第121話
既に亡くなっている好きな女を守るために、それ以外の人々を死なせることを選択した老狸。
年寄りの色恋沙汰は、面倒な事になる確率が高い。
更に、ゲートボールとかカラオケ大会なんかが絡むと、一気に跳ね上がる。
マジで怖いぞ!
「隠神、お前なら黒魔術も使えただろう?もっと他にやりようがあったんじゃないのか?」
俺もそう思う。
っていうか、まずあの王子はさっさと秘密裏にでも始末しておくべきだったと思う。
よくあるだろ?
そういうファンタジー王族あるある的なの。
いや知らんけど。
「……お前たちは、少々誤解している。そもそもの発端は、我輩なのだ」
苦々しい表情で語りだそうとする隠神オジサン。
その後ろで、泣きそうな顔でアサシンスキルを多用しながら軍人たちを卒倒させていくアレクシア。
外の惨状をみて気持ち悪くなったのか、具体的には言わないけれど地面につっぷしているマイカ。
タヌキロボットをエリザに食べさせようとしているファムと、それを拒否しているエリザ。
そして、魔法攻撃を禁止されて暇になってしまい、明小のほっぺで遊び始めたソフィアさん。
現時点で、シリアスな空気に対応できそうなのは、俺と多三郎さんくらいだろう。
周りには、動かなくなったタヌキロボットたちが大量にあるせいで、無駄に銅像がいっぱいある公園みたいになっているけれど。
あれって作る人はいいけど、大変なのはきっと管理させられる人だよなっていつも思う。
「吾輩は、なんとか花子を完璧な姿でこの世に蘇らせたいと考え、ずっと方法を模索してきた」
とうとう語り始めたジジイタヌキ。
秘められた秘密とか良いから王子の首を寄越せ。
「まさか……死者蘇生の禁術に手を出したのか!?」
「そのまさかよ。じゃが、調べてわかったのは、我輩の身一つでは到底敵わぬ願いだという事。必要なのは、優秀な才能を持った黒魔術師。幸いと言っていいかはわからないが、丁度その時都合の良い者が1人いることに気がついたんじゃ」
「それがあの第1王子ってことか?」
「然り」
然り……じゃない!
太三郎さんもなんか空気に飲まれてない?
これ、俺だけで切り込んでも許される雰囲気かな?
俺は、この世界の元になったゲームの登場キャラじゃない。
だから、もしこの独立騒ぎがゲーム内イベントだったとしても、俺がそれに素直に従ってやる必要は無いわけで。
後は、空気を無視する苦痛に耐えられる強靭なハートが必要だな!
俺、ちょっとその辺りが弱いかもしれないんだよなぁ。
ガラスのハートだからさ。
聖羅よりは。
「まあ、煽てているうちに、我輩自身の弱点を探り当てられて、逆に協力させられることになるとは思わなんだが……。じゃから、祝福を無理やり捻じ曲げた呪いで死体にしてから利用してやろうと考えたんじゃ」
「考えたんじゃ……じゃないだろう!?お前は自分が何をしているのかわかっているのか!?こんな事をして花子が喜ぶと本気で思っているのか!?」
「思わんよ。断言できる。我輩とて、元々はそんなつもりなど微塵も無かった。じゃが、何故かあの王子を利用することを考え始めた辺りから、倫理的な抵抗感のようなものがどんどん薄れているのが感じられるんじゃ。その自覚がありながら、今もこうしてお主らと相対している。笑えるじゃろ?」
「笑えるものかよ。だが、それで分かった。今お前から感じるこの妙な気配……お前、何かに精神操作を受けているな?」
「お主もそう思うか?じゃが、我輩自身でも気がつかぬうちにそんな事が出来るモノなど、それはもはや尋常なる者ではない。抗うだけ無駄じゃろ?何より、我輩の長年の願いを叶える原動力でもある。自らの意志だけで禁忌を犯そうと決意できる程、我輩も若くないからのう……」
話が進んでいくけれど、要はなんか知らんうちに変な術に掛けられてたっぽくて、しかもそれがかなり質が悪くて、第1王子も質が悪くて、隠神のおっさんもかなり質の悪い拗らせ方してたって事だろ?
誰に何をさせられていたとしても、自我もちゃんとあるっぽいし、自分の望みでもあったって言っている以上、流石に独立騒ぎなんて起こしたら処刑もんだろう。
よって、できれば穏便に済ませたい所だけれど、必要であれば首を撥ねることも俺の中で許可されました!
俺の折角の休日を潰した罪は重いんです!
大体、このタヌキ親父を何とかして、更に後ろでタヌキのカミングアウト聞いている間もギャーギャーわめいている第1王子も何とかしたとしても、まだ1人厄介そうなのがいるんだよ!
今どれだけ強くなっているか知らないけれど、本来主人公様だったはずの奴がな!
俺は、タヌキたちの会話を横合いから殴りつけて止めてしまうタイミングを見計らう。
武器も、音の小さなカラドボルグと村雨丸に持ち替えて、殺すことを前提として覚悟を決めた。
相手が人の姿をとっている場合、殺したら殺人になるんだろうか?
まあいいけど。
残念な事に、タヌキの肉は美味しくないらしいから、食べて供養なんてお為ごかしもしたくないし……。
そういえば、色々ありすぎてボスボス鹿もまだ処理してないな。
鹿カツカレーかなやっぱ……シカシチューも捨てがたい……。
どんどんメンドクサイ事が分かってくるこの状況に脳が勝手に現実逃避を始めるのを止めつつ、相手の様子を窺う。
太三郎さんも隠神刑部も、お互い雰囲気に酔っている感じがする。
もしくは、これこそが精神操作とやらなんだろうか?
だとしたら、本当にいつの間にか太三郎さんまでかかっている事になるけど……。
「事ここに至っては仕方あるまい。死者蘇生の術を調べる過程で分かった術の実験台にしてやろう。そこの、役立たずの王子ごとな!」
「な!?貴様!この私相手に何様のつも」
「じゃかぁしい!悉く台無しにしおってからに!お主など、死体にしてからのほうが役に立ちそうじゃ!」
隠神オジサンは、仲間割れをしつつ何かの術を発動させた。
この手の才能が全くない俺には、どんな術なのか全くうかがい知れないけれど、何故か背筋がゾワゾワする。
壁掛けの時計の裏から、デカい虫の姿がチラッと見えた時と同等の緊張感だ。
つまり、最高レベルの警戒を本能的に行っている状態だ。
だけど、隠神刑部に近寄ろうとすると、その警戒心が邪魔をして脚が竦む。
「あぁ……吾輩の中の何かが求めている!ゆくぞ!四国よ浮上せよ!そして、海底よりルルイエの概念を引き上げよ!」
そうタヌキが叫ぶと、途端大きな地震が発生する。
まさかと思って周りや空を見てみると、徐々に浮き上がっていっているのがわかる。
わからされた。
「フライング四国……フローティング四国とどっちがいいじゃろうか?」
「ソフィアさんと話していると、悩みがどこか行っちゃいますね」
「じゃろ?結婚したくなったかの?」
「それどころじゃ無いんだよなぁ!」
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