第189話
目の前のソファーに、担任と教頭が座っている。
教頭に話しかけられたのは初めてだな。
あんまり生徒と仲良く話しているイメージは無い。
俺とも仲良くなる気は無さそう。
「さっさと座れ!」
「はぁ……じゃあ失礼します」
早速帰りたくなっている気持ちを我慢し、教師たちの対面のソファーに座る。
何でこんなに最初から喧嘩腰なんだろうか?
なんかしたっけ?
少なくとも、教頭相手に何かをした覚えはない。
担任は、俺がやらかした時に色々フォローさせられたんだろうなとは思うけど、教頭は知らん。
試技エリアぶっ壊しの責任でも取らされて減俸でもされたか?
でもそれ俺悪くないもん!
「なんで呼び出されたのかわかっているな?」
教頭が聞いてくる。
「わかりません」
俺は、素直に答える。
知るかってんだよ、と答えなかっただけオブラートに包んだつもり。
「なんだねその態度は!?上善寺君!君はいったい担当の学生に何を教えているんだ!」
「いやまだ説明してないでしょうよ。詳しい内容を知ってる訳無いですって」
「教師の君がそんなんでは困る!まったく!」
怒ってらっしゃる?
なんで?
「この誇りある王立魔法学園において、まさかこのような不正を行う者が現れるとは思わなかったよ私は!どう責任を取るつもりかね!?」
「……」
「返事をしなさい!」
「……え?俺?何の話ですか?」
「貴様が行った不正の話だ!」
「だから、何の話ですか?」
「あくまで惚けるつもりか……!?」
いやいやいや、何が不正だと判断されたのかすら俺にはわからないんだけども?
具体的に言ってくれよ……。
怒ってても何も解決せんよ?
怒って解決するなら今すぐストレートにパンチだ!
「上善寺先生、具体的には俺のどの行動が不正だって騒がれているんですか?それを話して貰うために呼ばれたと理解していたんですけど?」
「ああ、そのつもりだぞ。それでだな、今までも色々言われてはいたんだが、今一番騒がれているのが、先日の佐原家の護衛任務だ。普通の魔術を扱えない犀果が、京都自治区の周りに現れる強力な妖怪と呼ばれる魔物を倒せるのかという物言いでな……。俺は、目の前でアホみたいな火力の技を見せられているから信じられるんだが」
「嘆かわしい!そんなもの何かの詐術に決まっているだろう?試技エリアを覆う結界を単純な火力で破壊するなど、俄かには信じがたい!ましてや、ファイアボールすら使えないこんな子供にできるわけがない!恐らく、そう見えるように精神や記憶を操作するスキルやギフト、もしくは魔道具を所持しているのではないかと我々は見ている!」
そんな便利なものねぇよ!寧ろ俺の方が欲しいわ!
そう言う搦め手用の奴をさ!
ところで、気になる事言ったなおっさん?
「我々……とは?」
おっと、上善寺先生も気になったようだな。
俺もだ。
一応学園側として話しているように見えるけど、少なくとも担任は違う考えでここにいるらしい。
そうなると、学園の総意として不正を働いているという認識なわけでは無いはず。
誰かなその人たち?
「貴様らが知る事ではない!それより、どうなんだね!?どういう手段で不正を働いたのか今すぐここで自供しなさい!」
「いや、してませんよ?」
「まだ言うか!?」
「逆に聞きますけど、俺が不正をした証拠ってあるんですか?」
「普通に考えて、貴様の戦火はありえないからだ!」
「それは証拠って言いませんよね?もし証拠扱いするとしても、状況証拠でしかないのでは?」
「聞いた風な口をきくな!状況証拠だけでも十分立件はできるんだぞ!」
「教頭!落ち着いてください!」
ヒートアップする教頭を担任が抑える。
フーフー言ってるもん。
逆に、他の人達より教頭の方が感情弄られてそうな状態だぞ?
だとしても俺にはわからんのだけど。
ソフィアさんだったらわかるのかな?
俺にすらついて来ているのかどうかもわからない位完璧に隠れてるからなぁ……。
「犀果、もういい分かった!とりあえず今回はこれでいい!教室に戻って授業受けろ!」
「あー……はい、わかりました。冷静な会話できそうにないですもんね。失礼します」
俺が多少煽ったのもあるのかもしれないけど、思ったより教頭が怒っちゃってる。
こういう時は、とにかく逃げるに限る。
「まだ話は終わっていないぞ!勝手に開放するな!」
「うるせー!担任の俺が良いって言ったら良いんだよ!その残りすくねぇ頭のゴミを伐採するぞ!学園に通ってた時からウゼェと思ってたんだ!」
「何だと貴様!?それでも誇りある王立魔法学園の教師か!?」
「どこかのお偉いさんに良い顔するために確たる証拠も無しに生徒疑うクソに言われたかねーんだよ!」
「き……貴様あああああ!!」
扉を閉める
流石は、国一番の学園施設だ。
防音がしっかり効いてるな。
明日、担任はちゃんと学校に来れるんだろうか?
多少気にはなったけれど、まあ俺にどうこうできるわけでもないしと開き直って教室に戻った。
既に1限目の授業が始まっていたため、扉を開けた瞬間クラスの注目が集まる。
この雰囲気は苦手だなぁ……。
授業中にトイレのため席を立つくらいの緊張感……。
「犀果君、話は聞いています。席につきなさい」
「はい」
先生に促されたので自分の席に座る。
何の話を聞いているのかわからんが、まあいいか。
結局どういう話になるのか俺にもわからなかったし。
仮に今回の事が原因で退学とかになったら、聖羅たちが学園にいる間は帝都に残って魔物倒してお金貯めておくかな?
入試についての不正も疑われてたし、最も成績の良い生徒が集められる1組から他のクラスに移動ってなったら、コミュ障の俺としては知り合いと話されて困るけど、まあ卒業まではいるかな……。
正直、王都に関する俺の興味は、自分の仲間たちがいる事くらいだからなぁ……。
あとは、魔王をどうしようかって感じかな?
少なくとも、今何かコソコソ企てているって訳ではないみたいだし、こっちとしても戦力的に勝てるのかどうかもわからんから手出ししないけどさ。
授業の内容も半分程聞き流しつつ考え込んでいると、隣から白い手がスッと伸びてきて、俺の机の上に小さく折りたたまれた紙を置いて行った。
見てみると、隣の席の有栖が何かジェスチャーをしている。
でも、わからん……。
まあいいや。
つまり、この紙を開いて読めって事だろ?
折りたたまれた紙を開くと、そこには小さくメモがされていた。
えーと、何々?
『現在の教頭は、教会の現聖騎士団長の叔父』だって?
へぇ……。
多分何か大変な事なんだろうけれど、学園にちょっとウンザリしている俺の疲れた脳には、有栖の不思議なジェスチャーが可愛いなという情報しか伝わらない。
俺の反応を見て、有栖のその白い顔がムムっとなり、更にジェスチャーが激しくなる。
「有栖さん、どうかしましたか?」
「え!?な……何でもありません先生……」
「授業中ですのでお静かに願いますね」
「はい……」
多分俺のせいでこうなったんだろうけど、やっぱり有栖が可愛いって事しかわからなかった。
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