第150話
早朝からの突然の狩りを経て、マッスル部員たちは、俺の指示によりキャンプ地に再集合していた。
にしても、どうしてみんな血まみれなんだ……?
俺、魔獣と戦ったことは何度もあるし、戦ったやつを見たことも数え切れないほどあるけど、そこまで返り血浴びてる奴ら見たことないぞ?
自分の血ってことはないよな……?
「全員怪我はないですか?」
「「「「ありません!!!!!」」」」
「……本当に大丈夫ですね?」
「「「「はい!!!!!」」」」
ハキハキしてて良いお返事ですね。
血に餓えてる感じがしてすっごく怖いです。
まあ、野生を目覚めさせようって目標は達成できているし、いい方向に捉えておこう。
「犀果!!!!!それよりも獲物を調理させてくれ!!!!!!筋肉には、起きてすぐのタンパク質補給が重要なんだ!!!!!!」
轟打部長が切羽詰まったような訴えをしてきた。
そういや、ボディービルダーって1日に何度も食事しないといけないんだよな。
んで、タンパク質は血中に蓄えておけないから、寝てる間に筋肉から抜けて行っちゃったりするとかなんとか前世のテレビで見た覚えが。
別に筋肉を弱めたいわけでもないし、プロテインくらい使用を認めてみるか……?
いや、むしろこの切迫感は使えるか!
筋肉タイマーでキミもワイルドになろう!
「じゃあ全員限界みたいなので、早速料理していきましょう!調理器具は全員持ってきてますよね?」
「「「「はい!!!!!」」」」
俺の質問に、ゴツいナイフを掲げて応える戦士たち。
なんの決起集会だこれ?
いや、便利だから持ってこいって言ったのは俺だけどさ……。
「獲物によって捌き方は違います!まず、ホーンラビット……うさぎっぽいやつを狩った方はそっちに!」
「「「はい!!!!!」」」
ここで大半の部員は移動する。
この辺りにでる魔物の大半は、ホーンラビットだからだ。
討伐難易度は低くて美味しいという便利な奴だ。
本当のうさぎだったら、少しでも物音や振動を感じると逃げてしまって捕まえるのすごい難しいんだけど、魔物は大抵人間に向かってくるから良いカモなんだよなぁ。
ちなみに、今回料理を教えるために、アイの量産型が5人来てくれている。
最初は、全く同じその容姿にみんな驚いていたけれど、「「「「「五つ子なんです」」」」」とシレっとアイが嘘をついたら、「そういうこともあるのか」と納得されてしまった。
素直すぎて逆に不安になった。
というわけで、ホーンラビットの調理にはアイ4人に担当してもらう。
「次に、ビッグボ……イノシシを狩った人はこっちへ!」
「「はい!!!!!」」
ホーンラビットの次に狩ったものが多いであろう獲物が、このビッグボアだ。
ホーンラビットに比べて食いではあるけれど、その分強いので、多分初心者的には緊張するんじゃないかな?
まあ、俺は王都きてすぐこんなん目じゃないサイズの猪狩ったけどな……。
マッスル部員たちは、お構いなしに武器を叩きつけて倒していたけども。
勢い余ってミンチになって辺りにバラ撒かれていたのをみたときは、ここは地獄か?って思ったもんだ。
ウサギの方は、消え去っていたからそこまででもなかった。
こっちは人数が少ないため、アイ1人に担当してもらおう。
「最後に、ウサギとイノシシ以外の獲物を狩った方は俺のところへ!個別にやっていきます!」
「「はい!!!!!!」」
さて、問題はこのメンバーだ。
ここの魔物領域で出てくる魔物は、前述の通りほとんどがウサギとイノシシな訳だが、少数ながら他の魔物もいる。
他のところから紛れ込んでいるのか、もともといるけど数が少ないだけなのかはわからないけれど、とにかくそういう奴らは、他の魔物の解体方法とは別の捌き方をする必要がある。
あんまり変なもんじゃないといいけどな……。
集まったのは2人。
1人は、俺よりも身長が高い女子。
筋肉がすごい。
特に腹筋が板チョコみたいになってる。
触らせてもらえないだろうか……。
それと、さっき血まみれでホーンラビットを掲げてたはずの轟打部長だ。
「部長、さっきウサギ捕まえてませんでしたか?」
「ああ!!!!!それをこいつに食われてしまってな!!!!!だから喰い返すことにしたんだ!!!!!」
そう言って、緑の何かを放り投げる。
……何かっていうか、でっかいバッタだな……。
トノサマバッタかイナゴかは俺にはわからんけど、とにかくそんな見た目で、頭から腹の先まで1.5m程ありそうだ。
こいつ、ウサギ食うのか……。
うん……これを持ってこられるのが一番怖かった……。
よし、これは後回しにしよう!
「じゃあ次、そっちの人は何を?」
「はい!自分はコレです!!!」
そう言って女の子が出したのは、赤いエビみたいなやつ。
ってか、体だけで1mはあるけど、アメリカザリガニだねコレ。
こんなもんどこにいた?
「何処で獲ったんだこんなの?水場なんてあった?」
「はい!泥沼みたいなところがありまして!自分は電気ショックというスキルをもっているのですが!とても威力が弱く!対人用では大して役に立ちません!しかし!水の中なら行けるのではと槍を通してぶっ放してみたらこいつが飛び出してきました!」
なかなか荒々しい事するなこの人……。
でも泥水の中にいたやつかぁ……。
泥臭いのかなぁ……。
臭み消し大変そう。
しかし、両方とも外骨格の生き物か……。
それも、よりによってザリガニ……。
ザリガニは、案外美味しいんだけど、今この瞬間だとちょっと問題があるんだよなぁ……。
まあしかたない、良質なタンパク源であることは確かだ。
さっさと調理を開始しよう。
「じゃあとりあえずキミは……あー、ごめん、呼びにくいから名前教えてもらっても良い?」
「は!1年3組!
「三枝さんね……なんでそんな軍人みたいな話し方なの?」
「は!自分の両親が海軍と空軍に所属しているため、自然とうつってしまったようであります!」
「海軍と空軍……へぇ……」
違う軍隊って仲悪そうなのに、男女間ではまた別なのか。
「陸軍としては海軍の提案に反対である」とか言うのは前世だけなのかな?
俺が突っ込む話でもないけれどな。
「じゃあ三枝さん、今回このザリガニは、ハサミと尻尾の部分だけ食べるから、関節部から切り取るなりちぎり取るなりで分解しておいて」
「了解であります!」
「轟打部長のバッタは、胸の部分と後ろ足だけです。そこ以外は非常に不味いので、取り除いておいてください」
「わかった!!!!!」
俺が指示を出すと、2人共すぐに作業に取り掛かり始めた。
力任せにな!
せっかくナイフを持ってきたのに、バキバキと千切っている。
良いけどさ別に。
大変じゃないかって気がするだけで。
2人共解体が終わったようなので、次は外骨格の処理だ。
コレばかりは力任せというわけにもいかないので、ナイフの背にあるノコギリ部分を使ってもらった。
実は、このナイフも魔道具だ。
体に魔力を流す身体強化の延長線で、ナイフ自体に魔力を流し込めば、このノコギリ部分で岩でも切っていけるようになっている。
関節部ならともかく、流石にこの硬い殻を素手でかち割るのは難しいから、文明の利器を使ってもらったわけだ。
……2人共、最初は当然のように素手で行こうとしていたけれど。
「で、こうなるわけだ」
2人が処理した獲物を見る。
ザリガニもバッタも、高級なカニか何かみたいな見た目になった。
そう!バッタもだ!
これが一番の問題……というか、ソフィアさんがすごい嫌がってた。
あれは、数日前に俺とアイとソフィアさんで、試しにこの場所に来て目ぼしい獲物を狩って食べてみたときのことだ……。
―――――――――――――――――――――
「のう大試よ……バッタは止めとかんか?」
「でもこれも食べられるらしいですよ?むしろ美味しいってネットで書いてありました」
「それはそうなんじゃが……しかしなぁ……」
そう言ってグズるソフィアさんを何とか宥めながら作ったバッタ料理。
これは……。
「これ、タラバガニの味がしますね……しかも火を通すと殻が赤くなるんだ……」
「そうなんじゃよ!昔食べたことが合ったんじゃが、ワシはもう一生、カニを食べるとこのバッタを思い出すんじゃ!バッタじゃぞ!?あーもう!まさかコヤツとあのカニが同じ味なんてのう!赤くなるところも腹が立つ!」
「タラバガニってカニじゃないんですよ。ヤドカリの仲間です」
「そういう問題じゃないんじゃよ!……本当に?」
「マジです」
「嘘じゃろ……」
―――――――――――――――――――――
というやり取りがあった。
おそらく今も喋らないだけで、その辺りでフヨフヨ浮きながらうーうー唸っていることだろう。
因みに、その時の残りのバッタはアイが美味しく食べました。
しかも、「肉体あるっていいですね……」と光悦の表情で言うくらいには美味しかったらしい。
舌をペロッとするのがすごく色っぽかったと付け加えておきます。
「殻の処理が終わったら、塩を刷り込んでください。特にザリガニは泥臭いと思うので、塩を染み込ませて水分を抜き、少しでも泥臭さをその水と一緒に出してしまいましょう。同時に、生姜も一緒に揉み込んでくださいね」
正直ザリガニにこんな処理したことないからよくわからんけど、まあこんな感じで大丈夫だろう。
普通サイズのザリガニだったら、そのまま塩ゆでしたほうが手っ取り早いけど、流石にこのサイズのザリガニを茹でる鍋は用意していない。
もちろんバッタもだ。
というわけで、少し水気が抜けたあと軽く布巾で表面を拭いてから、大きめの網に乗せて炭火で焼いていくことにした。
いやぁ……ザリガニはわかるけど、やっぱりバッタも焼けると美味しそうな匂いになるんだよなぁ……。
結構な違和感……。
「美味そうな匂いがするぞ!!!!もう食べても良いんじゃないか!!!???」
「自分も早く食べたいであります!!!」
「いやもう少し待ってくださいって!でかいんだから中まで火が通るまで少し時間かかるんですよ!」
そこから5分ほど。
ようやく俺も満足行く焼き上がりになった。
待ちきれないとばかりにブルブルしている2人にGOサインを出す。
獣のような速度でそれぞれの獲物に食いつく2人。
熱いから気をつけろという暇すらなかった。
「あっつい!!!!?だがうまいいいいいい!!!!!!」
「ちょっと土臭い!!!でも美味しいであります!!!!!」
どうやらお気に召したようだ。
本来の目的は、自分たちで倒した魔物を食らうことで、魔物を「絶対的な恐怖の対象」から、「狩って食える物」へと認識を変えてもらうことだったけれど、それに関しては上手く行ったようだ。
「しかし犀果!!!!なぜこのバッタは、タラバガニ味なんだ!!!??」
「さぁ……そんなこと俺に聞かれてもわからないです……」
「そうか!!!!!」
この世界を作った女神か、この世界のモデルになったゲームのクリエイターの趣味じゃないですか?
他の場所でも、しっかり調理を終えて食べ始めているらしい。
皆口々に美味いと行っている。
今日は、この感じで狩りを続けることにしよう。
調理法を教えていたアイたちが戻ってきた。
部長たちが料理している裏で、俺も調理していたので、それを受け取りに来た訳だ。
その量、なんと約70人前!
大鍋数個で作っている。
メニューは、ビーフシチューならぬ魔シカシチューだ。
それに、これはお店で買った普通のパンを付ける。
周辺で警戒してくれているアイたちと、ついでに待機している聖羅たちの分も作っている。
聖羅たちは自分で用意しろよと思ったけど、「私が協力する報酬は大試のご飯。あと、この護衛の人達は料理下手くそだから、ついでにお願い」と言われたので、まあどっちにしろ大量に作るならと請け負ったわけだ。
材料を包丁で切ったりなんだりする部分までは、ここに来る前に終わらせているからそこまででもないけれど、流石にこの量を作るのはなかなか大変だった。
昨日の夜は、焼けた端からアイたちが配るために持ち去っていたので、俺は大して食べていなかったりする。
とりあえず自分の分をよそって、それとは別に5人前をでかい皿に入れる。
スプーンを付けて頭の上に持ち上げると、一瞬でその姿が消えた。
ソフィアさんが持っていったんだろう。
「大試くぅん……」
俺も食事にしようとしたその時、すぐ近くから捨て犬のようなか細い声が聞こえた。
見てみると、へにょへにょになった仙崎さんが足にまとわりついていた。
「何しているんですか?」
「私のごはん……」
「錬金術でパパっとできないんです?」
「錬金術は万能じゃないし、私はもっと万能じゃないんだよ……」
ポーションとかプロテイン作るより、炭火で肉焼く方がよっぽど簡単じゃないか?
とは思ったけれど、なんか段々可哀想になってきて、仕方なく仙崎さんにも食事を出すと、がっつくように食べ始めた。
「あああ!先輩の作ったごはんににてるううううう!」と叫んでいたときには、取り上げようかとも一瞬思ったけれど。
周りを見ると、食事を終えたマッスル部員たちが、次の筋肉の材料とすべく獲物を探しに行こうとしていた。
俺もそう指示出そうとはしていたけれど、彼らは本当に野生が身についてきたらしい。
……しかし、あんな血まみれで嬉々として獲物を狩るようになった彼らは、日常生活に戻れるんだろうか?
一抹の不安を覚えながらも、スマホに入った聖羅からの「おかわり」というメッセージに応えて、また俺の食事は遅れていった。
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