第182話
「留守中何か変わった事あった?」
「はい、いくつかございます……。ところで、カレー食べました?」
「やっぱりわかる?」
「私の胃が刺激される程度には」
迎えに来てくれたアイのデコワゴン……じゃなかった。
ゲーミングワゴンに乗り込んで、俺たちは今家へと向かっている。
ゲートが使えればいいんだけど、正直リリアにそこまで教えていい物か決めかねている為、とりあえずは車で移動することにしたんだ。
まあ、多分遠からずテレポートを体験してもらう事になるんだろうけれど……。
だって、立地的にあの場所はテレポートでもしないとろくに生活できないし……。
俺と聖羅だったら余裕だけども。
なんなら学園より落ち着くまである。
「京都にはお土産売ってるような場所なかったから、さっき駅前で買ったんだけど、チッキっていうお菓子食べる?」
「いただきます」
そう言って口を開けるアイ。
なんだ?俺に入れろってか?仕方のない奴め……。
「ほめめもほうふはほへふは」
「食べてからでいいぞ」
「ふぁい」
そこからしばらくモグモグとしているアイを待ちながら車に揺られる事10分ほど。
食べるのに満足したようで、やっと会話ができるようになった。
「先にこっちから紹介しておくか。連絡はしたと思うけど、この人がリリアさんな。今日から家で世話するから部屋の準備頼む」
「リリアです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。私の名はアイです。屋敷には、私と同じ顔の者が多数居りますが、全員私ですので何かあればお声掛け下さい」
「は……はぁ……?」
何を言われたのかいまいち理解できず、じっくり考えている様子のリリアを一先ず放置し、アイからの報告を受けることにする。
「それで、報告事項は?」
「犀果様がいない間に、聖羅様付きの女性聖騎士の方が数名屋敷に滞在することが決まりました」
「俺がいない間に決まるんだ……?まあいいけどさ……。因みにどういった理由で?」
「どうやら、教会の聖騎士たちが権力抗争を始めてしまい、己の利益ではなく聖羅様を第一に考えるべきという信念を持った者たちが劣勢になってしまったのが原因だとか」
「ん?つまり、聖騎士たちの多くが、己の利益のために聖羅を確保しようとしているって事?」
「そのようです。そのため、聖羅様をお守りするという名目で、聖羅様派の女性聖騎士たちの避難場所として使わせてほしいそうです。犀果様は忙しいであろうと私が判断したため、こちらで犀果様の判断を予想し、勝手に対応させて頂きました」
「あー……まあそうだな。多分あのマッスル部の時に来てた人たちでしょ?ならいいよ」
「ありがとうございます。ダメだと言われたら、折角彼女たちのために徹夜で作った寮が無駄になる所でした」
「徹夜すればたった数日で作れるのか……」
いい加減アイのデタラメさにも慣れてきたはずなのに、数日留守にするだけで驚かされてしまう……。
このAIがヤバイ奴の手に渡ってたら大変な事になってたな……。
「他には何かある?」
「はい。リンゼ様のご希望で、庭に池が出来ました」
「へぇ……流石というか、貴族令嬢っぽい希望だな。きっとタライを埋めて金魚用の池にしたとかいう規模じゃないんだろ?」
「はい」
「どんなんだろ……可愛い感じ?それともオシャレな感じ?」
「どちらかというと、ワイルドな感じですかね?」
ワイルドな池?貴族っぽいんだろうかそれ?
俺のイメージから外れたぞ?
「池にはニジマスが放流されています」
「あー……釣り用か……なるほど……」
そういやアイツ、釣りが趣味なんだっけ?
ってか、この世界だと貴族の趣味として釣りは代表的とか言ってたな。
俺も嫌いじゃないけど、庭に池作ってまでやりたいとは……。
「それと、婚約者様2名が希望を出したことを知った残りの婚約者様たちが、御自分でも何か考えたいと現在色々思案しているご様子です」
「まぁ……程々に聞いてあげて」
「かしこまりました。あ、有栖様からは、『馬を飼ってもいいですか?』とのメッセージを頂いておりますが、如何なさいますか?」
「馬?馬かぁ……。草食動物の糞は肉食動物と比べて臭くないって言う人もいるけどさ、比較するとそうなのかもしれないけど、実際には臭いんだよなぁ……。飼育するとなると、そう言う面がなぁ……」
しかも、馬は草食動物の中でも比較的大食漢というか、餌をバクバク食べてモリモリ糞を出すタイプの生き物だ。
牛の仲間は、体内で微生物を繁殖させたり発酵させたりして、少ない餌から効率的に栄養を吸収できるようになっているけれど、馬の場合は効率たいして良くないのをとにかく量でカバーするスタイルだし……。
どうしたもんかなぁ……。
あ、でも馬糞でマッシュルームとか作れるかも?
「もしよろしければ、動物の排泄物を一瞬で処理する装置もご用意できますが?」
「……それって、アイを作った文明の産物?」
「はい。動物の排泄物は、当時の世界においてもかなりの問題になっていましたので。疫病対策のためにも速やかな処理が必要だったというのもありますが、何より悪臭が酷く……」
「やっぱりいつの時代でも似たような事で悩んでるんだな……。うんわかった。じゃあ馬を飼う方向で行こうか」
「かしこまりました」
その後特に重要な話も無く、他愛もない話題を続けながら悪路の恐怖を紛らわせ、我が家へと辿り着いた。
時刻は午後3時過ぎか。
オヤツには良い時間だな。
アイにお茶でも入れてもらいつつ、皆にお土産でも渡そうかな。
……そういや、魔王の事どうしよ……?
エリザに報告した方がいいのか……?
リンゼにも相談した方がいいんだろうか……?
変につついて王都で暴れられても困るから、行動は慎重にしないといけないけど、どうしたもんかなぁ……。
「あ、犀果様、一つ重要な報告を忘れていました」
「何?重要ってわざわざつけるって事は、面倒な事?」
「そうですね……。私には、判断がつかないといいますか……とにかくこちらへ」
そう言われ、屋敷の玄関から入ったと思ったら、そのまま裏口へと案内される。
そこから出てみると、さっき聞かされた池と思われる物が見えた。
へぇ……、作ったって言ってたけど、本当に自然にできた池みたいに見える。
確かにこれはワイルドだわ……。
やべぇ……俺もちょっと釣りしたくなってきた……。
「それで重要な報告って?」
「はい。実は本日早朝、私が起きて何とはなしに窓から池を覗くと」
『バシャーン!!!』
アイの言葉を遮るように、池の方から大きな水音が聞こえた。
何かと思って、慌てて池の方を見る俺達。
そこには、金色のウロコに覆われた、体長1.5m程の細長い生き物がいた。
「御覧の通り、龍が住み着いていました」
「報告の優先順位おかしくない?」
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