第295話

「大試、栗きんとん食べる?」

「あ、うん……」


 聖羅が、立食形式のテーブルから、色々と料理を持ってきてくれる。

 どれもこれも、今日あのトンチキイベントで手に入れた食材が使われているため、とてつもなく美味しい。

 それは間違いないんだけども……。


「何よ?浮かない顔しちゃって」

「お口に合いませんでしたか?私もお料理を頑張ってみたのですが……」

「いや、美味しいよ。ソレについては何の問題もないんだ」


 リンゼと有栖も、自分たちで作ったものを中心に持ってきてくれている。

 どれもこれも美味しい。

 作ってくれたのが彼女たちであるというだけでも、それはもう天にも昇る気分と言えるだろう。

 問題はだ……。


「美味いのうドラゴン肉!これはもうビールじゃろ!?」

「日本酒も悪くないと思うにゃ」

「うーん……ここはおしゃれにシャンパンとでも言いたいところですが……焼酎お湯割りのチープな感じも捨てがたいです!」

「エルフ的にソレはどうなんじゃ?」

「ビールだって、エルフに幻想持ってる人からしたら卒倒モノですよ?」

「違いないのう!ワハハ!」

「ハイボールも悪くないと思うニャ」

「フフ、プロテインも混ぜてあげよう」

「舐めたことすると次元の狭間にぶち込むニャ」

「見せて!次元の狭間見せて!絵に描かせて!」


 いや違う。

 あの一角はあんまり関係ない。

 ただ酔っぱらいたちが集まってるだけだ。

 美女率が天元突破しているが。


「あんなー?これなー?めっちゃうまい!」

「そうかそうか!私が採ってきたやつだぞ!」

「すごいなー!」

「はははははは!」


 あっちもあんまり関係ない。

 ドラゴンの血を引く姉妹、特に姉のほうがエクスタシーに至っているだけだ。

 無害。


「こういうのが有るから聖羅様の護衛はやめられない!」

「あぁ……教会のジジイたちから離反してよかったぁ……!」

「一生ついていきます聖羅様!」


 あっちは……まあ、うん……。

 聖騎士のお姉さん方が、涙を流しながらガツガツ食べているだけだ。

 そっとしておこう。


「これを使って拷問すれば人の子らも……」

「駄目です」

「……絶対か?」

「ダメ」

「そうか……」


 黒翼天使と聖戦士様も関係ない。

 あの天使は無害ではないけれど、ヒロイン様がいればなんとかなるだろう。

 丸投げだ。


「これ、パパからの差し入れ!ドラゴンカレーだって!」

「魔王カレーの新作ですか?妖精たちも喜びそうですね……」

「妖精たちが喜んでもろくなことにならないのではないか?」

「最悪このあたりが吹き飛びます」

「思ったよりろくでもなかったぞ……」


 あの辺りも問題はない。

 魔王候補と、ドラゴン族族長の娘と、妖精姫が仲良くしているだけだ。

 全員ラスボスクラスのスペック持ってそうだけれど、とりあえず敵対していないから……。


「へー!京都から来たの!?ボク四国!」

「四国!みかんが美味しいところと聞いたのです!水道からみかんジュースが出るとか!」

「それ嘘だよ?もうそのジュース水道無くなっちゃったし」

「過去にはあったのですか!?」

「ふふふ、良いお友達が出来たようでよかったですね」

「相手が狐というのが少しアレではあるがのう」

「……ふふふ」

「ははは」


 あそこは……割と問題ありそうだけれど、下手に刺激しないほうが良さそうだからスルー。

 妖狐と化け狸の間に挟まれたくないし。


「ごめん!遅れたわ!」

「大試くん!収穫祭ってどういうこと!?」

「あ、2人共ようこそ。いっぱい食べていってくれ……」

「なんだか、疲れた顔してるわね……。とりあえずソフィア!はいカリカリ!」

『料理いっぱいあるのに何でいつものカリカリなの!?せめてチュールにしてよ!』

「いつもより喜んでいる気がするわ。やっぱりお外で食べるのが嬉しいのかしら?ケージから出してあげられなくてごめんね?他の人達もいるから、そこで我慢してね」

『料理!料理食べたい!』

「……ねぇ大試くん、会長とソフィアちゃんって、もしかして……」

「理衣、世の中には知らなくてもいいことってのがあるんだぞ?」

「そ……そうだね……」


 この2人も問題ない。

 目の保養になる程度に綺麗だ。

 見ているだけで目が健康になる気がする。


「で?何が気になってるのよ?」


 リンゼが、呆れた目で俺をジトッと睨んでいる。

 いやぁ……だってなぁ……。


 俺は、気になるあの娘を見つめる。

 バクバクと料理を食べるその姿は、初対面の時の印象とはガラリと変わってしまって、数時間たった今でも慣れないんだが……。


「ほうほう、これがドラゴンの唐揚げですか!なるほど、美味しいですね!」

「こちらは、ドラゴン肉を剥がして残った骨を煮込んで作ったスープです。お召し上がりください」

「ありがとうございますアイ様!……ふむふむ、おいしい!」


 シモフリドラゴン(人間のすがた)が、アイからどんどん料理を盛られ、ガツガツ食っている。

 特に、ドラゴン肉を使った料理を。

 信長が敵の頭蓋骨を肴に飲み会開いたって聞いても、まあ戦争したならそのくらいやることもあるかもなとしか思えない俺だけれど、流石に自分が死んでドロップした肉を本人に食わせるのは気が引けてしまう。

 何より、当の本人がすごく美味しそうに食っているのが怖い。


「ドラゴンにドラゴン肉食わせるにってどうなんだろう……」

「魔物は、共食いだってするから、今更その辺り気にしてもしょうがないんじゃない?」

「あの……大試くん、言ってる意味がわからないんだけれど、あの娘ドラゴンなの……?」

「ドラゴン……いや、恐竜?が進化して人型になったらしいぞ。尻尾生えてるだろ?」

「どうしよう……意味がわからないよ……」

「今更気にしても仕方がないわよ理衣さん!それより、美味しそうなものがいっぱいあるんだから、明日も仕事をバリバリするために栄養補給といきましょう!」

「はい!……あ、仕事はしたくないんですけど……」

「栄養補給してもしなくても仕事はあるわ!」

「大試くんたすけてぇ……!」

「割と助けてるだろ……」


 生徒会長と次期生徒会長候補は忙しそうだ。

 高頻度で俺も巻き込まれるから気持ちはわかる。


「大丈夫、大試なら乗り越えられる。乗り越えてまたいっぱいドラゴン肉とってきてくれる」

「そんなに美味しかったか?」

「うん、久しぶりだったから。酢ドラゴンが一番美味しかった」

「それはよかった」

「パイナップルは、どうかと思うけれど」

「あー……好みは分かれるよな」

「私は好きです!酸味は筋肉が喜びそうですから!」

「アタシは、パイナップルはパイナップルで食べたいわね」


 この3人の間だけでも好みが別れているのだから、俺が気にしているようなことなんてとても小さいことなのかもしれない。

 本人さえ良ければ、大抵の場合は良いんだ。

 わかってはいるんだけれどなぁ……。


「えーと、シモフリドラゴン……さん?」

「おや、人間さん。確か、大試さんと呼ばれていましたか?」

「うん、犀果大試といいます」

「どうもどうも、シモフリドラゴンと申します。個体名が無くて申し訳ございません」

「いいよいいよ。それより、ドラゴン肉食べても平気なのか?」

「問題はありません。とても美味しいですし、アレルギーも確認できませんから」

「いや、そういうことじゃなくてさ、精神的にというか……」

「あぁ、成程。大試さんは、私が自分からドロップした肉を食べてショックを受けたりしていないか気にしてくださっているのですね?ですが、お気になさらず。私はすでに、違う生物へと進化を果たした身。進化前の種を食べた所で何も問題ございませんよ。そもそも、ダンジョンで魔物を倒してドロップした物は、あくまでアイテムとして成立しているだけであって、私自身の肉と言うわけでも無いそうですので。私も、死んで初めて知りましたが。はっはっは」


 やっぱり本人は気にしていないみたいだから、まあいいか……。


 俺の悩みは、実はもう一つ有るんだ。

 それは、シモフリドラゴン相手に、奥の手を……いや、場合によっては最後の手段である一撃確殺の剣を使わないと勝てない気がしてしまったことが怖い。

 レベルが100を超えて。ちょっとだけ油断があったのかもしれない。

 俺は、小さいときから知っていたはずだ。

 この世界は、ある日突然死の機会が訪れる場所なんだってことを。

 いや、前世の世界もだったか?


「皆、俺は、年末年始は、開拓村に戻ろうと思ってる。テレポートゲートと、いちごの飛行機を使えば直ぐにたどり着ける気がするからさ。そして、あの辺りのアホみたいに強い魔物を倒して、レベルを上げておきたいんだ」


 俺は、ここ数時間考えていたことを話した。

 100レベルを超えた状態で簡単には勝てない敵が出てきたことを踏まえ、レベル上げをしたいんだ。

 そのためには、俺が知る限りだと、開拓村周りが一番効率が良さそうな気がする。


「お義母さんに会うの楽しみ」

「アタシは、流石に両親たちと過ごすことになると思うわ」

「私も、両親と王城で過ごすと思います……ご一緒したいのは山々ですが……」

「私も実家の神社に帰らないと。神社は、お正月が一番忙しいもの」

「私は……大試くんさえ良ければ、ついて行っちゃおうかなー……って……」


 婚約者とはいえ、貴族は正月だと自分の家族と過ごす者が多いはずだから、誘っても聖羅くらいしか来ないかと思っていたけれど、どうやら理衣も来るらしい。

 それはそれでありがたいけれど……。


「大丈夫か?そっちの家族って結構理衣に対して重い感情持ちばっかりだったよな?」

「うん、まあ……。うちの家族も、妹離れするのにちょうどいいタイミングかもしれないし……」


 疲れた目をしながら溜息を付く理衣を見て、苦労しているんだなと思ってしまう。

 家族関係のことなのか、生徒会関係のことかは知らんが。

 何れにせよ、冬休みは実家に帰るので決定だな!


 まあ、帰る目的は、レベル上げ以外にもあるんだけれどな。

 一番大きな理由は、妹がクリスマス頃に生まれるって母さんから教えられているからだけども!


「時に、大試さん」


 いつの間にか隣に来ていたシモドラさんが、俺に話しかけてきた。


「私は、種族名しかまだ持っておりません。聞けば、アイ様へ名を与えたのも貴方だとか?もし良ければ、私にも名付けを行って頂けませんでしょうか?」


 シモドラさんが、期待に満ちた目でこちらを見ている。

 いきなり言われてもなぁ……。


「霜……音読みでソウだっけ?じゃあ、ソラウでどうだ?」

「ソラウ……センスが良いのか悪いのか、私の知識ではよくわかりません。ですが、私に名前が出来たこと事態がとても嬉しい!あぁ、生きていて良かった。これが、生きるということなのですね……」


 ソラウが、光悦の表情を浮かべる。

 そこまで喜ばれるようなことでもないと思うんだけれど、喜んでくれるならいいか……。


「お礼に、私の尻尾でも食べませんか?」


 喜ばせすぎるのも不味いようだ。


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