第197話
四国で大試に殺されかけたあの日から、逃げ延びた俺たちは色々な場所を転々と移り歩いていた。
この片腕を斬り飛ばされたバカ……名前はなんだったか?
こいつの実家の関係で、頼れるところが多少あったらしい。
といっても、コイツのせいでその実家も落ち目になっちまったらしくて、協力してくれるのは、例外を除いて、余程表で碌な居場所が無い奴らだけみたいだが。
もし、コイツみたいな反逆者が今の王を倒してくれたらラッキー程度の考えだろう。
あの時、大試は全く躊躇せず俺を殺そうとしてやがった。
しかも、銃で狙撃した俺に剣で近寄ってからだ。
はっきり言ってハラワタが煮えくり返りそうな程イライラしているが、だからと言って何ができるわけでもないのもわかってる。
どう考えても、今の俺に大試を倒すことはできない。
精々アイツの飯に毒を盛るくらいか?
でも、聖羅がいたら意味ねーだろうしな。
王子の取り巻きには入れた時は、勝馬に乗れたと思ったんだがなぁ。
まさか半年もしないうちに、こんな日の光も浴びれないような立場になるとは思わなかったぜ。
あーあ……俺も剣を学べばよかったか?
いや、アイツの剣が特殊だから負けたんだ。
俺が剣を使った所で、同じ剣が無いと勝てないだろうな。
「あああああああ!くそ!私の……私の右腕があああああ!!!」
また発作が始まったらしい。
無くなったはずの右腕が痛かったり痒かったりするっつってたな。
しかもその痛みを感じると、自分の右腕が無くなってることを思い出して喚き散らす。
転移の宝玉とかいう魔道具で逃がしてもらった恩があるから付き合ってるが、もうそろそろこいつを見捨てて1人で逃げた方がいいかもしれねーな。
狩猟王のギフトを持つ俺なら、人里離れた山の中だろうが生きていける。
銃弾は、まあ……たまに盗めばいいか?
身分証も出せない俺から魔獣の毛皮や肉を買う業者があるならいいんだけどな。
あいにく俺にはそんな伝手は無い。
かと言って、堂々と街中を歩けるような度胸も無え。
回復魔法で治ったが、遊ぶように俺の体を壊した大試の顔が今も頭から消えない。
聖羅もそうだが、やっぱり俺たちの中で一番頭がイカレてるのはアイツだと思う。
聖羅みたいにキレて殴りかかって来るならわかる。
だがアイツの場合、ただ単純に俺の事を殺した方が良いと思ったって程度の考えしかなかった気がする。
「ここで殺しておかないと面倒だな」とでも思ってたんじゃねーかな。
怒りも恐怖も無く、ただただ障害物として俺の事を見てやがった。
暫くは、アイツの目に留まるような事はしたくねーな……。
レベルを上げて対抗したいとは思うが、1人で効率的に上げるのは難しいし、かといってこの片腕無くした奴と2人でってのもな……。
両腕を使っても大試に敵わねぇのに、片腕のコイツに何をさせればいいんだ?
「犀果ぇ……!さいはてええええ!!!!」
……こいつ、日に日にヤバくなってるな。
最初は、もうすこしまともなオツムしてた気がするんだが、ここの所叫び声しか出してねーぞ?
たまに、何かの杭みてーなのを自分の体に突き刺してるしよ……。
アレは確か、学園の教師に万が一の時のために渡されてた奴だったよな?
肌身離さず持っていると、その内強くなれるとか何とか……。
王子から仲間に配られてたからアイツも持ってたんだろうが、流石に自分の体に突き刺すのは頭がおかしいとしか思えねぇ。
コイツがヤバくなってきたのを見て、俺の杭は他の奴にやっちまったけど、正解だった気がするな……。
俺がドン引きしていると、俺たちが隠れ家にしている部屋の扉が開く。
「おい、日下はまだ幻肢痛が治まらないのか?」
「……そもそもこれは、治まるモンなのか?」
「さぁな。腕を失うマヌケなど知らんからな」
入って来たのは、この国の教会の聖騎士団長ってやつだ。
俺達に協力している例外中の例外、この国の中でもかなり力がある奴だ。
つっても、武器を持った集団の長ってだけで、ぶっちゃけコイツ自身はそこまで強く無い気がすんだよな。
建前上は魔獣とも戦うって事になってやがるらしいが、この聖騎士団ってやつらが実際に戦いに行ってるのを見たことがねぇ。
教会の坊主ども相手にオラついてるだけだ。
「我々が守ってやらないとお前たちの発言力など無いのだぞ?」
なんて坊主に詰め寄ってる下っ端もいたが、魔獣と戦ったこと自体殆どないだろうな。
もしいつも魔獣と戦ってたら、腕の1本や2本無くなった奴くらいいくらでもいるはずだ。
それが存在しないってことは、聖騎士団は大して戦ってないって事だろうさ。
レベルなんて、仮に他の強い奴に頼んで魔物を倒してたとしても、大したことはねーだろ。
そんな奴でも、利用できるうちは利用しておくさ。
今俺たちがとりあえずベッドで寝られるのは、コイツに面倒を見させてやってるからだしな。
「で、何の用だ?」
「……これだから田舎者は……いったいいつになったら私相手にふさわしい言葉遣いを覚えるのか……」
「アンタが態々来たんだ。そんな下らねぇ事言いに来たわけじゃねぇんだろ?さっさと言え」
「まあ良いだろう。お前の幼馴染だが、今日死ぬ予定だ」
「……へぇ?」
多分無理だろうが、何か策があるらしいな。
多分無理だろうが。
「しばらく何も聞いてこねーから、てっきり諦めたもんだと思ってたぜ?」
「準備をしていたのだ。剣を使えず、味方もいない状態にし、複数人で囲んで息の根を止める」
「よくそんなおぜん立てができたな?大試だって、罠だって気が付いてるだろうによ」
「無理やりにでも戦わせるつもりだったが、意外にも本人が一番積極的らしい。楽しんで訓練しているようだ」
「そうかよ。まあ、本当に殺せたら教えてくれ。その時お前が無事ならな」
「なんだ、てっきり止めは自分が刺すとでも言ってくるかと思っていたんだがな?」
「残念だが、今の俺の攻撃は奴に通じねぇ。だから、俺の事は気にせずやれるもんならやってみりゃいい」
「フッ……ではそうしよう」
そう言って、聖騎士団長は出て行った。
俺が教会の牢から助け出された時にも少し話したが、どうにも人が変わってる気がすんだよな。
元々碌なこと考えて無い感じはあったが、それにしたって最近は随分と強引に色々やってるようだ。
……そういや、俺の分のあの気味の悪い杭は、地下牢から出してもらった時に邪魔だったからあの聖騎士団長に渡したんだが、それが原因だったりしないよな?
「あああああああ!!!腕!!!!あああ!!!」
ドチュッ、ドチュッっと、肉に何かを突き刺す音と、そこから染み出した物が床に滴る水音が響く部屋でそんな事を思う。
まあいい、多分聖騎士団とやらは、これで終わりな気がするな。
そうとわかれば、さっさとこの隠れ家から消えておくか。
日下……だったか?
こいつはどうしたもんかな……。
あーヤダヤダ。
村に帰りてー!
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