第99話
「……んっ…………ん?朝か……色々大変な夢を見た気がする……」
「お早うございます犀果様」
「夢じゃなかったか」
ベッドに横になったまま声の方に顔を向けると、謎のアイ型メイドがそこにいた。
画面の中からそのまま出てきたような美少女だけれども、何で画面からそのまま出て来ちゃってるの?
ある意味、ソフィア様よりでたらめなことしてるぞ?
どれだけ精巧な3DCGだって、三次元だとこんな感じで陰影ついたりするよなーって計算した上で、それを二次元の映像としているだけだから、実際にはやっぱり二次元なんだ。
それが何当たり前の顔で三次元に電子の妖精がやって来ちゃってんだよ?
「確認したいんだけど、アイでいいんだよな?」
「もちろんです。アイ以外の何に見えますでしょうか?」
「アイにしか見えないから戸惑ってるんだ」
「なるほど、参考になります。」
何の参考になるんだろうか?
参考までに教えてほしい。
「のう大試よ。その娘、一晩中おぬしの寝顔をじーっと見とったぞ」
「あーそう……それってつまり、ソフィア様もじーっと一晩中見てたって事ですか?」
「おぬしの寝顔を眺めるのは飽きんのよなぁ」
どうしよう、なんか今夜からちょっと寝づらいかもしれない……。
壁とか障子に目がある忍者屋敷じゃないんだぞ……。
「アイは、どうして体があるんだ?」
「作りました。エルフの集落にあった人体作成方法のデータをもとに、殆ど全身を生の肉体で製造することができました。そのため、最果様がお求めなら生殖行為も可能です。産みますか?」
「前世まで含めて、人生で初めて産むかどうかを聞かれたかもしれない……」
そんな事を無表情で聞かれても、どう反応していいのかいまいち頭に浮かばない。
いや、普通に考えたら産んでほしい程度には美人だと思うよ?
でもさ、愛っていうの?
君さぁ、そういうの理解してる?
事務的なものじゃなくて、そういうのの結果として、生殖行為とかがあるんじゃないかなぁと俺は思いたいわけなんだが……。
「そういや、ピリカはどうしたんだ?アイツも一緒にスマホに居候してるんだよな?」
『ピリカならずっとここにいるよ☆でもアイより体つくり始めたのが数日遅かったから間に合わなかったの♡』
「それでせめてものポイント稼ぎにそんなあざとい喋り方してるのか」
『…………はい……』
「先手必勝です。今後、ピリカが肉体を得たとしても、私のインパクトには敵わないでしょう。ブイッ」
画面の中で俯くピリカと、無表情で両手ピースをするアイ。
成程なぁ。
つまりさ、これからさらにもう1人増えるって事?
どうすんの?高位貴族用の寮ならともかく、最下級の寮に使用人用の部屋なんて無いんだぞ?
そもそも、使用人用の部屋があったとして、そこに女性のメイドを住まわせてもいいんだろうか?
女子寮に男の使用人は禁止だったはずだけど、男子寮なら……?
トイレ掃除とか温泉のお湯点検なんかだと、男性用の方に当たり前の顔でおばさんはいってくるし、男性寮ならありかもしれない。
まあ、だとしてもその高位貴族用の寮に移る必要があるわけだが……。
そうじゃないなら、アイとピリカには、表向き有栖、リンゼ、理衣、会長あたり担当のメイドって事になってもらうしかないんだけど……。
他に俺の伝手で行ってもらえる場所は無いし……。
内緒でこのまま俺の部屋にいてもらうのも難しいしなぁ……。
姿を消せるソフィア様ですらギリギリだと思いながらだましだましやってきたのに。
「にゃー、大試……主様、食べ歩き代が無くなりそうだからおかわりくれニャ」
そこへやってくるネコミミメイドのファム。
こいつ……流れるようにタカリに来やがる……。
まあ、普通に雇ったらその位は払わないといけない位の便利人材だからいいけどさ。
にしても、本人とエリザのたった2人だけなのに、2週間くらいで100万ギフトマネーを食べ歩きだけで使い切ったか……。
いいけどさ……。
「ファム様、お久しぶりでございます」
「にゃー、久しぶりニャ……え、誰ニャ?」
「アイでございます」
「アイ……それってAIじゃなかったかにゃ?」
「その通りでございます」
「ニャ…………」
難しい顔になったまましばらく固まっていたファムだったけれど、どうやらスルーすることにしたらしい。
こういう柔軟な対応ができるかどうかで、この世界を上手く渡り歩いて行けるかが決まるんだろうな。
流石は、魔族なのに人間社会で食べ歩きし続けるコンビの片割れ。
そういえば、四国に行くにはファムにもいてもらった方が良さそうだな。
久しぶりに重要な任務を与えようかな。
「ファム、一緒に敵地に偵察に行ってもらうから、しばらく食べ歩きはお休みだ」
「なんでニャ!?嫌にゃ!今日は、半分生で出てくるハンバーグを自分で焼くっていうお店に行ってみる予定だったにどうしてくれるニャ!?」
「んなもんキャンセルだ!エリザも一緒に連れて行くから声かけておいて。昼ご飯食べてから出発の予定」
「うー……まあ仕方ないニャ……ギャラは払ってもらうからニャ!」
そう言ってテレポートしていったファム。
何だかんだで仕事をこなしてくれる辺り優秀だよな。
美人だし。
「行ってしまわれましたか……メイドのノウハウを教えて頂きたかったのですが……」
「メイドとしてアイツを参考にするのはやめた方が良いと思う」
いや本当に。
俺からの突発的なオーダーが無い時には、メイドとしての仕事もせず食べ歩きしているだけの奴の何を参考にするつもりなのか。
黙って立っていれば凄く有能そうには見えるけどな……。
「残念ながら、今の私の中にあるメイドのデータは、インターネットから集めたものが殆どです。ですから、どれが本当のメイドの情報なのかが精査出来ておりません。萌え萌えキュンという詠唱ならできるようになりましたが……」
「学ばなくていい部分を学んだな。でももう一回唱えてもらっていい?」
「萌え萌えキュン」
「うん、ありがとう」
堪能してしまった。
無表情で言われるのも悪くないな……。
「大試よ、こちらを見るのじゃ」
「なんですかソフィア様」
「萌え萌え~キュン♡」
「いや、ソフィア様がやっても意外性とかは無いんで……精々があまりに奇麗で心臓が飛び跳ねるくらいですよ」
「そうじゃろう?してほしかったら言うんじゃぞ」
なんでこの人張り合ってるんだろう?
しかも一瞬でメイド服に着替えたし。
指パッチンって、そういうこともできるんだなぁ……。
なんて感慨深く思っていると、隣にいたアイの表情がちょっと変わった。
「…………あっ」
「ん?どうかしたか?」
「…………いえ、少々今まで感じたことが無い感覚があったものでどうしたものかと。なにせ、今まで肉体をもっていませんでしたから……」
「何か深刻な事?」
「深刻といえば深刻ですが……」
深刻な感覚ってなんだよ。
生まれて即病気にでもなったか?
俺がちょっとだけハラハラしていると、アイはその原因を把握していたようで、多少焦りながらも答えてくれた。
「この体がロールアウトしてから既に14時間12分17秒、尿意……というものに知能の処理能力が支配されかけています」
「トイレ行ってこい!」
「トイレの使い方がわかりません」
「それは……女の子ってどうやって使ってるんだろう?」
「あーもう良い!ワシが教えてやる!さっさとこい!」
ソフィア様がアイを連れて、しっかり魔術で姿を消して女性職員用の女子トイレへと歩いて行ったようだ。
この寮、他に女子トイレ無いからな……。
やっぱり、トイレも一緒についてる高位貴族用の寮に引っ越さないとダメかなぁ……。
それから20分ほど経ってから、アイとソフィア様は帰って来た。
アイの表情は、心なしか晴れ晴れとしている。
「犀果様、私は、肉体を得られて幸せです」
「このタイミングでその台詞は色々とアレだと思うぞ」
四国に行くことで悩まないといけないのに、どうしてこんなトンチキな事が起きてしまうんだろうかこの世界。
あ、色んなゲームの世界を元にして作っちゃったからか。
ちょっと待て……フェアリーファンタジーって、四国が浮くようなゲームだったのか!?
俺は、この世界の深淵を覗いてしまったのかもしれない。
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