第294話

 結界の外は、光と熱と風の地獄と化している。

 ガンマ線バースト(仮)と聖剣ビームがぶつかったことによって大爆発が起こったらしい。

 すごい威力だけれど、多分これでも相手にはそこまでダメージも入っていないだろう。


「……大体、1分ってところか?」

「みたいね。通常のシモフリドラゴンのチャージ攻撃は、5分間隔のはずなんだけれど、ちょっとやりすぎちゃったわ」

「ちゃったわ、じゃないんだよなぁ……」


 ここまでのシモドラの行動から推測するに、あのなんちゃらの絶滅というのは、1分間隔で撃ってきているようだ。

 もし、俺の推測通り大量絶滅がモデルだとしたら、第五の絶滅で最後だ。

 具体的に言えば、恐竜が絶滅したイベントが今のところ確認されている5回目の大量絶滅だ。

 そして、その恐竜を絶滅させた原因として、現在最も有力視されているのが巨大隕石の衝突だ。

 そんなもんが再現されたとしたら、どう耐えれば良いんだろうか?

 隕石を遠距離攻撃でぶち壊す?

 吹き飛ばそうとした所で、空中で大爆発でもされたら?

 それ以前に、隕石を打ち壊すだけの遠距離攻撃を実現できるのか?

 じゃあ逆に、隕石が衝突した場合に耐えられる結界や魔術障壁が張れるかどうか……。

 マイナスなことを考えだしたらきりがない。


 だから、何とか第五の絶滅を発動される前に倒しにかかろう。


 初手で、思っていたよりもかなり強力な攻撃を受けてしまったせいで、そこから防戦一方だったけれど、事ここに至っては、多少無理してでも攻めに転じなければならない。

 そして、無理をするとしたら、それは他のメンバーではなく、俺であるべきだと思う。


「俺が突っ込む!皆は、聖羅の結界の中から援護……いや、俺のことを無視していいから、最大火力で攻撃をブチ込みまくってくれ!」

「は!?アンタそれどんだけ危険か」

「その言葉を待っておったぞ大試!ダークランス無限連射!」

「もう一回エクスカリバーああああ!」

「大試、継続して遠隔ヒールかけ続けるから、脳みそだけは残して戦ってね」

「アイシリーズと合わせて、周りからバコバコ攻撃します」

「うおおお!待っていてくれ!お姉ちゃんがドラゴン肉を持って帰るからなああああ!」


 仲間たちからの高火力攻撃が辺りに降り注ぐ。

 うん、これは、皆から俺への信頼の証だろう。

 決して、「コイツは多少吹き飛ばした所で死なないだろ」っていう投げやりな感じで考えられているわけではないと思いたい。


「これは!?なるほど素晴らしい!流石は人間です!私は、あなた達と全力で戦えていることを誇りに思います!」


 そこそこダメージが入っているようには見えるけれど、未だに余裕たっぷりなのか、それとも別の何かなのかはわからんが、楽しそうに喋っているシモドラ。


「楽しんでいる間に肉になれ!」


 誰かの攻撃が直撃し、体勢を少し崩したシモドラ。

 そこに畳み掛けるように剣で斬りかかる。


「これなら避けられ……伸びた!?」

「悪いな!こっちもへんてこ攻撃なら得意なんだ!」

「面白い!実に面白い!剣とは伸びるものだったのですね!」


 伸びないものだと思うよ普通は。


 カラドボルグで切りつけた事により、何箇所か深く切り傷を与えられたのを確認した。

 更に、その部分に仲間の攻撃も当たることで、どんどん傷が深くなっていく。

 シモドラはシモドラで、その強靭ででかい体を器用にくねらせながら、攻撃の雨の中を駆け抜ける。

 追いかける俺も攻撃の余波に晒されてとても痛い。


 それでも更に一撃を!と剣を振り上げた瞬間、次のボス技が発動した。


『第四の絶滅』


 その言葉と同時に、地面が弾けた。


「これは……噴火か!」


 地球全土へ影響を出した巨大噴火による大絶滅を再現しているらしいこの攻撃。

 継続してヒールをかけてもらえていなかったら、絶対にその中でステップを踏んだりしたくないな。


「楽しいですね人間さん!これがダンスですか!?」

「こんなのが楽しいダンスだとしたら、それを体験できる人類はそうそう存在しないわ!」

「ははは!でしょうね!しかし、私が誰かとダンスをするなんて、今後まずないのですから、こんなのでも大切なダンスなんですよ!」


 なんだか可愛そうな気もするけれど、大抵の人間にとって、ダンスなんてそんな楽しいもんじゃねぇよ!

 特に前世の俺みたいに、ボッチの人間にとって、学園祭のダンスの時間は地獄だったわ!


 そんな昏い思い出を刃に載せるようにして攻撃をぶつけていく。

 だが、どれだけ切り刻んでも、シモドラが死ぬ気配がない。


 そうこうしているうちに、第五の絶滅が発動するタイムリミットが近づく。

 恐らく巨大隕石の落下であろうそれは、絶対に防ぎたい。

 ……一応、奥の手も有るにはある。

 今まで使ったこと無いし、できれば使いたくないけれど、いよいよとなれば……。


 なんて思ってると、結局使うことになるのが奥の手なんだよなぁ……。


 俺達は、全力で攻撃をぶち込みまくっていた。

 だが、倒すには至らなかったらしい。

 シモドラが、天へ向けて顔を上げる。

 そして……。


『第五の』

「俺の魔力を喰らい尽くせ!天之尾羽張!!」


 神殺しすら可能な、けれど使い難すぎる剣が輝く。

 効果は、俺の全魔力を消費して、攻撃対象を確実に殺すこと。

 俺の中の大量の何かがごっそりなくなり、代わりに天之尾羽張の禍々しさが膨らんで、シモドラを襲った。

 なぜそうなるのかはわからないけれど、大量の煙が発生して、シモドラの姿が見えなくなる。


 全魔力を消費するということは、俺が今装備している神剣たちのバフも、一時的にでは有るが切れるわけで……。

 貸与している剣は大丈夫だろうけれど、俺は丸裸だ。

 正直、神剣のバフ無しでは、俺はそこらの一般人よりちょっと体を鍛えている程度の存在でしか無いので、とても怖い。

 それどころか、現在力が全く入らないので、地面に倒れ伏しているところだ。

 何か柔らかいものが下に有る気がするけれど、こんなに地面が緩い場所があっただろうか?

 間隔までバグったか?


 かといって、数に限りが有る木刀をここで使うのもなぁ……。

 天之尾羽張を使うかどうか最後まで悩んだせいで、第五の絶滅が発動したのかどうかわからなかったけれど、確実に倒してはいるはずなんだが、確認するまでは安心できない。

 といっても、木刀はもったいないし……。


「……あぁ、これが、死、ですか……」


 俺がグダグダ悩んでいると、すぐ近く……というより、俺の下から声が聞こえた。

 声の感じからすると、女の子みたいだけれど、効いたことのない声だ。

 なんでそんな声が?


「え?誰だお前!?」


 ようやく煙が晴れて見えてきた。

 俺の下の柔らかいものは、やっぱり見たこともない女の子だったらしい。

 傷だらけで、顔は美人だけれど、口が少し大きくて、歯がキザキザ。おまけに太い尻尾が生えている。あと、全裸。


「……おや?もう一度自己紹介が……あーいえ、姿が変わっているんでしたね……。シモフリドラゴンです……」

「は?」


 シモフリドラゴンを名乗るその女の子は、弱々しく笑っている。

 それも、心底楽しそうに。


「最後の絶滅は……より高位の生物への進化なのですよ……それがこの姿で……」

「隕石とかじゃないのか?」

「私にも……使用するまで効果はわかりませんでした……だから楽しい……」


 だけど、彼女はすでに確実な死へ向かっている。

 その証拠に、体の末端からどんどん粒子に還元されている。


「私の負けです……どうぞ……ドラゴン肉を食べてください……私のっお肉です……!」

「食べづらくなること言うなよ……」

「だって……自分を殺した人に食べられるのは……この場に存在する魔物にとって……最大の栄誉……で……」


 それ以上の言葉は聞き取れなかった。

 彼女がいた場所には、大量のドラゴン肉が落ちている。

 つまり、俺は今ドラゴン肉の上に寝ている状態だ。

 ネチョネチョする……。


「大試、大丈夫?」

「まあ何とか……魔力なくて動けんが」

「木刀使わないの?」

「もったいないだろ?」

「じゃあ、今なら大試になんでもしほうだい?」

「やっぱり使おうかな……」

「ごめん冗談」


 顔が冗談の表情じゃなかったぞ聖羅。


「ねぇアンタ、気がついてる?」


 聖羅の後ろから、リンゼが顔を出す。


「何をだ?」

「アンタの工具ホルダー、シモフリドラゴンにぶっ壊されてたみたいよ。多分そのせいで……ほらこれ」


 そう言ってリンゼが差し出してきたのは、見慣れたガチャのカプセルだ。

 ……神剣が出てくるやつ。


「なんで?」

「壊されたときに、ガチャチケが破かれたんじゃない?それで、出てきちゃったんでしょ」

「そんなんありか……」

「どうする?開ける?」

「まあ……開けないわけにも行かないか……いま力入らないから、代わりに頼む」

「はいはい、っと。なにこれ?骨で出来た剣?」


 リンゼが開けたカプセルからは、確かに骨で構成された物が出てきた。

 剣と言って良いのかどうかもよくわからないけれど、一応研いで刃みたいなものは出来ている。

 鑑定してみると……。


 ダイナソード(SR):恐竜を1種類だけ召喚し使役できる!装備時に身体能力を50%増加!


「恐竜を召喚できるって……クラー剣以来のダジャレシリーズだな……」

「ハズレね」

「当たりだろ……」


 やっぱりコイツ、恐竜に何の興味もないな。


「恐竜って美味いんかのう?」

「アニメで見ました。焼くと美味しいらしいです」

「本当ですか!?エクスカリバー熱くします!?」

「神剣を鉄板扱いすんなよ……」


 まあでも、俺も何が召喚されるのか興味ある。

 ティラノかな?

 トリケラかな?

 ラプトルかな?

 指を動かす程度にしかまだ回復していないけど、すぐにでも使いたい!


「出てこい、恐竜……!」


 そして出てきたのは、顔は美人だけれど、口が少し大きくて、歯がキザキザ。おまけに太い尻尾が生えている。あと、全裸の女の子だった。


「おや?おやおや?」

「やっぱドラゴンじゃなくて恐竜じゃねーか……」


 疲れ果てた俺の意識は、そこで途切れた。

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