第183話

 龍の爺さん曰く、あのニョロニョロ系の龍は、基本的にエルフとかと一緒で人造人間らしい。

 つまりは、言葉が通じるはずなんだ。

 でも、通じるからと言ってフレンドリーとは限らない。

 ましてや、この世界は元々ゲームをモデルにして作られている。

 となると、超常の存在が出てきたら、それはもう特殊戦闘が始まるもんなんじゃないだろうか?

 少なくとも、俺がやってきた銃を使うタイプのゲームではそうだった。


「アイ、あの龍はああやって池で遊ぶ以外に何かしてた?」

「ニジマスを焼いて食べてましたね」

「火を使う……うん、とりあえず文明に属する存在ではあるようだな……」

「自分で吹いた火でですけどね」

「うーん……文明だろうか……?」


 龍については、以前龍の爺さんと話したことがあるとはいえ謎ばかりだ。

 強いんだろうけど、実際に戦ったわけでもないしなぁ。

 龍の血は引いてるけど、かなり薄くなっちゃって龍の姿になれないっていうみるく先輩みたいな人も多いらしいけど、その人たちの戦闘能力もそこまでわからんし。

 みるく先輩がチョロかったのならなんとなく覚えてる。

 そういや、会長の実家から走って帰るって話だったけど、あの後どうしたんだろうな?

 アレ以降会ってないからわかんねーや。


 考えが勝手に明後日の方向に向いていくのは、多分現実逃避の一種なんだろうな……。


「よし、ちょっと話しかけてみるわ」

「本気ですか?ほっといたらどこかへ行くかもしれませんよ?」

「あ、その発想は無かったな……。でも、折角奇麗にしてくれた家に被害出るのも嫌だし、とりあえず行ってみるよ」

「そうですか、お気をつけて。私は夕食の準備を始めます。カレーでいいですか?」

「……そんなにカレーの匂い強かった?」

「ええ、それはもう」


 その言葉を最後に、アイは屋敷の中へ入って行ってしまった。

 最後まで見守らないのは、きっと信頼の表れだろう。


「犀果さん、本当に龍神様と話すのですか……?」


 リリアがブルブル震えながら聞いてくる。

 まあ……いきなり龍を見たらそうなるよね……。

 でも大丈夫!

 これからこういうこといくらでもあるから!


「うん、リリアはその辺りにいて。ソフィアさん、リリアの護りお願い」

「お気をつけて!」

「まあ良いが……。あの龍どっかで見たことある魔力なんじゃよなー?どこじゃったか……」

「そうなの?じゃあ知り合いかもしれないな。少しだけ安心材料が増えたわ……」

「まあおぬしの場合、神剣で体が頑丈になっとるから、多少攻撃されても大丈夫じゃろ!安心して龍退治してくるんじゃな!」

「退治はする気無いけども……」


 とりあえず、これで人的被害は最小限に抑えられるだろう。

 あとは、俺自身がどれだけケガをせずにいられるかだな……。


 ビクビクしながら龍へと近づく。

 龍はといえば、何が楽しいのかわからないけど、水中でぐるぐる回っている。

 そのままどっかの怪獣よろしく飛んで行ってくれんかな……。


 俺は、とりあえず声をかけることにした。


「あのぉ……、すみませーん!そこの龍の方ー!」


 俺の声が聞こえたのか、回るのを止めてこちらを凝視する龍。

 顔こっわ!

 でも、別に怒っている訳では無さそう。

 いや表情はわからんけど、雰囲気的にはって事ね。


 体感時間で数分は睨み合っていたんじゃないかと感じたけど、多分状況的に考えると数秒だろう。

 緊張感が半端ないわ……。


 その膠着状態を破ったのは龍の方だった。

 首をコテンと傾けて、こちらに向かって話しかけてくる。


「もしかしてなー?茜のこと見えとるー?」


 意外にも、その声は可愛い女の子のようだった。

 ってか、聞き覚えあるしな……。


「茜って、みるく先輩の妹の茜か?」

「んー?あれ?大試ー!久しぶりー!なんでここにおるん?」

「ここは俺の家だ。茜こそなんでこの池で遊んでるんだ?」

「あんなー?空とんでたらなー?気持ちよさそうな池みえてなー?泳いどったんよ。姿見えんようになる術かけとったはずなんやけどなー」

「そっか……」


 なんだろう……龍って奇麗な池見たら入りたくなる習性とかあるんだろうか?

 これは、将来的に何かに使えるかも……?

 多分使えんな。


「みるく先輩はどうした?心配してるんじゃないか?」

「おねえちゃんなー?飛べないから先に家帰ってていいって言うからなー?置いてきたんだけどなー?うち、帰り道わからんようになったんよ」

「……つまり、迷子って事か?」

「そうなんよ!」


 それって、もしかしてかなりの日数行方不明って事じゃね?

 龍だから捜索依頼なんて出せないだろうし、今ご家族大慌てなのでは?

 どうしよう……。

 みるく先輩の連絡先って誰か知らないだろうか……?

 クラスの女子に聞くか?

 俺が聞けるクラスの女子なんて、聖羅とリンゼと有栖と理衣……あと委員長くらいか?

 男子は……やばい、誰一人連絡先知らねぇ……。

 って、そう言えばみるく先輩は先輩だからみんなも知らんか?

 となると……会長かな?確か知り合いだった筈だし。

 でも、今授業中かもしれないから連絡するのちょっと躊躇するな……。


「じゃあ茜、とりあえず後でお姉ちゃんの友達に連絡先聞くから、それまで家で一緒にお菓子でも食べて行かないか?そんな魚泳いでる池に入ってないでさ……」

「ええの!?」

「もちろん。ただ、人間の姿になってくれるか?龍のままだと色々問題起きそうだし……」

「わかったー!」


 そういうと光始める茜。

 光の中で、シルエットが人になっていくのが見える。

 そして光が治まると……。


「これでええの?」


 そこには、確かに以前見た茜がいた。

 全裸で。

 もちろん俺はすぐ明後日の方を見ることで保身を図る。


「なぁ茜、龍になると服ってどうなるんだ?」

「うんー?あー、ようわからんけどなー?消えるんよ。今出すなー?」


 パッと音がしたので改めて見てみると、茜は既に服を着た状態になっていた。

 魔法少女の方が衣装チェンジに時間かかるんじゃないか?

 龍って凄い……改めてそう思った。

 ただ、慌ててたせいで、当然考慮しておくべきことを失念していた事に今更気が付き、再度明後日の方向を向く俺。


「これでええの?」

「服は良かった……よかったんだけど、ベチョベチョのままだったのがまずかったな」

「あー!そうやんなー。龍になっとると、濡れても気にならんようになるんよー」

「そういうもんか……。じゃあ、おやつの前に風呂でも入っていくか?着替えも何か用意しとくからさ」

「ええの!?」


 目を輝かせている茜ちゃん。

 風呂が好きなのか?

 あんだけ水に入ってるから、てっきりそういうの苦手なのかと……。


 流石に俺が一緒に入って色々教えてやるってわけにもいかないし、ソフィアさんに頼むか!

 俺は、離れて様子を窺っているソフィアさんに押し付けることにした。


「ソフィアさーん!この娘茜ちゃんだったわー!お風呂入れて上げてくれる―!?」

「ワシがかー!?おぬしがやってやればよかろうー!?」

「それやると警察に捕まる可能性があるからさー!」

「細かい時代になったのーう!」


 交渉が成立したので、茜ちゃんを連れていく。

 まだ多少ビビってるソフィアさんとリリアさんに預けてしまい、俺の仕事は終了!


「リリアさんも一緒にお風呂入っちゃう?ここのお風呂の使い方わからないかもしれないし」

「えーと……そうですね……ですが、私などが龍神様と一緒に入浴なんて宜しいのでしょうか……?」

「茜、どう?」

「ええよー?背中洗いっこするの得意なんよー!」

「だってさ」

「で……では、ご一緒させて頂きます!」

「はぁ……ひとっ風呂いってくるかのう……」


 これでヨシ!

 さてと、後はアイに着替えの準備頼んでおくか……。


 と思って家の中に入ると、陰の所にアイがいた。


「ビックリした」

「足がありますね……どうやら龍には勝てましたか」

「以前あった事ある龍の茜ちゃんだったわ。今風呂入りに行ってるから、茜ちゃんとソフィアさんとリリアの着替えお願いできる?」

「畏まりました」


 あ、そうだ……何かオヤツも用意しておかないと……。今日買っておいたお土産でいいか?

 予備も含めて70人分買ってあるし、まあ大丈夫だろ。


「犀果様、今のウチに確認しておかなければいけない重要事項がございます」

「……今度は何だ?」


 もう疲れたぞ……。


「何カレーがいいですか?」


 確かに最重要事項だな。

 豚肉とタマネギとニンジン、ジャガイモは無しでお願いします。



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