第101話

「タヌキ反応を確認しました。目の前の少女は、タヌキです」


「ほう、化狸とは珍しい!人間とタヌキが共に過ごすような地域でないと中々生まれんのよなぁ。エルフの集落近辺じゃ1000年に1体くらいしか出んのじゃ」


「……私は、変化するタヌキは初めて見ました……」


「タヌキは美味しくないそうですねー」


「えー?美味しくないのー?じゃあお団子の方がいーな!」


「タヌキはイヌ科、イヌ科は敵ニャ」




 やっぱりタヌキなんだこの娘。


 でもさ……シマシマ尻尾はアライグマなんよ……。


 もしくは、アライグマって設定だけど、アライグマだと可愛くないからってデザインをパクられたレッサーパンダ……。




「それで、お前たちはどこから来たんじゃ?」


「えーと……東の方かな?」


「おお!東京もんか?ボク……ワッチも1回は行ってみたいと思っとるんよ!」




 東の方は全部東京判定……?


 俺なんて、ちょっと前まで北海道の森の中にいたぞ……?


 まあ、確かに今日出発してきたのは東京だけども……。




 ってか、さっきからこの娘の方言がブレブレでよくわからない。


 四国の方言はわからないけれど、なんか京都の祇園で聞きそうな言葉とかとごっちゃになってる感じがする。


 一人称ワッチってなんじゃい?


 本来ボクっ子っぽいし……。




「いやぁ、最初いきなり気配感じた時は、こんなとこで何しょんな?って不気味に思ったけん警戒しちょったけど、悪い事しちょる感じでもないきん、折角なら仲良くしようえ?」


「……ああ!そうだな!」




 何言ってるかよくわからないけれど、多分仲良くしてくれるんだろう!


 ってか、警戒が解けたのか何なのかわからないけど、いきなり話す速度が上がって更に何言ってんのかわからなくなったわ!




「……もしかして、ワッチの言葉聞き取りにくいんな?」


「あー、うん。でも、悪意を以て接している訳じゃないのは分かるし、もう少しゆっくり話してもらえればわかると思うぞ」


「うーん……ボク、本当は普通にしゃべれるんだけどね?昔、女郎さんの真似したら喜ばれたから、そのまま続けてるだけなんだ……。実は四国訛りとかも無いんだよね……。大体、人間と喋るのもすごい久しぶりだし……」


「そっか。まあ別にどっちでもいいんじゃないか?見てて面白いし」


「面白い!?」




 このチミっ子、よく見ると本当にちっちゃいな?


 見た目だけなら10歳くらいに見える。


 でも、話しを聞く限り、相当な年齢だと思うんだけどな。


 女郎がどうこうってことは、最低でも大正生まれじゃね?


 昭和の初めくらいならまだあったか……?


 いや、この世界の歴史知らんからわからんけども。




「もう面倒だから、キミたちとは普通にしゃべるね?キミたちって実の所何者?いきなり現れたよね?」


「まあ色々あるんだよ。実はさ、四国を管理してる貴族が日本から独立を宣言したからさ、こっそり調査に来たんだよ」


「え!?独立って何!?四国と日ノ本が戦なの!?」


「まあ……最悪そうなるかもなぁ……少なくとも、日本側は戦いたくないなぁと思ってるけれどさ、四国側の神輿が日本の王子なんだよ……」


「よくわからないけど、大変なんだねー人間って」




 そうなんだ!大変なんだよ!


 そのせいでこうして敵地に侵入し、よくわからねー存在と団子食ってお茶啜る羽目になってる!




 あれ?大変さが伝わらないな?


 ってか、この団子旨いな!


 さっきから他の連中は、団子に夢中で全く話さねぇ!


 アイですらもぐもぐし続けてる!




「明小は、ずっとここに1人でいたのか?」




 タヌキなんだから別にそこまで問題ないのかもだけど、この神社は既に荒れ果てている。


 流石に人間の姿で住むには、少々厳しいんじゃないだろうか?




「ボクの居場所なんて他に無いからねー……。それでも、10年位前までは、参拝に来てくれる人も多少はいたんだけど、今となってはこんな感じ。信仰心も集まらなくなっちゃったから、体もこんなにちっちゃくなっちゃった」


「信仰心が集まったら大きくなるのか?大仏くらい?」


「違う違う!大人っぽい体になれるの!そっちのふよふよ浮いてる人みたいな」


「もぐもぐもぐ……ん?ワシのことかの?」


「そうそう!ぼいーんって感じになる!」


「ふむ、ワシ程のぼいーんとは中々じゃの」




 こんな所で何の話しているんだコイツら……。


 やめろよ……普通の目で見れなくなるだろ……。




「じゃあ、これからもここで暮らしていくのか?もう参拝者もいないんだろ?」


「うーん……正直そろそろ他の所に行こうかなって思ってた所だったんだ。でも、いざ出て行こうにもさ、じゃあどこに行こうかってね。1回信仰の対象にされちゃうと、なかなか野良タヌキに戻るのも大変なんだよ」


「じゃあ俺達と一緒に行くか?住むところと食べ物位なら用意できると思うぞ?」


「いいの!?いくいく!雨風凌げてごはんくれるならそれでいいよ!」




 ビックリするほど簡単に化け狸を篭絡できた。


 しかも、条件は非常に緩い。


 信仰心さえ集める方法を用意できれば、神様みたいになるかもしれないしなぁ……。


 げへへ……こりゃええ拾いモンやったでぇ……。


 タヌキが好きな物って何だろう?


 前世だと、田舎の婆ちゃんが飼い犬のルドルフにやったドッグフードをこっそり食べにやって来てたりしたけど……。


 そういや、アニメ映画だとハンバーガーは食べられたはずだ。


 あと栄養ドリンク。




「じゃあ、早速この後すぐ行くか?」


「あ!ちょっとまって!えっとね、神社の裏の祠みたいなとこに、ボクのお母さんの頭の骨があるの!それがここの御神体だから、それだけは持っていきたいかな!」


「ヘビーなもん祀ってんだな……わかった」




 言われた通り神社の裏に回ってみると、確かに小さな倉庫のようなものがあった。


 こういうのって、中をあんまり見ない方が良かったはずだけど、流石にこの建物ごと持っていくわけにも……いや、そういや有栖から借りた収納カバンに入れればいけるか……?


 試してみよう!


 ……うお!?マジで入った!?


 やっべーわこのカバン!




「祠ごとカバンに入ったから、住むところが決まったらそこに設置するよ」


「本当!?ありがとう!」




 思ったよりも素直に喜ばれた。


 なにせ、そのまま抱き着いてきたからな。


 この子、よくこの性格で女郎キャラでやってきたな……。


 もしかしたら、信仰心集めて大きくなってる時なら、精神年齢も上がったりするのかな?


 ……逆に、ぼいーんになってもこのキャラのままだったら、それはそれで青少年の性癖を捻じ曲げそうで怖い。




「それより、この団子のおかわりはもらえんかのう?」


「いいよ!はい!」


「おお!すまんの。ではお返しに、ワシからもこれをやろう!」


「これは……アンコ?下のはパンとかいうのだよね?あむ…………おいしいいいいいいいいい!」




 こうして、図らずもタヌキの好物が一つわかった。


 これが食べられるなら、やっぱり割となんでも食べてくれそうだな。


 東京に行ってもなんとでもやっていけるだろう。




「さーて、ちょっと突発的にお茶しちゃったけど、この後どこ行こうか?俺、四国の事よくわからないんだけどさ、明小はどこかおすすめあるか?」


「ボクもあんまり知らないけど……あ!じゃあオジサンの所いく!?」


「オジサン?」


「うん!タヌキの隠神オジサン!」




 ……タヌキの……隠神……?


 それは……。




「それ、今回の黒幕のタヌキオヤジじゃね?」




 比喩表現じゃなかったのか!?






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