第292話

「私は、何故生まれたのでしょうか?」

「哲学的だな」


 ティラノサ……シモフリドラゴンとのファーストコンタクトを行っております大試です。


 あの大きくて硬い口で、どうやって人語を発声しているのかわからないけれど、とにかく普通に会話が出来ている。

 そして、最初の質問がこれだったんだ。


「いえ、私の中の意思と言いますか……そう!本能!本能には、人間に会ったら戦え、殺せと刻まれているのです。何も考えず、それに従っても良かったのですが……」


 シモドラさんが、顔を伏せる。

 そして、頭を振る。


「私は、考えてしまったのです。何故、私は人と戦わなければならないのだろう?別に戦うのは良い。だが、理由を知りたい、と。貴方たちと戦う事に忌諱感は無いのですが、知識欲というのでしょうか?ただただ知りたいのです。わざわざ戦わせるだけに私を成立させる理由はなんなのかと。私という存在を作り出せるほどの者であれば、人間を殺すことなど容易いはず。逆に、私を倒した際に出てくる賞品を与えたいのであれば、回りくどい事をせずに与えてしまえばいい。にも拘らず、私という存在がこの場所に成立してしまっているこの状況が、私にはよくわからないのです」


 ゲームのボスキャラだからだよ。

 って言っても意味がわからんかもだし、メタ的な発言はどうなんだろう……。

 相手の方がメタ的な発言しているような気もするけれど。


「なぁリンゼ、こいつってこんなキャラなのか?」

「いえ……もっとこう……『おで、おまえ、くう』的な話し方にしたはずなんだけど……」

「あ、今のモノマネ面白かった」

「ありがとう、全く嬉しくないわ」


 創造神的にもイレギュラーらしい。


「えーとだな、これから話すのは、あくまで俺の想像だぞ?」

「はい、それで構いません。どうせこれからどちらかは滅ぶのです。その前の余興とでも思って頂ければ幸いかと」

「ティラノっぽくねぇ……」


 戦い辛いな……。


「お前は、ここでお前に挑戦しに来る者たちを成長させるための存在なんだよ。お前という壁にぶち当たって、それでも勝って生き残った者には報酬を与える。それが、お前を作り出した奴の目的だ。別に人間が憎いとか、逆にお前が憎いって訳じゃ無くてな。まあ、そんな理由で作られたお前からしたら、理不尽に聞こえるかもしれないけれどさ……」

「いえいえ、大丈夫ですよ。成程、私を一個の生命体ではなく、他の生命体を成長させるための存在として作り出したと。人間を最初から成長させるような事をせず、わざわざ戦闘という行為を行わせて成長させるという行為に意味があるのですね。ふむふむ。そして私には、その成長の余地は用意されていないと。成長する事を考慮された設計はされていないという事ですか。それ即ち、私自身を生物として創造したわけではないのですね。大変興味深いお話でした」

「お、おう……」


 物分かりが良いな……。

 顔、滅茶苦茶怖いけれど……。


「いいのか?さっきも言ったけれど、本当に理不尽な理由でお前は倒されるかもしれないんだぞ?」

「構いません。そもそも、自然界とは理不尽な物です。生まれたばかりの私が言うのもなんですが、自分の死に納得して死ぬ者などそう多くはいないでしょう。そう考えると、これからもし仮に私が貴方たちに倒されたとしても、理由に納得して滅ぶ私は、比較的幸せな部類の存在なのではないでしょうか?」

「お前を作った相手に文句とか無いのか?」

「ありません。どんな理由であろうと、作ってもらわなければ、私はこうして成立すらしなかったのですから。そして、生まれた以上は、自分の存在理由を全うするのみです」

「そうか……」


 やっぱり戦うしかないのか……。

 俺が今まで戦ってきた相手の中で、トップクラスに理性的に話し合いができている相手なんだけどなぁ……。

 そして、隣のリンゼはといえば、物凄く申し訳なさそうな顔をしている。

 目が魚の如く泳ぎっぱなしだ。


「ありがとうございました。音響定位で貴方たちを見つけた時、もし会話ができたら嬉しいと思って話しかけてみたのですが、どうやら正解だったようです。最悪、会話も無く攻撃されることも覚悟していましたから」

「そうか、それは良かった。お役に立てたようで嬉しいよ」

「しかし、誠に残念ではありますが、私は貴方たちを殺さないといけません」

「俺たちとしても殺されるわけには行かないし、お前を倒してドラゴン肉を手に入れたいんだ」

「ドラゴン肉!私という存在が居たという証拠が、この世界に残されるのですね!あぁ……化石として痕跡が残った恐竜たちと同じように、私も世界に影響を与えて逝けるのであれば、これ程嬉しい事はありません!」

「悪い、その感情は理解できない。俺は、どんな理由が有ろうと生き残りたいタイプなんでね」

「構いません構いません。成立した理由が違うのです。考えも当然違うでしょう。ならば、この後に行う事は一つです」

「……ああ」


 シモフリドラゴンの体から、赤黒いオーラのようなものが漏れ出す。

 これが、本来のヤツの演出なんだろうか?

 それに応じて、俺達も戦闘態勢になる。

 奇襲からの全力攻撃という当初の作戦は崩れ去ったけれど、それでも最終目標は変わらない。


「おで!おまえ!くう!」

「食うのは俺達だ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る