第25話

「ではこれより、第1回ダンジョン探索会議を始めます!」




 有栖の宣言により始まったこの会議。


 司会進行はもちろん有栖。


 書記も有栖。


 ギャラリーは、俺、リンゼ、聖羅、エリザ、そして一緒に演習をやって以来仲良くしているマイカだ。


 なんだか知らない間に、大体有栖が張り切って用意してくれていた。


 学園の会議室まで抑えていたのだから驚いた。




「では、まずはダンジョンがどういう物かという所から説明しますね!」




 ダンジョンには複数の種類があり、同じように見えても全く同一のものというのは存在しない。


 出現する魔物の強さもまちまちで、ある程度種類が固定されているダンジョンもあれば、入る度に何がいるかわからないダンジョンもある。


 地下ダンジョンの入り口には、透明な結界のようなものが張られていて、内側から魔物が出てくる事は無い。


 地上の草原などに出来るダンジョンの場合、ダンジョン化している範囲の境目に結界が存在し、そこから魔物が出てくる事は無い。


 ダンジョンの中に発生する魔物を倒しても、魔石を残して体は消えてしまうため素材集めには向かないけれど、何故か魔石と一緒に解体された素材が残る場合もある。


 たまに謎の物品が出てくる場合もあるけれど、何がどうなってそこに存在しているのか不明。


 階層が複数あるダンジョンもあり、階層ごとに環境が全く違う場合もある。


 最奥には、必ずボスと呼ばれる強力な魔物がいて、そいつを倒すと何故か宝箱が出てくる。


 中には、ゴミみたいなものが入ってる場合もあれば、国宝に指定されるようなものが入っている場合もある。


 ボスを倒すと、ダンジョンから脱出できる転送装置のようなものが起動する。


 ボスは、午前0時を跨ぐと再出現する。


 最後に、これらの情報が全く当てはまらなかったダンジョンも存在する。




 とかなんとか!




「わかりましたか!?」


「わからない……」




 つまり、よくわからない不思議な場所らしい。


 そう思う事にした。




「それで、予約したダンジョンって言うのはどんなダンジョンなんだ?」


「3階層からなるオーソドックスな地下迷宮型です!」


「地下迷宮ってオーソドックスなのか……」




 ファンタジーっぽくて楽しみだけど、迷宮って付く位だから迷わせに来るんだよな?




「中の地図ってあるのか?」


「ありますが、今回行くところは一本道なので迷う心配は無いかと!」


「迷宮……」




 どうやら、初心者向けの場所を選んでくれたらしい。


 ソロでレベル上げしていたらしい有栖以外ガチ初心者しかいないパーティーだけど、これならなんとかなりそうだ。


 ただ、さっきから気になっていたことがある。


 スルーすべきか迷っていたけど、リンゼが果敢に攻め入った。




「ねぇ有栖、今日なんでそんなに張り切ってるのよ……?」




 その場の全員の疑問を代弁した質問。


 固まる有栖。




「…………です……」


「え?」


「対魔物演習でUNOの勝率以外誇れることが無かったからです……!」




 UNOの勝率もそこまで誇れるもんじゃないと思う。


 流石にそれは、リンゼと聖羅にサンドイッチされて慰められているお姫さまには言えなかった。








 明くる土曜日、俺たちはダンジョンの前にいた。


 このダンジョンは、総延長が3kmで、通路が直線な上に出てくる魔物もそこまで強くないため、騎士団や警察の訓練に使われることもあるらしい。


 魔物と戦う警察がいる世界なんだなぁ。


 魔物に拳銃は効くんだろうか?


 あの制服で魔法の杖持ってたら違和感がすごそうだけど。




 今日は、6人でパーティーを組んでいく事になっている。


 パーティーというのは、互いのギフトカードを登録することで組めるようになるもので、経験値を全員に均等に割り振れるようになるらしい。


 これによって、回復担当の人にまで経験値がいきわたるんだとか。


 ただこの世界だと、経験値がギフトカードにも表示されないから、レベルが上がった瞬間にしか実感湧かないんだけども。


 因みに、前回の演習時にはこれを知らずにパーティーではなくソロで戦ったことになっている。




 そして、今回のダンジョン攻略に関して、初めての試みがある。


 そう!陣形の練習だ!




 先頭:有栖(本人希望によりアタッカー)


 次鋒:エリザ(サブアタッカー)


 中央:リンゼ、マイカ(遠距離攻撃担当)


 後衛:聖羅(回復担当)


 最後尾:俺(聖羅の護衛の練習兼肉盾)




 という布陣で行くことになった。


 本当は、一国のお姫様を先頭で突っ込ませるのはどうかとも思うんだけど、この国の王家は代々先頭で突っ込んで行くらしい。


 エリザには、その豊富な魔力を使って敵の飛び道具からリンゼとマイカを守ってもらいつつ、討ち洩らしの敵に止めを指してもらう。


 器用に魔術を扱えるリンゼには、遠距離攻撃をしてもらいつつ全体のサポートという難しい役割を担当してもらい、マイカはさらにそのサポートだ。


 マイカは魔眼と遠距離攻撃を同時使用すれば体調を崩すらしいけど、どちらかずつであればそうでもないとの事なので、レベルがある程度上がるまでは、魔眼と魔術を同時使用するのは止めておいた方が良いだろう。


 マイカのレベルが上がれば、もしかしたら魔眼と例の遠距離スナイプ的な魔術を同時に使っても平気になるかもしれないし、是非頑張って頂きたい。


 そして我らが聖女様には、全員のケガを治してもらうために後方にいてもらう。


 その聖女様を守る練習に丁度いいからと、俺は最後尾で後方護衛面。




 これ、多分俺が一番楽ちんなんじゃないだろうか?


 万が一後ろから敵がわんさかやってきたとしたら不味いけど、その時は接近される前にボルケーノで後方全部焼き払えばいいし……。




 まあ何にせよ、実際にダンジョンに入ってみない事にはすべて机上の空論でしかないわけで。


 折角初心者用なんだから、ダンジョンさんに胸を借りるつもりで行ってみるか!




「姫、出発の号令をお願いします」


「わかりました。総員!突撃!」




 簡潔なる指示でダンジョン攻略が始まった。






「……ん゛ん゛っ」




 ダンジョンの入り口にある結界を通ると、今まで体験したことが無い刺激を感じて変な声を出してしまった。


 違う世界に飛ばされたような、ロードが入って意識が一瞬飛んだような、そんな感覚。


 今までに感じたことがある感覚で一番近いとしたら、ボックス型乾電池の端子部分を舌で舐めてビリッとしたのが一番近いか……?


 良い子は絶対真似しないでほしい。


 そんなイマイチ説明しにくい物を超えると、中は確かに地下迷宮という佇まいの施設だった。




 たださぁ……。


 これはちょっと想定してなかったなぁ……。




「ダンジョンで地下迷宮って言うから、何となく西洋風とかエジプト的なの想像してたけど、純和風なんだな……」


「ここは、出てくる魔物も建物も和風なデザインなんですよ。魔物というより妖怪って感じです!」




 確かに、遠くの方に動く唐笠とか茶釜をつけたタヌキとかが見える。


 そして通路は、江戸時代のお城の廊下って感じの雰囲気だ。


 一本道だから心の準備ができていいけど、これが折れ曲がった通路だったらお化け屋敷だな……。




「ねえ大試!あの動いてるのって食べていいの?」


「お腹壊すぞ。このカロリーバー食べとけ」


「ありがとう!」




 蠢く妖怪を見て目を輝かせていたエリザを制止し、カロリーバーを数本渡しておく。


 あんな非生物っぽい魔物でも食欲そそられるのか……。


 今回のダンジョン攻略で、エリザの実戦能力も把握できればラッキーだな。


 カロリーバーをエネルギー源にどれだけ派手な戦いができるのか、未来のラスボス候補に期待だ。




「では皆さん!陣形を組んで進んでいきますよ!よしなに!」




 事前に話し合った形にまとまる俺達。


 途中何度か戦闘があったものの、大半が前3人で解決してしまった。


 どんな硬い相手も一刀のもとに切り裂く有栖と、その有栖の高速戦闘を邪魔せずに魔術で敵を攻撃するリンゼ。


 そして、たまに飛んでくる遠距離攻撃を高濃度の魔力その物をぶつけて止めているらしいエリザ。


 1回後ろからデカい蟹がすごいスピードで走ってきたのはビビったけど、それだけは俺が斬り倒して事なきを得た。


 ここの魔物は倒すと消えるから無理だけど、塩ゆでして食えたらなぁ何て思っていたら、甲羅に人面がついてて激しい鳥肌がたった……。




「……犀果さん……あのカニ……中身が人間でした……」


「俺に透視能力無くて良かった……」




 マイカが青い顔をしながら言う。


 魔眼があるってのも良い事ばかりではないらしい。




 そして、何の問題もなくボスがいるという最奥の部屋前まで来た。


 全員そこまで消耗していないようだったけれど、一応休息を挟んでから突入することになった。


 俺は、背中に背負っていたリュックサックから飲み物と食べ物を取り出し、全員に渡しておく。


 それぞれ非常用の水と食料は持っているはずだけど、それは万が一逸れた時のために取っておいて、普段は荷物持ちから飲み物や食べ物を受け取るものらしい。


 そして、今は一番楽なポジションの俺が荷物持ちも兼ねていた。




 休憩している間に、俺の今日の主目的の一つである聖羅の護衛について、本人に確認しておく。


 役割としての護衛なんて経験がないし、自分なりに守りながら戦ってみたけど、それが護衛対象の目にどう映るかは聞いておきたい。


 子供の時に、村の周りを2人で歩いていたのとは訳が違うから。




「聖羅、俺の護衛の仕方で何か気がついたことはあるか?」


「あんまり危ない場面がなかったからわからない。でも、できればもっと近くにいてくれると嬉しい」


「近くってどのくらいだ?さっきも手を伸ばせば届く位の距離にいたよな?」


「手を繋げるくらいの距離」


「片手が塞がると危ないから手は繋がないぞ?」


「むぅ……」




 村の周りを2人で歩いてた時を再現したい奴はいるようだ。


 狩猟王というギフトを貰っていた風雅と違って、俺達2人はそこまで戦闘が得意ではなかった。


 だから、昔は村から離れることが出来なくて、精々が近くの果樹が植えてある辺りや、材木が置いてある所までしか行けなかった。




 母さんの魔物避けの魔術のおかげで、村周辺には小さな魔物すら近寄ってこなかったけど、まあ何となく2人でいる事は多かった気がする。


 だから、こうやって聖羅を守っているのは、ちょっと懐かしい気持ちになってしまう。




「護衛って案外難しいな。昔は、聖羅がちょろちょろどっか行かないように手を繋いでおけば何とかなったけど、あの頃はちっちゃい虫くらいしか倒す相手いなかったからなぁ。今回は、敵が少ないしそこまでビックリするほど強くないから楽勝って雰囲気だけど、強いのが出てきたらどう動くのかはまだイマイチわからない。ましてや、人間が相手だったりしたら……。今度、護衛の技術を教えてくれる人でも探してみるかな」


「大丈夫、大試はいつでも私を守ってくれる」


「どうしてそう断言できるのか知らんが、まあ頑張って守るわ」


「うん、お願い」




 リンゼの話を聞くに、この世界のモデルとなったゲームだと、主人公である風雅にしか出来ない事というか、特別な力なんてものは存在しないらしい。


 だから、一応俺でも代役はできるかもしれないけれど、俺の扱える剣の能力は、直接攻撃するような分野に偏り過ぎている。


 絡め手で来られたら俺では対応するのが困難だし、なんとか新しい剣を増やして対応力を上げておきたい所だ。




 そして、聖女の力は主人公のギフトと比べて他者で代用が効かない部分が多い。


 主人公の風雅が居なくなっても何とかなるかもしれないけど、聖女の聖羅が居なくなったら恐らく人類は負けだろう。


 じゃなかったら、聖女って何だよって話だし。


 主人公って何だよって雰囲気になってしまっているのは内緒だ。




 まあつまり、世界の命運は、護衛である俺の双肩にかかっていると言っても大げさじゃないわけで……。


 俺には荷が重いなぁという気もするけど、人類の領域を守るなんて大それた問題はともかく、聖羅本人は守ってやりたい。


 やっぱりレベル上げと剣ガチャは積極的にしていかないといけないな。




「そろそろ行きましょうか!ここのボスは、通常だとがしゃどくろという大きな骸骨で、10回に1回くらいの確率で大鬼蜘蛛おおおにぐもという大きなクモの魔物だそうです!」




 有栖の掛け声で思考の海から引き上げられる。


 考えなきゃいけないことも多いけど、とにかくこのダンジョンを攻略してしまう事を優先すべきか。




「では、大扉を開けますよ?皆の物、我につづけー!」




 ノリノリで踏み込む姫様に続いて入るメンバーたち。


 だけど、そこに広がっていた光景は、完全に予想外な物だった。




「やっと見つけたニャ!!!!」




 バラバラに崩れ落ちた巨大な人骨。


 その上に仁王立ちするネコミミお姉さん。


 なにこれ?どういう状況?




「エリザベートお嬢様!そろそろ家出なんてやめて帰ってきてほしいニャ!」


「あれ?ファムじゃん!なんでこんなとこにいんの?」




 エリザさんエリザさん、お知り合いの方ですか?




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