第278話
「その……何故東京に?京都にいたはずでは?」
「ただの観光ですよ?と言っても、もちろん本体は今も京都の地下深くに封印されていますけれど」
「観光……」
「ついでに、喫茶店の店員という一回やってみたかった仕事を体験しているところです。人生を豊かにする秘訣は、常に新しい発見をするようにすることです。新しい環境に身を置くのは、その一番の近道ですよ。といっても、尻尾1本分の身ですけれど」
尻尾1本分の体っていうのがどういうもんなのかすらわからない俺。
浅学なんだろうか?
この世界では、小中学校をすっ飛ばしてるから否定はできないけれども。
「そうそう!大試さんのお家の近くにできた新しい神社という所にも行ってみたいんですよね」
あ、そういえば、この巫女さん……いや、玉藻さんのことを、てっきりただの狐が化けた存在だと思っていたから、化けるたぬきの神社のことを話しておいたんだけれど、まさかあのときは、この人が九尾なんていういろいろなゲームで引っ張りだこの強キャラだとは思わなかったし……。
まあ、いいか……。
よく考えたら、あの神社も割とヤバい場所になってるし……。
ハチャメチャな事態になりかねない爆弾が2つ常に控えているわけだし……。
しかも、俺が定期的にリスティ様に会いに行く場所でもあるからか、新築なのに最近神聖な雰囲気がすごいんだよな……。
大精霊のソフィアさんが、「神域でも作る気か……?」と困惑していたくらいだから相当だろう。
今更大妖怪が増えた所で……。
あれ?俺の価値観バグってきてるか?
「行くときは連絡ください。うちのメイドが迎えに来てくれますから、デコトラで」
「え、デコトラ?」
「ドリフト走行もできますよ」
「それは……興味ありますね」
なるほど、玉藻さんはスリルに飢えているらしい。
身を滅ぼすぞ?
尻尾一本分だからたいしたことないかもしれんが。
「えーと……そろそろ注文してもいいかしら?」
「あら、無駄話が過ぎましたね〜。では、ご注文をどうぞ」
さすが会長、このヤバ気な場所で飲み食いする事を継続するらしい。
なんという度胸だ。
マジ惚れる。
するすると注文していく会長と、それを伝票にメモしている玉藻。
うん、ここだけ見ると普通の喫茶店なんだけれど、貴族のご令嬢にして巫女の生徒会長と、九尾の狐の分体にして巫女だったりアルバイト店員だったりする天狐なんだよなぁこの人たち。
属性多いな……。
「それでは、少々お待ち下さいね〜」
「はい」
絵画になりそうなほどの神々しさを放っていた美女2人の会話が終わり、玉藻さんが裏へ引っ込んでいった。
大丈夫……きっと人間でも安全に接種できる物が出てくるって俺信じてる!
「ところで、大試くん。今日私達がここに来た理由なんだけれどね」
注文を終え、少し静かになった店内でハラハラしていると、会長が唐突に切り出す。
そういえば、ストレス発散のためにデートをするって話だったけれど、それはあくまでおまけで、本来は何かお役目とかいうのを与えられてここに来ていると言っていたな。
「わざわざ水城が行くってことは、結構大事なのか?」
「そうね……、大事にならないようにって所かしら」
そう言いながら、会長は、カバンからなにかの書類を出す。
そこには、何かの模様が書き込まれている地図があった。
「大試くんは、私達武田家が、結界を張るのが得意だって事は知っているわよね?」
「はい、お義母さん……東京の結界も担当しているって絹枝さんが言ってましたね」
「そうね。まさにその東京の結界が、危なく破壊されるところだったらしいの」
「大事じゃないですか?」
結界と言っても、外からの攻撃を弾き返すような類のものではないはずだ。
魔物を中に入れないようにするための、虫よけスプレー的なものと聞いた。
そういう物があるからこそ、人が安全に住まう土地ってのは維持されているわけだけれど、それが壊されかけていた?
穏やかじゃないな……。
「ヴェルネスト聖国の13使徒に日本人がいたのは知っているわよね?」
「えぇ、会ったことはないですけれど」
「ソイツが、日本でテロを起こそうとしていたみたいなのよね。結界を破壊し、そっちに兵力が回されている間に、王宮に襲撃をかける計画だったみたい」
「田中って、そんなやつだったんだ……」
ってことは、恐らく田中は丸坊主の野球少年のような見た目ではなく、女性向け恋愛ゲームの攻略キャラっぽいロン毛なんだろう。
俺にはわかる。
顔写真は、ネットに載ってたから見たことあるけれど、髪型は覚えてないな……。
「王都を守る結界は、パワースポットと呼ばれているような場所に結界紋を描いて、そこから自然魔力を取り込んで作動しているの。そして、そこに田中容疑者たちは、時限式の魔術……いえ、呪いのようなものかしら?取り込む魔力を横からかっさらって、全部自分たちに都合の良い事で使い切ってしまうように作動するタイプみたい。トリガーだったはずの田中容疑者たちは、既にほぼ全員が、あの人妖化によって死亡しているみたいだから、まあ安全といえば安全なんだけれど、そのままにしておくのも危険だから、私が結界紋を修正する役割を受けたってわけね。そして、日枝神社もその結界を張るための基点の1つなのよ」
会長に言われて地図を見てみると、確かに地図に大きく描かれている紋様の頂点の一つが、この日枝神社になっているらしい。
……あれ?ってことは、この頂点の数だけ神社巡りしないといけないのか?
100個くらいあるんだけれど・…。
「どうやって修正するんだ?」
この場には、会長と俺しか居ない。
重要な機密かも知れないから、聞いておくなら今でしょ。
「そんなの簡単よ?」
そう言いながら、会長が収納カバンから何かを取り出した。
よく見ると、どうやら会長の実家で行われていたお祭りで、会長が神楽を奉納していた時の衣装だ。
綺羅びやかな巫女服って感じかな?
……ん?神楽?
「神社で神楽を舞えばいいのよ」
「……ちなみに、一回どのくらいかかるんだ?」
「1時間位かしら?
修行だなほとんど……。
「おまたしました」
会長は公私ともに忙しそうだな……なんて思っているうちに、2人が頼んだメニューがテーブルに並べられた。
お礼を言うために、声の主の方をみると、だいたい7歳くらいの可愛い女の子が居た。
巫女服を着ているのはもちろんだけれど、それより気になるのは、頭に狐っぽい耳が生えていることかな……。
うん、バチクソ可愛いわ。
「親の手伝いか何かですか?大変ですね」
一旦狐耳のことは忘れて、普通の女の子として接しようかな……。
そう思って世間話から入った。
「ちがうよ?私がてんちょーさんだから、ごちゅーもんを持ってきたの」
なんと、狐耳少女は、店長だった。
マヨイガじゃなかったら絶対起こらない事態だな……。
俺が、事態を飲み込もうとしている対面で、会長は会長で何かを考えているみたいだ。
うーん、うーんと悩んでいる。
何かヤバいことでも起きたんだろうか?
「……大試くん、ちょっと聞いて良い?」
「いいですけど……」
「この娘、死ぬほど可愛いから、連れて帰っちゃダメかしら!?7」
駄目です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます