第149話
「犀果!!!!俺達の筋肉に良い魔物を教えてくれ!!!!!!!」
「えーと……このあたりの魔物は、基本どれも高タンパク低カロリーなのでどれでも大丈夫ですよ。虫の魔物もいますが、生理的に無理とかじゃなければ食べられます」
「わかった!!!!!聞いたなお前ら!!!!!!これより筋肉の材料を狩りに行くぞ!!!!!!」
「「「「マッスル!!!!!!!!」」」」
「あ!最低でも4人以上で行動してくださいね!ちょっと!?聞いてます!?」
急にやる気になったマッスル部員たち。
逆に俺のほうが冷静になってしまった。
あのさ、コイツらこれ以上野生引き出す必要ある?
どうみても野獣かなにかだよ?
バーサークしてるよ?
いやまあ、今の時点で放りだしても、サバイバル技能全然なさそうだから死ぬだけかもしれないけど。
一応ここに来る前に、合宿のしおりをアイやソフィアさんと協力して、全員に配って隅々まで読むように言ってあるから、そうそう下手なことはしないと思うけども……。
もっとも、周りをこっそり量産型のアイたちが取り囲んでるし、近くには暇してる聖羅がいるから、最悪の場合でもなんとかなるけど。
そろそろアイたちに、魔物を通すように言っておくか。
獲物がいないと、あの人達は、アイ包囲網を突破してしまいそうだ。
『アイ、聞こえる?』
『こちらブラボー1、ヘッドクオーターどうぞ』
このごっこ遊びまだ続けるのか……。
俺も付き合ったほうが良いのか?
『あー……ブラボー1、子犬たちが放たれた。丁度いいひな鳥でも用意してやってくれ』
『かしこまりました。ブレックファースト前です。通信終わり』
ブレックファースト前……。
アメリカドラマでも見たのかな?
ってか、この世界のアメリカってどうなってんの?
やっぱりFBIだのCIAだのいるの?
個人的なお気に入りはNCIS(アメリカ海軍捜査局)。
アイとの通信が途切れると、すぐに轟音が響き渡り始めた。
どうやら、アイが通した魔物たち相手に、マッスル部員たちが攻撃を開始したらしい。
マッスル部員たちは、基本的に魔術が苦手だ。
中には、単純に筋肉をつけたくて入った変わり者もいるみたいだけど、基本的にはやっぱり魔術が苦手な人間が入る部活だからだ。
だけど、別に魔術が対して使えなくたって、筋肉をつけて身体強化を行えば十分戦えるということは、この国の歴史の中で証明されているらしい。
つまり、マッスル部員たちは別に弱くないんだ。
本当に気持ちの持ちよう一つでいくらでも変われる下地はできていた。
流石に「筋肉だけで倒す!武器などいらん!」とか轟打部長が言い出したときには、はっ倒してやろうかと思ったけれど。
この人たちだって、ギフトで何かしらの適性は貰っているはずなんだ。
だから、全員に自分のギフトやスキル、適正なんかを見極めて、当日までに今の自分に合った武器を用意してくるように言っていたんだけど、みんな武器をあんまり扱ってこなかったようで、へっぴり腰というか、慣れてない感じが出てしまっていた。
それでも、筋肉と身体強化に任せたゴリ押しで、この初心者向けの魔物の領域にいる魔物なんてガンガン倒せてしまうらしく、苦戦はしていないように見える。
……ってか、跡形も残らない倒し方してるやつが多い。
脳まで筋肉にも程があるだろ……。
「いやぁ、壮観だねぇ!あの武器よりダンベルのほうが持ち慣れていた彼らが、自ら魔物を倒しに向かっていってるよ」
「まさかここまで効果があるとは思いませんでした。見せ筋って言葉でこんなに反応があるなんて……」
「やっぱり筋肉は実用性が伴ってこそだからね!見せるためだだけに大きくして、繊維の一本一本まで見えるようにするなんて、筋肉への冒涜だよ!」
仕事なのか趣味なのかわからないけれど、仙崎さんがすごいスピードでメモを取りながら話す。
でもさ、なんでコーチがそういうスタンスだったのに、マッスル部はこんな感じだったんだろう?
「仙崎さんは、マッスル部員たちをもっと野生的な感じにしようとしなかったんですか?結構前から携わっていたんですよね?」
少しだけ気になっていたので、せっかくだからと聞いてみることにした。
すると、仙崎さんのメモが止まり、その瞳がこちらを向く。
「あー……実はね、私は最初の方、まったく部員たちのメンタルには興味がなかったんだ。私の作るプロテインと、マッスルポーションさえあれば理想の筋肉なんて簡単に作れると思ってたんだ」
「話しの超しおってすみません、マッスルポーションって実在したんですか?」
「え?そりゃするよ。この前大試くんが私の……その……胸から出てきたのを飲んでたけど、あれはただのドリンクで、本物は別にあるよ」
「いやらしい言い方しないでもらえます?……マッスルポーション……どんな効果があるんだ……」
「披露回復と筋肉修復だね。副作用もないから飛ぶように売れるよ」
それはすごい!いっぱいほしい!
っと、それよりもさっきの質問の答を聞くか。
「ありがとうございました、それで?」
「うん、それでね、何ヶ月かたって様子を見に行ったんだけど、みんな全く理想の筋肉になんてなっていなかった。それこそ、ボディービルダーそのものだったよ。それ自体を否定するつもりはないけれど、この部の活動目標とは程遠かったね」
そういって、仙崎さんは1枚の写真を見せてくる。
「これは?」
「その頃のマッスル部さ。みんないい笑顔でポーズ取ってて腹が立つだろう?」
「まあ……そうですね」
お前ら魔物倒しにいけよ!
そのダンベルとバーベルで殴るんでも良いから!
「これはだめだと思って、さすがの私も顧問の教師に直訴しに行ったんだよ。これじゃだめだってね。だけど……」
「変わらなかったと?」
「ああ……」
そんな事があるんだろうか?
顧問の教師は、何を考えて魔物との戦闘をさせていなかったんだろう?
いくら親たちから子供を危険な目に合わせるなと言われたとしても、だったら退部しろって言えば済む話な気がするんだけど……。
ってか、どの先生だ?
今度文句行ってやろ!
「その顧問って誰です?」
「それがねぇ……名前が思い出せないんだよねぇ……。しかも、すでにその教師はクビになってるし」
「クビ?やめさせられているってことですか?」
「みたいだよ?だから私がメインで指導を始めたわけだけどね。たしか……そう!大試くんが、歓迎パーティーの席でガーネット家のお嬢様を守ったときだ!あのときに、王子のバ……アホ……どうしようもない行為に協力していたとかで、そのまま即ね」
「へぇ……」
……偶然なのか?
まさか、マッスル部員たちをボディービルダーにすることで、貴族全体の戦力を弱体化させようとしてたとか……。
考えすぎか?
そうだよな?
めんどくさいことにならないよな?
この仕事終わったら、そろそろ俺は休みたいぞ?
「でもね、私は人の心の機微に疎くてね。なかなか指導も上手くいかない。そんなときにキミが来てくれて本当うれしかったよ!先輩に似てるし!あー嬉しい!」
「そりゃよかった……」
「よかったかな!?やった!喜んでくれてありがとう!」
テンション上がったこの人は、スルーするのが正解なのかもしれない。
遠くには、血まみれになってホーンラビットを掲げている轟打部長が見える。
あれ、そこそこ美味しいんだよなぁ。
……マジでもう野生目覚めさせる必要無くない?
そう思いながら同時に、俺のスケッチを始めた仙崎さんを本格的にどうしたものかと悩むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます