第26話

「魔王様に命令されて、ニャーがどんだけ世界中飛び回ったと思ってるニャ!?」


「知らないし!ウチはウチの力だけで生きるって決めたんだから!」


「だいたい玄関から出て即消失ってどうやったらできるにゃ!?神具で探したのに見つからなくて危なく泣く所だったニャ!!反応出たと思ったらダンジョンの中にいるし!入れ違いにならないためにわざわざボス部屋にジャンプするのってたどんだけ大変かわかってるニャ!?」


「だって封印されてたんだもん!女神に!」


「それでこのザマニャ!?ついこの間までメリケンサックしてそこらの不良魔族叩き潰しながらエナドリ飲んでたくせに、何で今更そんなギャルファッションでニンゲンといるにゃ!?トッコー服どうしたニャ!?」


「高校デビューしたの!ウチはギャルになるって決めたの!人間の料理食べて100年はこっちで暮らすの!」


「あーこれだから!これだから人間の食べ物を与えないように皆で注意してたのに!魔族のクソマズメシじゃないとエリザベートお嬢様はすぐお腹いっぱいになっちゃって魔王様みたいに強くなれないニャ!」


「あー言った!クソマズメシって言った!分かっててウチにずっと食べさせてたんだ!?もう帰ってやんない!」


「わーん!小学生の時は生粋のお嬢様って格好だったのにどうしてこんなにグレちゃったニャー!?」




 エリザベートさん、エリザベートさん、君そんなキャラだったん?


 この前までトッコー服着てたん?




 でも、困ったぞ。


 このニャーニャー言ってる人、滅茶苦茶強そう。


 強者の放つ圧みたいなのが半端じゃない。


 具体的に言うと、酒を飲んだ時の母さんくらい。


 ろれつが回らなくなって魔法使いとしては弱体化するはずなんだけどな……。




 それに、俺にはあんまり魔力を操る才能がないらしくて、どのくらいの高等技術なのかはよくわからないけど、雷切で雷を出す時みたいな、魔力によって作られる通り道みたいなのが常に至る所に作られてる。


 雷切だと、その中に雷を通すけど、このニャー娘さんは生身でそれをやっているようだ。


 でも、何のために……?


 ジャンプとか言ってたのと関係があるんだろうか?


 テレポート的なもんかな?




 できれば、こっちに気がつかないでそのまま帰ってくれんかな……?


 何なら、エリザも連れて行っていいよ。


 こっちで召喚しなおせばいいから。




「……で、そっちのニンゲンは何ニャ?」


「ちょっと!大試に無礼な態度とったら許さないから!」




 おっと、早速俺の希望が潰えそう。


 エリザベートさん頑張ってくれ。


 お引き取りになってもらって。




「この人は、ウチのご主人様なの!責任とって養ってもらう事になってるの!」


「…………………………………………あぁ?どういうことニャ!?ニンゲン!!!!!」




 はい、平和的解決できませんでした。


 なんだよご主人様って……?


 ……あ、俺が使役してるんだっけか?


 だからって、女の子に自分をご主人様と呼ばせる趣味なんて俺には……悪くないか?




「魔王様の1人娘に手を出すのがどういうことかわかってるニャ……?お前……もう終わったニャあよ?」


「無駄だとわかってるけど、誤解だと宣言しておきたい」


「問答無用ニャ!!」




 ニャー子さんが踏み込む。


 人間と根本から違いそうな筋肉の盛り上がり方をした脚が、1歩目から驚異の加速を生み出す。


 完全に大型肉食獣の動きだな……。


 魔族って言うのがどういう類のもんなのかしらないけど、実家の周りに出没するクマよりは何倍も強そうだ。




 俺は、瞬時に倶利伽羅剣と雷切を具現化して両手でつかむ。


 エリザを召喚してから出しっぱなしのホーリーグレイルと合わせて身体能力が300%増加されているけれど、まだこのネコ娘さんとやりあうのは難しそうだ。


 残りの枠は、少しでも増加量を稼ぐためにSRの疱瘡正宗を出して、あとは木刀を具現化してニャー娘に蹴り飛ばす。




「そんな小細工が効くわけないニャあ!!!」




 一瞬で木刀を弾いて直進してくるネコ。


 だろうとは思ってたけど、木刀に他の使い方が見当たんねーんだよ!


 一本持って帰るか!?5000円で売ってやる!




 ニャー子さんが、ネコみたいに伸びた爪で切り裂きに来る。


 ただの爪であれば、神剣なんていう大層な代物らしいこの剣たちでただ受け止めるだけでもいいんだけど、あの爪からはなんだか嫌な感じがする。


 だから、倶利伽羅剣による炎上効果も載せて受け止めた。




「ニャ!?どうやって!?」


「普通なら受け止められない効果でもありましたかお姉さん!?」




 俺に攻撃を止められて驚愕しているらしいニャー子。


 でも、それはこっちも同じこと。


 だって、倶利伽羅剣で燃やせなかったんだもん。


 何あの爪?




 ここで鍔ぜりあっているのも嫌なので、雷切で雷を出しながら切りつける。


 だが、今度は完全に空ぶった。


 ……というより、ニャー子さんが消えた。




 気がついたら、大分離れた位置にいるニャー子さん。


 移動するのなんて全く見えなかったし、目で捉えられない程のスピードで動いたという感じでもなかった。


 これが、ジャンプと言ってた奴か。


 じゃあ、常時展開してるあの魔力の通り道は……。




「……どういうことニャ?ニンゲン、その剣たちは何にゃ?教えてほしいニャ」




 先程までとは違い、随分落ち着いた様子になって聞かれる。


 どうしたんだ?


 すごい澄んだ目になってるんだけど?




 剣について、教えろって言われてもな……。


 これは俺の生命線だし……。


 でも、ビビって帰ってくれるならそれでもいいか?




「これは、俺がギフトでもらった剣だ。女神様お手製の神剣らしいぞ?」


「神剣……ニンゲンが……」




 何やらショックを受けている様子。


 なんだ?神剣が欲しいのか?


 今なら木刀を1本15000円で売ってやるぞ?




「ニンゲン、お前に失礼な態度をとったことを謝るニャ」


「……は?え?はい……?」


「神剣を与えらえるということは、何かしら神様に縁があるか、世界のために尽力した者ニャ。そんな奴に、いきなり斬りかかるのは不味かったニャ」


「そうです…ね?」




 うん、基本誰に対してもいきなり斬りかかっちゃダメだと思うぞ?


 反省してな?




「……誤解が解けたようですので、ここらで仲直りしません?とりあえず、そこの結界みたいなの解除してもらえるとありがたいんですけど?」




 俺も今しがた気がついたんだけど、俺と他の仲間たちとの間に結界が出来上がっていた。


 音も振動も通らないけれど、光だけは通るようで、向こう側で有栖とエリザが遮二無二結界に攻撃している。


 リンゼも魔術をいくつか放ったけれど、効果がないのを見てから何か方法が無いか伺っているらしい。


 あの様子だと、俺が内側から攻撃した所で破壊できそうにないな……。


 マイカも目を虹色に輝かせてるから、魔眼で結界のほころびでも探してくれているんだろうか?


 あの、魔眼と遠隔魔術の組み合わせは、どうやら結界を挟んで使えるわけではないらしい。




 ちょっと怖いのが、聖羅が結界に手を当てながら、鬼気迫る表情で何かをブツブツ言ってる事。


 アイツ何する気?聖女パワーで叩き割ったりできるのか?




「それはできないニャ。確かにいきなり斬りつけたのは悪かったと思うニャ。でも、ニャーはお前と正面から戦いたくなったニャ」


「嬉しくねぇ……」


「これは、お前の意志は関係ないニャ。まあ、魔族の中には結構強い奴を見たら戦ってみたくなる質の連中がいっぱいいるから、今後は気をつけたらいいニャ。ここで生き残れたらニャ?」


「はぁ……それはどうも……」




 先程までとは打って変わって、なんだかウキウキワクワクな表情のニャー子。


 これが、命がけの戦いをしようっていう誘いの真っ最中じゃなければハートフルな光景なのかもしれないけれど、今この場では狂気しか感じない。




 その狂気の瞳をこちらに向けながら、ニャー子は仁王立ちで叫ぶ。




「我は、ファントムキャットのファム!ニンゲン!名前を言うニャ!」




 なんだか、正々堂々とした決闘みたいな雰囲気出してるけど、これ、強制イベント状態だからな?


 ふざけんなよ?




「あーもう……犀果大試!これでいいか?」


「構わないニャ。それと、もしかしたら話せるのこれで最後かもしれないから、聞いておきたいニャ」


「何にゃ?」


「真似しなくていいニャ」




 んだよ?さっきから聞いてばっかりだなアンタ?




「お嬢様にエッチな事とかしたニャ?」


「してねーよ!」


「なら良いニャ」


「え?そんな簡単に信じていいのか?」


「難しい事は考えたくないからニャ。それでも、聞いておきたかっただけニャ」




 話は済んだとばかりに、先ほどの時と同じように踏み込みの体勢をとるファム。


 やっぱり仲間による結界の破壊は間に合わないらしい。


 覚悟を決めるしか無いようだ……。




「いざ尋常に、勝負ニャ!!!!!!!」




 相変わらずわけのわからない加速力を見せつけて飛び込んでくるファム。


 武器は持っていない。


 攻撃は、自分の肉体を使ったものに限定されるんだろうか?


 あの爪による切り裂きが、通常であれば防御不可能な物であったとしたら、先ほど何とか受け止められた倶利伽羅剣か、それと同格の雷切でもないと打ち合えないと考えた方が良いだろう。




 速いけど、直線的な動きで突っ込んでくるファムに対応するべく構えていたけれど、フッとその姿が消えた。


 それと同時に、あの魔力の通り道みたいなの反応が強まった感覚と、更に防御不可らしい爪の嫌な感覚が後方からした。




「うおっと!!!!?」




 殆ど反射的に体を捻り、背後へと倶利伽羅剣を振る。


 そこには、今しがた姿を消したはずのファムが、爪で切り裂きに来ていた。


 その爪を倶利伽羅剣止め、更にもう片方の手の爪も雷切で止める。




 だけど、ファムはそれでも止まらず、その場で宙返りをしたと思ったら踵落としを放ってくる。


 ならばとこちらも倶利伽羅剣で迎撃するけど、やっぱり踵も燃える事も斬ることもできずに止まる。


 どうも、魔力による結界とかではなく、空間自体に干渉する類の力らしい。


 もしこれが結界だとしたら、燃やしきるのに時間がかかったとしても、何のダメージも無しという事にはならないはずだ。


 厄介だなぁ……。




 踵落としまでで流れが終わったのか、一度またテレポートみたいなので距離をとるファム。


 いいなーあれ。


 俺も使いてぇ……。




「やっぱり、ニンゲンにしてはやるニャ大試!結婚しないかニャ!?」




 多分、人生で最もうれしくないプロポーズだと思う。




「俺、嬉々として殺しに来る女の子とイチャラブする性癖は無いんだ」


「残念ニャ!魔族は、強ければモテるニャ!ニャーもモテモテだけど、ニャーに勝てるのは魔王様くらいニャ!魔族の領域じゃないからちょっと弱まってるとはいえ、ニャーとこんだけ戦えるのはそうそういないニャ!好きニャ!」


「ありがとう!そのまま帰ってくれ!」


「嫌にゃ!首だけでも持ち帰るニャ!」




 何なんだよこの猟奇性!?


 もうちょっと会話できるかと思ったのに怖いわ!


 見た目は美人だし、スタイルもいいけど、流石に首だけにしようとしてくる奴は無理だよ!




 これは絶対負けられねぇ……!




 そう思った瞬間、不思議なものが見えた。


 あれ?なんでお前そこにいるんだ?




「さぁ!続きをはじめ」




 ファムは、再開の言葉を遮られたままフッ飛ばされた。


 木刀で。




「ダメ。大試は、私と結婚するって決まってるから。お義母さんにも了解得てる」




 結界のこちら側に、何故か聖羅がいた。




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