第293話
『第一の絶滅』
戦闘開始と同時に、シモドラが魔術のようなものを発動する。
長々とした詠唱なんてものは存在しない。
ただ、発動したという事実があるだけのそれ。
詠唱を妨害するとか、チャージを止めるなんて隙はなかった。
一瞬、全ての音が消え去ったような、奇妙な静寂が辺りを包む。
直後、まつ毛が凍りつく。
「倶利伽羅!!!」
それは、勘と条件反射によって行われた行動だった。
自分を含めた味方の周りを超高温の空気の層で覆う。
「何よこれ!?アタシ、こんな攻撃設定してないわよ!?」
創造神的にありえない事態が起きているらしいけれど、それどころではないので無視。
一瞬にして、自分の作り出した直径10m程の領域を除き、シモドラから100m程の範囲が全て真っ白に凍りついているんだから、リンゼも俺の反応に文句は言わないだろう。
にしても、馬鹿げた効果範囲と威力だな。
それをノータイムでぶち込んでくるなんて質が悪い。
これ、何か調整間違ってない?
本当にネトゲのイベントでこんなボス出したの?
お気持ち表明されまくってメールサーバーダウンしないか?
「あ!思い出した!これ、運営が調整ミスって即修正入った時のを参考にしているんだったわ!1%くらいの確率でしか発生しないレアボスとしてお遊びで作ったやつだった気がする!人間にされたせいで、よく覚えてないけれど!」
「おい女神!もうちょっとユーザーに優しい世界作ってくれよ!」
「実際に自分が人間になることでわかる事があるってのを学んだわね!次は上手くやるわ!」
次の話は、今は聞いている余裕ないんだ。
「ほう!これを防ぎますか!ではこれは!?」
シモフリドラゴンがその場で地面と水平に回転する。
たったそれだけの動作で、長く太い尻尾が、音速にも達そうかという速度で辺りを薙ぎ払う。
俺の力でも、真正面から受け止めれば、確実にふっとばされる破壊力だ。
「おらあああああああ!」
恥も外聞もなく、気合を込めて木刀を振るう。
と言っても、尻尾を止めるためではなく、角度を逸らすように滑らかにだ。
跳ね上げた尻尾が、俺達の頭上ギリギリを通過していく。
タイミングを1つ間違っていたら、今ので全員ふっ飛ばされていたかもしれないな……。
『第二の絶滅』
再び、何かの魔術がまた発動した。
名前から効果がわからないのが怖い。
(絶滅ってなんだよ!変な技名考えやがって!)
今はもうどうやっても会うことのできないゲームクリエイターたちに、悪態をつくくらいしかできないけれど、それでも怒鳴りつけてやりたかった。
奴ら、一体何を参考にしてこんな技を作りやがったんだ?
ドラゴンと言いつつ、完全にティラノサウルス・レックス出してきてるんだから、恐竜関係なのか?
……ん?恐竜関係で、絶滅?
それって……。
「大量絶滅か!?」
もし大量絶滅を参考にした技だとしたら、それこそ途方もない威力になるのは当然だ。
だけど、どう考えてもドラゴンではないな。
やっぱり恐竜……。
大量絶滅は、地球の歴史だと5回はあったって言われている。
まあ、その内容に関しては、諸説がありすぎてなんとも言えないけれど……。
とはいえ、大量絶滅をモデルにしていると言うなら、その効果も想像がつくかもしれない。
リンゼも言ってたやつだ。
隕石か……それとも噴火か……?
だが、そんなド派手な攻撃が来る気配はない。
思い出せ俺!
隕石や噴火がメインじゃない絶滅方法の説を!
なんだっけ……なんだっけかなぁ……。
……あ、そういやあったなこんな大量絶滅も。
「聖羅!全員を守る結界を頼む!気体も通さないやつで!」
「わかった」
聖女の力によって、堅牢な結界が俺達を包む。
「これ、何が起きてるの?」
「今、外の大気から酸素が失われている可能性が高い!」
酸素というのは、実は人間にとって毒でもあるんだ。
酸素濃度が高くなるだけで、人は簡単に死んでしまうんだから。
そして、酸素というものがこの地球上で大量に生成されるまでに発生していた生物にとっては、特に猛毒となるだろう。
逆に、空気中に酸素があるのが当たり前の人生を歩んできた生物たちにとっては、酸素が無くなることは死を意味する。
そして、前世では、水中に酸素が無くなったことで起きたと言われている大量絶滅もある。
派手な演出がないのであれば、派手じゃないけれど、当たれば確実に死ぬような一撃が飛んでくるのを覚悟しなければならない。
「これも防がれますか!ではこれなら!」
『第三の絶滅』
シモフリドラゴンがその発言をした瞬間、3回目のボス専用技が発動した。
シモフリドラゴンの口の中にエネルギーが収束していくエフェクトが見える。
これは……本来のとは違うかもしれないけれど、ゲーム的に見栄えがするとしたら……。
「大絶滅といえば……ガンマ線バーストでも来るのか!?」
「ガンマ線バーストだけじゃ自然の凄さを判りにくいでしょ?だから、視覚的にもわかりやすくしてやったわ!」
隣で騒ぐ創造神。
でも、シモドラの口から放たれたのは、ガンマ線バーストというより、最早ビームだった。
「させません!」
咄嗟の判断で、有栖がビームの射線に立った。
「エクスカリバーああああああ!!!!」
目を焼く光と光が、あたりを包んだ。
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