第199話

「さぁやってまいりました注目の一戦!ただの実技試験のはずなのに、スタンドが観客で溢れかえっております!実況は私!アイドル活動同好会代表!1年2組!仙崎花梨せんざき かりんが務めさせていただきます!」


 ステージ衣装みたいな服を着た女の子が、即席っぽい台の上でくるくる動きながらマイクで喋ってる。

 今なんつった?実況?そんなんあるの?


「まずは、今回の実技試験を受験する選手の紹介から!」


 そう言って、女の子が俺の方をビシッと見てくる。

 あ、選手って俺の事なんだ?

 選手……選手?選手なのか?

 ただの試験のはずなんだけど……。


「赤コーナー!今回の実技試験が大注目される原因となった1年生!今年お父上が爵位を賜り、急遽この学園へとやって来たダークホース!短期間にありえない程の功績とやらかしをしてくれた期待の超新星!犀果ー!大試ー!」


 ワー!と観客から歓声が上がる。

 何なのこのノリ?一応手を上げて応えておくけど……。

 そして手を上げると更に歓声が大きくなった。

 ちょっと怖い……でもちょっと気持ちいい……。


「続きまして青コーナー!ここまで相手に不利な状況で戦って恥ずかしくないのかとあらゆる方面から言われておりますが、彼は彼で指示されて試験相手を担当しているだけという事をご理解ください!我が学園の教頭の息子!リーダーの、小河内こがうちー!熙史ひろふみー!」


 リーダーの……なんだっけ?

 こが君?の紹介の後に、チームメイトたちの紹介もされる。

 多分クラスメイトなんだけど、話したことも無いから顔も名前もよくわからん。

 だいたいさ、皆名前が難しいからわかんないんだよな。

 そう言うゲームだったんだろうけどさ。


 あんまりな紹介で会場中から乾いた拍手とブーイングが起きている。

 流石に相手が可哀想になる。

 いや、そりゃあからさまにアレな感じだけど、そんな四面楚歌な状態なの?

 てっきりある程度味方を作ってからここに来てるのかと思ってたんだけどな。


「よく来たな蛮族。俺はこの日を楽しみにしていたぞ。今日こそは、お前に呑まされた煮え湯の借りを返させてもらう!」


 飲ませた覚えないが?

 どこかで何かしたっけ?


「えーと、すまん。煮え湯と言われても身に覚えがない。お互い楽しめたら良いなと思ってる」

「……覚えがない……?楽しむ……!?」


 あ、なんか相手チームがめっちゃ怒ってる……。

 でも、俺何もしてないよな!?

 だって話したのも多分これが初めてだと思うぞ!?


「さー!早くも互いに煽りあっています!この舌戦に会場のボルテージも上がっている模様!初めての実況に緊張していた私の下もやっと回り始めました!」


 初めてだったんだこの子?

 ベテラン顔負けの話だと思ってたんだが。


「これより、今回の実技試験のルール説明をいたします!今回の実技試験は、例年と大幅に変更されて対戦形式となっております!更に!犀果選手の実力に疑問を呈する方々の意向で、犀果選手は得意の剣の使用を禁じられています!武器は互いに銃を!それ以外の魔術や魔道具の使用は自由ですが、犀果選手は基本的に魔術や魔道具が扱えないとの情報もあり、大変不利な条件となっています!それをどうひっくり返すのかが注目されますね!」


 まあ、剣が使えないってのは確かに俺にとって不利かもしれないけど、武器が銃限定って時点で多分俺の方が慣れてると思うんだよな。

 ここにきて相手の動きを見てわかったけど、あっちも普段から銃をメインで使ってるわけじゃなさそうだし。

 それでも、4人で撃ちまくれば倒せるだろって思っているからこそのこの試験なんだろうけども。


「勝利条件は、相手のチームを全滅させるか、相手の護衛対象を破壊、もしくは奪取すること!死亡判定をされる程のダメージを負った選手は、試技エリア外へと転送されリタイヤとなります!仮にリタイヤとなっても試験が不合格というわけではなく、あくまでそれまでの行動で採点されますのでご安心ください!」


 この辺りの説明は、事前に書類で通達されていたから聞き流す。

 銃の動作チェックと装備の確認を黙々と行う。

 何故か俺がそうしていると相手がイライラしていくんだけど、どうして……?


「それでは、両チームリーダーは、各チームで用意した護衛対象をこちらへ!」


 そう言われたので、俺は用意しておいた物を持って行った。


「……えーっと?これが護衛対象ですか?」

「うん」

「……どうしてスイカなんですか?」

「これが終わった後皆で食べようかと」

「あー……そうですか!」

「それに、もし撃たれたらリアルな感じに見えるらしいよ」

「えー……?」


 ちょっと引かれてしまった。

 でも昨日スーパー行ったら安かったんだもん。

 どうせ撃たせるつもりも無いし、何でも良かったんだ。

 元々は、指定されてないんだから撃たれてもいいようにゴミ袋か何かで良いんじゃないかって思ってたけど、流石に皆に止められた。


「こちらはこれだ!」

「おおっと!?これは高価そうな壺ですね!?」

「ああ!重要文化財に指定されている平安初期の作品で……」

「そんなものをここで出すって正気ですか!?」

「は!壊されなければいいだけだろう?丁度いいハンデだ!」


 何のハンデだ?

 俺が壊したら文化財破壊したってことなるから逆にやり辛くね?

 まあ必要なら容赦なく壊すけどさ。


「これで、両チームの準備は整ったようです!ではこれより試技エリアへの転送を行います!各チームは指定の転送紋へと移動してください!」


 この試技エリアは、前につかった奴とは違って、エリア内に疑似的な空間を作り出しているらしく、そこに転送紋を使って俺たちが送り込む形になっているらしい。

 といっても、ダンジョンやアイたちが扱っている転送紋とは違い、あくまで仮想空間にいれるだけの疑似的な物らしいけれど。


 転送紋の上に立つと、すぐに景色が変わって森の中になった。

 正面には、ちょっと大きな山が見える。

 背後には大理石で出来た台座があり、そこに俺の大切なスイカが鎮座していた。

 安心しろスイカ君、必ず俺が守ってやる。

 まあ終わった後食うんだが。


『スタート地点は、マップ中央の山エリアを挟んで互いにマップの両端からとなっています!両チームとも健闘を祈ります!それでは、レディィィイイイイイイイ…………ゴー!』


 ……あ、試合開始もこの子が決めるのか?

 てっきり審判がいるのかと……。

 まあ評価はしてるんだろうし、いいか。

 俺は、3秒ほど出遅れながらも、スーツを起動して走り出した。



 ―――――――――――――――――――――――――――



 やっとあの蛮族を始末できる!

 この試技エリアは、設定を変えられていてあの男だけはダメージの無効化が行われない!

 俺達は、当然それを知らないことになっているし、否定する証拠も無い!

 怪しく思われた所で、確定さえされなければそれでいいんだ!


 何にせよまずは、あの男を追い詰める所からだ。

 奴は、狙撃銃を持っていた。

 4人相手に真正面から戦う事は不可能に等しい。

 だから、離れて狙撃することで対抗しようというんだろう。

 そうなると、本来であれば隠れられて厄介な所だが、今回のルールであれば護衛対象を守る必要があるために逃げられない。

 だから、奴が取れる手段は2つくらいだ。

 あの山の上をとり、狙撃ポイントからこちらの頭を押さえ、護衛対象に近づかせないようにするか、若しくは、多少不利だとしても、護衛対象の周りで待ち構えて、やってくる俺達を狙い撃つか……。


 いずれにせよ、こちらは人数の有利を活かして、蹂躙すればいいんだ。

 どうせ奴は素人、剣を取り上げられた剣士に何ができるというんだ?

 今回のルールで狙撃銃を選んだことからも、銃を使った対人戦に慣れていないことが分かる。

 狙撃とは、才能と努力によって培われた技術によって生み出される芸術だ。

 素人が付け焼刃で狙撃銃を持ったところで、身体強化を使って動き回る俺達に当てられるわけがない。

 だから、俺たちの作戦はとてもシンプルだ。


「全員、作戦通りに直進だ!山の頂上をとり、そこから相手の護衛対象のエリアまで向かうぞ!」

「「「了解!」」」


 こいつらも、あの蛮族には腹を立てている。

 平民上りが調子に乗ったのだから当然だ。

 このまま速攻で終わらせるのもつまらないから、頂上を取った後はじっくり追い詰めて行ってやろう。

 相手が2人以上いるのであれば、守り1人を残して迂回しながら攻めていく奴を警戒しなければいけない所だが、相手は1人だけだ。

 下手に回り込もうとしたところで、こちらのほうが先に敵陣地に到達するのだから、そんな作戦は立てないだろう。

 もう俺の頭には、あの蛮族を甚振るイメージしか無かった。


 身体強化をつかって、山の斜面を全員で駆け上がる。

 どうせ相手は、身体強化すら使えない雑魚だ。

 だからと言って手心を加えるつもりはない。

 相手が動けるうちは……だがな。


「頂上についたら横に間隔を広げて進むぞ!奴を追い込むんだ!狩りのつもりで行け!」


 俺がそう指示を飛ばした瞬間、山の向こうから何かが噴き出すような、若しくは爆発音の方な物が聞こえた。

 そう頭が捉えた次の瞬間には、超高速の黒いものが目の前に迫っており……。


「ぐぼあ!?」

「あ、悪い!死ぬなよ?まだ死なれたらつまんねーから!」


 それが蛮族の膝だとわかった時には、俺の体は、空中で回転してから斜面に叩きつけられていた。



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