第48話

「お待たせニャー」


「うぅ……」


「ううむ……」




 大猫騒動の翌日。


 解決策が用意できなかった俺は、不安になって朝から理衣さんの所にファムを向かわせた。


 そして、案の定猫になっていて、しかも何故か人間に戻れずにいた理衣さんをファムが発見。


 昨日のやり方で人間に戻れないならもうどうしたらいいかわかんねぇ……。


 逆に、何で昨日はあんな簡単に戻れたんだ?




 というわけで、電話越しに途方に暮れかけていたら、ファムが「良い方法があるニャ」と言っていたので任せてみた。


 てっきり人間に戻す方法かと思っていたんだけど、気がつけば目の前に首に紐を結ばれた理衣キャットがいる……。




「理衣さん、確認するけど、そういう趣味だってわけじゃないんだよね?」


「違うよー!?」


「こうしておけば外を出歩いてもそこまで問題起きないニャ。金持ちは、でっけー動物を連れ歩いて悦に浸るイメージあるしニャー」




 そうだろうか?


 果たして日本にどれだけ朝っぱらから通学路でジャガーサイズのイエネコを連れ歩くバカがいるだろうか?


 多分ポリスに捕まる。




「にしても厄介だなぁ。寝てる間に気がついたら猫になってて、しかも人間に戻ったら服が消えてて全裸になるんでしょ?」


「え!?服が消えるの!?」


「いや、昨日人間に戻った時全裸になってたじゃないか」


「うーん?私、寝る時服着ないからそのせいじゃない?」






 ……え?




「全裸で寝てるのか?そんな西洋かぶれな感じなの?」


「大試君はそうじゃないの!?」


「普通はそうじゃないと思う……。いや、俺の常識が間違ってるのか?少なくとも聖羅は昔から毛皮製モコモコパジャマを愛用していたけど……夏場でも……」


「そうなんだ……。でも、私は小さい時から寝る時に身に着けるのは香水だけって言われてきたよ?」


「そういや侯爵令嬢だもんな」


「『そういや』ってどういう……?」




 金持ちはその辺りやっぱり違うのかな?


 ホテルでは外国人が全裸で寝るからって掛布団と人間の間にシーツみたいなの挟んであったりもするし、西洋文化が強めで俺の前世の文化とは違うのか……?




「ニャーも寝る時は全裸ニャ」


「ファムはそれでもおかしくない気がする。服着るのめんどくせーニャーとか言いながら」


「ニャーは魔族だと結構良いとこのお嬢様ニャ!」


「そうなんだ……?」




 それは……ちょっとグッとくる要素かもしれない。


 だけど魔族って自白するな。


 周りにいるのがこのちょっとポンコツ入ってる猫じゃなかったら世間にバレて討伐されるぞ。




「え!?ファムさんって魔族なの!?」


「そうにゃ!魔王軍幹部だったニャ!今はコイツに負けて使役されてる侍女だけどニャー」


「そうなんだー。魔族って意外と身近にいるんだねー?」


「そうでもないニャ。たまたまこいつが色々引き寄せてるだけだと思うニャ」




 ほらな?


 この娘良い子なんよ。




「理衣さん、コイツが魔族だってことは内密でお願いします……」


「いいよー!」




 はぁぁぁぁ、良い子!


 自称お嬢様の魔族カミングアウトさんとは出来が違う!




 ただ、まだ問題は何一つ解決していない。


 どうしたらこの猫化を克服できるのか。


 多分ギフトによるものだろうという事しかわかっていないんだよなぁ。


 あと、ゲームの方だとこれはネコの怨霊の仕業だって話だったけどこの世界でもそうなんだろうか?




 何より、あんまり時間がかかってると学校の時間になっちゃうんだよなぁ……。


 理衣さんも流石に2日も無断欠席は危ないだろうし……。


 スマホで時間を確認すると、あと1時間でホームルーム始まる。


 できればそれまでになんとか1回人間に戻したい所だ。




「うそ……アナタ……ソフィアなの……?」


「「「え?」」」




 後ろからの声に3人で振り向く。


 すると、そこには驚愕顔の会長がいた。


 まだ目の下には隈が残っている……。




「ソフィア……ソフィア!ソフィアぁああ!」


「えっなん!えええ!?」




 そのまま理衣さんに抱き着いてすりすりし始めた会長。


 何が何だかわからずなすがままの理衣さん。


 何この状況?




「ヤベェな。収拾つかねぇ」


「こいつヤベェやつだったんだニャ……」


「見てないで助けてよー!」


「ソフィあ……そふぃあ……」




 どうしようかと思ってたけど、30秒ほどで会長は寝落ちした。


 安心安心。


 ……いや、これはこれでどうしようか……?








「で、テレポートゲートの宿泊施設に連れて来たわけだけど、会長全く起きる気配ないな」


「でも理衣から離れないニャ」


「どうしてー……?」




 ホームルームまであと40分。


 緊迫してきたぜ……。




「とりあえず、ファムは理衣さんの部屋にテレポートして制服と下着とか一式とってきてあげて」


「わかったニャ」


「ご迷惑おかけします……」




 2作目のメインヒロインらしい会長に相談すれば、一瞬でこの猫化イベントも解決するんじゃないかと淡い期待を持っていた時もあったけど、まさか猶更混沌とした状況になるなんて思わなかったなぁ……。


 3作目以降の主人公とかメインヒロインに心当たりはないし、こうなったらやっぱり聖羅に頼んで聖女パンチか……?




 いや、やっぱりそれは最後の手段にしておきたいな……。


 可哀想だしな……。




「理衣さん、もう一回昨日の人間に戻るやつやってもらっていい?朝はたまたま失敗しただけで、今やったら成功するかもしれないしさ?」


「もうやるだけやってみるしかないよね……やってみる!ギフトを解除して……人間に……!」




 すると、輝きだす理衣さん。


 昨日と同じように、光の中で人間に戻って行った。




「……えー!?なんで今度は普通に戻れるのー!?」


「……あー、まあそれはそれでいいんだけどさ……はい上着」


「え?…………いやあああああああああああ!」




 そんな所まで昨日の再現をしなくてもいいとは思うけど、今日は会長が抱き着いているため隠すのが体の半分で良かったのは幸いだったのかもしれない。




「やっぱりラッキースケベ用という美少女に持たせるには最高の神ギフトか……?」


「嫌だよー!」


「…………んっ……んん?ここは……?」




 俺達の騒ぎで会長が目を覚ましてしまったようだ。


 猫がいなくなって混沌さは減ったけれど、全裸に男の上着を羽織っているだけの女に自分が抱き着いて寝ていたこの状況をどう判断するのだろうか?




「……これどう言う事?」


「話せば長くなるんですけど……」




 やっぱり自分ではわからなかった様子。


 まずどう話せばいいかを考えるのに時間が欲しい……。






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