第4話

 エクスカリバー。


 それは、かのアーサー王伝説で出てくるめっちゃすごい伝説の剣である。


 岩をバターのように斬ったり、作品によってはビームを放つ。


 そしてその鞘は、持ち主を不老不死にしたりしなかったりする優れもの。


 有名すぎて、世界中でゲームに出てきたり亜種が生まれたり武器の名前にされたりしている。


 ただし、日本だとアーサー王伝説自体がそこまで知名度高くないため、アーサー王自身より剣の名前の方が有名という状態になる程の剣だ。




 倶利伽羅剣。


 不動明王が持つとされる剣で、炎と化した倶利伽羅竜王が宿るとされる。


 これ持ってると煩悩に打ち勝てるようになるらしい。


 不動明王の像がよく持っているので、知らないという人でも一回は教科書等で見たことがあるアレ。




 木刀。


 木でできた刀。


 刀としてだけではなく、棒としても使える万能道具。


 一般人は、主にお土産屋で買う。


 俺は、江戸のテーマパークで買った。


 買ってから10分で後悔した。






 和洋折衷というか、剣なら何でもありなんだなこのガチャ……。


 剣と刀の区別も特にないし……。


 その内、刃がビームで構成されてる剣とかでてきそう……。




 とりあえず、倶利伽羅剣を握ってみる。


 ボーボー燃えているエフェクトはあるけれど、少なくとも俺にはこの炎の被害は及ばないようだ。


 周りの3人も、特に熱さは感じていないっぽい。




「派手だなぁ……。絶対人間用じゃねぇ……」


「これはもちろん本物じゃないわ。でも、作ったのは多分落ちこぼれとはいえ女神だから……。あの娘、こういうの作るのだけは得意で、神としての仕事ほっぽりだしてでも創作作業してたくらいだし……」


「へぇ……」




 リンゼとかなりスレスレの神ネタ会話をしているけれど、残りの2人は剣に夢中で話を聞いていないらしい。


 そりゃそうだよな。


 だって目の前で剣が燃えてるもん。




「何にせよ、これで俺は木刀だけの男じゃなくなったわけだ!」


「大試!エクスカリバーの斬れ味は素晴らしい物でした!是非、そのクリカラケンというのでも何か斬ってみてください!」


「確かに使い心地は確かめないとな。木刀の方は、何しても壊れる気配無かったけど、こっちはどうなんだろうなぁ……。そもそも、壊れたら無くなるのか?それとも、もう一回呼び出せば元通りなのか……?エクスカリバーの2本目は出せないっぽいけど……」




 ブツブツと呟きながら剣を構える。


 狙うは、近くに生えてる普通の木。


 この辺りで一番多く生えてて、物凄く頑丈な木材になり、成長もとても速いというこの村の主な収入源だ。


 この木を材料に建てた家は、塗料を塗らなくても木材が腐ったりすることも無く、仄かな檜のような香りが漂う落ち着いた空間となる。


 開拓村の家は、全てこの木で作られているけれど、今の所どんな大雪や嵐、台風に見舞われても倒壊していない。




 そんな頑丈な木に向かって、手に持つ倶利伽羅剣を振り上げ、そのまま最短距離で斜めに振り下ろした。


 すると、予想に反して何の抵抗もなく刃が幹を通り抜ける。


 あれ?空振りだったか?と思った次の瞬間、幹が斜めにずれ、断面から大炎上を始めた。




「うおお!?」


「ちょ!?水!水持って来なさい!」




 慌てる俺を尻目に、案外冷静に火への対処をしてくれる女の子たち3人。


 リンゼは、消火の陣頭指揮を執り、有栖は剣で底上げされた身体能力で水桶を探しに村へ。


 そして、聖羅は水魔法で一瞬で火を消した。


 うん、一瞬で。




「これが、正統婚約者の力だから」


「相変わらず聖羅の魔術はすごいな……。婚約者じゃないけど」


「本当に……。しかも、今のただの水じゃなくて、聖水じゃない?」


「そうなの?わからない。比べられるのが、留美さんくらいしかいないから」




 まあ、母さんの水魔術は、鉄砲水とか土石流みたいなやつだしな。




「持ってきましたよ!桶です!」


「それ風呂だよ姫様。むしろどこから持ってきた?」




 火が消えて落ち着いた所で、この剣の性能情報を整理してみよう。


 まず、装備しているだけで身体能力が2倍になる。


 そして、切ったもんが燃える。


 空気までは燃えてないし、ある程度の燃えやすさは必要って事か?


 そこらの物質全て燃えてたら困るけど、斬ったもの限定と言う事ならまあ……。


 とはいえ……。




「色々派手で、やっぱり使いにくいなこの剣!対人用じゃねぇ!」


「斬るごとに火事起こしてたら溜まったもんじゃないわね……」


「エクスカリバーと打ち合ってみませんか!?」


「どんなに燃えても、私が居れば平気だから。これで2人一緒にいる必要性が増えた」




 やっぱまだ落ち着いてなかったわ。


 むしろ、よく目の前で訳わからない剣を出されてもとりあえず受け入れてくれてるなこいつら。


 リンゼはともかく、聖羅と有栖は、俺のギフトが特別製かもしれないなんてこと知らないだろうに……。




 やっと俺自身が落ち着いてきたところで、ふと気がつく。


 何故か、ポケットの中にガチャチケットがまた入っていた。




「なんかガチャチケが貰えてる」


「それって、またレベルアップしたって事じゃないの?」


「えー……?魔物なんてさっきのウサギ以外倒して無いぞ?木を斬っただけだ」


「そうね……ってちょっと待って!?」




 リンゼはそう言うと、慌てて周りに生えてる木を確認し始める。


 先程俺が斬って燃やしてしまった木と同じ種類で、ここらでは一番メジャーな木だ。




「これも……こっちも……上位種のトレントじゃない!?」


「とれんと?」


「木の魔物よ!なんで始まりの村にこんなもんが生えてんの!?これって、中盤以降に会う奴のはず……もしかして、周りの森いっぱいにこれが……?」




 リンゼがガクガクブルブルしている。


 そんなヤバイ木なのか?


 魔物って言ってたけど、俺はこいつらから攻撃を受けた事なんて無いぞ?




「本当にこれトレントなのか?普通に俺たちは、小さい時からこの木の周りでうろちょろしてきたんだけど?」


「そこよね……。どうしてこんなに大人しいのかしら……」




 女神様、どっしり長考の構え。


 王女様は、飽きてトレント狩りをしている。


 そんな中、1人だけドヤ顔で説明するタイミングを待っているっぽい女児がいた。




「聖羅、何か説明したいことがあるんじゃないか?」


「やっぱり大試は私の事わかってくれる……これが愛……」


「そのドヤ顔見ればわかるよ。それで?」


「聖女ってギフトを持ってると、植物の声が聞こえるようになるの」




 へぇ。


 それは凄い。


 でも、なんかこんなド田舎だと死ぬほど煩そうだな……。




「この木たちは魔物だけど、この辺りは魔力も栄養も水も豊富だから、わざわざ獲物を狩る必要が無いんだって。栄養とか魔力が少ないと、獲物を殺して自分で肥料を作らなきゃいけないけど、ここではじっとしてる方が効率がいいみたい」


「魔物なのに合理性の塊みたいな奴だな……」


「嘘でしょ……聖女ってすごいのね……アタシそんな機能実装した覚えないけど……」




 食虫植物みたいに、栄養が足りない土地で生きるせいで、虫という外部からの栄養素を取り入れるように進化して、そのせいで栄養のある土だと逆に枯れるようになっちゃった奴らって事なんだろうか。


 だけど……。




「俺たち、結構バッサバッサこいつら切り倒してたけど、抵抗する気はなかったのか?」


「大試にお義父さんとお義母さんが強すぎて、抵抗しても無駄だってわかっちゃったから、今は大人しく種の存続のために家畜みたいに振舞ってるんだってさ」


「うちの両親すげぇな。魔物理解らせちゃってんのか。あと、なんで義ってつけた?」


「……?」


「まあいいか……」




 俺が知らないだけで、俺の住む村は、かなりの人外魔境だったらしい。


 トップが更に人外の戦闘力を持ってただけで。




「これである程度わかったわ。その倶利伽羅剣、恐らく燃やすのは魔物や、所持者が燃やそうと思った物ね」


「へぇ。燃やそうと思ってなくても、魔物なら燃えるって事か。ってことは、森の中だと封印だな……」


「でも、アンタさっきまたガチャチケットっていうのもらえたんでしょ?引いてみればいいじゃない!」




 そうだった!俺にはまだガチャがある!


 確認してみると、6枚もあるようだ。


 ということは、木を斬り倒しただけで6レベルも上昇したわけだな?


 この理性的なトレント、角つきウサギよりは大分強かったらしい。


 角生えたウサギとか、理性的じゃないもんな。生きるの辛そう……。




「さぁてと、いっちょ引きますか!」


「……ちょっと、アタシだけ引いてないんだけど?」


「引きたいのか?」


「別に!」


「……いやぁ、俺って運無いから、誰か引いてくれる人いないかなー?」


「しょうがないわね!やってあげるわよ!」




 俺からガチャチケを受け取り、早速破いてガチャを引き始めるリンゼ。


 実際、俺の運は常に売り切れ状態なので、代わりにひいてくれるならそれに越した事は無いけど……。




 リンゼが出したカプセルを開けてみると、中から出てきたのは、電気がほとばしるようなエフェクトがついている日本刀だ。


 剣魔法で見てみると、名前は雷切というらしい。




 雷切(SSR):電撃による追加ダメージを与えることが出来る!逆に相手の電撃を切り裂いたり、電気を纏う相手に追加ダメージを与えられる!電気を纏う相手へのダメージが100%上昇!装備時に身体能力を100%増加!




 だってさ。


 雷切って何本かあったはずだけど、どれがモデルなんだろう?


 どれだとしても、俺には見分けがつかんけど……。




「またSSRか!しかもアホみたいに目立つエフェクト付きだ!もうちょっと大人しいのよこせよ!」


「でも燃え上がってばかりの剣よりはマシでしょ!?」


「そんなこと無い。恋は燃え上がるもの」


「もしかしてなんですけど、エクスカリバーってとても扱いやすい剣だったのでは?」


「結局、最後に頼りになるのは単純な性能してる奴だったりするよな……」




 まあ、性能で考えるならSSRの剣はどれも大当たりだ。


 相手が物凄い強いモンスターであるなら、とても強力な武器となるだろう。


 普段持ち運べるような代物じゃねぇけど……。


 これで、そこらの魔物相手に戦ったら、害虫駆除にナパーム弾使うようなもんだろうな……。




「よし、残りの5枚は俺が回すぞ。5枚からまとめて回せるみたいだし、そんだけあれば普段使いできる普通の剣も出るだろ」


「ホントに?アンタってそんなに上等な運してる?」


「失礼だろお前、いくら俺でも5回に1回くらいは当たり引ける程度の幸運はあるはずだ」


「どうだか……」




 俺は、ガチャチケを5枚一気に破り捨てる。


 そして、目の前に出現したガチャを回す。


 ゴロゴロと転がり出てくるカプセルたち。


 高まる期待!


 1個目、木刀!


 2個目、木刀!


 3個目、木刀!


 4個目、木刀!






「あのさ、アタシの目に狂いがなければ、全部木刀じゃない?」


「流石だね大試、きっと木刀の神様にも愛されちゃってる」


「でも、まだ1つ残ってますよ?」


「あんまり淡い期待持たせたらダメよ」




 好き勝手言いやがって……。


 何事も、残り物には福があるって言うだろ!


 俺は、この最後の1つに全てをかけるんだ!


 うおおおおおお!




 打刀(R):地面に立った状態で使う事を前提とした刀剣!馬にのって使う事も考えられた太刀よりは短い!今日本刀といえば大体これ!装備時に身体能力を20%増加!




「よっしゃあああ!金属製だああああああ!」


「嘘でしょ!?大試なのに木刀じゃないの!?」


「打刀の神様まで誑かしてるんだ……」


「この刀は、ビームとか出せるんですか?」




 どうだ見たか!?


 是こそが諦めずに継続するという苦行の果てに与えられる褒美だ!


 あーいい……変なエフェクトも特殊効果も無い……刃が奇麗なだけの刀……。


 どこでも使えて便利そう……。




「それにしても、やっぱりこれも神剣なのね……」


「こんなんでも?木刀は材料がすごかったってことで納得できるけど、これただの刀だぞ?確かに刃の文様は凄く奇麗だけどさ。オーロラみたいだ」


「ただの刀でも、作ってるのが神なら十分神剣足りえるのよ。特殊な能力が無かったとしても、刀自体に神気を纏ってるから、物理攻撃無効って設定の相手でも斬れるんじゃない?」


「何それ便利」




 引継ぎ女神様、よくわからないけどありがとう。


 でもな、普通の魔法を使えるようにしてくれても良かったんだよ!?


 あとガチャに木刀ばっか何本入れてやがんだ!


 こんなもんいくつもあってもどうしたらいいんだよ……。




 まあでも、普段戦う時はこの打刀か木刀で、止めにSSRのバ火力2本のどっちか使うって形での運用がいいかな?


 森の中だと炎系はまずいけど、雷ならまだマシだろうし……。


 俺は、剣魔法以外の魔法は使えそうにないし、どんなに難しくても剣の方で対応していかないといけないんだよなぁ……。




「俺も魔法使いたい……」


「今使ったじゃない?」


「俺の思ってたのと違う……」


「我儘言ってないで、そろそろ帰った方がいいんじゃない?暗くなってきたわよ?」




 言われてみると、確かにもう夕方も終盤と言った感じだ。


 王様もほったらかしだし、さっさと帰るか。




「そういや、健康問題なくなったなら、クマ捕ってくる必要なくなったのか?」


「久しぶりに大試がつくるクマ鍋食べたいから大丈夫」


「私は普段あまり多く食べられないんですけど、今日は人生で一番お腹が空いてる気がします!」


「……今更だけど、クマって食べ物なんだ……?」




 家に帰ると、既に両親が帰って来てクマを解体していた。


 王様も手伝いに入ってたけど、有栖が俺のギフトで健康体になっていることを知り、感激のあまり有栖を肩車したまま村中を駆け回って騒ぎになった。


 聞いたところによると、俺の両親と王様は、学生時代に一緒のグループになって魔物を倒していたんだとか。


 その伝手で、王様は娘の体にいい素材が無いかと家の両親に聞いていたらしいけれど、まあここに有栖が来なければエクスカリバーを受け取ることも無かっただろうし、長旅も無駄ではなかっただろう。




 夜は、俺と父親と、何故か国王様が外の遠征用テントで寝た。


 母親と、有栖とリンゼは家の中だ。


 寝たと言っても、父親と国王はほぼ朝まで飲み明かしていたみたいだから、なんならテントもいらなかったかもしれないけど……。






 そして翌朝。




「わざわざ来てもらったのに、大したもてなしもできなくて済まんな」


「何を言う!お前の息子のおかげで、俺の娘はとても元気になった!これ以上の喜びは無い!」


「もし次に症状が出るようならまた来なさいね。クマも新しく捕ってあげるから」


「助かる!」




 国王と親し気に話す両親に、改めてヤバイ物を感じる俺。


 本当にすげー人たちだったんだな……。




「大試さん、この剣のお礼は必ずします。王都にお越しの際は、絶対に城まで来てくださいね?約束ですよ?」


「わかった。今の所行く予定はないけど、いつか行ってみたいな」


「はい!お待ちしております!」


「アタシももう帰るわ。見た感じ、今そこまでサポートが必要ってわけでもなさそうだし、アタシはアタシで忙しいしね!王子の婚約者って立場は大変なのよ!」


「もうスカートで飛んでくるなよ?」


「わかってるわよバカ!」




 護衛対象である姫様が驚くほど健康になっている上に、本来は数日滞在していく予定だったのに、エクスカリバーのおかげで即帰れるようになったため、健康になった有栖はもちろん、護衛の兵士たちもニッコニコだ。


 出迎えが遅れたことでキレ散らかしてたおっさんまでニッコニコ。


 よかったよかった。




「ではな!また会おう!」


「よしなにー!」




 そう言い残して、国王陛下並びに王女様は帰って行った。


 それとは別に、リンゼは、ドレスの代わりに俺用の革作業着を着て飛んで帰って行った。




 王都に行ったら城に来いとは言われたけれど、ゲームで学園だかに通う聖女とその護衛になる聖羅たちはともかく、俺は多分この辺境で暮らしていく事になるだろう。


 だから、もしかしたらこれが今生の分かれになるかもしれない。


 リンゼだって、飛べるとは言え王子様の婚約者なのだから、気軽に来ることもできないだろうしな。


 ……俺のサポートも刑に入ってるらしいけど、それは大丈夫なんだろうか?


 まあでも、よしなにの意味を聞くの忘れたこと以外は、良い出会いだったよ。






 10年後、15歳になった俺が、まさか本当に王都に行くことになるとは思わなかったけれど。






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