第151話
2日目のお昼となりました。
今日になってから、現時点で3度の狩りを敢行しています。
マッスル部員たち曰く、最低でも1日5回の食事がしたいらしく、朝食、朝食と昼食の中間、昼食の狩りは終え、今は筋肉を労うべくもりもり獲物のタンパク質摂取中。
血に塗れ、骨付きの肉にかぶりつく様は、どうみても文明人ではない。
2日で随分野性味が出たな……。
でも、このままではだめだ。
多分だけど、今回の依頼において依頼者たちが期待しているのは、あくまで魔物と戦うときの心構えをさせてくれってことだと思うんだ。
ただただ野生児にしろってことではないはず。
野生を目覚めさせるってオーダーには対応できているとは思うけど、仕事である以上、できれば依頼してきた側の考えも汲み取ってやるべきだろう。
後から、「最初からそう言っていただろう?考えが及ばなかった君たちの責任だ」とか言って仕様変更を迫られても嫌だし……。
「食べながらでいいので、全員聞いて下さい!」
俺が呼びかけると全員のギラついた瞳がこちらを向く。
別に俺に敵意があるわけではないと思う。
ただ、彼らの中の野生がそうさせるのだ。
しかも、目覚めさせちゃったのは俺。
やっぱりやりすぎたかもしれない……。
「午後からは、集団での作戦行動を訓練します!実際に大型で強力な魔物の討伐任務についたときを想定して行うので、そのつもりで訓練してください!全員、ハンドサインは練習してきましたね?」
俺が確認すると、マッスル部員たちはそれぞれ大きく返事をする。
ハイと言うものもいれば、口の中に肉が入っていて話せないからと、大きく頷く者もいる。
ハンドサインは、合宿まえに配ったしおりに書いておいた。
難しいものではなく、前進、後退、偵察、〜人、突撃等など、単純なものをいくつかだけだ。
あんまり増やした所で、とっさに理解できなければ意味がないし、今回はサラッと覚えておけばいいだろう。
重要なのは、大声で話さなくても良いってこと。
野生動物を相手にするときはもちろん、万が一人間同士で戦う場合も、声を出さずに仲間と意思疎通できる利点は大きい。
攻撃する瞬間に大声を出して相手に恐れを抱かせるのもそれはそれで有効だけど、やっぱり一番有効なのは不意打ちだ。
隠密行動のためには、ハンドサインは重要。
もっとも、インカム使えばささやき声程度でいくらでも意思疎通を図れるわけだけども。
まあ、電波状態悪くて使えない場合も考えられるし、この世界なら魔術で邪魔される可能性もあるから、いろいろな手段を講じていくべきだろうさ。
「では、今から午後の狩り練習用の班分けをします!今回は、4人グループを小隊、それがいくつか集まったものを中隊として設定します!実際の作戦行動のときは、また別の形になるかもしれないので、あくまで仮のものだと思ってください!」
そうして、各小隊と中隊を決めていく。
昨日の夜から今までの間で、リーダーに向いてそうだなと思った奴を小隊長として任命し、更にそこに小隊員を入れている。
更に、小隊長の中でも更にリーダーに向いてそうな奴を中隊長に任命した。
ただ、あくまでもコレは仮のものなので、いろいろ自分たちで組み替えながら練習するように言ってある。
人には向き不向きがあるし、それはすぐに分かるものでもない。
更にいうと向いているかどうかと、やりたいかどうかも違うのも厄介だ。
まあ、こうやって現場に行かせる部隊であれば、本人がやりたくなかろうが無理やり行かせてしまえば必死で戦うだろうから、本人の希望を無視することは可能だけども。
「では、昼食が済んだら、一休みしてから始めます!各自、そのつもりでいてください!」
「「「「はい!!!!!」」」」
はい良いお返事。
肉……飲み込めたんだね……。
――――――――――――――――――――――――
「アイ、大きめの魔物を囲いの中に入れれる?」
『ボアで宜しいでしょうか?』
「それでいいよ」
『畏まりました各中隊の方面へ向かうように誘導いたします』
「流石有能」
『こんなのおやつ前です。あと、私はブラボー1です』
それじゃあ、午後の楽しい楽しい魔獣狩り訓練を始めるか!
「全中隊長、聞こえてる?」
『レッド隊!聞こえています!』
『ブルー隊!聞こえています!』
『イエロー隊……えっと……大丈夫です!』
『ホワイト隊!聞こえています!』
今回、4中隊を作った。
中隊長も小隊長も、こういうことは初めてだろうけれど、訓練だからこそできる無茶な初体験を楽しんでほしい。
レッドとブルーとホワイトに関しては、中隊長が2〜3年生なんだけど、イエロー隊だけは1年生だ。
かなり緊張していたけれど、向いてそうだったから任命しちゃった。
名前は忘れたけど、女の子だったはず。
「では、敵が見えたら、できるだけ気が付かれないように包囲してから攻撃を開始してください。動物は鼻がいいので、風向きを意識しながら行動してくださいね。まあ、今みなさんは魔物の血まみれなんで、人間の臭いはだいぶ消せているでしょうけど」
マタギは、得物の血を体に塗ることで、他の得物に見つからないようにするというテクニックを持つ者がいるらしいと前世で聞いた。
まあ、実際にできるかどうかはどうでもいい。
有効そうなら今後も使えばいいし、あんまり意味がないならやめりゃいい。
今は、とにかく彼らの気持ちの助けになれば良い。
そう、自分たちは、この国の戦力の一員として戦えるという自信をもたせるだけだ。
ただ野生のままに好き勝手に動くんじゃなく、組織としての戦闘で力になれるという意識を持たせてやらないといけない。
自信が持てるなら、迷信だろうが何でも利用しよう。
『レッド隊接敵、作戦開始します』
『同じくブルー、開始します』
『い……イエローもいきます……!』
『ホワイト隊、突撃します!』
突撃?包囲しろって……まあいいか。
実際の戦場だったら、現場の臨機応変さに頼らざるを得ない場面も多そうだしな……。
そうして、しばらく狩りを続けさせた。
アイに頼んで何頭も魔獣を送り込みながら、時々休憩を挟みつつ、夕方となった。
そろそろ限界ということで、全員をキャンプへと引き返させる。
「お疲れ様でした!食事を用意してあるので、食べてしまってください!」
彼らが狩ってきた得物をさばいて料理しておいた。
俺が持ってきた野菜類もふんだんに使っているので、筋肉への栄養が欲しかった彼らも喜ぶだろう。
……うん、飛びつくようにいったな。
そして、その知らせが聞こえたのは、突然だった。
『犀果様!高魔力体急速接近中です!』
「は?」
アイの切羽詰まる声に驚く。
それから俺も、なにか大きな力を持ったものが近づいてくるのを感じた。
俺のガバガバセンサーでもわかる高魔力持ち。
でもこれって……。
ドンッ!!!!
そんな轟音とともに空から舞い降りてヒーロー着地を決めたのは、セクシーなナイトドレスみたいなものに、魔女っぽい帽子と、でかいロッドをもった妖美な女性。
俺が知る限り最強のその生物は……。
「来ちゃった♡」
「母さん!?何しに!?」
母だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます