第27話

 木刀片手に汚いハンドサインを決める聖女。


 正直カッコいいけど、冷静に考えると絵面が酷い。




「聖羅!?どうやって結界超えてきたんだ!?」


「愛の力……?」




 首をコテンッと傾けながら、可愛らしく言うあざとさを覚えたらしい聖女。


 先程汚いハンドサインをしていたとは思えない変わり身だ。




「結界に触れて、解析しただけ。特殊な結界だったから破るのは時間かかっちゃうけど、自分の体の周りに逆位相の結界を張って中和しながら通り抜けるだけならなんとかなった」


「事も無げに言ってるけど、実はすごいことしてないか?この神剣ですらあの結界斬れなかったんだぞ?」


「多分凄い。でも、開拓村の人たちなら結界自体を破壊してると思う」


「それは否定できない所が怖い」




 あの飲んだくれども、滅茶苦茶強かったからなぁ。


 権力争いに巻き込まれてあんな僻地に送り込まれたって話だけど、絶対に直接戦闘で負けたわけではないんだろう。


 少なくとも、王都に来てから父さんと母さんに匹敵する奴は、王様くらいしか見てない気がする。


 教師たちですら、直接戦えば何もできずに倒されるしかないんじゃないかな?




 あの人たちが死ぬとしたら、仲間同士のケンカと、酒だな。




「大試、あの泥棒猫どうする?」


「泥棒猫って……猫だけど……。どうしようか?できれば、このまま帰ってほしいんだけどね……」




 フッ飛ばされた後、怒り心頭と言った顔で俺と聖羅を睨むファムとやら。


 彼女にとっては、正々堂々とした決闘に水を差されたような感覚なんだろうか?


 自分の感情を抑えるためなのか、床を爪でガリガリ削りながら、自分の片腕に嚙みついてフーフー言っている。


 でもさ、楽しい楽しいレベル上げを邪魔されて怒ってるのはこっちだけどな?


 ボスまで倒せば、今日中に新しい剣が手に入るかもって思ったのに!


 もっとこう……相手を呪い殺す系とかさ、金縛りにしたりするタイプが来てくれるとありがたいんだけどなぁ。


 使えるSSRの剣がどれもブチ殺す系ばっかりなんよなぁ……。




 エリザの知り合いみたいだけど、これ以上俺や仲間に危害を加えるつもりなら殺すしかない。


 現状、手加減して勝てる程の有利は無いから。


 やりたいかといえば、いいえと答えるしかないけど。




 誰が好き好んで魔族とは言え女子供を殺したいと思うかってんだ。


 FPSとかTPSに出てくるのは、敵も味方も金に目がくらんだムキムキのおっさんだけでいいんだよ。


 何故かゾンビなら女子供でも撃ち殺して良いなんて理屈も気にくわない。


 それでも、命の取り合いなら仕方ない……。




 だけど、こういう時何故か俺の幼馴染は鋭くて困る。




「大丈夫、これから大試が何をしたとしても、私は大試の味方」


「……ああそう、その言葉を後悔しないといいな」


「絶対にしない。大試はきっと後悔し続けるから、私はそんな大試を認めてあげるだけ」


「……嬉しい、とは思う。でも、つまり青少年である俺に『殺っちまえ』ってGOサインだしてるわけだよな?」


「大試のカッコいい所が見たい」


「流石開拓村出身だよ……。もうヤケクソであのネコお姉さんぶった切るか!」




 忘れてたけど、俺の幼馴染は見た目は天使だけど、脳内はそこそこバトルジャンキーだった。


 しかも質が悪い事に、自分が戦いたいんじゃなくて、戦ってる俺が見たいタイプの。


 聖羅のお気に入りは、俺対クマだと言っていた。




 悲しい事に、俺自身はバトルジャンキーではないんだけど、幼馴染に期待されると応えたくなるように育てられてきてしまっている訳で。


 つまり、今割とやる気になっている。




 ただ、流石にこれから戦闘になるかというタイミングで剣を持っている手を握られるとビックリする。




「私は見てるだけだから、代わりに大試には戦う力をあげるね」




 さっき木刀フルスイングしてた奴が何を言うんだという気もするけどな?


 聖羅は、手をそのまま刃の方へ振るように動かす。


 すると、倶利伽羅剣と雷切の周りに何かの層が出来上がった。




「これ何?」


「あの猫の結界を中和する結界。あの結界は空間魔法の一つで空間自体に干渉してるから、中和するか空間を歪ませるくらいの攻撃をしないと突破できない。つまり、私と大試の力がこもったこの剣なら入刀できる」


「ケーキか何かか」




 まあでも、効果に関してはさっきの木刀で証明できているし、これで戦いやすくはなった。


 それに、あの猫のテレポート対策もなんとなく思いついてるし……。




「そろそろ準備はいいニャ……?戦闘中に目の前でイチャイチャされて腸煮えくり返りそうニャ……。しかも、そっちの横やり女は聖女みたいだし……絶対殺すニャ」


「待っててくれたのか?痛くて動けないのかと思ったよ。そのまま帰ってくれてたらよかったんだけどな?」


「聖魔力全開だったから痛いニャ……。痛くて痛くてたまらないニャ……。だから……今すぐにでもお前ら殺したいニャ……!最後の別れは済ませたニャ!?」




 本日3度目の突撃体勢をとるファム。


 さっき横合いから殴られたのを入れたら4度目か?


 あれだけ何度も前傾姿勢でダッシュして疲れんのかな……。


 ネコ科の動物は持久力があまり無いっていうけど、ネコミミついてる魔族には適用されない情報らしい。




「カッコいい姿を聖女様がご所望なんでね!命がけの戦いなんてやりたかないけど、護衛としてはそうもいかないんだよ!」


「だったらその所望とやらも完遂できず死ぬニャア!!」


「死んだら怒られるだろうが!」




 ファムが踏み込みと共に姿を消す。


 周囲には、魔力の通り道が形成されているのを感じる。


 神剣で似たような事ができるからこそわかるけど、やっぱこれ人間技じゃねーだろ。


 猫技でも無いと思う。




 その魔力の通り道を駆け抜けているのか、この結界の中に姿を現しては消すということを繰り返している。


 ただまあ、どれだけテレポートと呼べるような動きだとしても、体が実体化している状態でそのスピードを維持できるわけでもなければ、相手の体内に実体化できるわけでもないらしい。


 それができるのであれば、とっくに勝負はついている。


 本人からしたら、時空干渉の結界を応用した防御不可の爪だって止められると思っていなかったんだろうけど、それよりは俺の心臓にでも空気をテレポートさせるだけで終わるんだから、可能であるならやらない理由がない。


 ようするに、この魔力の通り道は空気程度の密度の部分しか通せない。


 だったら後は、相手が自分から近くに具現化してきたタイミングで即反応すれば対応は可能。




 俺が、この2本の神剣を持っていなければな。




 雷切と倶利伽羅剣に魔力を吸わせる。


 そして、それぞれの剣を近くにあった別々の通り道にぶつける。


 瞬時に辺りを雷光が支配し、地獄の炎が奔る。




「ぎにゃああああああああああ!?」




 悲鳴の方を見ると、猫が感電してた。


 これ、結構強めの雷なんだけど、よくコミカルな感じで耐えられるな?


 普通の人間なら破裂してるぞ……。


 まあ、魔力の通り道は全部お前から出てるんだろうから、燃やすか雷流すかすりゃ簡単にあてられると思ったよ!




 脚が止まったなら、そのチャンスを逃す手はない。


 最短距離を突っ込む。


 感電のダメージが抜けないながらも、何とか抵抗しようとするように立ち上がるファムだけれど、明らかに動きは鈍い。




 テレポートは使ってこない。


 そんな余裕が無いのか、魔力が尽きたのか、はたまた俺の攻撃を警戒しているのかはわからないけど、斬り合いを選択するようだ。


 だったら俺も、この剣と、そして聖羅のデタラメ結界を信じて斬り込むのみ!




「ラアアアアアアアアア!!!!」




 右上から斜めに倶利伽羅剣を叩きこむ。




「ニャアああああああ!!!!」




 ファムの結界を纏った爪で迎撃されるも、結界ごと爪を叩き斬り、その断面から燃やす。


 だけど、ギリギリで受け流されたのか致命傷には至らない。


 その受け流された勢いのまま、回転するように左手に持った雷切で胴を薙ぎ払う。




「ギッ……ニャっあああああああ!!」




 ファムはそれを、驚異的な速度の反応によって回避を行い、腹を浅く切り裂いただけに留まってしまった。


 ただ、電撃によって少しは動きを止められた。


 そう思ったけれど……。




「なめんニャあああああ!!!!」




 電撃で収縮する腹筋を逆に利用して、そのまま俺に頭突きを放ってくるファム。


 爪と脚に集中していたせいで意表を突かれ、まともに額に食らってしまった。




「いってええええなクソ猫がああ!!」


「猫を悪口みたいに使うニャあああ!!!」




 互いに斬られ、殴られ、ボロボロになっていく俺達。


 だけど、流石に神剣に聖女による強化までされていては、流石のファムでも完全にさばききることはできなかったらしく、次第に俺が優勢になって行った。




 倶利伽羅剣がファムの体を肩から斜めに切り裂いた。


 片腕と胸の一部、そして頭のみで燃え上がりながら吹っ飛ぶファム。


 これで終わりかと思ったけれど、その怒りに支配された瞳には、何が何でも殺すという意志が宿っているように見えた。


 そして、残った片腕をどこかに向けて魔術を発動した。




「ランダムジャンプ!!!!!!」




 腕の向く先にいたのは、聖羅。


 魔力の通り道がデタラメに形成されていく。




「空から落ちて死ね!深海で潰れて死ね!聖女!!!」




 どうやらこれはファムを中心に形作られている訳ではなく、聖羅を中心に発動するテレポートらしい。


 こうなると、流石に剣で術の発動を妨害することも、四方八方に伸びる通り道を破壊することもできない。




「聖羅!!」


「大試!!」




 俺に出来たのは、聖羅に覆いかぶさって守る事だけだった。






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