第188話

『大試く~ん?どうしたのかな~?班にならないの~?』

『皆もう班になってるし……』

『う~ん……ねぇみんな~!大試君も仲間に入れて上げて~!』

『『『え~?』』』


 蘇るは、前世の小さかったころ。

 子供ながらに、この世界はクソだなと思っていた。

 自分のコミュ障っぷりが悪かったんだろうけど、だとしてもあの空気はもう二度と味わいたくないと思う。

 まあ、それ以降も何度となく味わったわけだが。


 だが!今は違う!

 俺には大切な仲間たちがいる!

 このクラスの中だけでも、会話できる対象が5人はいるんだからな!

 グループ行動も可能だぞ!

 それどころか、俺は既に課外活動で試験をクリアできるはずだし!


「先生!」

「どうした委員長?」

「私と犀果君は、課外活動による加点で実技試験は免除でいいんですよね?」

「あー……いや、それなんだが……」


 おや?

 先生の顔が渋いぞ?

 どうした?トイレか?


「委員長は、全く問題なくクリア扱いになっているんだが、犀果の方はちょっと待ったがかかってなぁ……」


 小ではなく、クソのほうでしたか。


「それはどうしてですか!?規定は満たしている筈です!」

「俺もそう言ったんだが、今朝の職員会議で『魔術をまともに扱えない生徒が本当にこの報告通りの活躍ができるとは思えない。何か不正があったのではないか!?』って教頭たちが騒ぎだしてな……」

「どういう意味ですか!?佐原家が不正を働いたとでも!?」

「いや俺が言ったわけじゃないって!ただ、そう叫ぶ声が大きいのも事実でな?その事で後で犀果と話をしないといけないと思っていたんだ。というわけで犀果、ホームルーム後に職員室……いや、生徒指導室に来てくれ!以上解散!」

「あ!先生!」


 当事者の俺を放置して、担任と委員長の間で行われた議論の応酬によると、俺は不正を疑われているらしい。

 不正って何だ?


『委員長、この写真をばら撒かれたくなったら……わかるよな?』

『そ、それは!?私が寝ながらヨダレたらしてる所!?どうしてそんな写真が!?』

『しかたない、佐原侯爵家の全力を持って犀果様のために不正を働くんだ!』


 って感じ?

 俺も悪よのう……。


「つまりどういう事だ?」

「アンタが誰かに凄い嫌われてるって事じゃない?」

「言うじゃないかリンゼ。反論できないのが悲しい」


 実際嫌われてるんだろうさ。

 このクラスの中に限定したって、何人かはいつも凄い睨み方してくるもん。

 名前知らんけど、男子生徒が何人かと女子生徒が2人くらい?

 表面上の部分だけ見てもそれなんだから、心の内ではどうかなんてわからん。

 桜花祭で一緒に戦った娘達は、そこまで悪感情向けては来てないけど、逆に敵に回った奴らのお気持ち表明が厳しい。

 逆恨みだろ!って言いたくはなるが、人間の感情なんて合理性でどうにかなるもんじゃないしな。


「大試、どうするの?」

「ん?んー……普通に試験受ければいいんじゃないか?」

「でもこの感じ、アンタ狙い撃ちで試験厳しくされてたら、試験自体まともに受けられないんじゃない?」

「流石にそれは……あるかも?」

「私は、大試さんの味方ですからね!」

「ありがとう。まあでも、できるだけ自分で何とかするよ。王女様に投げっぱなしだと、逆に反感買うかもだし」

「うっ……そうですか……」


 幼馴染たちの暖かい声が目に染みる。

 ただ、この状況でも「あ~やっぱり試験が免除なんてそんなうまい話はなかったか~」と思っている自分もいて、理不尽には慣れてきたんだろうなという悲しい自覚をしてしまった。


「私も大試君の力になりたいけど、うーん……京奈ちゃんの家に真っ向から喧嘩売れるってどこからの物言いなんだろう?猪岡家も侯爵家だから、あんまり力になれないかも」

「いや、気持ちだけ受け取っておくよ。ただ、今気になっているというか、試験が免除されなかった事なんてどうでもよく感じるくらいの問題はさ、『試験は、4人チームで行う』らしいって事かなぁ……」

「「「「……あっ」」」」


 仮に、今ここにいる俺の婚約者たちと一緒にチームを作るとしても、1人余ってしまう。

 メンバー替えて2回受ければいいんであれば別に俺は構わないけど、なんかその辺りも対策されてそう。

 なんなら、俺だけ1人チームで参加しろとか言われそう。

 流石にそれはないか?この世界に疑い持ちすぎ?


「犀果君!私も一緒に抗議に行くから!」

「いや、いいよいいよ!とりあえず一回話聞いてくるから、委員長は待っててくれ」

「でも……」

「下手なことして委員長の内申下げられてもアホらしいし、まずは俺一人で行くよ。どうしようもなかったら手助け頼むかもだけどさ」

「……うんわかった。じゃあ、お父さんに連絡入れて強めの苦情入れてもらうだけにするかな」

「あー……はい」


 本当に、侯爵家が「こいつはオッケーな!」って言ってる状況で、それに真っ向から反対できるのって何者なんだろうな?

 この国の権力構造は、他の世界から転生してきた俺からすると結構歪だなって気はするけど、それでも侯爵家に対して堂々と反対できる立場ってなると、侯爵以上の爵位持ちか王族、或いは……うーん……よっぽどデカい企業とか、宗教関係?

 でも、そんな所が俺個人標的にするだろうか?

 暇人すぎない?


「とりあえず、担任と話してくるわ」


 心配そうな仲間たちを背に生徒指導室へと向かう。

 ……この状況で何だけど、生徒指導室って前世も含めて初めて入るかもしれない。

 ちょっとだけワクワクする。


 場所しか知らなかったその部屋は、今まさに俺を待ち構える魔窟と化していた。

 ふふふ……自分が呼ばれたってだけでここまで緊張するとは……やるじゃないか生徒指導室!


「失礼しまーす!」


 俺は、ノックと挨拶をしてから部屋の中に入る。

 すると、そこには2人のオッサンがいた。

 1人は、もちろん担任のオッサン。

 もう1人は……。


「遅いぞ!何を考えている!?」


 頭が寂しくなった、哀愁を感じる教頭先生だった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る