第190話
休み時間になりました。
「というわけで、なんか知らんけど教頭からめっちゃ敵視されてる」
「じゃあ潰す?」
「ここ開拓村じゃないんだぞ?」
教会は、聖女様に対して数か月程度じゃ都会の流儀を教えることはできなかったらしい。
文明社会の一員という自覚が必要かもしれない。
っていっても、結局最後に頼りになるのは暴力だったりするのがこの世界なんだが!
「それで、教頭が聖騎士団長の叔父なんだって?」
「そうなんです!聖騎士は最近聖羅さんを独占しようと画策しているとの噂がありますし、その関係で婚約者の大試さんに絡んでいるのかもしれません!」
「あー……」
「やっぱり潰す?」
「いや落ち着け、まだそうと決まったわけでもないし……」
正直俺も、潰せば終わるならそうしたい程度には開拓村スピリットにあふれてるんだけど、流石にしっかり証拠固めしてからじゃないとまずい。
理論武装ってのは重要だ。
その上で暴力を振るわないと、ただの危ない人だ。
せめてルールを守る危ない人にならないとさ?いろいろとさ?
「今の聖騎士団長って、元々かなり強引な感じでそのポストに収まったから、貴族界隈でも評判悪いのよね」
「あ、そうなんだ?私あんまりそう言う話する相手いなくて……」
「理衣のとこは家族が堰き止めてそうだもんな」
「それもあるけど、お嬢様オーラ出てる人と話してると緊張しちゃうもん」
「侯爵家の娘が何言ってんのよ?」
現在、教室の端っこに固まってお話し中です。
俺達が固まってると、クラスメイトの大半は近寄ってこないため内緒話に丁度いい。
俺以外のメンバーは、1人でいると結構話しかけられてるけどもな。
「……犀果さん」
そう思ってたら、数少ないこのクラス内で会話できる女子のマイカが話しかけてきた。
「マイカ?どうした?」
「……最近、この教室の中に変な気配があって……。それが何かわからないんですけど、危ないもののような気がして……。でも私にはどうしたらいいかわからなくて……」
「あー呪いじゃないかな?ソフィアさんがそんな事言ってたわ。気配が弱すぎてよくわからないって言ってたけど」
「……そう……ですか……」
「魔眼でも見えないんだな呪い。もうそうなったら何か起きてから対応するしかないのかも?」
「……かもしれないですね……」
大精霊と魔眼持ちに辿れないとなると、本格的に後手に回るしかない。
厄介な感じはするけれど、わからない以上は注意しておくくらいしかできん。
となれば、今考えるべきは教頭の問題だ。
言いたい事は言ったとでもいう風に自分の席に戻ろうとするマイカも捕まえて皆で相談を再開。
「そもそもさ、聖騎士団が聖羅を独占なんて可能なのか?そんな権利無い気がするんだが」
「うん、部屋から出たらだめって言われても出る」
「その辺りの認識が無いんじゃない?15歳の女の子なんていくらでも脅して言いなりにできるとでも思ってんでしょ」
「聖羅さんが無理に外に出たがる一番の理由は、大試さんに会いたいからでしょうし、その執着する相手を排除したいのではないでしょうか?多少強引でも、大試さんを退学に追い込んだり、聖羅さんから大試さんへの好意を薄れさせることができれば……くらいの気持ちかもしれません」
「私は、大試とこれからも平和に暮らしていく世界を守るために態々王都まで来てるだけ。大試を排除するっていうなら私ももう帰る。お父さんとお母さんにも会いたいし」
「大試君が魔術を使えないっていうのも、攻撃しやすい弱点だって考えなのかも……」
小学校で魔術教えてる世界だもんなここ。
この世界の小学校行ってないけどさ俺。
結局休み時間に話し合うだけじゃそこまで具体的な対策案も出ず、とりあえず相手の出方を待ちつつ、知り合いの貴族たちにこうこうこういうことがあったんだと噂話として話しておく程度はしておこうということで落ち着いた。
不正を疑われた所で、俺に剣魔法以外に出来る事はないから、それを使って行われたことが他の人には不可能だから不正だと言われたらもうどうしようもないんだよなぁ。
その後は何事もなく授業を受け、帰りのホームルームの時間になった。
教頭とやりあっていた担任が教室にちゃんと入って来たので、とりあえずあのキレっぷりを理由にクビということは無いみたいだなと胸をなでおろす。
しかし、担任がホームルームを始めるように言おうとした時、教室の扉が開いた。
「犀果大試!お前に対する処分が決まった!」
そう言ってドタドタと入って来たのは、我らが教頭先生。
ぼくの処分?結局証拠が見つかったのかな?
「おい教頭!アンタいったい何を」
「上善寺君は黙っていなさい!これは、学園上層部で既に決定している事なんだよ!」
担任が教頭を止めようとするけれど、そんなの知った事かと続ける教頭。
心なしか、朝より頭部の砂漠化が進んだように見える。
「犀果大試には、3週間後の実技試験において、1人で受験することを命令する!単独の能力によって、この学園に在籍するに足る実力があると証明するように!対戦相手は、学園での信頼も厚い
教頭がドヤ顔で宣言すると、1人の男子生徒が立ち上がった。
「承知しました。学園の誇りを損う愚か者の化けの皮を剥いで見せましょう!」
そう言ってこちらを睨む男子生徒。
ごめん、名前どころか顔も知らんけど、もしかして噂の小河内君?
俺達、一応クラスメイトみたいだけど、話したこと無いよね……?
「教頭先生!その試験内容はおかしいです!一人対複数なんて!」
委員長も立ち上がって言ってくれるけど、多分話聞かんぞこのオッサン。
「おい教頭!そんな決定職員会議でも出てない筈だが!?どこの誰が決めやがった!」
「ハン!学園長だよ。たかが一教師が口を出せる話ではない!」
学園長ってそんな偉いんだろうか?
担任がまったく口出せない程の権限?
いやぁ……そりゃないだろ?
かなり無茶な事してないか?
「なら今すぐ学園長に抗議して来てやる!」
「勝手にしたまえ。だが決定は決定だ。さぁ犀果大試、自分で確認すると良い!」
そう言って、教頭が俺の机に一枚のプリントを叩きつけて教室から出て行った。
「ちょっと待ってろ犀果!今すぐ確認してくる!」
「先生!私も行きます!うちが報告した内容に疑いを持つというのであれば、これは佐原侯爵家の問題でもありますから!」
追いかけるように、担任と委員長も教室から出て行った。
騒めくクラス。
俺の仲間たちのかなり怒っているっぽい雰囲気に包まれながら、俺は机の上のプリントを読んで、その中の一部の記述に思わず笑いが漏れる。
そこには、「魔術による不正を防ぐために、武器は銃を使用する事とする」と書かれていた。
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