第122話
「隠神!何故私の許可なく四国を浮上させた!?」
「貴様などもうどうでもよいわ!この時!この場所にさえ居れば良い!」
この王子すげぇな。
さっきから自分の存在価値は生贄としてでしか認知されていないって目の前で言われていたのに、未だに自分の方が偉いと思ってんのか。
俺がアイツの立場なら、もうとっくの昔に逃げてるわ。
浮いた四国からアイツが逃げる方法を用意しているかは知らんが。
俺たち?
ファム様に丸投げかなぁ……。
とりあえずテレポートゲートまで飛んでもらえればなんとか……。
「オジサン!るるいえってなに?」
「ん?明小は知らんか?我輩もよく知らんのだが、今の生物たちが生まれるよりも前に地上を支配していたイカだかタコだかが封印されている場所でな、その凄い奴を目覚めさせたいのじゃ」
「なんでそんなのを起こすの?」
「それは、花子を蘇らせるために決まっておるじゃろ?」
「そいつは、どうやってお母さんを蘇らせるの?」
「……うーむ?どうやってじゃろうなぁ……」
あ、これ完全に頭の中弄られてますわ。
じゃなかったら、ただのボケジジイだ!
動物も結構ボケるんだよなぁ。
大型犬とかボケたら大変なんだよ。
盲導犬の老犬ホームとかもあるしな。
老狸ホームがあるとは思わなかったけどさ。
「太三郎さん、今隠神の首を撥ねたら事態は解決すると思います?」
「無理だろうな。アイツを操っている奴にとって、隠神の役目はここまでだ。ルルイエだかなんだか知らんが、それをこの世界に顕現させるための引き金を引く役が隠神だったの過ぎない。そして、そのための生贄があの王子だったと。ほら、見てみろ」
そう言われて、太三郎さんにアゴで示された方を見ると、王子がどんどん小さくシワシワになっていく。
乾燥食品作るための乾燥機にいれられたトマトか何かみたいだ。
「なんだこれはぁ……!?あ!あああああ……吸い取られ……」
「うわぁ……」
黒魔術師であることが重要だっていうから、てっきり王子の方がキツメに脳を弄られて、カタコトで触手系のキモイの呼び出すのかと思っていたけれど、どうも吸い取るだけで大丈夫らしい。
お手軽だな。
王子からしたら溜まったものではないだろうけれど、多分自業自得なんだろう。
知らないけど。
結局大して人となりを知ることはできなかったし。
カラカラに乾いたら、毛根が残ってる頭髪でも持って帰れば、DNA鑑定位できるだろう。
それよりも、ルルイエがどうののほうが問題だ。
隠神は概念をどうのと言っていた。
つまり、本物の何かというわけじゃなくて、それっぽいナニカを呼び出す儀式って事だろう。
隠神は、タヌキを蘇らせることが出来る存在だと思って色々していたみたいだけれど、実際にどうなのかは今のところ不明。
少なくとも、仮にも王族であるあの王子をフリーズドライみたいな感じにする程度には魔力をゴリゴリ消費させる儀式らしい。
ってことは、流石に何も起きないって事は無いだろう。
起きてほしくはないけども。
なんなら、王子の献身は完全に無駄に終わりました!って事でもいいんだけど。
だけど、どうやら俺のそんな淡い期待は、当然の如く叶わないらしい。
隠神たちの近くで、魔力が集中していくのを感じる。
しかも、これはかなり質の悪い類の雰囲気だ。
この世界に転生してから、何度か森の中で感じた雰囲気に似ている。
熊とかそういうのだって俺の中ではかなりヤバイ奴って印象だったけれど、それとは別種の、絶対に出会ってはいけない類の悪鬼を思わせる纏わりつくような負の気配。
果たして、そこに生まれたのは、美女だった。
ただ、頭からは髪の毛の代わりにイカの脚が生えているし、尾てい骨の辺りから生えている尻尾……いや、触手か?それはシマシマだ。
なんだ?
シマシマテールが流行っているのか?
「……フフフ……フフッ……あああああっはっはっは!やった!やったわ!ついに!私も人の姿を手に入れたわよ!」
なんか、笑い出した。
かなりテンションが高い。
よっぽど生まれたことが嬉しいらしい。
よかったね?
幸せな事だと思う。
どういう存在なのか全くわからないその美女は、俺たちの方を見ると、意外そうな顔になった。
「あら?明小?なんでアンタがここにいるの?」
「……え?誰?ボクの事知ってるの?」
「何よ他人行儀に……。って、あーそうか!私のこの姿じゃ、わかるわけないわよね!」
今度は、ニヤニヤとした笑いになる美女。
改めてみると、美女ではあるけれど、瞳孔が横長でなんだか怖い。
人間じゃないという事だけは分かる。
今すぐ始末するべき存在であろうって事も。
「明小、お母さんよ?いっぱい時間をかけて、この世界に戻ってきたの!」
「お母さん!?え……でも……なんでそんな見た目なの?」
「私だけでこの世界に戻るには、私の力は弱すぎたの。だから、あの世とこの世にまたがって寝続けている大昔の偉い化け物と同化してみたのよ!魅了魔法をかけたジジイタヌキがいい仕事してくれたみたいで、こうして私も化け物になれたわけ!これからはもう化け狸なのに他の姿になれないなり損ないなんて揶揄されることもないわ!手始めに、この世界の邪魔な存在を消して回ろうかしら?今の私なら、それくらいしていけると思うのよ!」
隠神の儀式は、どうやら中途半端なもののようだ。
完全な状態での復活には至らなかったようで、クトゥルフ的な奴と化け狸花子の相の子と言った所か。
神ほどではないだろうけれど、それでも気配だけでヤバいとわかる。
「お母さん……何言ってるの……?お母さんは、絶対そんな事言わないよ……?」
「言うのよ明小。私はね、化け狸なのに変化も上手くできない事ですごく辛かったの。世間からも疎まれたの。だから、これからは私が世間を害してやるのよ!でも明小だけは許してあげる!私の娘だからね!」
この花子を自称する女(イカ足ヘアー)は、まだ自分の体中から触手が生えていることに気がついていないんだろうか?
美女ではあるけれど、それがまた化け物っぽさを際立たせている。
「ちょ……ちょっとまて……本当に花子なのか……?」
隠神が恐る恐る聞く。
「ええそうよ?私の踏み台になってくれてありがとう!まさか、魅了魔術に掛かっていながら、ここまで長期間掛かるとは思っていなかったの!」
もしかして、あんなにあのタヌキが人気だったのって、恋とかじゃなくて術だったのか?
その心を弄んで、色々してきたみたいだ。
大丈夫?太三郎と隠神は、今の俺たちの声が聞こえたのか、かなりショックを受けている顔になっている。
俺だったら、好きだった女の子が素だとかなりヤベー奴だったってわかったらショックで引きこもるかもしれない。
大丈夫かなぁ?
「花子おおおおおおおお!我輩と結婚してくれええええええ!」
「嫌に決まってんでしょ!これで通算何回目の求愛よ!?」
「何回だってかまわんわ!結婚じゃああああああ!」
「抜け駆けはずるいぞ!花子俺と結婚してくれ!」
流石は一途に一匹を思い続けた男たちだ。
魅了魔法だとわかっても構わないらしい。
寧ろ、黒幕の花子の方がドン引きしているんだけど、これはこれで大丈夫なんだろうか?
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