第272話
「っていうわけで、名前を貸してほしいんですよ。ついでに神々しい演出もつけてくれるとありがたいなと。更に言うなら、リスティ様からゼルエルに神託的なお気持ち表明でもしてもらえたら最高です」
「……ふーん」
カシュッ
ぐびっ
流れるような缶さばきで、リスティ様が酒を煽る。
俺が定期的に酒を収めていたおかげか、缶の酒を飲むのに慣れてきた女神様。
別に、大衆向けの酒ばかり差し入れているわけではない。
満遍なく人気がある酒を用意して、瓶なら数本、缶なら箱ごと数種類ずつ持っていっている。
だけど、やっぱりヤンキー感のあるリスティ様には、缶の酒のほうが合っているんだよなぁ。
ドレスでも着てれば、シャンパンやワインがバシッと合いそうなんだけれど、今ここで胡座で座っている分には、ビールやチューハイがピッタリ過ぎる。
さて、その女神様だけれど、今日はどうもご機嫌斜め。
理由はわからん。
ただ、今日は最初からブスッとしている。
なんで……?
「えーと……ダメでしたか?」
「別に……好きにすればいいじゃねーか……。オレも、まあ責任感じて無いわけでもねーし……神だし……」
ものすごく美人だから、口を尖らせているその姿も美しい。
……それ以上に、めんどくせぇけど……
「……あのよぉ、お前、何死にもせず神性天使相手に勝ってんだよ?」
「はい?」
何言い出したこの酔いどれ女神?
死んだら終わりだろうが。
神様に手違いで爆殺されるくらいのイレギュラーがないと、リスタートなんてのはないんだぞ。
「だって死にたくないですもん」
「そうだろうけどよ!ゼルエル戦は、ゲームだと設定上、強制敗北ってことになってたんだよ!んで、創世神に復活させられて、パワーアップして再戦するんだよ!なのに、生贄を逃がして、顕現するだけでも神性を浪費させて、その上で神剣つかった自爆で更にすっからかんにさせるなんてさぁ!?」
「そんな事言われても……その辺りの設定知りませんし……。そして死にたくない。とにかく死にたくない」
「だから死んでも生き返してやるっつってんだろ!ってかな!まあ死ななくてもいいんだけどさ!復活させる時にオレが登場する演出を楽しみにしてたんだよオレは!衣装まで準備してバカみてぇじゃねーか!」
そうですね……ばかみたいです……。
「え……えーと、それでどんな衣装を準備していたんですか?見てみたいなーなんて……」
見せたいと言うなら見てやろうじゃないか。
まあ、女神様がそんなもんで機嫌が治るほどチョロいわけ……。
「なんだ!?みてーか!?良いだろう見せてやるよ!試作もすげーしてんだかんな!」
「あ、ハイ」
そこから、女神の、女神による、女神のためのファッションショーが始まった。
酒が入っているからか、普段のストレスを発散するかのようにはっちゃけていた。
「っしゃおらー!どうだテメー!キレーだろうが!」
「はい!めっちゃ綺麗です!青少年の性癖が確実に歪むレベルで!」
「だ……だろー!?それを披露する予定だったのによー!」
「はい!すごく残念です!なのでもっと見たいなー!」
「いい度胸だな!?ホラ!見ていけよオラ!次は和服だ!」
「すごい色気!それでいて清楚さも失わない!流石女神!」
「褒めても何も出ねーぞ!……む、胸でも揉むか?」
「いえ、俺婚約者いるので」
「……相変わらずだなお前」
そして、女神っぽい白いドレスを着て「人の子よ!まだお前達は倒れるときではありません!さぁ!立ち上がりなさい!」という、多分ゲームの創世神が言っていたんであろうセリフを叫んで、リスティ様は寝落ちした。
「服、片付けるか……」
考えたら、リスティ様が着てた服って全部自作なのか?
よくこんな何着も作れるな……。
普段は、あんまり現世に干渉する事が許されていないから、こういう特殊な状況で出番があるのを楽しみにしてたんだろう。
悪い事しちゃったかもなぁ。
まあ、事前にそういう設定だって知っていたとしても、死なないように立ち回りましたがね。
寝ちゃったリスティ様を寝室に運び込み、脱ぎ散らかされた服をクローゼットっぽい場所に収め、現実世界に帰ることにした。
ここに来た目的は、ぶっちゃけ最初の10分くらいで達成できていたから、ここまで長居する必要もなかったんだけれど、リスティ様ここで1人で過ごしているらしくて寂しそうだからなぁ……。
今日は、ストレス発散に付き合えたし、良い夢見てくださいね。
俺は帰りますんで。
学校もあるし
あ、よく考えたら、帰るにはリスティ様にやってもらわないといけないんだった。
……あー……。
うん、この空間は、現実世界と時の流れが違うって言ってたし、俺も寝よう!
どうせリスティ様もこのまま数時間起きないだろうし、時間は有効活用しなければ!
この世界での睡眠が、現実世界にどう影響するのかわからないけれど、それはそれとして寝るという行為に意味があることは、リスティ様本人が証明しているんだから、俺だって寝ても良いはずだ!
さぁ寝るぞ!
ずっと忙しかったし、寝ようと思えば即寝れるはずだ!
寝ろ俺!寝るんだ!思う存分寝てから元の場所に戻れば良い!
そして体感で数時間が経過した。
寝ようと思うと寝れないのは何でだろう。
「んぐぅ……すぴー……んつ……あ、わりぃ」
リスティ様の寝起き顔を最後に、俺は現実世界へと戻された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます