様曰く、俺達を人間だと判断できる存在は、魔族の領域全体でもそうは居ないらしい。
エリザみたいに、大量の魔力とセンスを兼ね備えた存在であれば、纏う魔力の質などから判断できることもあるそうだけど、それはあくまでかなりの例外。
人間の領域へとよくやってきていたファムみたいに、人間自体をよく見ていたりするとそこまで見分けるのは難しくないらしいけど、魔族の領域で暮らす普通の魔族にとって、目の前に俺達が現れても、「珍しい魔族だな?」としか思わないらしい。
聖羅みたいに、やべーパワーが漏れ出ている存在は別だけど。
「……え〜?大試さんがニンゲンなんですか〜?」
ミリスが、狼耳をピンと立ててこちらに聞いてくる。
そこそこ驚いているようだ。
こういう反応が、普通の魔族らしい。
「実はそうなんだ。すごいだろ?」
「初めて見ました〜!流石聖羅様の婚約者ですね〜。ニンゲンなんてレアな生物を射止める聖羅様リスペクトです〜!」
その聖羅もニンゲンなんだが?
「いいから答えろ!時間稼ぎでもしているつもりか!?」
どうやら、自称ドラゴン娘は、俺達のノリに付き合うつもりはないらしい。
カルシウムが足りてないな。
カルシウムが足りているとどうなるのか知らんが。
「こちらの目的を聞く前に、自己紹介くらいするべきだと思う。私達は、まだ世界樹の麓に来ただけ。これの上がドラゴンたちの住処だって言うなら、まだ私達は貴方達にとやかく言われる筋合いはない。もし何かこちらが失礼を働いたと言うなら、その説明からしてほしい。逆に、ただそっちが礼を欠いているだけで、この後もそれを改める気がないと言うなら、拳で語り合うことになると思って」
黒聖の聖骸に身を包んだ聖羅が、最前面に立ってそう返答する。
その毅然とした態度に、流石にドラゴン娘の勢いも削がれたようだ。
そりゃいきなり現れて、「お前らどこ中よ!」って聞いてくる奴が居たら、「ウッセーカス!」と答えるのがマナーだろうからな。
「いいだろう……。余が、このドラゴンの地を滑る長!ルージュだ!」
自称ドラゴンの娘から、自称ドラゴンの長の娘にランクアップしました。
「……えーと、魔族全体で畑を作ったり、意思決定機關とか、会議とか、そういうのを作ろうぜって相談に来た使節団です。俺は、犀果大試。そっちの全身鎧着ているのが」
「私の名前は聖羅。大試の婚約者」
聖羅が、かっこよく腕を組みながら言い放つ。
その威圧感は、一軍を率いる将の如し。
まあ、その率いられている奴らは、野菜作ったり畜産や水産に精を出しているだけだけど。
「魔族全体で、だと?しかも、その話を人間が我らに持ってくる?冗談も大概にせよ!」
どうやら、お気に召さなかったご様子。
それにしても、やっぱり……。
「どうして俺達が人間だってわかったんだ?魔族の領域に来てから、指摘されたこと一度もなかったんだけど?」
「知れたこと!そのような下賤な臭いをさせているのは、人間しかいない!」
「臭い?」
臭かったか?
キャンプのたびに、神剣を駆使して露天風呂を作ってさっぱりしている俺達が?
いや、体臭は意外と自分では気がつけないものだから、そこはなかなか否定もできないんだけどさ。
体じゃなくて、服が臭っているって可能性もあるし……。
だから、相手への侮辱でこれほど効率的な物もなかなかないんだよな。
尊厳を手軽に傷つけられる。
ただし、それは同時に戦争開始の合図でもあるので、リアルで体臭について話題にする時は気をつけるように!
「でも、その下賤な人間の臭いとやらだって、実際に人間の臭いがわかってないと判断できないだろ?ルージュさんは、人間の臭いを知っているのか?」
「っ!?」
俺の問いに、聖羅に反論されたときよりも動揺しているルージュさん。
なに?
なんかまずい質問だった?
単純に気になったから聞いてみただけだったんだけど……?
「な……なんでもいい!人間などという卑怯で卑劣で、下卑た存在と話す口は持たん!その魔族全体のなんとやらも、ドラゴン族が参加することなど有り得ない!群れて喜ぶ者になど用はない!早々に立ち去れ!でなければ……!」
キレて喚くように最後通告を繰り出すルージュ。
言い終わると同時に、ルージュの周りに炎が巻き起こり、それがいくつもの火球へと変じる。
この砂漠にあって更に熱さを感じさせる熱量に冷や汗がでてしまう。
ので!
「はい消火」
「な!?」
村雨丸で水を生成して火球を全て消してしまう。
熱量がどれだけすごくたって、それを上回る量の水を魔力で火球内部に火が消えるまで生み出してしまえばいいんだ。
まあ、本当の水だったら、ある程度以上の温度の火にかけると、逆に化学反応で火力を助長しちゃうらしいけど、少なくとも魔力で生み出した水でならなんとかなったようだ。
爆発でもするなら、それならそれで!と思ってたけど、無難に解決できてよかった。
村雨丸の水を生成する能力はあまり高くないから、魔力どか食いしちゃったけどさ……。
「余の炎を消すだと!?貴様一体……!?」
「落ち着いて話をきいてくれるなら、自己紹介くらい幾らでもするけど?」
「くっ……!まだだ!私には炎だけじゃなく、雷の適性も!」
バチバチと紫の雷光を纏い始めるルージュ。
その一貫された姿勢には、逆に感心してしまう。
どうしたもんかなぁ?
やっぱり力づくでねじ伏せてから……?
できればそれは交渉を持ってきた立場からすると遠慮したいんだけどな!
「何をしているのですかこのバカ娘ええええええ!!!」
手に雷切を持ち、反撃の準備をしていた俺の耳に、女性の怒鳴り声と、高速で飛ぶ風切り音が聞こえてくる。
場所は……上か!?
反射的に見上げると、ドラゴンといえばコレ!ってデザインのドラゴンが高速落下してきて、その落下地点は……。
「え!?お母様!?キャアアアアアアア!?」
ルージュの真上だった。
轟音とともに、辺りに砂煙が上がる。
何だ?何が起こった?ドラゴンが、ドラゴンの長を自称する女の子に落ちていって、それは女の子のお母さん!?
混乱しつつも、いつ砂煙の向こうからドラゴンが突っ込んできても良いように集中していたけれど、一向に攻撃がくる気配がない。
そして、辺りに舞い上がった砂埃が収まってきた。
先ほどルージュが立っていた場所には、気絶しているらしいルージュと、ルージュによく似ているけれど、30代後半くらいに見える女性が立っていた。
翼も無ければ鱗もない。
状況的に、この方が先程のドラゴン何だと思うんだけど、完璧に人間の姿になっているようにみえる。
「ようこそおいでくださいました、ニンゲンの皆様。そして、我が娘、ドラゴン族の長”代理”のルージュが大変な失礼をした様子。煮るなり焼くなり、情婦にするなり、どうぞお好きになさってください」
そう言って、頭を下げてきた。
流石に情婦にはしないよ?
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