第187話
今日は火曜日。
本来であれば、月曜日が祝日でもない限りはその週の登校2日目にあたる日だ。
だけど、俺は京都に行っていたから昨日は休んだわけで。
そうなると、待っているのはなんだか行き辛い雰囲気の教室。
もともと大して馴染めている訳でもないのに、他の人達は1日授業を多く受けているんだ。
前世でも、風邪で何度か学校休んだこともあったし、別に初めてというわけでもない。
だけど、何度やっても慣れないものだ。
慣れるような頻度で休んでたら大変な事になるかもだけど。
そういや、たまに部活の関係で休む人もいたよな。
彼らも登校する時には、こんな感じで緊張したんだろうか?
それとも、凱旋気分でやってきてたんだろうか?
俺は、それを聞ける友達もいなければ、帰宅部以外の部活に入ったことも無いのでわかりません。
因みにだけど、王都に来て2日目のリリアさんは、アイによる王都観光ツアーに行ってもらってます。
王都に関して下手したら俺よりも馴染みが無いかもしれないリリアさんに、少しでも早く生活に慣れてもらおうと思って俺からアイに頼んだ結果そうなったらしい。
出来ればリリアさんにも、俺と同じように田舎から出てきたからって事でここに通ってもらおうと考えているんだけど、流石に昨日の今日では中々な……。
リンゼならできるが。
奴は、この世界に転生してから存分にお嬢様という身分を使いこなしているらしい。
素直に尊敬する。
「あ、大試さん!お早うございます!」
「おはよう有栖、今日も早いな」
「はい!聖羅さんもお早うございます!」
「うん、おはよう」
今日は、できるだけ早めに教室に入り、他の生徒が来る前に慣れさせようと思って来たんだけど、既に有栖が机に座っていた。
他に生徒の姿はない。
「何か用事でもあったのか?」
「実は、昨日宿題が出まして……」
「やるの忘れたのか?」
「いえいえ!大試さんさえ良ければ、私がお教えしようかと思って早く来ただけです!」
「あぁ……そんな、いいのに。知りませんでしたって言って終わらせれば……」
「いけません!ただでも大試さんの成績は不当に下げられているのに!」
「え?そうなの?」
不当に下げられてるの?
ってか、本人が知らないの成績をどうして知ってるの?
怖いから聞かないけど。
「はい!学園側にそう言う動きをする一派がいるらしく、公平を規すべきだという教師たちと揉めているそうです!」
「ふーん……まあ、まともに魔術も使えないんだから、魔法学園にいるの自体おかしいのかもしれないけどなぁ……」
「そんな事はありません!大試さんは、わざわざ国の要請で学園にまでやってきているというのに……」
そうだった、俺は強制的にここに入れられているんだった。
帰れというなら帰るけどなぁ……。
その場合帰る理由も考えてからにしてくれよ?
多分エルフの集落と開拓村ってそこまで離れていないっぽいし、その気になれば気軽に里帰りできそうなんだけど、大っぴらには言えんし……。
母さんみたいにひとっとびなんて化け物じみた事は出来んからなぁ。
「大試がここ辞めるなら、私も辞めて村に帰る」
「いや、折角学校通えてるんだから、仮に俺がいなくなったとしても卒業はしとけよ」
「嫌、帰る」
「もしそうなったら私も大試さんについていきます!」
「有栖も落ち着きなって……」
ぶっちゃけると、別に王都で就職したいわけでもない俺からしたら、この学園を卒業したからと言って特別何かが変わるわけでもないんだよな。
多分ゲームの舞台だったからここに貴族子弟が集まるシステムが作られてるだけだろうしさ。
学園卒業しないと爵位を継承できないとかのルールはあるのかもだけど、その辺りはよくわからん。
でも、父さんが開拓村の辺りを管理する貴族に任命されて、俺がその嫡男だから学園卒業しなくちゃダメ言われてもさ、開拓村の人たちからしたら「あ?お前らが認めるとか認めないとか知るかよ」って感じだろうし。
仮に、開拓村側が不服従だからって王都から戦力が差し向けられても、多分勝つのは開拓村側だ。
下手をすると、ある程度開けている道を通ってきて見つかるのが嫌だからって魔物がウヨウヨいる森の中に入り全滅って事もあり得る。
王都の貴族たちからしたら、そこまでして攻めるメリットも無い土地だと思ってるだろうしなぁ。
たまたま俺が聖羅たちがいる学園に行くのも悪くないかなって思ってるのと、父さんが素直に爵位受け取ったから今の状況になってるだけで、案外いつガラッと変わってもおかしくない立場なんだよな。
あーでも、だからこそそんな奴が王女様や公爵家や侯爵家の娘たちと婚約してたら腹立つか?
しかも聖女様までだからな。
そこに加えて、この前は四国で本格的な戦争に発展する前に色々仕事熟したって事で褒められたし、俺をやっかむ貴族もそりゃいるか。
あれ?それを考えると、俺って結構危ない立場?
前から危ない立場だって事は理解してたけど、その危なさが限界突破し続けてない?
「まぁいいか!考えても仕方ない!宿題の範囲教えてくれ。できるだけ自分でやってみる」
「そうですか?『上杉龍子』が日本史に与えた大きな影響について考察し、レポートにまとめるというものなのですが……」
「…………ごめん、やっぱり教えてくれ。さっぱりわからないわその人」
「そうなんですか!?わかりました!お任せください!」
「じゃあ私もお願い。宿題サボるつもりだったけど、大試がやるならやる」
「わかりました!」
「いや、俺関係なく宿題はやれよ」
「嫌」
そして、あたかもしっかり自習したかのように見えるレポートをでっちあげた。
へぇ、龍子さんは日本で初めてテイマーっていうジョブを受けた事が確認されてる人なんだ……。
その力を使って、佐渡島ダンジョンから現れたと推定されている巨大なドラゴンを単騎討伐したと。
しかも、てふ子様のライバルだったって?
ライバルって、何のだよ……。
「おはよ。何よアンタたち?随分早いわね」
「あ、リンゼおはよう」
リンゼも今日は早かったらしい。
皆で挨拶をした後、リンゼもレポートの宿題を出して、意見を出し合う。
といっても、これに関しては皆ただの暇つぶしだ。
思ったよりサクサクと宿題が終わってしまったから、まだ先生が教室に入ってくるまで大分時間がある。
そのまま織田信子の歴史についてという気になる話題に移りかけた時、新たに教室に入ってくる者がいた。
「あれ?大試君たち早いね!おはよう!何してるの?」
「おはよう、理衣も来たのか?ちょっと日本史の勉強をな」
「へぇ……?」
何でそんな事をこの朝っぱらからしているのかわからないという顔の理衣。
それはそれとして、何故か朝から婚約者5人中4人が集まってしまった。
これでもう会長まで来たら、ゲームをモデルにしたこの世界だと、絶対に強制イベントがおき
「ソフ……理衣さん!大試君の机……って本人がいるじゃない!大試君!これ昨日言ってたリストね!急がないけど早めだと嬉しい!全部じゃなくても1つでも解決してくれたら助かるの!それじゃあ私は朝から何故か職員会議に呼ばれてるから行ってくるわね!」
「あ、はい」
5人目が揃ったけど、すぐいなくなった。
これなら、強制イベントも起きない……か?
リストを見てみると、撤去された倒木の有用な処理方法の提案とか、近所のお祭りにボランティア参加する生徒の募集とか、猫の霊の召喚方法の確立などなど、色々な項目がある。
こんな細かいことまで生徒会の仕事なのか……。
「大試、どうしたの?」
「聖羅、この中から何か解決できそうな問題あるか?会長が困ってる事リストらしい」
「わからない。強いて言うなら、夏休みに食堂で出される期間限定メニューの提案とか?」
「それって、俺が考えたのを聖羅が食べて決めるって意味か?」
「うん」
「そうか……」
「修学旅行の行き先の選定……は流石に私たちには難しいのではないでしょうか?」
「会長にも多分難しいと思うけどな……誰だこれ会長に振った教師は?」
「これなんてどう?学園敷地内にある池の生態調査よ。外来種か魔物かわからないけど、在来種ではない生き物が大発生中だって」
「じゃあリンゼが音頭とって、池の水抜くか?」
「正直やってみたいのよね!」
「理衣は何か気になるのあるか?」
「うーん……じゃあ私が気になるのは……変なキノコが異常発生してるらしいから、それの駆除とか?」
「どんなキノコか知らないけど、そのキノコとってると気が付いたら理衣が何故か全裸になってたりすんのかな?」
「どうして!?」
皆と話していると、段々と他のクラスメイト達もやってくる。
委員長もこっちを見て手を振っていた。
まあ、すぐさま他のクラスメイトに捕まってこっちに来る事はできなかったようだけど。
あと来てないクラスメイトは……あ!
エリザ来てないじゃん!
いつも起きてくるの遅いから、新しい家に来てからはアイに任せて先に学園に来てるんだけど、そう言えば今日はアイもリリアにつきっぱなしか。
一応起きるように連絡のメッセージだけ入れておこうか。
エリザも俺と同じくらいこの学園卒業する必要がない側だしな……。
結局ホームルームが始まる時間になってもエリザは来なかったけど、「今日具合が悪いからやすみま~す」というメッセージが届いた。
……これ、もしかして俺が先生に連絡しないといけないの?
どういう関係性だって説明するんだ……?
……いや、リンゼの親戚だって事になってるんだからリンゼに頼むか?
俺が隠蔽工作に悩んでいると、耳元で姿を消してついてきているソフィアさんの声がした。
「大試よ、大試よ」
「どうしました?」
「なんかのう、嫌な気配というか……呪いを受けておる者がこの教室の中にいる感じがするんじゃよ」
「呪い……ですか?あの京都の妖怪に含まれてる奴でしたよね?」
「そうなんじゃ、妖怪みたいな感じなんじゃが……しかし完全な妖怪ではない感じもするのう……?憑りつかれとるんかのう?エルフで大精霊のワシくらいの感知性能無いと全くわからんくらいの微小の反応なんじゃよ」
うーん、俺には全くわからんなその感覚。
聖女ということで呪いとかにも強そうな聖羅も見た感じ反応していないっぽい……か?
他のクラスメイトも同様。
入って来た担任の先生の話を聞いているだけ。
「その嫌な気配を感じ始めたのっていつ頃ですか?先生が来る前と後だけでもわかれば……」
「あの教師が来る前からじゃ。じゃけど、詳しくはわからんのう。正直、なーんか嫌な感じがするのう?って暫く思ってて、それがさっきやっと呪いだって気が付いただけじゃし……」
となると、俺にはちょっとどうしようもないかな?
毒物だってなったら剣でどうにかできるけど、浄化魔法が必要な類だろう?
「……というわけで、3週間後に行われる学期末試験の実技試験は、新型の試技エリアでの特定条件下チームバトルになった!1チーム最大で4人だから、それまでにメンバーを決めておくんだぞ!」
ソフィアさんと話していて大部分聞いてなかったけど、最後の最後、先生なんつった?
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