第120話

 タヌキ型ロボットによる斬撃を木刀で受け流す。


 なんでタヌキが斬撃を放ってくるんだ!?って叫びたいくらいだけれど、コイツにそんなことを聞いたところで答えてはくれないだろう。


 だってロボットだから!


 そう!こいつは主人公と友達になったり世界を救ったりはしない!


 ただのロボット!多分!




 それはそれとして、タヌキ型ロボットの攻撃は、今の所斬撃のみだ。


 尻尾が鋭い刃のようになっていて、多少伸縮するらしい。


 その伸縮機構こそ、あのシマシマに見える部分らしい。


 シマシマのカラーリング自体も人間の視覚を狂わせる効果があるって聞いたこともあるけれど、コイツの場合はさらに本当に伸び縮みしているから、相手していて中々面倒だ。


 ただ、今の所は尻尾による攻撃しかしていないってだけで、見た目から考えるなら、口による攻撃と、爪による攻撃もできるだろう。


 なんか鋭いし。


 ビームとかも撃ってきたりするのかな?


 ロボットだもんな?


 おなかにポケットとかは……よし!見当たらないぞ!




 にしても、まさかあの昔ながらの爺さんって感じの隠神オジサンがこんなハイテクで挑んでくるなんてなぁ……。


 前世で言えば、未だにツヤッツヤの黒電話を使ってそうな感じなのに……。


 なんか更に赤いカバーとかつけてそう。




「なのになんでよりによってこいつは黒でも赤でもなく青と白なんだよ!」




 ただの戦闘機械相手に聞いたところで何の意味も無いのはわかっているが、それでも叫ばずにはいられない。


 マジで何なんだ!




『AI思考メッセージ、機体カラーが青と白だと何か問題がありますか?』




 タヌキから合成音声みたいなのが聞こえる。


 なに?


 こいつしゃべれんの?


 なんでそんな機能つけた?


 もう一歩思考に柔軟性が生まれたらひょっとするとひょっとしちゃうぞ!?




「コンプラ的な問題があるんだよ!」


『申し訳ございません。私には理解ができませんでした。このままの機体カラーを維持します』




 ……しかたない……ここでこいつに止めを刺す!


 今ここで俺が決めた!




 って思ったのもつかの間、メカタヌキがいきなり動きを止めた。


 なんだ?機械に魂が宿って戦いの虚しさに目覚めたりしたか?


 それとも、これから全人類を抹殺に動き出す感じか?




「……む?ドローンタヌキが泊まったじゃと?」




 あれ?


 出した隠神オジサンですら不測の事態なの?


 本当にAIの反乱?




「何を言っている?こいつを作ったのは我が社だ。万が一のことを考えて、バックドアくらい用意しているに決まっているだろう?」




 その声に振り向くと、多三郎さんが、近未来ものでよくある空中に移されたホログラムみたいな画面をピコピコ押していろいろやっていた。


 魔術がある世界なんだから、この位は出来てもおかしくは無いんだろうけれど、やっぱりリアルで見るとかっけぇ……。


 俺には全く操作できる気しないけど……。


 キーボードを見ずにタイピングするのすら難しいからな。


 その技の名前も思い出せない。




 って、作ったのアンタかよ!?




「ほう?流石は多三郎といったところじゃろうか?我輩には詳しいことはわからんでな」


「よくわかりもしない機械をただ便利だからと言って安易に使っているようじゃ、若者にバカにされるぞ」


「構わん、使えるなら使う。そして、使えなくなったらこうするまでじゃよ」




 そう言うと隠神オジサンは、どこから取り出したのか少し大きめの刀を振るい、タヌキ型ロボットを破壊してしまった。


 よかった!コンプライアンスは守られた!




 ……いや、バラバラにしたらそれはそれで苦情が来たりしないかな……?


 まあ大丈夫だろう……。




「相変わらず、良い眷属をもっているな」


「ああ、我輩にこんな姿になっても付き従ってくれている掛け替えのない仲間たちだ」


「にも拘らず、一匹の女のためだけにここまで世間様に迷惑をかけやがって……何がお前をそうさせた?」


「お前にもわかるじゃろう?未練、執着……まったく、歳をとればとるほどそう言ったものは、醜く強くなっていくわい」


「何百年も前からジジイの格好だろうに……」




 前世を合わせても、俺はまだ30年しか生きていない。


 しかも、15歳×2だから、30歳まで生きた人ともまた違う価値観を持っていると思う。


 それでも、流石に何百年、何千年と生きてきた存在の価値観は想像すら上手くできないな。


 でも、だからこそ言えることがある。




「なんかカッコよく哀愁漂う表情で言ってますけど、すごく迷惑なんですよ!さっさと諦めて老狸ホームででも大人しくしててください!」


「吾輩も視察に行ったこともあるが、あそこは楽しかったぞい。知っているか?老狸ホーム用のゲームやカラオケの機械が置かれていてじゃな……」


「あんのかよ老狸ホーム!?」


「俺も経営しているぞ?」


「アンタかよ!?」




 なんなんだよ!?


 黒幕お前じゃないのか!?


 色々作り過ぎだ!


 管理もっと厳しくしてくれ!




「まあいいわい。でじゃ、多三郎よ」


「なんだ?」


「タヌキ型ドローンじゃが、1体制御を奪うのにどのくらいの時間がかかる?さっきそこの東京モンに時間を稼がせているうちに色々やっていたようじゃが」


「……さぁな。教えるわけがないだろ?」


「そうじゃなぁ……。まあ、一瞬じゃなかったという事さえわかればいいんじゃ」




 ……なんかさ、さっきまでのクジラの破壊音とはまた違った音が聞こえてきた。


 モーター音と、金属が擦れる音。


 うーん……これは、バトルマンガでお馴染みの展開かなぁ……?




 はい、タヌキ型ロボットが通路の奥からモリモリ出て来ました。




「はぁ、まだ試作機を渡しただけだというのに、勝手に量産しやがって。違約金は相当なものになるぞ?」


「吾輩タヌキだからなぁ。知った事ではない。さぁ、多三郎がこのドローンたちの制御を奪うのが先か、お主らが練り物になるのが先か……見物じゃろう?」




 え?


 負けたら練り物にされんの?


 カチカチ山のお婆さんみたいな感じ?


 泥船に乗せるぞタヌキ。




「……あー、すまんな隠神」


「ん?何を急に謝っとるんじゃ?」


「いやな、こいつらはデータリンクをつかって常時互いにデータを共有し、周囲の敵性存在を完璧に把握して攻撃できるように設計されている。だから、何体いようがその中の1体制御を奪うだけで、一気に止めることくらいは可能だぞ?」


「……これだからハイカラなもんは当てにならん」




 お爺ちゃん、機械の説明書はちゃんと読まないとダメだよ?


 箱と保証書と一緒にちゃんととっておいてね?


 捨てないでね?







●後書き


なろうの方でタイトルナンバーが重複していてズレとぬけがあったので修正しました。

そのため、こちらでは94話が追加されています。



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