第196話

「それで我輩にも声をかけた訳か」

「悪かったよ。流石にもう寝てるとは思わなかった」

「年寄りは、暗くなったら眠くなり、明るくなる前に目が覚めるもんじゃ」


 ピコンッ


 明小が神獣判定だったため、一応一緒に暮らしている筈のバイト神主の狸親父も急遽呼んでもらった。

 既に寝ていたそうで、イメージを完全に覆すようなパジャマにナイトキャップ姿という出で立ちで現れたこの爺さんもやっぱり神獣として数えられるらしい。

 これで、刀を扱えない状態で扱える能力が一層高まった。


「だけどなぁ……」

「やっぱり変化できない?」

「っぽいな……」


 化け狸2人からの力を得られた以上、今度こそ何か特殊な力を使えるんじゃないかと思って必死に練習してみたけれど、やっぱり何も起こらない。

 上がったのは、身体能力だけのようだ。

 上がったのが実感できてる嗅覚だって、体の能力という事で言えばそれまでだからな……。


「取っ組み合いで戦えって事なのか?」

「大昔に怪異と戦っとった坊主どもも、念仏唱えながらも最後は腕力で戦っとったぞい」

「俺には、その念仏でどうこうする力すら無いんだが?」

「相手が人間なら念仏より拳の方が効くじゃろ」


 まあそうだな。

 大抵の人間は、殴れば倒せる存在だもんな。

 ファンタジーなゲームをモデルにした世界でそれはどうなんだろうと思わないでもないけど……。

 あ、でも主人公キャラって結局剣で相手を叩き斬ってることが多そうなイメージもあるな?

 じゃあいいか……。


「夜に悪かった。じゃあお休み」

「うむぅ。じゃあ明小、後は頼むぞ」

「任せて!ボク1人でできるよ!」


 隠神の爺さんは早々に寝かせてやって、再度明小と一緒に拝殿に向かう。

 中に入るともう慣れたもんで、さささっと流れるように参拝する。

 もちろん神様に対する敬いの気持ちは忘れない。

 だって忘れたらむくれそうだもん。



「……このハンバーガーってやつ、安物かと思ったら案外美味いな」

「そう思ってもらえたなら幸いです。でも、てっきりこの世界を管理している女神様ならそう言うのも知ってるもんかと思ってました」

「知識としては知ってるけどよ、実際に口に入れて感じるのとはやっぱ違うもんよ」

「そういうもんですか」


 リスティ様は、食い物か酒を持ってくればご機嫌だ。

 やはり貢物という名のお土産は忘れちゃダメだな。


「それで、オレになんか聞きたい事あったんだろ?」

「まあ、挨拶に寄ったってのが一番大きいんですけど、ついでに聞きたい事もあったって程度です」

「ほーう?つまりお前は、そこまでオレに挨拶がしたかったってーことか?」

「まあそうですね」

「ふーん……♪」


 だって定期的に来ないと機嫌悪くなるじゃん!


「で?」

「さっき明小たちが神獣としてカウントされるって事が分かったんですけど、この世界ってそんなに神獣いっぱいいるんですか?」

「神獣……うーん、まあそうだな。世界全体だとそんなに多いわけでもねーぞ?でも、お前の周りには、モデルになったゲームの有名キャラが集まっちまってるからそんなふうに感じるだけだと思うぜ」

「あー、やっぱりそうなんですか」

「結局の所、神の要素が少しでもある獣であれば神獣扱いだからな。崇められたり、そう言う伝説があるってだけでも世界の基準として神獣になるぞ」

「じゃあこれからももっと集まってくるんですかね?」

「かもな。この世界は、色々なシリーズを集めてあっから、ランダム性高すぎてオレにも未来はわかんねーけど、きっとそうなるんじゃねーかな?」


 神獣……今の所俺達に好意的な奴が多いから何とかなってるけど、敵対的な神獣がやってきたら嫌だなぁ……。

 龍とか化け狸なんかは結構有名どころだと思うけど、後は有名なのはなんだろうな?

 狐とかだろうか?そういえば、外国だと象とか牛もか?

 ……アイヌの伝承だと、動物全部神様がこの世界に遊びに来てる姿なんだっけ?

 ヒグマの神獣が敵対的だったら嫌だなぁ……。

 エゾモモンガの神獣が敵対的だったら、それはそれで嫌だけども。


「まあ頑張れよ。オレには、それ以上の事は言えねーな」

「そうですか。まあそれ以上を期待してきたわけでもないんで大丈夫です」

「おい、神様相手なんだぞ?もうちょっと期待しろよ?」

「願った所で別に叶えてくれないんでしょ?」

「そりゃな!あんまり干渉したらオレもあのバカ女神みたいなことになるからな!」


 兄妹喧嘩に一般人を巻き込んで爆殺だもんなぁ。

 酷い話だ。


「じゃあおやすみなさい」

「おう!またな!」




 そしてまた現実世界に戻ってくる。

 周りには、眠そうだけど大人しく待っている明小だけ。

 まだ夜の9時前なんだけど、生活習慣は爺ちゃんに合わせているらしい。

 いや、明小は明小で相当な高齢なはずなんだけどさ……。


「終わった?」

「ああ、サンキューな」

「いいよ!じゃあそろそろ帰るね!」


 拝殿を後にし、神獣様を住居スペースへと送り届けてから家へと帰る。

 マイ神社便利だなー。

 かかった費用の計算はしたくないけど、明小も喜んでくれてるみたいだしまあいいか。


 とりあえず今周りにいる神獣っぽい人は声かけ切ったし、あとはあのスーツと銃の練習を頑張るか!

 テスト勉強は……歴史以外は割と大丈夫なんだけどなぁ……。

 日本史と世界史が分かれてなくて、殆ど日本の歴史ばかりなのがまだ救いかな?

 俺の思い出す日本の歴史とはかけ離れていて、前世の記憶が何の役にも立たんが……。



 翌日からは、毎日実験室に通って練習をした。

 スーツで全力移動しながら、スナイパーライフルで目標を正確に撃ち抜くのは中々大変だったけど、4日目には問題なく行えるようになっていた。

 でもまだ足りない!

 的を動き回るようにして、スコープは覗かずに撃っても当てれるようになって、マガジン交換等の全ての動作をより素早く行えるようにとにかく練習した。

 夢の中でも銃撃ってたもん。

 実験用ゴーレムに模擬弾を撃たせるようにしてからは、夢の中でも撃たれるようになって、夜中に夢の中で弾を避けようとしたせいでベッドから転げ落ちたりもした。

 人としてこれはどうなんだろう?

 そう思いながらも努力し続け、とうとう実技試験の日がやってきた。


「実技試験どうこうよりも、筆記試験が終わったっていう開放感の方がすごい」

「大試、頑張って皆殺しにしてきて」

「そうです!外野への対応はお任せください!」

「チャチャ入れようとする奴は、アタシたちが殲滅してやるわ!お父様たちも戦力出してきてるし、陛下も色々してくれるみたいよ!」

「猪岡侯爵家も何かしてるらしいんだけど、私が知る必要は無いって言って誰も教えてくれないんだよね……だから私も応援頑張るね!」

「生徒会長としてどっちかに肩入れするのは不味いかもしれないけれど、今回の事では私も堂々と大試君の側に付くから。思う存分やっちゃって!」


 個人的には、これから期末テストの打ち上げパーティーでFPSをするくらいの気分なんだけれど、セコンドの方々がやけに殺気立っている。

 俺が実技試験の特訓という名の遊びをしている間に、裏で色々な人たちが動いて頑張っていたらしいけど、俺はその詳細を聞いていない。

 とにかく、今日頑張れとだけ言われている。

 それも、婚約者とか家族だけじゃなく、王様とか公爵辺りからも激励のお言葉を頂いてしまっている。

 随分大ごとになっている気がするけど、一体何が始まるんだろう?


 まあいいか!俺は俺のやりたい事をやるだけだ!

 ライフルを片手に試技エリアへと向かう。

 スタジアムの真ん中に設置されたこの大型の試技エリアは、中が魔術で拡張されていて、外観よりも更に広くなっていて、内部の映像が外でリアルタイム中継できるようになっているらしい。

 何故かそれを観戦しに観客が集まっているけれど、大丈夫?これただの試験だよ?

 噂だと、勝手に賭けまで始まっているというから呆れる。

 倍率的には、俺の方が人気が無いそうだ。

 俺自身に賭けるのってありかな?


「じゃあ、ちょっと頑張ってくる」


 実技試験パーリィタイムが始る。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る