第184話

「あがねぇええええ!!!!しんぱいしたぞおおおおお!!!」

「おねえちゃんくるしいー……」


 学園の授業が終わる時間帯を見計らって会長に連絡を取り、みるく先輩に茜ちゃんが家にいると伝言をお願いした。

 結果、位置情報を頼りに道路も地形も無視して一直線に走ってきたみるく先輩によって、茜ちゃんは抱きしめられてしまっている。

 あれ、茜ちゃんが龍じゃなかったらヤバイ事になってそうなパワーに見える……。


「あー……、みるく先輩、茜ちゃんが死んじゃいそうだからその辺で……」

「む!?そ、そうだな……。助かったぞ犀果、どこを探しても見つからなくて、自分で帰ってくるのを待つしかないと思っていた所だった……」

「てっきり学園にもいかず探し回ってたりするのかなと心配してましたけど、そうでもなかったんですね」

「最初は私もそうしようかと思ったのだ……。しかし、両親から『龍なんて数十年単位で行方不明になることもザラだから帰りなさい』と言われてしまってな……。特に茜は龍の血が濃いから……。しかし……しかし!気が気ではなかったぞおおおお!!!!」

「おねえちゃんくるしいんよー……」


 まだしばらくまともに話もできそうにないから、とりあえず会長に電話しておくか。

 俺は、スマホに登録されている数少ない連絡先から、会長のスマホの番号を選択してかける。


『もしもし?どう?そっちついた?』

「うん、泣きながら力の限り抱きしめてる感じ」

『そう……。どうにも様子がおかしかったから気にはなっていたのよ。解決したみたいでよかったわね』

「会長もありがとうございます。助かりました」

『気にしなくていいわよ……って言ってあげたい所だけれど、お礼に今度生徒会の仕事手伝ってもらおうかなー?』

「いいですよ?たまには、会長の負担を軽減してあげたいとも思ってたので」

『え゛!?本当!?じゃあ手伝ってもらいたい事柄をリストにまとめておくからまた明日ねバイバイ!』

「リスト!?いくつもあるんですか!?ちょ……切れちゃった……」


 まあいいか……、それだけ大変って事だろうし……。

 そういや理衣も一緒に頑張ってるんだろうから、俺としても手伝うのはやぶさかではないな。

 限度はあるけど……。


「よくわかりませんが、美しい姉妹愛ですね…!」

「そうじゃろうか?そろそろちっこい方を助けてやらぬと大変な事になりそうじゃが……」

「カレーの準備が出来ましたが如何しますか?」

「早速いただきますね!」

「じゃな!」


 周りの傍観者たちは、既にカレーに意識が移ったらしい。

 茜もカレーを食べたいと目で訴えてくるけれど、みるく先輩のテンションは下がることはない。

 よくこのカレーの香り漂う中で、一心不乱に妹のほっぺにすりすりできるものだ。

 俺も妹が生まれたらしてみよっと。


「先輩!みるく先輩!その辺にしてあげてください!ほら!苦しがってますから!それより夕食一緒にどうですか?多めに作っておくように頼んでおいたので」

「いいのか?ならご相伴にあずかるが……」

「茜なー?カレーめっちゃ好き!」

「ニジマスとどっちがいい?」

「あそこのニジマスめっちゃ美味しかったなー!」


 ワイルドな妹さんですね?


 早速皆で席について食べ始める。

 因みに、授業が終わってすぐ廃教会のテレポートゲートを使って帰ってきた聖羅は、1時間以上前から既に席についている。

 最近俺がいない事が多いため、アイに頼んでうちの家族たちにはテレポートゲートを使う権限を付与してもらっているんだけど、流石に聖騎士の女性たちが使ってるとまでは思ってなかった。

 まあ、今の所聖羅を裏切るような感じも無いしいいけどな。


「それで、聖騎士の人たちもここに住むんだって?」

「うん、私の事を束縛しようとする人たちと喧嘩しちゃったから、皆で見限って来た」

「よろしくお願いします犀果殿!」

「まあ、アイがもう寮みたいなの作ったらしいからいいんだけどさ……。それよりも、その聖騎士の話を詳しく聞きたいわ。教会って、聖女と女神をとにかく信仰している人たちが多いんじゃなかったのか?聖羅を自分たちだけでどうこうしようとするようなのが多いイメージ無かったんだけど……」


 前に聞いた話では、基本的に聖女である聖羅の言う事が絶対正義で、それに従わないとか絶対認めんみたいな感じだったはずだ。

 それに反発した少数派の奴が問題起こしてたらしいけど、それはもう排除されたって聞いてたんだけど……。


「それは私からご説明します!」


 そう言って挙手したのは、既にカレーを3杯食べている聖騎士のリーダーっぽい女性。

 マッスル部の合宿でも、聖羅の護衛について来てた人たちを取りまとめていた。


「実は、教会のなかでも、聖騎士は特殊な立ち位置なのです。教会の聖職者の大半が元平民なのですが、中には少数ではあるものの貴族も存在しています。そして、聖騎士となれば戦闘力が求められるのですが、そうなると保有魔力の関係で貴族の割合が増えるのです。今ここにいる我々も、元々は貴族なのですが、全員聖羅様に憧れて聖女担当になった者たちです。しかし、貴族出身者の中には、教会の理念に賛同したから所属している訳ではなく、何かの罰や取引の結果教会で聖騎士をしている者も多く、現在、聖羅様に対する方針で聖騎士の6割程が教会側と対立している状態なのです。まあ、そうやって貴族や富裕層の問題児を秘密裏に預かる事を餌にしたからこそ、短期間で教会という組織が大きくなったため、ある意味ではこうなることも元々予想できたことではあるのですが……」

「それヤバくない?」

「ヤバイです……」


 一定以上の武力を持っている奴らが、宗教の理念を無視して暴走してる訳だろ?

 俺の家族がどうこうの前に、国家的な危機なのでは?

 多くのゲームをモデルにしちゃってるからトラブルがギュッと濃縮されているのはわかるけど、何か解決するたびに問題が起きるな本当……。


 もうさ、その教会とか言う宗教組織無くした方がいいんじゃね?

 俺、この世界に来てからその教会さん関係で碌な目にあってないもん。

 一応信仰対象ってリスティ様なんだろうけど、教会が無くなったら神様的な信仰パワーがなくなって困るとかあるかな?

 神社とお寺あれば十分じゃない?

 他の宗教はどうなってるのか知らんけどな。


「しかし!私たち、『聖羅様まもり隊』の面々は、心から聖羅様を守護するために集まったメンバーで揃えておりますのでご安心ください!」

「どうしよう……そのネーミングセンスのせいで安心できねぇ……」

「ダメでしょうか!?」

「ダメとは言わんが……」


 まあ、マッスル部と一緒に多少は修行してたから、そこらの下手人たちよりは強くなってるだろ。

 100レベルの聖女様には敵うまいが。


「それで、今後も聖羅にチョッカイ出してきそうなのか?」

「講堂内なら大丈夫だと思う。でも、前使ってた教会の寮だと煩かった。何回か、偉そうな顔のオジサンが女性寮の方に入ってこようとして止められてたし」

「……聖羅様、あれは聖騎士団長です……。まあ、今となっては、その問題になっている聖騎士たちの親玉という厄介な存在なのですが……」

「どうでもいい。次来たらパンチするから」


 聖羅は、パンチすると言ったらパンチするんだ。

 狩猟王とかいう厳ついギフトを貰っていた風雅ですら倒す何の変哲もないパンチ。

 しかも、現在100レベル。

 この世界に100レベルに到達している人類がどれだけいるのかわからないけれど、間違いなく最強クラスの1人ではあると思う。

 それでも、木刀で叩かないだけまだ手加減している方かもしれないけど。


「まあそこまでは分かった。ところで……ここで何してるんですか仙崎さん?」

「カレーを食べてるんだよ」

「なんでここで食べてるんですか?」

「住んでるからだよ」

「……いつから?」

「マッスル部の合宿の後ここに運び込まれてからずっとかな?」


 知らない……全く知らないぞ?

 確かに忙しくてあんまり家の事する余裕も無かったけれど、その後ずっとここにいたのか?

 ……いや、少なくとも1回は、マッスル部に行った意識改善方法の報告にどこかへ出向いている筈だ。

 つまり、ここに帰ってきている……?


「アイ君、おかわりを頼む。福神漬けをいっぱいかけてくれ」

「畏まりました」

「アイに畏まられてる……」


 知らなかったけど、少なくとも馴染む程度には過ごしているらしい。

 アイが俺の反応を不思議そうにみている。


「犀果様が連れてきたので、お客様として対応すべきだと判断していたのですが、問題がありましたか?」

「……いや、まあいいや。でも、ここ住むなら家賃貰いますよ?そっちの聖騎士の人たちは、聖羅の護衛って事でいいとしても」

「もちろんだよ。金銭でも構わないが、ポーション払いなんてどうだい?効果が高すぎて商品にするのちょっと躊躇する物でもいいよ?」

「ポーションかぁ……ならそれでいいです」

「ありがとう。将来的に、大試君が開拓村に戻る時にも一緒についていくから、あっちでもポーションづくりは任せてよ」

「いいんですか?こっちに会社あるんでしょ?」

「正直ね……もうお金稼ぎに嫌気がさしたんだ……。残りの人生は自堕落に過ごしたい……」


 なんだか、今日の仙崎さんからは闇を感じるな……。


「って、マッスル部はどうするんですか?」

「もともと私は臨時で担当していただけだからね。その内新しい顧問がつけられるんじゃないかな?アドバイザーとしてなら、別にリモートでも可能だろうしね」


 本人がそれでいいって言うならこっちとしてはむしろ歓迎だけどなぁ……。

 錬金術師でポーションが作れて、おまけにプロテインだって作れるんだろ?

 そんな人をあんな森の中に連れてっていいのかな?気が引けるんだが……。


 まあいいか!美人だし!


「それに!先輩もいるからね!」

「あ、やっぱりそれも目的ですか」

「もちろんだよ!前は置いて行かれてしまったが、よく考えたら私が追いかければいいんだ!こんなに簡単な事をどうして思いつかなかったんだろう!?」

「どこに行ったかわからなかったからじゃないですか?」

「かもしれないね!」


 本人が幸せならそれでいいや。

 美人だし、母さんほどではないけどおっぱい大きいし……。

 あと、なんていうか、世話を焼きたくなるダメさがあるというか……。


「大試、私もカレーおかわり」

「あいよ」


 ……あ、そうか。

 聖羅もそういうとこあるもんな。

 つまり、俺の好みってそういう?


 自分の重大な性癖に気がついた瞬間だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る