第181話
「か……可愛い娘さんですね……12歳くらいかなぁ……?」
「そうなんだよ!父親の贔屓目と取られるかもしれないが、もう可愛くて可愛くてな!ただ最近は反抗期なのか写真も一緒に撮ってもらえず……これを撮ったときは確かに12歳くらいのはずだが、今は15歳だ。成長すればするほど死んだ妻に似て来てな……あぁ!今あの子はどこにいるんだ!?」
マッチョがおんおん泣き始めた。
こっちも泣きたい。
俺は、ここに飯を食いに来たんだ。
この国の命運をかけて魔王の城に来たわけじゃない。
ましてや、こんなスパイスの香り漂う場所で世紀の決戦なんてしたくない。
見なかったことにしよう!
「そうですか……大変ですね……ただお力にはなれそうにありません……」
「ぐすっ……!いや、ダメもとで聞いてみただけだ!ただなぁ……あと2~3年で大侵こ……あー……家の事情で連れ戻さないといけないんだよ!あー心配だ!」
やめてやめてやめて!
変な重大情報こっちに漏らさないで!
だいたいなんで敵の親玉がこんな所に単独で来てんだよ!?
部下は!?1人は、きっと行方不明になってネコミミメイドしてんだろうけどさ!
あ、もう1人筋肉を鍛えすぎた奴が行方不明ってか死んでたか?
奴がどういう扱いだったのかは知らん!
「まお……てんちょー、買い出しから戻りましたー」
「お!丁度いいところに帰って来たな!珍しくファールーダーの注文入ってるから準備してくれ!」
「マジすか!?ウィーっス!」
魔王と話していると、会話の内容的に店員っぽい人が帰って来た。
ただ、なんかこの人が店の中に入って来てから気温が数℃下がった気がする……。
えぇ……?もしかしてこの人も魔族……?
格好は、なんというか……女性パンクロッカーって感じの人?
黒い口紅を使っているのか、唇が真っ黒。目の周りも真っ黒。
あと、髪型はモヒカンみたいになってる。
声だけ何故か滅茶苦茶かわいい感じ。
間違っても甘い物なんて食べそうにない見た目してるけど、本当にファールーダーとかいうパフェ的な物作ってくれるの?
やっぱ単独じゃなくて側近みたいな人もいたのかな……?
ヤベェ……マジやべぇ……。王都の護りガバガバすぎる……。
それとも、魔族の隠蔽能力が高すぎるんだろうか?
ただ、今の所特に怪しい行動はしていない気がする……。
してるなら、こんな所でカレー屋なんてやってないであろうという希望的な観測かもしれないけど、ファムも魔族はあんまりそういう回りくどい行動を好まないって言ってたしな……。
「おまちぃーっス!」
帰ってきた店員さんが奥に入ってから2分ほど。
思ったより大分早く戻ってきた。
帰ってきて手を洗ったりとかしている時間を考えたら、賞味1分もかけずにファールーダーを作り上げたんじゃなかろうか?
「うむ!早速頂こう!」
さっきから話に全く興味を示さずカレーを食べ続けていたソフィアさんが、ファールーダーにだけは敏感に反応して受け取っていた。
因みに王盛カレーの8割は既に消失している。
「おおおお!?なんじゃこれは!?食べたことが無い味じゃなぁ……。甘い……アイス?シェイク?それに中にプチプチとしたものが入っておる……。うーむ、思ったより複雑な料理なんじゃなぁ……」
「美味いだろ!?ここだけの話、作る手間と材料考えると儲けが全く出ねぇメニューだぞ!知名度あがればなって思って出してるがな!」
「ほう?それはまた面白い事をしとるのう……」
ソフィアさんは、ある程度話を聞いてひとしきり感心した様子を見せたと思ったら、また食べることに集中し始めた。
恐らくあと数分で両方とも食べ終わるだろう。
「ふぅ……。とても美味しかったです……。まさか、王都に来てすぐこのような贅沢ができるなんて……」
「うれしいねぇ!デザートサービスするがいるか!?」
「よろしいのですか?でも……うーん……では折角なので何かおすすめの物を……」
「よし!じゃあシュリカンド辺りが良さそうだな!キオナ、頼む!」
「あいあい~ス!」
あの店員さんは、キオナさんって名前らしい。
それにしても、ラスボスが作ってくれた料理とは言え、リリアさんが気に入ってくれたようで良かった。
実際カレーは旨かったしな……。
確か、エリザがラスボスになる理由は、この魔王が倒されたことによる物だったはず。
だったら、今ここで魔王を倒すわけにもいかないしなぁ……。
そもそも、勝てるかどうかもわからん。
よし決めた!今日の所は、超法規的措置だ!
つまり、何も見なかったことにする。
今日は、大変な目にあいながら王都に帰ってきたら、とても美味しいお店に出会えたという良い思い出だけを持って帰ろう!
「そうだ、お土産に何か持って帰りたいんですけど、そういうのでお勧め何かあります?」
「数はどのくらいだ!?」
「70人分くらいですかね?」
「それは多いな!となると、嵩張る物は避けた方が良いだろう!なら、チッキなんてどうだ!?ナッツをカラメルで固めたお菓子だ!持ち帰り用で売ってるぞ!」
「あ、じゃあそれで」
レジの横に置かれてるチッキとやらを見るに、中々おいしそうだ。
アレなら家で待っている女性陣も満足するだろう。
特に、50人のアイたちが。
「いやぁ!今日は珍しく大口注文が多いな!俺は嬉しいぞ!」
「そっスねー!てんちょーが厳つくて女性客が増えないから甘い物出す機会少なすぎるんスよー!あたしが何のために人間相手に客商売してると思ってるんスかー!」
「娘を探すためじゃなかったのか!?」
「あ、そうだった」
甘い物作るのが好きなのかあのパンクさん。
意外だなぁ……。
あの見た目でしかも魔族っぽいのに……。
いや違う違う!魔族とか知らん!
あの人は、ただの見た目がすごいけど趣味が可愛い女の人!
そうに違いない!
その後も新たなデザートがやってきて、リリアさんがニッコニコで食べたり、ソフィアさんが更に別のデザートを注文したりしていた。
ビックリしたけど、まだ店に入ってから30分経ってない。
すごい速いテンポでメニューが出てきたな……。
「ごちそうさまでした!」
「ああ!また来てくれな!」
「……はい!」
来るかなぁ……?
美味しかったけどさ……。
店を出て駅前ターミナルへと歩いて戻る事にする。
そろそろアイも到着しているかもしれないし。
「いやぁ、いい店じゃったのう!どれも美味かった!」
「そうですね!あのような趣の食べ物は初めてでした!」
「うむ!まあ、作っているのが魔族なのはびっくりじゃったが!」
「まぁ、そうなのですか?魔族さんって、普通に王都に住んでらっしゃるんですねぇ……」
どうやら2人も大変満足だったようだ。
王都に来て早速良い体験ができたようで何よりである。
「って、あれ!?ソフィアさん、あの人たちが魔族だって気が付いてたの!?」
「そりゃそうじゃろ?魔力の質で丸わかりじゃ。ニンゲンには、わかりにくかったかもしれんがな~」
「私も全く気が付きませんでした」
「リリアさん、あの人たちが魔族って事は秘密ね!」
「え?そうなのですか?わかりました!」
魔族の店だとわかった上であんだけバクバク食べてたのか……。
すごい神経してるな……。
この人を魔族の領域に送り込んだら、そのままこのゲームを基にした世界クリアしてくれねぇかな?
……いや冷静になれ。
その場合俺も結局同行するから、俺にかかる負担は減らない!
自問自答をしながら駅ターミナルへと到着すると同時に、スマホが震え出した。
見てみると、『今到着します』との知らせが。
どの車かなぁと辺りを見渡すと、何やら特徴的な車が1台見えた。
多分あれだろう。
……だって、ワゴン車なのにデコレーションされてるもん……。
夜のネズミの国か暴走族しか持って無さそうなやつ……。
だけど、まだ真昼間だからゴテゴテしたライティングが大した意味を成していない。
ただただ変なLEDがいっぱいついているだけだ……。
あれ?てっきりあのトラックで来るのかと思ってたけど、これはどこから持って来たんだ?
まさか……また買ったのか?聞くの怖いから聞かないどこ……。
そして予想通りそのデコワゴンは、ロータリーを通って俺達の前に止まった。
黒いサイドガラスが開き、中にアイの姿が見えた。
「犀果様、お待たせしました」
「うん、来てくれてありがとう。すごいなこのデコワゴン」
「ゲーミングワゴンとお呼びください」
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