第100話
「犀果様、そろそろ」
「そうだな……では、これより四国行きメンバーの点呼をとりまーす!じゃあ右から!」
「いち」
聖女が手をあげる。
「2です!」
王女が手をあげる。
「3だ」
シスコン王子が手をあげる。
「これいつまで続けるニャ?今の所皆連れて行ったらダメなメンバーにゃ」
「ここにいるメンバーが全員捕まったら、その時点で国家機能がマヒするわね」
ネコミミメイドと公爵令嬢の元女神が呆れ顔で話す。
「ねぇ大試ー、おやつはいくらまで?」
「……1万ギフトマネーくらいは欲しい」
暴食の魔王候補(案外暴食しない)と人間のフリしたエルフ(暴食する)が我関せずで話している。
「ワシが出せるおやつは小倉トーストくらいじゃからなぁ……5つくらいしかメニューを登録できないんじゃ。エルフ時代は3つじゃったから、これでも大幅増量じゃぞ?」
「本とか出せるようにならないんですかそれ?」
大精霊エルフと人間のフリしたポンコツエルフ(割と暴食する)も我関せず。
「私は、有栖が城を抜け出すのが見えたからこっそりついてきただけだが?」
「それストーキングじゃないですか」
「家族だから愛だ」
うん、とりあえずこの王子は置いていきます。
確実に。
「大試、私は聖女。ケガをしたときに役に立つ。連れて行くべき」
「ダメに決まってるだろ……大人しく俺の帰りを待っててくれ」
「……そう言われると、妻として待っている方が正解な気がしてきた」
よし、聖女は陥落した。
世界的に最重要人物をどうなっているかもわからない敵地にそうそう連れて行けるわけがないだろ。
王都にいろ。
「有栖もリンゼも連れて行けないからな?」
「わかってるわよ。アタシだって王都で待機してないといけないもの」
「うー……私も一緒に……いえ、わかりました。私も王都でお待ちしています!」
王女も納得してくれたようだ。
リンゼは良い子やな……。
「えーと、私も王都に残らないといけないから、大試君の事待ってるね!」
「ソフィアさん……じゃなかった。理衣さんと一緒に私も待ってるわ。ちゃんと無事に帰って来てね?休み明けには生徒会の仕事がいっぱいなんだから」
「わかった。王都を頼む」
会長と理衣も流石は生粋の貴族といった感じで、覚悟の決まった目をして見送りに来てくれた。
ところで、なんで会長は猫じゃらし持ってるんですか?
理衣、付き合って反応しなくてもいいんだぞ?
というわけで、四国行きメンバーは、ファム、エリザ、マイカ、アレクシア、ソフィア様と俺、そしてアイとなりました。
冷静になると、普通の人間が俺だけという混沌とした顔ぶれだけども……。
でもさ、テレポートできるやつはやっぱりほしいし、魔王候補のパワーも欲しいし、規格外の能力とギフトを持ったエルフたちも欲しい。
潜入調査に便利過ぎるんだこの方々。
相手からしたら悪夢だろうさ。
どんな分厚い装甲も透視されて、通り抜けられて、気配もなく近寄られて、アホみたいな戦闘力で破壊されるとかさ……。
核シェルターだってこのメンバーの前には無力だ。
っていうか、なんなら俺がいなくてもいいくらいだけども……。
海も結局渡らなくなったから、俺である必要性が……。
「犀果様、スケジュールを考えると、そろそろ向かったほうが宜しいのでは?」
「そうだな。じゃあ行くか」
「かしこまりました。買い出しに行きましょう」
「ああ、出発……え?四国へじゃなくて?」
「今の状態で向かうと、99%以上もの確率でエルフの皆様が文句を言います。おやつを買い込むべきでしょう」
「酷いデータ予測だ……」
まあ、俺もそれは何となく予想できる。
敵地で大精霊にキレられたら目も当てられない。
大きい収納カバンでも借りていくか……?
「大試さん!もしもの時のためにお菓子も含め大量に詰め込んだ収納カバンをどうぞ!こんなことも用意しておきました!この程度しかできませんが、是非私にも手伝わせてください!」
「有栖……いいのか?」
「はい!」
最近中々一緒に行動できなかったからなぁ……。
やっぱり帰ってきたら一緒にゆっくり過ごさないとな。
そう考えると、よく聖羅は我慢できているな……?
「私は出来た婚約者だから」
「聖羅ってさ、俺の考えている事を読めるようになってたりしない?」
「秘密」
……うん、四国から帰ってきたら皆でゆっくりしよう!
「では、私はこれで!兄上は私が連れて帰りますので!」
「ふむ、有栖が帰るなら確かにここに用は無いな。帰るぞ!」
テレポートゲートの事を知られたら不味い人がいなくなった。
これで、ここから直接学園の裏庭教会にあるテレポートゲートへ向かえる……。
ほんと、計算外のトラブルだったなぁ……。
まさか、最後にこっそり皆と会ってから行こうかと思って連絡しておいたら、有栖を王子がストーキングしてくるとは……。
「では、このままゲートへと向かいます。お菓子も用意出来ましたし、皆さまちゃんとついて来てくださいね」
「「「「はーい」」」」
良いお返事……。
「ボス、ニャーだけで行った方が効率よかったりしないかニャ?」
「いや、ファムだってもう大事な仲間なんだから、1人だけで危ない所に送り込むわけないだろ」
「……………………………………うっさいにゃ」
ソフィアさんの指パッチンでステルスを使ってもらってから教会へと向かう。
そのまま中に入って、ゲートの転送紋の上に皆で立つ。
「そういやアイ、今から俺たちが向かう四国のゲートってどこに設定してあるんだ?」
「はい、現在は楠くすのき神社と呼ばれている建物の地下にあるテレポートゲートですね」
「俺は、四国の地理がわからないし、分かったとしても相手がどう布陣しているかもわからないから、とりあえずアイに任せるよ。じゃあ行こうか!」
「かしこまりました。転送開始します」
そして俺たちは、楠神社へと飛んだ。
四国だし、美味しいうどんとか食べられるかなぁ……?
体感時間で数秒後、代わり映えのしない転送紋の上に立っている。
実感はないけれど、恐らくもうここは四国なんだろう。
「アイ、外に人の反応はある?」
「ございません。現在、地上の神社は無人状態です。しいて言えば、タヌキが1匹いるようですが」
「タヌキなら別に無視でいいか……よし!外でるぞ!」
行くぞ四国!
場合によっては、レンタカーで88カ所巡りでもしてみたいな!
出口の外には、神社だったと思われる建物があった。
ただ、長い間管理がされていなかったのか、既にボロボロ。
何が祀られていたのかは知らないけれど、悲しい事になっているようだな。
「こりゃ人もこないわな」
自然と呟いてしまった。
だって、俺達とタヌキ以外誰もいないと思ってたし。
だけどその情報は、ある意味間違っていて、ある意味正解だった。
「誰!?」
突然、女の子の警戒する声が響く。
俺の仲間の声じゃない。
誰だ?人間がいたのか?
そう思って声の方を見てみると、ちょっと丸顔の小さい女の子がいた。
成長したら、可愛い系の美人になりそうな将来性を感じる。
「えーと……怪しい者じゃない!ここに神社があるって聞いてやってきた観光客だ!」
「神社って……確かにここには神社があったけど、もう何年も前に崩れちょるよ……?」
「そうみたいだな……まあ、そんなわけで、俺たちはこのまま帰るよ。じゃあな」
できるだけ相手の印象に残らないようにこの場を立ち去りたいと思い、早々に離脱を計る。
小さな女の子だし、多分ないとは思うけれど、万が一第1王子の仲間だとしたら怖いし……。
「待って!」
ただ、何故かその娘に呼び止められる。
待ちたくない!無視して歩いて行きたい!
でも、その方が印象に残っちゃいそうだよなぁ……。
しかたなく振り向く。
「せ……折角来てくれたけん、ボク……ワッチが歓迎しちゃるよ!」
そう言ってその娘が尻尾を振ると、一瞬でテーブルと椅子が出現し、もう一度尻尾をふったら今度はお団子とお茶が出てきた。
あれ?尻尾?てかあの模様は……。
「ワッチは、大神明小おおがみ あきこ!この神社に祀られちょる狸じゃ!」
彼女はそう言って、小さな胸を張った。
お尻には尻尾が見える。
そして俺は思い出す。
アイがタヌキがいると言っていた事を。
だから、きっとこの娘は、設定だと化狸なんだろう。
でもな製作スタッフ……あの尻尾は、シマシマがあるからアライグマだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます