第28話

「…………し!大試!」




 自分を呼ぶ声と、揺さぶられることで目が覚める。




「……あー……、聖羅、俺ら今どうなってる?」


「大試!」


「ぐぇっ」




 揺さぶりからタックルに切り替える聖羅。


 そしてそのまま抱き着いて動かない。




 しばらくは状況説明を期待できそうにないので、自分で辺りを見回す。


 とりあえず俺達が今いるのは、大きな石の台座か祭壇のような物の上らしい。


 そして、周りは石造りの壁と天井。


 窓はないけれど、ケミカルライトみたいな淡い明かりが壁や天井の何カ所かについているので見渡すことができる。




 ただ、一番目に付くのは、今俺たちがいる台座の上に描かれているものだろうか。




「魔法陣か何かか……?」


「多分、転送紋……」




 やっと会話ができる状態になったらしい聖羅。


 珍しくちょっとだけ泣いてたらしい。




「痛い所は無いか?見た感じ怪我はしてないみたいだけど」


「私は大丈夫。大試のケガももう治してある」


「流石聖女だな」




 爪で切り裂かれた場所も、頭突きを受けた額も痛みはない。


 強いて言うなら、聖羅に突っ込まれたとこが痛い。


 とりあえずはお互い無事なようだ。




「ここがどこかわかるか?」


「わからない。転送紋があるからダンジョンのボス部屋かとも思ったけど、ボスはいない」


「ボス倒したら出るやつか……。でもそうなると、ここは転移するために作られた部屋なのかな?」


「そうだと思う」




 聖羅にも、ここが何なのか詳しくはわからないようだ。


 まあ当然だな。


 こんな場所、考古学関係のアクションムービーとかでした出てこんわ。


 ……あれ?ここってすっげーファンタジーじゃね?


 ちょっとワクワクしてしまう。




「確認なんだけど、俺達はさっきまで王都のダンジョンのボス部屋にいたよな?」


「うん」


「それで、あの猫が最後っ屁でつかった魔術を食らってこんな場所まで飛ばされたって事かな?」


「本当は、空の上とか火山の火口とかに飛ばして、そのまま死なせる術だったみたい。空間魔法を極めた魔法使いが、最後に残った魔力全部使ってギリギリできる術。私でも、とっさに解除することはできなくて、比較的安全な地表部分に出るように術式に割り込むことしかできなかった」


「あの猫の人はランダムジャンプとか叫んでたな……。それが出来ただけでも十分凄いと思う。俺は、最後何もできなかった……」




 護衛として、これは失態だ。


 別に聖女の護衛という役割に誇りを持っている訳でもなんでもないけど、聖羅に危害が加えられるのを防げなかったという事が情けない。




「大試には、あの術がどんなものなのかわからなかったはず。なのに、私を守るために体を盾にしてくれた。それだけで嬉しい」


「そう言ってもらえるとありがたいけど、その言葉に甘えられる程俺も能天気でもないんだよ。守るのって、思っていた以上に難しかったな……」


「大試は良く戦ってくれてた。他の護衛の人たちだったら全滅してたと思う。あの猫の人、普通の剣士だったら一方的に殺されてた」


「かもな。でも、聖羅が魔王に狙われているって言うなら、それを守る奴は普通じゃダメなんだ」




 だから、主人公のはずの風雅とか、ゲームのネームドキャラに護衛に着いてほしかったんだけど、何故かこの場にそいつらがいないんだよなぁ……。




「…………よし!ウジウジするの終わり!休憩もできたし、ちょっと周りを探索しに行くぞ」


「わかった」




 ここがどこで、どんな敵がいるかわからないけれど、生き残るためには行動しないといけない。


 戦闘の疲労が抜けてはいない体に鞭打って、俺は立ち上がった。




「……」


「……」


「なぁ聖羅、放してくれないか?」


「嫌」




 抱き着きは解除してもらえなかった。






 2人でくっつきながら動く。


 1カ所だけある出入り口からそっと部屋の外を窺うと、短い通路になっているようで、通路の先にはドアが見える。


 映画の迷宮にあるような罠に警戒しつつ進むけど、特にそのような物はないらしい。




 ドアの所に辿り着いたけど、黒っぽいガラスのようなものがはめ込まれた生体認証の機械みたいな部分があるだけで、ドアノブも見当たらない。


 他にできることもないため、ダメもとでそこに手を当ててみることにした。




『人類の反応を検知。問います。貴方は管理者ですか?』




 急に機械音声が聞こえて来て驚いた。


 後ろの聖羅もビクッとしている。


 ただ、とりあえず触ってすぐ何か罠が作動するわけでもなさそうだ。




「管理者っていうのは何の話だ?」


『当施設を管理する者のことです。最後に管理者が訪れたのは、今から300年程前です』




 つまり、最低でも300年は昔の施設って事か。


 それもう遺跡じゃねーか!




「俺の知る限り、こんな感じの施設の話なんて聞いたこと無いし、一般に知られているって事は無いと思う。もう管理どころか、把握している人すらいないんじゃないかな?俺たちも、強制的に転移されてたまたまここに飛んだだけみたいだし」


『了解しました。それでは、貴方を管理者として登録させて頂いてもよろしいでしょうか?』


「んー……。それに登録されるメリットとデメリットを教えてくれ」


『メリットは、当施設を使用して各地へと転移できますし、宿泊施設も利用できます。デメリットは特にありません。ただ、当施設、及び管理知能である私にとって、管理者に利用して頂けないと存在意義が確立できません』




 デメリットが無いのであれば、登録されるのも吝かではない。


 でも、得体の知れない人工知能的な物って、実際に出会うと結構怖いもんだな……。


 現時点で、この施設を管理しているらしいこの管理知能とか言う奴次第で俺も聖羅も死ぬ可能性すらあるし……。


 まあでも、なるようになるさ!




「わかった。登録してくれ」


『了解しました。それでは、貴方を管理者として登録させていただきます。お名前を教えてください』


「犀果大試だ」


『……登録完了しました。ようこそ北海道テレポートゲートへ』




 ……今、なんつった?




「ここ、北海道なの?」


『はい、北海道の十勝平野です。私のデータによると、帯広という地名で登録されております』


「帯広……」




 なんだっけ……豚丼が有名な所だっけ?


 あと、なんかソリ引っ張る競馬がどうとか……?


 前世ならそこそこ大きな町があったんじゃないかと思うけど、この世界だとどうなんだ?




「この施設には、周辺地域をスキャンする機能ってある?」


『ございます。実行しますか?』


「頼む」




 人類の生存圏かどうかもわからんからなぁ。


 魔物がいる世界だと、300年あれば余裕でその辺り変わるだろうし。




『……スキャンが完了しました。マップで表示しますか?』


「お願い」




 どういう技術なのか、目の前にホログラムみたいな映像が浮かぶ。


 映像によると、この辺りの地形と、ある程度以上の大きさの生物なんかを表示してくれるらしい。


 触ることはできないけど、指の動きで操作もできるらしく、すこし弄ると航空写真のような映像に切り替わったりする。




 そこで分かったのは、俺達が今いるこの施設が、完全なる大森林の中にあるということだ。


 うん、歩いて脱出するのは厳しいな……。




 ただ、気になる表記もある。




「エルフの集落……」




 ファンタジーで定番の種族。


 そこまで詳しくない俺ですら知っている。


 とにかく美人で長命、おっぱいが大きかったり小さかったりする。


 ダークエルフは、肌が茶色だったり紫色だったりする。


 そのエルフか?




『人造人間についてのデータが必要ですか?』


「人造人間!?エルフの事か?」


『はい。人間によって作られた人間です。長い任務にも耐えられるように、健康でいられる寿命が長く設計されており、魔法の適性も高くなっています』


「へぇ……」




 そういや、王都に着いた日に父さんも妖精族だのエルフだのどうこう言ってたっけか。


 やっと出てきたフェアリー要素がこれかって驚いた覚えがある。


 まあでも、この施設にすら300年も人が訪れていないなら、そのエルフの集落は秘境中の秘境なんだろう。


 いきなり俺たちが行ったら、慣れない侵入者に過剰反応して攻撃されるかもしれないし、とりあえず今は関わらないでおこう……。




「ここからテレポートで行ける場所ってあるのか?できれば、東京……ってわかるんだろうか。関東の辺りに行きたいんだけど」


『東京近郊はもちろん、日本中にテレポートゲートはございます。ただし、全て200年以上利用されておりません。管理者情報を同期しますか?』


「同期?他のゲートでも俺が管理者として登録されるって事か?」


『はい』


「わかった。頼む」


『了解しました。……同期が完了しました。これより、全国のテレポートゲートが犀果様の管理下に置かれます』




 なんか凄い事になってきたな……。


 俺としては、ダンジョンに残してきてしまった仲間たちの所に早く戻りたいなって思ってるだけなんだけど……。


 あ!そういや俺にはスマホがあるんだった!帰る手段を探す前に、とりあえず連絡だけでもしておくか!




「……って、普通に圏外だよね……」


『犀果様、それは通信装置ですか?』




 なんだ?


 AIのくせに機械に興味があるのか?


 いいだろう、語ってやろうじゃないか




「そうだ。これはスマートフォンと言って」


『失礼、スキャンさせていただきます』


「あっはい」




 語らせてもらえなかった。




『スキャンが完了いたしました。そのスマートフォンという物に、私の疑似人格を付与することも可能ですが、いかがなさいますか?』


「よくわからんけど、したいならどうぞ。ここ圏外らしいけどな」


『人格付与完了。これ以降、そのスマートフォンからでも私に指示を出すことが出来ます』


「それは便利かも。因みにお前には呼び名ってあるのか?」


『管理知能とだけ登録されております。変更しますか?』


「ん……そうだなぁ……管理知能……人工知能……AI……よし!安直にアイって事にしよう!」


『了解しました。管理知能の名称をアイへ変更』




 女性っぽい音声だから女性っぽい響きの名前にしたけど、もう少し捻った奴をつけてやっても良かったか……?


 いや!後から変に捻った名前だと恥ずかしくなったりする奴だぞこれ!


 簡単なので良いんだ!




「それで、東京のテレポートゲートへ行きたいんだけど」


『現在、東京近郊で最も安定しているテレポートゲートは、魔法学園地下となっております』


「魔法学園にあるのか!?それなら好都合だ!そこに行きたい!」


『了解しました。テレポート用魔力チャージ完了まで残り10時間です』


「10時間!?……まあいいか。他に帰る方法も思いつかないし。頼む」


『時間になりましたらアナウンスいたします。どうぞ宿泊施設でお休みください』




 人口知能の言葉が終わると、ドアが開いて通路から出られた。


 そこには、300年人が来なかったとは思えない程整えられた部屋があり、寝室やシャワールーム、トイレまで完備されているようだ。


 この施設、いったい誰が作ったんだろうか……?


 しかも、そのまま放置って……。




 とりあえず、色々話して疲れてしまったため、寝室のベッドに座る。


 ずっとくっついていた聖羅を横に座らせると、何故かふくれっ面だ。




「どうした?なんか怒ってる?」


「……大試、ずっと私の事ほっぽって機械と喋ってた」


「そりゃ謎の施設で機械がしゃべるんだもん、気になるだろうさ」


「ずるい。私ともしゃべってほしい」


「ずるいって……。じゃあ、何か話すか?」


「10時間話して」


「拷問か?」




 やっと命がけの戦いが終わったと思ったのに、耐久おしゃべりクエストが開始された。






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